MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

一息101 ミワラ<美童>の後裔記 R3.7.3(土) 夜7時

#### 一息ムロー「オンボロ丸? 頭上のパンツ! 張り付け獄門?」後裔記 ####

 《何かの通報かーァ?! 騒ぐ鳥たち》《ツボネエ流、会心の肩車!》《張り付け獄門って、なーんじゃそりゃ!》《死骸風生命体A》《ツボネエの母乳!》
   学人学年 ムロー 齢17

 一つ、息をつく。

   《 何かの通報かーァ?! 騒ぐ鳥たち 》

 「ホー! ホケッ? キョーォ♪」
 「カウ! カウ? カーゥ♪」
 「ミャー! ミャーァ?? マーァ♪」

 ホトトギス、カモメ、ウミネコ……どいつもこいつも、騒々しい。ただ騒がしいというより、抗議の通報のように、尖って鳴いている。
 (まァ、想像はつくが……)と思って腰を上げると、〈最悪〉が、歩いてくるのが見えた。
 ツボネエだッ!
 まァ、年甲斐もないので、苦手意識は、置く。

 「ヒーッ! ヨヨヨヨヨヨン♪」と、グライダー野郎。挙動不審。目は、素っ頓狂!
 「わかった、わかった。どうにかするから。みんなにも、そう言っといてよォ♪」と、ツボネエ。
 「なんの騒ぎだッ!」と、見当はついているが、一応、訊いてみる俺。
 「一週間経ったっけーぇ?!
 間抜けたちの死骸か、それか、オンボロ丸の残骸が、打ち上げられたんじゃない?
 あのこたちの餌場に……。
 だって、なんかあいつら、不満タラタラだから。
 死骸は食べないって、言ってたよねぇ?
 あれ、ハヤブサさんだったよねぇ?
 スピアアの兄貴の秘密基地で……送別会のときだったっけーぇ??」
 ……と、一応、{応|こた}えた感じで言い返すツボネエ。

   《 ツボネエ流、会心の肩車! 》

 (まったく、世話が焼けるというか、いつも{傍|はた}迷惑というか……)と、{何気|なにげ}に思っていると、まさにそのとき、矢庭にツボネエが、言った。
 「ねぇ。
 肩車してよォ!
 だって、アタイの背丈じゃ、見えないんだもーん♪」
 普通、肩車という伝統作法は、首の芯にケツの穴を据えて、両肩に{臀部|でんぶ}が乗る形をとる。だが、コイツの場合、肩に乗るのは尻ではなく、足の裏だッ! しかも今の状況から推察するに、俺の肩に乗るのは、土足!
 本当に{何某|なにがし}か、岸に打ち上がった残骸を早く見たいのなら、鳥たちが騒いでいる岸辺のほうに歩いて行けば済む……それだけの話だ。それを、「肩車せい!」ということは、ただ、遊びたいだけなのだ。
 確かに、アイツがまだ闘病生活だったころには、そうやってよく遊んでやったものだが、そのころはまだ、少なくとも今よりは軽かったし、それより何より、しおらしいというか、いじらしいというか、どことなく愛らしいところがあって……なので、まるで妹であるかのように可愛がっていたのだ。
 それが今は……どうよッ!

   《 張り付け獄門って、なーんじゃそりゃ! 》

 「ねぇ、ねぇ。ムローも、見えてるーぅ??」と、ツボネエ。
 頭上の中心一帯は、純白の雲で覆われている。
 (早く、恥じらう年頃になってもらいたいものだ……)と、思う俺。
 「あういうのってさァ。〈張り付け獄門〉っていうんでしょ? ねぇねぇ……」と、ツボネエ。
 (ハリツケゴクモン? そんな言葉、あったけーぇ?? でも、どうなってるんだァ? どうも、気になる……)と、思う俺。
 するとまた、矢庭にツボネエが、言った。
 「見えてるのォ? 見えてないのォ? パンツばっかり見てないでさァ、前を見ようよッ!」
 {仰|おっしゃ}るとおりである。
 起立前進……海岸の岩場を、少女を肩に立たせたまま、ゆっくり登り、ゆっくり{跨|また}ぎ、目的地を目指した。

 {嗚呼|ああ}……敵艦見ゆ!
 ここで、描写を試みる。
 岸辺の岩間から垣間見れる、オンボロ漁船の船尾。見事にでんぐり返って、船底が、{天照大神|アマテラスオオミカミ}を仰いでいる。
 その船底の裂け目から、少年が一人、腕と頭だけを外に投げ出して、死んでいる……。
 (ぅーんッ? その岩間の先で、ハリツケゴクモン? 船底で張り付けになって{獄門|ごくもん}……首を晒されて死んでる少年が、そこにも一人{居|い}るってことかーァ?? 有り得ん!)と、思う俺。
 そもそも、獄門ということは、その前に打ち首にならねば、獄門に処すことは出来んだろッ! ……てか、そっちの*そもそも*は、どうでもいい。 
 元い、そもそも……。
 船というものは、難破して岸辺に打ち上げられる場合、大概は、横倒しと呼ばれる状態で横たわっているものではないだろうか。{何故|なにゆえ}に、こんなに見事にでんぐり返っているのだろう。
 いくら描写が正しくても、判断を誤れば、意味がない!

   《 死骸風生命体A 》

 そんな無意味な描写をしていると、ツボネエが、言った。
 「ねぇ! 降ろしてよォ。先ずは水。食いもんは、そのあとで大丈夫みたい。聞こえたでしょ? スピアの兄貴の声……」
 血迷っても、「聞こえなかった」とは、言えない。ツボネエの論によると、その死骸風生命体は、{斯|こ}う言っているそうだ。
 「眠い。{体中|からだじゅう}が、痛い。腹へったーァ!!」
 ほどなく、その不可思議な生命体に、谷川から海に注がれている無色透明の水が、{供|きょう}さられた。そのときのツボネエの迅速な動きは、まるで野戦病院で走り回る{乙女子|おとめご}の看護師といった感じだった。

 荷を下ろした俺は、その{間|かん}に、{猶|なお}もゆっくりと、歩を進めた。そこでやっと、描写によって〈船底〉と判断された難破船の全容が、姿を現す。
 死骸風生命体Aの後方……舵輪の支柱にロープで{縛|しば}られた死骸風生命体Bが、逆エビ{反|ぞ}り返って、天を仰いでいる。ここでやっと、正しい描写が、真実に辿り着く。
 岩間から垣間見えていたのは、船底なんかじゃない。{後甲板|こうかんぱん}だァ!
 死骸風生命体Aが頭と腕を出していたところは、船底の裂け目なんかじゃない。カーゴハッチの上げ{蓋|ぶた}が{打|ぶ}っ飛んで、更に破壊された船倉の出入口……{奴|やつ}らの後裔記によれば、そこは、トモ間の{上甲板|じょうかんぱん}だッ!

 まるで初夏を思わせるような、初春の陽気……。
 死骸風生命体Aが、言った(らしい……)。
 「寒い!」
 ツボネエの解説によると、服がズブ濡れで、「寒い」と訴えているらしい。谷川の聖水を口に注がれて、一つ願いが叶ったから、また他の願いを思い出したって感じなんだなと、思った。
 まァ、タヌキやウリ坊と会話ができる奴だ。ツボネエという新種の少女と無言の会話が出来ても、なんら不思議はない。その新種のツボネエの説明によると、スピアは、{斯|こ}う言って、また眠りこけてしまったらしい。

 「寝違えたんだか、叩きつけられたんだか、からだじゅうが、痛い。壁だか床だか知らないけど、すべてが{撓|たわ}んで見える。空が見えているところが、上げ蓋があったところだと、判った。
 這い上がって外の空気を吸い込むと、それは、温かかった。だのに、からだは、寒い。おかしいなぁ……。そこでやっと、服がズブ濡れになっていることに、気づく。
 入れ替わり立ち代わり見物にやってくる鳥たちは、どいつもこいつも、新顔ばかりだ。しかも、『ホケ・カウ・ミャー・ヨヨ……』って、どうにも騒々しい。だのに、無性に眠い。
 ここが、どこの世なのか、〈この〉なのか、〈あの〉なのか……。どっちの世なのか、正直、まだよく判らない。空腹でも眠れる極限の時間が、あの世から迎えに来る。そしてぼくを、永遠の過去へと、連れ去ろうとしている。
 騒々しいい初対面のあいつらだって、ぼくが死骸になる前に、どうにかして食べたいって思っているはずだ。ここに住まってる鳥さんたちは、みんな、食うにも困るほどの、貧乏らしい。
 このあと、ぼくの物語は、あの世へと続く……」

   《 ツボネエの母乳! 》

 解説が終わったあと、続けてツボネエが、斯う言った。
 「アタイ、母乳が出ればいいのになーァ♪ だってさァ。赤ちゃんって、母乳で育つんでしょ? だったら、飲み水にもなるし、食いもんにもなる。こういうのって、一石二鳥っていうんでしょ?
 ねぇねぇ、ムローってばーァ!! 聴いてるーぅ??」
 女のオッパイの話で、最大級に面倒臭い女の顔が、二つ……脳裏に、浮かび上がった。そのうちの一つが、死骸風生命体Aの{足下|そっか}で、出番を待っている……。

 そして俺は、やっとツボネエに、指示を出した。
 「おまえの乳は{兎|と}も{角|かく}、トモ間で死骸宜しく引っくり返ってる二人にも、聖水を飲ませてやれ。
 俺は、ハリツケゴクモンの未確認生命体を縛ってるロープを{解|ほど}いてるから、トモ間の水{遣|や}りが済んだら、*ゴクモン*のほうにも、聖水を飲ませてやってくれッ!」
 すると、ツボネエが、大きく{頷|うなず}くと同時に、斯う言った。
 「運び出すんでしょ? 潮が満ちたら、流されちゃうかもなんだよねぇ?」
 (女っていう{種|しゅ}は、{何故|なぜ}にこうも、いつも正しいのだァ!)と、思う俺……が、応えて斯う言った。
 「目を覚ましたら、連れ出す。人間は、眠っているときと死んでいるときは、重いからなッ!」……と。

 何もかもが、無情に、この世のすべての義理を巻き込みながら、過去へと、運び去られてゆく。
 それが、この世で生きる者たちの、定めなのだ。 

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一学97 ミワラ<美童>の然修録 R3.6.27(日) 朝7時

#### 一学ムロー「頭ノ悪サハ、大ヲ成ス! 先人偉人カラ、頭ノ妙ヲ学ブ」然修録 ####

 『頭が悪いと言われていた子どもが偉人になる{場合|ケース}が多いのは、{何故|なぜ}か!』《頭の悪さ、よし。統計学の成果》《その{論的証拠|エビデンス}、世界に見る四人の偉人》《頭の悪さが高資質となる妙》
   学人学年 ムロー 青循令{猫刄|みょうじん}

 一つ、学ぶ。

      **{主題と題材と動機|モチーフ}**

   《 {主題|テーマ} 》

 頭が悪いと言われていた子どもが偉人になる場合が多いのは、何故か! 
 
   《 その{題材|サブジェクト} 》

 頭の悪さ、よし。統計学の成果。
 その論的証拠、世界に見る四人の偉人。
 頭の悪さが高資質となる妙。

   《 この主題と題材を選んだ{動機|モーティブ} 》

 ツボネエの然修録……その問い掛け。

 「アタイらの日記……後裔記も、学習帳のこの然修録も、数百年の時を超えて、アタイらの子々孫々に読んでもらえる可能性が、**大!**ってことじゃん?」

 俺の心が、正直に答えた。

 (俺は今、*無知*運命期。
 七年間の循令の、三つ目……青循令。
 その三年目の猫刄にして、齢は17。
 未だ、知命出来ず。
 {故|ゆえ}に、{武童名|たけらな}を名乗れず。
 {即|すなわ}ち、未だ{武童|タケラ}に{非|あら}ず!
 こんな*おバカ*の日記や、{況|ま}してや学習帳が、数百年の時を超えて、後裔たちに*先人語録として*読み継がれる?
 無いなーい!!)

 と、そう思った途端に、{斯|こ}う思わずには{居|い}られなくなった。

 (果たして、先人偉人の中に、少年少女期に*おバカ*った人は、一人も居なかったのだろうか。
 例外が、一人くらい、居るんじゃないのか。
 もし一人でも居たなら、その一つの例外が、俺の*おバカ*の頭に、一筋の光を、射しこんでくれるんじゃないだろうか)……と。

      **題材の{講釈|レクチャー}**

   《 頭の悪さ、よし。統計学の成果 》

 俺は、鈍物である。
 俺は、無能である。
 俺は、恐らくは無意識で、今現在の自分に納得がゆかないすべての理由が、その生まれながらの*鈍物*や*無能*であって欲しいと、願っている。
 そう願いながら歴史を{紐|ひも}{解|と}いてゆくと、先人たちが、斯う語り掛けてくる。
 「鈍才、{凡庸|ぼんよう}、大いに結構♪」
 {況|いわん}やッ!
 「秀才や英才でなければ、学問や修行や職分で成功できなかった」……などという*バカな*史実は、過去には存在しないということだ。
 {寧|むし}ろ、*おバカ*即ち〈あんまり頭が良くない〉どころか、*大バカ*即ち〈{甚|はなは}だ出来が悪い〉ほうが、非常なほどに**大**を成した人物が、少なくない……どころか、{枚挙|まいきょ}に{暇|いとま}がない!

 この史実、現代の学問風に言うならば、正に、*統計学*の成果である。

   《 その論的証拠、世界に見る四人の偉人 》

【一人目】
 ナポレオン Napoleon. Bonaparte
 1769年~1821年
 世界で一番、いっぱい伝記本が発刊されている人物。
 フランス革命に参加して戦功をあげ、クーデターにより統領政府をつくり、皇帝となり、〈ナポレオン法典〉をつくった、驚くべき人物。

 その少年期……。
 兄弟13人。うち5人が{早逝|そうせい}。残る8人の中で、一番できが悪かった。しかもその悪さは中途半端ではなく、相当に深刻なものだった。
 {終|つい}に{乳母|めのと}は{匙|さじ}を投げ、学校の受け持ちの教師に到っては、ナポレオンの頭の悪さに困り果て、「この子の頭の中には、何か{腫物|はれもの}が出来とるんじゃないかッ!」と、真面目にそこまで言っていた。

【二人目】
 ベスタロッチ Johann Heinrich Pestalozzi
1746年~1827年
 スイスで家庭教育と学校教育の大切さを説いて、その改革を{為|な}し{遂|と}げ、民衆教育の師表とまで呼ばれた、驚くべき人物。

 その少年期……。
 教師を徹底的に悩ませた鈍才で、{殊|こと}に……なんと! 字が書けなかった。 

【三人目】
 ニュートン Sir Isaac Newton
 1642年~1727年
 言わずと知れた、イギリスの物理学者。万有引力の法則を発見。その名声は、数学や天文学にも及ぶ。正に、驚くべき人物。

 その少年期……。
 彼もまた、学校の成績は、やっとこさでビリから2番目なら万々歳という鈍才ぶり。友だちから馬鹿にされる日々。
 ある日、{堪|たま}りかねて{喧嘩|けんか}に及ぶ。その喧嘩が契機となり、発奮したらしい。

【四人目】
 ダーウィン Charles Robert Darwin
 1809年~82年
 こちらもイギリスの、言わずと知れた生物学者。ビーグル号で南半球を探検調査し、あの有名な〈進化〉を論じた。

 その少年期……。
 これまた負けじと鈍才で、妹にも敵わず。
 受け持ちの教師は、彼を「愚か者めッ!」と、{面罵|めんば}する始末。

   《 頭の悪さが高資質となる妙 》

 西郷南洲(隆盛の雅号)や東郷元帥にしても、今どきで言えば、私立の進学校などには到底及ばない鈍才凡才ぶりだったという。
 ただ、発奮と努力だけが、桁外れに人並外れて{秀|ひい}でていただけ……と、いう{訳|わけ}だ。
 鈍才は、自分をごまかさない。ゆっくりと、*自然*に任せて、{漸|ようや}く一つを習う……即ち、{漸習|ぜんしゅう}。

 {綺麗|キレイ}で上品を強調した{上手|じょうず}な字。
 これ、無論よし……だが、それだけのことだ。
 「字が{上手|うま}いね」、「器用だね」……で、ある。
 逆に、不器用ながらも、一所懸命に、{丁寧|ていねい}に書かれたヘタっぴな字は、何とも、**味**がある。重みと厚みがあるということだ。
 馬鹿の一つ覚えと笑われていることでも、その一つを、一所懸命に何度も何度も練り上げれば、それは、どんなに器用であっても、見た目や{世間体|せけんてい}重視の軽巧などが、敵う相手ではない。

 そういう世間体や{面子|めんつ}ばかりを気にしている*秀才もどき*の人間のことを、昔から……。
 「外に{趨|はし}り、表に浮かみ、内を修めず、沈潜し{難|がた}い」
 と、言うそうだ。
 まァ、味も無く、大も成さずという訳だ。

 結局、高資質の**妙**の正体は……。
 貧乏であり、病弱でもある。
 「頭が悪い!」であり、「才が無い!」でもある。

      《 {蛇足|スーパーフルーイティ} 》

 後裔記のこと……。
 もし、マザメくん、オオカミ、スピア、サギッチの4名が、*この世で*この然修録を読んでいたならば、以下のことを、伝えたい。

 本当に*おバカ*な動物は、この世でなんら一つの感動も残さず、長くも短くも、時間をただ無駄に費やすのみ。
 もし君らが海難で死んでいるならば、それは、君らが一人残らず、時間を命と{悟|さと}り、命を削ることに耐えがたく、自ら決めて、己の命の削れるところを〈無〉とした一級の{論的証拠|エビデンス}だと言えるだろう。

 もし万が一、まだ君らがこの世に残って{居|お}るならば、それは、ほんの*ちょびっと*、ほんの少しだけ、まだ望みがあるという可能性が、まったく無いということでもないと思う……たぶん。
 その有るか無いかも判らない*ほんのちょびっと*の望みを、どう育てるかによって、ナポレオンを{凌|しの}ぐ**大**を成すこともできれば、やっぱり*おバカ*として生きて、{程無|ほどな}くそのまま死んでゆくことにも相成ろう。

 まァ、俺{然|しか}り、すべては自分で決めることだ。
 余計なお節介をするほど、俺は、*おバカ*じゃない。
 ……と、信じたい(アセアセ)。
 てか、そう願う(ポリポリ)。
 
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一息100 ミワラ<美童>の後裔記 R3.6.26(土) 夜7時

#### 一息サギッチ「{處女篤考|ショニョトッコウ}……この世の最期に、思うこと。{鰯|イワシ}のウイリー!!」後裔記 ####

 《 矢庭の荒天 》《 一瞬、一瞬の連続…… 》《 運命の時…… 》《 後悔……慈愛 》
   少年学年 サギッチ 齢9

 一つ、息をつく。

 ……と、いうことは、生きている。
 少なくとも、おれは。
 しかも、おそらくここは、この世。
 ここにいるから、この世。
 果たして*ここ*とは、どこなのか……。

   《 矢庭の荒天 》

 月明かり……。
 それは、矢庭の出来事。
 正に、闇夜。
 予告無き、引き波のような不測の大波。
 ドォーン!!
 船底を{叩|たた}く、大きな音。
 船倉の壁も、床も、ビリビリと{震|ふる}える。

   《 一瞬、一瞬の連続…… 》

 胴の間の{木の蓋|ハッチ}は、開けたままだった。
 {甲板|デッキ}の上に、頭だけ出す。
 直ぐ横、闇夜の中に、白い顔{一|ひと}……スピア。
 舵輪のあたりで、白いクレモナロープが、蛇が斜面を登って逃げて行くように、くねっている。
 不器用……。
 オオカミ先輩が、舵輪の支柱に、自分の{身体|からだ}を、{括|くく}りつけているところだった。
 壊れた……。
 オオカミ先輩が、吠えた。
 「右{200|ふたひゃく}、荒天!
 左200、荒天!
 我が心、{荒涼|こうりょう}なりて、退路無し!」

 スピアが、一言。
 「就寝許可のおにいさんが、見える」
 「どこによッ! なんでよッ!」と、おれ。
 「迎えに来たんじゃない?」と、スピア。
 「あの世からかい! やなこったァ!」と、おれ。
 スピア、大声で叫ぶ。
 「ねーぇ!!
 ヒヤ{間|ま}に、降りとけばーァ?!
 危ないよッ!」
 オオカミ先輩、直ぐに応えて、大声で言い返す。
 「バカこけッ!
 波に船首を立てないと、ズングリ丸、ズングリ返るんだぞッ!」
 意味は判ったけど、後から考えると、意味不明。

 オオカミ先輩、矢庭に吠える。
 「今だッ!
 救命胴衣着て、トモの間に、移れ!
 マザメと三人で、生きる準備、なんかやっとけッ!」
 救命胴衣を着て、再びデッキの上に、顔を出す。
 スピアも、ほぼ同時。
 そのスピアが、言った。
 「ぼくたちの命って、首の皮、一枚だね」
 「皮一枚でぶら下がってんのかよッ!
 痛いだろッ!」と、おれ。
 たぶん、そう言ったと思う。
 これも、後から考えると、意味不明。

 ロープで舵輪の支柱に固定されたオオカミ先輩の足を、*手摺り代わり*にして、どうにか生きたまま、トモの間に降りる。
 オオカミ先輩の左足を{掴|つか}んだとき、スピアは、もう一本の右足のほうに、しがみついていた。
 マザメ先輩……。
 魔性の{鮫|サメ}{乙女子|おとめご}と呼ばれる割には、海は、苦手なご様子!
 そのマザメ先輩が、言った。
 「舟のこととか、天気とか、これからどうなるとか、そんなこと話したら、{打|ぶ}っ飛ばすからねぇ!」
 スピア、無言。
 おれも、思い当たる適当な{話題|トピック}、無し。
 暫し……{間|ま}。

 マザメ先輩が、口火を切った。
 「そうだッ!
 おねえさん先生の名前、知ってるーぅ?!
 ゲンコなんだってーぇ!!
 奥深くて暗い意味の〈玄〉に、十二{支|し}の寅。
 それで、玄寅!」
 「暗闇の海底に沈む{虎|トラ}ってことォ?」と、スピア。
 「かもね。
 そうだッ!
 人望の意味って、知ってるぅ?
 みんなに{奢|おご}ってもらうことだよ。
 将来性があるから、見込みがあるから、未来があるから、奢ってくれるのさ。
 それが、人望さッ!」と、マザメ先輩。
 「じゃあ、ぼくら四人とも、人望無しだね。
 だって、未来なんか、無さそうだし……」と、スピア。
 「それ!
 未来の話も、禁止!
 話題、変えてーぇ!!」と、マザメ先輩。

   《 運命の時…… 》

 ドォ、ドォーン!!
 再び、まるで、太鼓を叩くような音。
 それは、ズングリ丸の、どてっ{腹|ぱら}……機関室の底の方から、響いてきた。
 静寂。
 ピューピューと、風は、{煩|うるさ}く吹き荒れているのに、それでも何故か、耳の中は、静寂だった。
 スピアが、言った。
 「エンジン、切ったのかなァ」と、独り{言|ご}ちるように。
 「燃料切れかもなッ!」と、おれ。
 「じゃあ、走り切ったってことでしょ? あとは、ただ流されるだけで、目的地に着ける。だったわよねぇ?」と、マザメ先輩。
 その時だった。

 「おい!
 誰か、燃料計、見てくれ。
 照明切るから、早くしろ!
 ヒヤ間の隔壁、穴、開いてんだろッ!
 そこから、覗け。
 温度計みたいなの。
 早くしろ!」
 意外なことに、マザメ先輩が、動いた。
 そして、何やらブツクサ言いながら、その温度計みたいなのを見つけると、もったいぶったように、言った。
 「あーァ、いッ!
 うーゥ、えーェ?
 おッ!
 三分の一……じゃなくってーぇ!!
 四分の一と、ちょい! ってとこかなッ♪」

 静寂の次に、沈黙が、訪れた。
 その次に訪れたのは、スピアの声。
 「切ったんじゃなくて、止まったんだね。
 エンジン……。
 さっきの、ドォーンでぇ!」
 そして、沈黙とスピアの声の次に訪れた音は……。
 カスッ、ルルルルル......
 カスゥ、ルルルルル……
 と、{哀|かな}し{気|げ}な、エンジンの絶望音♪

 真っ黒い雲
 暗黒の海流
 {牙|きば}のような白波
 水墨画が描く
 地獄絵巻

 向かってくる暗黒の海流と牙のような白波に船首を立てなければ、船は波の肩叩きリレーに押されて{横倒|よこだお}しか、最悪は、船尾を{煽|あお}られて……オカマを掘られてぇ! ほんでもって*つんのめって*、その反動で、ズングリ丸は{顎|あご}を上げて、真っ黒い雲を{仰|あお}ぎながら、ブクブクと、ブクブクと、海底に在るのだろう〈あの世〉へと、サヨナラしてしまう。

   《 後悔……慈愛 》

 マザメ先輩が、変なことを、言いだした。
 そのとき、何故だか、何気に、こんなことを思った。
 (生きているうちに、優しい言葉の一つも、掛けてあげればよかったかなァ……)と。
 マジで、本当に、そんなことを思った、おれ。
 マザメ先輩が言った、変なこと……例えば。

 「人道ってのは、二つあるんだ。
 ペデストリアンと、バーチュー。
 {歩|ある}く道と、{歩|あゆ}むべき道。
 歩く道……ペデストリアンは、もう無い。
 海、海、海……。
 こん{畜生|ちきしょう}!
 歩けやしない!
 {最早|もはや}、歩むべき道に、進むしかない。
 美徳の道……バーチュー。
 あの世の、ペデストリアンさ。
 {解|わか}るだろーォ??」 

 スピアが、言った。
 「親と{同|おんな}じだね。
 女の子って......。
 孝したいときには、もう、死んでる」
 その時だった。
 オオカミ先輩が、吠えた。
 無論、言っておくけど、スピアの言葉が、届いたはずもない。
 依然、荒れ狂う風雨が、耳ん中を、支配していた。
 で、オオカミ先輩……。
 「ショニョトッコウだッ!
 こっちは、おれに任せろッ!
 マザメに、ショニョトッコウしてやってくれ。
 頼む!」

 その時は、その言葉に関しては、まったく、意味不明だった。でも、不思議と、オオカミ先輩が、おれらにして欲しいことが、判るような気がした。
 後で調べてみると、その言葉は、〈處女篤考〉と書くことが、判った。
 その意味は……。

 「女性に接するときは、真心を込めて、愛情のこもった孝行をする」

 (そんなことが出来たら、歴史に、名を{刻|きざ}めるぜぇ!)と、あとになって思った、おれ。
 でも、スピアは、もっと{上手|うわて}だった。
 そのスピアが、壊れた白い顔をして、独り{言|ご}ちた。
 「{處人藹然|しょじんあいぜん}。
 息恒循。
 恒令六日目、{六然|りくぜん}。
 人に接して相手を楽しませ、心地よくさせる。
 この世で最後に、ぼくがやるべきこと……。
 その相手が、マザメ先輩。
 光栄……されど、無念!
 さらば……有事{斬然|ざんぜん}」

 また、オオカミ先輩が、吠えた!
 「重い物は、ぜんぶ、海に捨てろッ!
 船ん中のバケツとロープ、ぜんぶ集めろッ!
 やるだけやって、ダメなら、死ぬだけだ。
 海に落ちてもいい。
 誰が先に死んだって、恨みっこ無しだァ!
 動けーぇ!!」

 動いた結果、おれとスピアは、まだ生きていた。
 集めた鉄バケツにロープを{括|くく}りつけ、オオカミ船長に指示されるがまま、それらすべてを、船尾の右舷側に、投げ入れた。そのロープの末端は、オオカミ先輩の{身体|からだ}に、括りつけられている。
 そして、オオカミ先輩が、言った。
 「おまえらッ! もう、船倉に入れ。
 伏せて、神に祈れ!」

 ズングリ丸は、ピッチング、ローリング、ヨーイングを、繰り返した。つまり、前後、左右、上下に、それぞれ好き勝手に、大いに揺れ続けたということだ。
 その果て……。
 トモの間の出入口に、木製の上げ{蓋|ぶた}……{所謂|いわゆる}カーゴハッチが、被さった。
 言わずもがな、オオカミ先輩の{仕業|しわざ}……即ち、「おまえらだけでも、どうにでもして、何がなんでも、生き残れッ!」っていう、所謂余計な、大きな*お節介*だった。

  ぼくとスピアは、重ね着しているズタボロのポロシャツやラガーシャツのすべてを脱ぎ捨て、それらすべてを、マザメ先輩の身体に巻き付けたり、被せたりした。

 スピアが、おれの目を見た。
 おれも、スピアの目を見た。
 そして、オオカミが、吠えた!

 「{鰯|イワシ}のウイリーじゃーァ!!!!!!」

 【註釈】
 ウイリー……後輪走行。
 それを、鰯の立ち泳ぎに{譬|たと}えたもの。
 {敢|あ}えて漢字で書けば……〈船尾走行〉。

 この世で最後に妄想する光景が、イワシのウイリーとは……。
 いやはや、なんとも。

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一学96 ミワラ<美童>の然修録 R3.6.20(日) 朝7時

#### 一学ツボネエ「貧乏ヲ、考エタ。病弱ヲ{棄|ス}テ去リ、貧乏ヲ修メル」然修録 ####

 『{如何|いか}にして貧乏を{糧|かて}にするか』
 《貧乏は病弱より始末がよく、{功徳|くどく}をも授かる》
 《貧乏の功徳……梅園先生》
 《貧乏の功徳……海舟先生》
 《貧乏の功徳……{泥舟|でいしゅう}先生》
 《貧乏の功徳……タヌキ先生》
   少女学年 ツボネエ 少循令{飛龍|ひりゅう}

 一つ、学ぶ。

      **{主題と題材と動機|モチーフ}**

   《 {主題|テーマ} 》

 如何にして貧乏を糧かてにするか。
 
   《 その{題材|サブジェクト} 》

 貧乏は病弱より始末がよく、功徳をも授かる。 
 貧乏の功徳……梅園先生。
 貧乏の功徳……海舟先生。
 貧乏の功徳……泥舟先生。
 貧乏の功徳……タヌキ先生。

   《 この主題と題材を選んだ{動機|モーティブ} 》

 言わずもがな、サギッチ先輩の然修録より。
 先輩の頭ん中に封印された〈お題〉……。
 いっただっきまーす♪

      **題材の{講釈|レクチャー}**

   《 貧乏は病弱より始末がよく、功徳をも授かる 》

 功徳……神仏の果報。
 そして、それを授かるに値するような、世のため人のための善行。
 江戸期、幕末維新、そして明治の頃、この功徳を持った男たちが、なんと多かったことかッ!
 そして……今、正にその言葉は、死語。
 「クドク」と読めない子どもまでもが、出現しているらしい。

   《 貧乏の功徳……梅園先生 》

 江戸中期。
 大分の哲人、三浦{梅園|ばいえん}先生。
 {所謂|いわゆる}{碩学|せきがく}の人……{即|すなわ}ち、広く深く学問をする人ってこと。
 その梅園先生の碩学は、儒学、医学、天文学、物理学、博物の学、政治学、経済学、条理学にまで及んだ。
 特に最後の〈条理学〉……これは、アタイら自然{民族|エスノ}との関わりが、深い。
 {何故|なぜ}なら、自然現象を観察するなかで、自然界の生い立ちや成り立ちの法則性を、{見出|みいだ}そうとする……と、そんな学問だからだ。

 その梅園先生。
 {歳|よわい}60超えにして、儒学の高名な先生の門下に入る。そのときのこと……。
 梅園先生は、村から城下へ通学する少年を見て、驚いた。先生の{逸話|いつわ}集に、当時の様子が、こんなふうに記されているそうだ。

 「山{越|ごえ}四里{許|ばかり}なるを、十六歳の一少年は日々{経|けい}を抱きて往復するに、常に{洗足|はだし}なりき」

 16キロを裸足で歩いて、学校に通う?
 有り得ん!
 {況|いわん}や、歩くことじゃない。
 その当時の学校で教える学問が、そこまでして通いたくなるような魅力放っていたということに、{驚愕|きょうがく}を覚えてしまう。
 これには、梅園先生が門下に入ったところの師匠、綾部{絅斎|けいさい}も、ビックリ!
 梅園先生の逸話集に、続けて{斯|こ}うあるそうだ。

 「師絅斎、見て{之|これ}を{憐|あわれ}み、家人に命じて{草履|ぞうり}を与えしむ。少年謝して之を受け、{穿|は}きて{出|い}づと{雖|いえど}も、門を出づるや{直|すぐ}に脱ぎ、砂を払ひ、之を{懐|ふところ}にして帰る。
 翌日来るや{跣足|はだし}平日の{如|ごと}し。{而|しか}して
師の門に至るや、{復|ま}た草履を懐より取出し、穿きて入る。
 {其|そ}の用意{此|こ}の如きものありき」

 今、その少年の姿が、目の前に、ハッキリと映って観える。
 何故なら、アタイが、この世に産れ{出|い}でて七年間、病弱と貧乏意外、何も知らなかったから……だと思う。
 アタイは、ただ、自然の生きものだったんだ。
 西郷隆盛も、貧乏{侍|ざむらい}の{倅|せがれ}で、終生破れ草履を穿き、粗服を{纏|まと}い、{然|しか}しながら、行儀の良さは、{日|ひ}の{本|もと}一とまで、言われたそうだ。

   《 貧乏の功徳……海舟先生 》

 貧苦{艱難|かんなん}、よし♪
 貧弱多病、よし♪
 その**よし♪**の中に生まれ、その「よし♪」のなかに{居|お}ったればこそ、{彼|か}の人生が、〈偉人〉と呼ばれるようになったんだと思う。
 その、彼の偉人といえば、なんと言っても、アタイら少年少女貧乏塾の開祖……的な先人偉人、海舟先生♪
 誰かが、然修録に、海舟先生の逸話、書いてたよねぇ?
 高価な分厚いオランダ語の辞書を、高額な借料で借りて、二部写本し、一部を売って借料を返済し、残りの一部で、オランダ語を学んだ。
 今で言えば、{埃|ほこり}を被った分厚い{広辞苑|こうじえん}を二部、すべて手書きで写本するということに等しい。しかもそれは、日本語ではなく、オランダ語という難解な記号の羅列!

 ところで、今書いているのは、アタイら{美童|ミワラ}の学習帳、然修録。そして、もう一つの習わし……というか、義務。それが、後裔記……{所謂|いわゆる}日記。
 アタイらのムロー学級の先輩たちも、当時の海舟先生も、貧乏も年代も同じくする貧乏学徒! その海舟先生の日記が、今{甦|よみがえ}る。

 「弘化四、{丁未|ていび}秋、業に{就|つ}き、翌仲秋二日終業」
 ……この〈業に就き〉というのが、オランダ語の辞書を借りて、写本をはじめたという意味。

 「予此の時、貧・骨に到り、夏夜{蟵|かや}無く、冬夜{衾|ふとん}無く、た{ゞ|だ}日夜机に{倚|よ}って眠る。
 {加之大|しかのみならず}母{病牀|びょうしょう}に{在|あ}り。
 諸妹幼弱{不解事|ことをかいせず}」
 ……お母さんは病に伏し、妹さんは、まだ幼くて何も解らずだったみたい。

 「自ら{椽|タルキ}を破り、柱を{割|さ}いて{炊|かし}ぐ。困難、{到于爰|ここにいたって}又感激を生じ」
 ……ここまで来ると、貧乏というより、遭難サバイバルだねッ!

 「一歳中(一年で)、二部の{謄写|とうしゃ}成る。其の一部は他に{鬻|ひさ}ぎその諸費を弁ず。{嗚呼|ああ}此の後の学業、其の成否の如き{不可知|しるべからず}。不可知也」
 ……そして、いよいよ、その大努力の甲斐あって、大業{成就|じょうじゅ}に到る。普通ならここで、安堵とか自画自賛とかの気分に浸っても{可笑|おか}しくはない。
 ところが、「其の成否の如き不可知」って、大努力の結果など知る{由|よし}もなく{云々|うんぬん}って意味だよねぇ? こんなに苦労したのに、「いやいや、まだまだ知るべからず」ですってーぇ?!

   《 貧乏の功徳……泥舟先生 》

 この維新という時代、この海舟、鉄舟、{泥舟|でいしゅう}の三人は、「三舟」と称せられた。
 鉄舟は、スピア先輩の然修録にあった山岡鉄舟、その人。
 残る泥舟とは、その鉄舟の師匠、高橋泥舟のこと。
 鉄舟を弟子に持つほどの、この泥舟という人物。彼もまた、貧乏一筋で自らを鍛え上げ、{槍|やり}一筋で{伊勢守|いせのかみ}となり、講武所の教授なども務めた貧乏偉人。

 その泥舟の兄がまた、凄い!
 本家の跡継ぎとして家父長となった泥舟のお兄ちゃんは、{槍術|そうじゅつ}の鍛錬を{遣|や}り過ぎて、若くして過労死! 己の死を悟ったお泥舟のお兄ちゃんは、自分の跡継ぎを、小野鉄太郎という男に託した。
 この男、剣道の達人にして、禅の修行にも熱心で、その自らの行動で体得したことを、マメに書にするという大努力家で、しかも元来、器用な男だった。この〈鉄太郎〉が、のちの鉄舟なのだ。

 貧乏を哲学に……即ち学問にまで押し上げたこの三人の狂人……三舟!
 さぞ{厳|いか}めしい顔で、頑固一徹の性格だったに違いない……と、思うよね? ところが、シントピック・リーディングを続けるうちに、ある真実が、浮かび上がってきた。
 {因|ちなみ}に、シントピック・リーディングってのは、寺学舎の座学で習った読書法だけど、要は、一冊の本や一人の意見なんぞを、{鵜|う}呑みにするなッ!ってこと。
 で、例えば泥舟先生の場合……。
 変な名前だと、思わない?
 この名前、『カチカチ山』っていうお{伽|とぎ}ばなしから取ったんだってさッ!

   《 貧乏の功徳……タヌキ先生 》

 『カチカチ山』と言えば、お{狸|タヌキ}先生♪
 当時の武人たちは、そのタヌキさんを、〈領地監視の達人〉として、{崇|あが}めていたらしい。なんで、そこまでぇ? ……って、思うよねぇ?
 では、そのタヌキさんの、題して……。
 **領地を要領よく監視する方法♪**
 タヌキ師匠、{曰|いわ}く。
 「縄張りを監視したければ、縄張りを持つなッ!
 共同便所一つもあれば良し♪
 共同便所にションベンやウンチくんをしにきたタヌキ君{等|ら}は、必ず、己の*臭い*を残す。
 それを、面倒がらずに{嗅|か}いでおけば、『今日は、{余所|よそ}者が何人やってきて、片や森の{同胞|はらから}たちが何人去って行ったか』……なんて情報は、寝ながらにして、容易に判ってしまう。
 {況|いわん}や!
 縄張りは、持つものではなく、嗅ぐものだ」……と。

 学問の一番の美徳は、*貧乏でも出来る*ということだと思う。
 この貧乏がうえにも磨かれた**美徳**の裏打ちがなければ、どんなに大金を注ぎ込んだり、どんなに{莫大|ばくだい}な額の血税を投入しようとも、いくら「研究だの学問だの」って言ったところで、それはまったくの〈無駄、無価値、無意味〉だと思う。
 ただただ、腹立たしいだけだ。

   《 {蛇足|スーパーフルーイティ} 》

 海舟先生の日記が、今に、残っている……。

 その事実を知ったアタイら自然{民族|エスノ}の先人{先達|せんだつ}の{武童|タケラ}や{美童|ミワラ}たちは、どんなに勇気づけられただろう。
 だって、そうでしょ?
 海舟先生の日記が、百六十年内外の時を経て、現在に残っている……。
 つってーぇことはさッ!
 アタイらの日記……後裔記も、学習帳のこの然修録も、数百年の時を超えて、アタイらの子々孫々に読んでもらえる可能性が、**大!**ってことじゃん?

 そういうのって、勇気{凛々|リンリン}!
 もう、「どうにも止まらないーぃ♪」
 ……じゃない?
 
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一息99 ミワラ<美童>の後裔記 R3.6.18(金) 夜7時

#### 一息オオカミ「昔ノ大人ハ、{尖|トガ}ッテタンダヨッ!」後裔記 ####

 《 穏やかな抵抗 》《 船長の選択 》《 軍艦{鮫|ザメ}と闇夜の二人 》
   学徒学年 オオカミ 齢13

 一つ、息をつく。

   《 穏やかな抵抗 》

 ヒヤ間は、確かに狭かった。
 だが、照明が、効率よく{手許|てもと}を照らしてくれるのは、有難かった。
 ちょうど、隊舎の甲板用具庫の中で、深夜、裸電球一つで昇進試験の勉強をしてるみたいな、そんな感じだった。
 無論、おれには、そんな経験はない。
 ジジサマが、話してくれたんだ。
 昔ばなし……。
 その中に挟み込まれた数々の{挿話|エピソード}の、一つだ。

 今、舵輪は、スピアが、握っている。
 スピアとサギッチと三人で、{航海当直|ワッチ}を、組んだのだ。一人が操舵、一人が見張り、そして残る一人が、仮眠と学問だ。問題があれば、右足でポンポンと、{木の蓋|ハッチ}を叩けと、二人には伝えてある。
 操船の要領も、伝えてある。
 簡単だ。
 {斯|こ}う、説明した。

 「当直操舵員の使命は、たったの三つだけだ。
 一に、船の{舳先|へさき}を、目的地に向ける。
 二に、燃料を、節約する。
 三に、{死神|しにがみ}を、追い払う。

 次に、その方法。
 一のそれ、この針が、〈W〉を{指|さ}すように走れ。
 二のそれ、こっち針が、〈8〉を超えないように走れ。
 三のそれ、〈8〉まで上げて、どうしても〈W〉にならなかったら、おれを起こせ。

 次に、その要領。
 一は、舳先が回りたがったら、舵輪を反対に、少し回せ。
 二は、〈5〉のまま、任に{堪|た}え{難|がた}きを、忍べ。
 三は、生きたいと願え。
 以上。
 その、たったの三つだ」

 あいつらには言わなかったが、要は、斯うだ。
 世界中の天才を一人残らず集めて、この星の発明発想法の総力を結集しても、大なる自然……海の深海心理の威力の前には、おれたち人間は、怖ろしいほど無力だ。
 その海に乗り出した以上、我らが生き延びる方法は、ただ一つ。
 海を怒らせないように、穏やかに抵抗しながら、ゆっくりと、生きて天命を果たし{遂|と}げたいという願望だけに、ありったけの情熱を燃やす。
 そして、少しづつ、{焦|あせ}らず、己の命を、削ってゆくしかないのだ。

   《 船長の選択 》

 出航直前……その事件は、起きた。

 水上{繋留|けいりゅう}をしている、漁船の数々。
 その中に、家船が、{一|ひと}。
 その繋船ロープを{舫|もや}っている、岩々。
 その、崖の上。
 例の、廃墟の建屋。
 地底住みの自然エスノが、共用部として、使っている。

 その裏側の、原っぱ。
 最初にやって来たのは、軽バンが、一台。
 {然程|さほど}に古くはないが、ボコボコのオートマ車。
 後部座席に、おねえさん先生。
 操縦席と助手席、そして後部座席にも一人、若い男。
 三人とも、{船住居|ふなずまい}の、自然エスノ。
 おねえさん先生の、{幼馴染|おさななじみ}だ。
 後部座席の後ろに、真新しいポリタンクが、三本。
 中身は燃料だと思い、それを疑うという発想は、起こらず。

 次に現れたのは、軽トラが、一台。
 ポンコツのマニュアルだが、一応、四駆。
 ジジサマ自慢の、二人乗りの、スポーツカー。
 運転は無論、ジジサマ。
 同乗者、無し。
 荷台には、ズルズルに油で汚れたポリタンクが、満載。
 中身は、言わずもがなの家船の燃料。
 こちらは、疑う余地も無く……。

 二人の男、軽トラの両側のドアを、{塞|ふさ}ぐ。
 窓を全開にする、ジジサマ。
 {喚|わめ}き吠えまくると思いきや、無言。
 腕を組み、{宛|さな}ら、{瞑想|めいそう}。
 残りの一人の男が、軽バンから、ポリタンクを降ろす。
 順次、三本すべてを、崖っぷちまで運ぶ。
 ロープを使って、崖下に降ろす。
 慣れた手つき、手際がいい。
 おねえさん先生が、言った。

 「あの家船、清水タンクが無いの。
 三日分の真水、積んどくから。
 但し、飲料水と煮炊き以外には、使わないこと。
 これは、鉄則。
 破ったら死ぬ規則のことを、鉄則と言います。
 燃料タンクは、ジジサマが、満タンにしてくれています。
 800リッター入ってる……はず。
 これも、三日分。
 但し、一時間に11リッター以上、使わないこと。
 これも、鉄則。
 鉄則は、以上。
 たったの二つです。
 守れなかったときに死ぬ確率は、ピッタリ百パーセントです。
 
 最後に、燃料節約の要領だけ、言っておきます。
 エンジンをフル回転で走ると、一時間に40リッター使います。
 その場合、燃料切れの心配は{要|い}りません。
 燃料を使い切る前に、あの船のエンジンは、壊れるから。

 次に、一時間平均10リッターの燃費で走る方法。
 下げ潮のときは、潮に乗って、500回転キープ。
 アイドリングのまま、クラッチを前進に入れるだけってこと。
 上げ潮のときは、潮に逆らって、回転数を上げる。
 但し、800回転を超えないこと。
 スロットルは、チョン、チョン、チョンの、三回まで。
 ここれを厳守すれば、800回転を超えることはありません。
 但し、800回転は、緊急事態です。
 潮に逆らえるんなら、500回転をキープすること。

 ゴメン!
 肝心なことが、最後になっちゃったわね。
 方角……どっちに行くかなんだけど……。
 昼間は、太陽を、追い駆ける。
 夜は、半月なら追い駆け、満月と新月なら、逃げる。
 太陽は、心配要らない。
 アマテラス様が、お優しいからです。
 でも月は、{博打|ばくち}です。
 正確には、季節と月令で方角が判るんだけど、そんなこと教えてたら、日が暮れっちゃうから、一か{八|ばち}か、船、出しちゃいなさい。

 無計画で飛び出したって、綿密に計画を立ててから慎重に出立したって、どっちにしたって、結末は、同じです。
 二つしかないってこと。
 生きるか、死ぬか。
 その、二択です。
 だから飲み水も、その結論が出る三日分だけでいいんです。
 あの世に行くのに、水は、要らないでしょ?
 真水は、大事なのよ。
 あの世になんかに持って行かれたら、{堪|たま}ったもんじゃない。
 逆に、万が一だけど、三日後にまだ生きていたら、それは、新たな真水を手に入れたってことです。
 話、簡単でしょ?
 じゃあ、元気でねぇ♪
 ご安航は、{祈|いの}らないから。
 だって、祈るだけじゃ、何も変わらないもの。
 時間の無駄!
 祈る暇があったら、行動しろッ!ってこと。
 これ、忘れないでねッ♪」

 そのときだった。
 ジジサマが、やっと吠えた。
 「おい! 本当に、大丈夫なんだなッ!」 

 おねえさん先生が、少し声のボリュームを上げて、ジジサマの{雄叫|おたけ}びに応えて言った。
 「これでも、この海で産れて、この海で育ったんです。
 『この世に〈大丈夫〉なんて、一つも無い!』ってことくらい、判っています。
 だから、大丈夫です♪」

   《 軍艦鮫と闇夜の二人 》

 二人が操舵に慣れるまで、結局おれは、{休み無しの航海当直|フル・ワッチ}だった。
 スピアが、言った。
 「やっと、寝たみたいだね」
 「寝るんだね、一応」と、サギッチ。
 「進化も退化もせずに泳ぎ続ける、{鮫|サメ}の変種だからな」と、おれ。
 「それ、軍艦{鮫|ザメ}って言うんでしょ?」と、スピア。
 「{奴|やつ}らは、呼吸のために、高速の水流を必要とする。その割に、{鰭|ヒレ}が、不器用。ぶつかりまくる。何かに激突して止まると、沈んでしまう。沈むと、死ぬ」と、おれ。
 「確かに、『進化も退化もせずに泳ぎ続ける』……だねッ!」と、スピア。

 そのとき、ジジサマに操船を習っていたときに教えてもらった話を、ふと思い出した。
 ジジサマは、こんなふうに言った。

 「ズングリ号か。
 悪くないかもな。
 でもな。
 〈号〉は、やめとけ。
 悪いことは言わん。
 ズングリ丸にしとけッ!
 商船と漁船の名前には、〈丸〉を付ける。大事な宝物じゃからな。盗まれんように、〈丸〉を付けるんじゃ。
 軍艦は、それ自体が大事な{訳|わけ}じゃない。大事なのは、国家と国民だ。〈丸〉を付けるとしたら、国家と国民のほうだ。
 遊びの舟も、{生業|なりわい}の船に比すれば、大事には値せん。じゃから、〈丸〉を付けた遊びの舟は、少ない。
 昔、便器のことを、「お丸」と呼んだ。いくらなんでも、便器は、盗まんじゃろ。汚いし! じゃやから、大事なものには、〈お丸〉と名付けたり、「オマル〉と呼んだりしたんじゃ。そうすれば、盗まれんで済むじゃろッ?
 昔の人は、面白い人が、多かったっちゅうことじゃなッ♪」

 ……そんな{経緯|いきさつ}があって、ズングリ号改め、ズングリ丸。遅くなったが、ここで、報告しておく。

 二人分を{足|た}したワッチの時間が過ぎ、おれ一人のワッチになった。
 闇夜……新月なのか、{将又|はたまた}、満月だけど曇りなのか……。
 雲が空を{覆|おお}っているとき、おねえさん先生たち漂海民は、どうやって方位を知ったんだろう……。
 ある歌の歌詞が、奥深い記憶の底から、浮かび上がって来た。父さんが、ギターを{奏|かな}でながら、よく歌っていた歌の歌詞だ。
 まだ幼かったはずなのに、{何故|なぜ}、{諳|そら}んじれるほどの多くの{語彙|ごい}が、記憶に残っていたのだろう……。

 闇夜の国から二人で舟を出すんだ
 海図も磁石もコンパスもない旅へと
 (舟はどこへゆく♪)
 うしろで舵をとるお前は あくびの顔で
 夜の深さと夜明けの近さを
 知らせる
 歌おうよ 声合わせ
 舟こぐ音にも合わせて
 闇夜の国から二人
 二人で舟を出してゆく

 タカタカターン♪
 ヒュールッヒューゥ……
 タカタカターン♪
 ヒュールッヒューゥ……

 二人で{漕|こ}いでいる舟に、出逢うかもしれない。
 父さんと母さんが、漕いでいる舟に……。

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一学95 ミワラ<美童>の然修録 R3.6.13(日) 朝7時

#### 一学サギッチ「明治まで続いた{諫言|かんげん}。{格物|かくぶつ}の解釈で二分する儒学」然修録 ####

 スピアからの要望……というより、身勝手に振り出された宿題! その、〈**天然の要約**〉とやらに{挑|いど}む。〈道〉の正し方に{纏|まつ}わる異文化を、比較しながら説けだとォ? 学者が宜しいような多様な読書を、おれに振りやがったなーァ?!
   少年学年 サギッチ 少循令{猛牛|もうぎゅう}

 一つ、学ぶ。

      《 {主題と題材とその動機|モチーフ} 》

   【 {主題|テーマ} 】

 〈道〉の正し方。
 
   【 {題材|サブジェクト} 】

 一に、我が国明治期まで続いた諫言の効用。
 二に、大陸で儒学を二分した格物の解釈。

   【 その{動機|モーティブ} 】

 言わずもがな、スピアの野郎の然修録!
 「本当は、道のことより、その〈構え〉のほうに、興味がある。その構え方によって、正し方が変わってくるからだ。この正し方についても、大陸と我ら海洋の中の一国一文明とでは、{趣|おもむき}を{異|い}とする……云々」

 で、諸般の事情により、その〈正し方〉の趣とやらを、書くことにした。これにより、おれの興味のほうは、棚に上げることに相成った……まったく!

      《 題材の{講釈|レクチャー} 》

   【 一に、我が国明治期まで続いた諫言の効用 】

 先ず、諫言の意味。
 主君。今で言えば、社長や上司……の命令や行いが、(理不尽!)と感じられたり、{常軌|じょうき}を{逸|いっ}した姿に見えたとき、それを{諫|いさ}め、思い改めてもらえるように働きかける行為……それが、〈諫言〉という言葉の真意だ。
 武士道の世界では、この諫言は、義務でもある。主君や上司の命令に{背|そむ}いてでも、反対の態度を貫く。これを、忠義という。
 逆に、不本意を殺して、{唯々諾々|いいだくだく}と上司の命令に従ったり、わがまま放題の職権乱用{或|ある}いは{怠慢|たいまん}を見て取って気づきながらも、無関心を決め込んで無難に迎合しようとするその態度は、武士道にあるまじき、恥じるべき最たる{自堕落|じだらく}と見なされる。

 確かに、我が身や愛する家族のことを考えれば、諫言は、無益である場合が多い。それどころか、反逆者、危険人物、変人扱いをされて、仲間外れ、いやがらせ、左遷、不当解雇が、オチである。

 こんな{諺|ことわざ}がある。
 「直諫(直接的な諫言)は、一番{槍|やり}より{難|がた}し」
 戦国の世……真っ先に戦場に駆けつけて、敵陣に一番槍を入れるというのは、その過程の困難も{然|さ}ることながら、その決行で命を落とすこと、必定の{如|ごと}し。
 されど、その決死の覚悟は、末代まで、親族や{後裔|こうえい}たちの誇りとして、語り継がれることだろう。
 対して逆に、直諫はどうか。
 汚名を着せられて、手打ちとなり、家族親族そして末代に到るまですべての後裔たちに、差別や{罵|ののし}りに{堪|た}えることを{強|し}いることと相成ろう。

 江戸期や明治期に生きた我らが源流、旧態日本人と、その源流から{逸|そ}れてしまった現代の電脳狂いの文明人……。そのそれぞれ……彼ら彼女たちは、一体全体、どちらの態度を選ぶであろうか。
 {況|いわん}や! 言わずもがなであろう。

 ここで、特筆すべき、史実がある。
 『{葉隠|はがくれ}』だ。
 この諫言の{摂理|せつり}と効能を、見事に説いてくれているのが、この『葉隠』という書なのだ。
 {斯|こ}う言う。
 「主君の{御心入|おんこころいれ}を直し、御国家を固め申すが大忠節」……と。
 上司が言うがままに{所謂|いわゆる}〈従うだけ〉の腰抜け野郎は、武士道に{於|お}いては論外……{即|すなわ}ち、現代{既|すで}にこの諫言という武士道文化は、「まさに、{亡|ほろ}びたり!」と、言わざるを得ないということだ。

 では、いつごろまで、この諫言という武士道文化が息づき根づいていたのだろうか。
 明治政府の官僚たちの基本法で、「{官吏|かんり}服務規律」というものがあった。その第二条に、斯うある。
 「官吏はその職務につき本属長官の命令を{遵守|じゅんしゅ}すべし。但しその命令に対し意見を{述|のぶ}ることを{得|う}」
 これ、まさに諫言のことではないかッ!
 ここで言う「意見」というのが、まさに諫言なのだ。
 しかも、「一番槍より難し」とまで言わしめたこの諫言の実践者に対しては、処分されたり不利益を{蒙|こうむ}ったりしないように、法の下でその聖職足るを知る者を護っていたという{訳|わけ}だ。
 なんと! 見上げた民族……。

 ところがどっこい!
 この「官吏服務規律」第二条に相当する今の法律……「国家公務員法」第九十八条。
 {斯|こう}うある。
 「上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない」
 以上。
 ダメじゃん!
 まさに、上司が言うがままに従うだけの腰抜け野郎! 「そうなれよッ♪」と、法律で規定している。官僚一人ひとりの自立した意見を上司に物申すことは、法律で禁じられているということだ。
 上司の命令に対する批判を禁られ、絶対服従を{強|し}いられ続けると、その組織の人間たちは、どうなるか……。
 言わずもがな、心は荒廃し、怠慢が常となり、{挙句|あげく}は、{賄賂|わいろ}のような不正が、蔓延してしまう。
 我が国の民が、分化退化の一途を辿っている{所以|ゆえん}の一つが、ここにあるのだ。

 それでも、民間の社会に於いては、「納得できない{措置|そち}や下命があったならば、{忌憚|きたん}のない正直な意見を、述べるべし」……とする企業も、無いではない。
 但し、それを言葉どおりに真に受けて、諫言もどきの言動をしようものなら、窓際への転属、左遷、挙句は解雇にまで繋がってしまう。
 その事実、現実、実態に気づいたその日から、社員たちは、口をつぐむ。そして次第に、その組織は、消極的な風潮が蔓延し、活力は減退……組織の本来{在|あ}るべき〈姿〉は、沈滞という誤った〈道〉でしか、見かけられなくなってしまう。

 ここで、ワタテツ先輩がオオカミ先輩に贈った言乃葉……然修録にあった「職分への全力傾注{云々|うんぬん}」が、意味を成してくるのだと思う。

   【 二に、大陸で儒学を二分した格物の解釈 】

 大陸の儒学に於いて「道を正す」と言えば、まさにズバリ! 〈格物〉である。この格物を説いた偉人が、二人{居|い}た。一人は、寺学舎の座学でお馴染み、陽明先生こと王陽明。もう一人が、朱子(朱先生)こと、{朱熹|しゅき}だ。
 この二人、〈格物〉の解釈を、決定的に{違|たが}えてしまったのだ。我ら{美童|ミワラ}の{所謂|いわゆる}教科書、{息恒循|そっこうじゅん}は、どちらの論を{汲|く}んだのか……その、結論。
 字義に{順|したが}った陽明先生の解釈を、汲んでいる。
 その、字義とは……。

 格の偏は、〈木〉。
 木は、高く真っ直ぐに伸びなければならない。その木に{譬|たと}えられるものは、決まり、基準、規則、{高次|こうじ}と呼べるような様々な高度なるもの……等など。

 物の偏は〈牛〉で、{旁|つくり}は〈勿〉。
 ここは、少々難解!
 〈いろいろな色の混じった牛〉と、いう意味らしい。「牛に{勿|なか}れ」と、読めるからだろうか。そこは、{兎|と}にも{角|かく}にもと、ひと先ずは思うことにする。大事は、そこではないのだ。
 最も大事とするその意味は、〈不揃い〉だ。
 {現|うつつ}で目に見える〈物〉すべてが、〈不揃い〉であること。それを、示している。{順|したご}うて〈格物〉の意味は、「不揃いな現実を、真っ直ぐにする」と、相成る。

 息恒循では、この字義を基に展開された陽明先生の解釈に{倣|なら}って、{斯|こ}う説いている。
 「{物|ブツ}は己、格は正す。{故|ゆえ}に、己を正す。{延|ひ}いては、己の天命までをも、{格|ただ}す」
 生まれもって授かった天命ですら、長い運命の{道程|みちのり}の間には、諫言を浴びてしまうような不揃いな論が、見えてくることもある。{況|いわん}や! それも、正さねばならぬ……と、いうことだ。

 対して、朱先生とやら……これを、{如何|いか}に解釈して、異なる論を説いたというのだろうか。
 斯うである。
 「格は、{至|いた}るなり」
 それを指す語録が、これ。
 「事物の理を{窮|きゅう}至して、{其|そ}の極{處|しょ}{到|いた}らざるなきを欲するなり」
 〈窮〉の意味は「きわめる」であり、〈處〉は処する……即ち、行いのことだ。
 つまり〈格物〉とは、「本質に至ることを欲す」という意味であり、学問の目的という狭義に{於|お}いては、無難というか……正論の教科書のように思える。
 この正論足るを〈究理〉と言い、朱先生は、主知主義者と呼ばれたそうだ。 

      《 {蛇足|スーパーフルーイティ} 》

 スピアの野郎のご要望に応えて書いてはみたが……果たして、その「天然の要約」とやらに、仕上がっているだろうか。
 ところで、おれもスピア同様、一つ言わせてもらう。
 本当は、〈天然の要約〉なんかより、「{如何|いか}にして貧乏を{糧|かて}にするか」について、書きたかった。

 スピアから振り出された宿題の答案……以上!

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一息98 ミワラ<美童>の後裔記 R3.6.12(土) 夜7時

#### 一息スピア「アメノウズメも、ビックリ仰天! 震撼と{驚愕|きょうがく}の船出」後裔記 ####

 感動の見送りの場面が……震撼! 一度の下見もなく越してきた宿舎……{家船|えぶね}。その{船住居|ふなずまい}という{様式|スタイル}に……驚愕! 台風の常識を逸したマザメ先輩の行動に、ズングリ号……動揺!
   少年学年 スピア 齢10

 一つ、息をつく。

   《 {跨|また}げば、引っ越し完了ーぉ♪ 》

 以前、ジジサマとオオカミ先輩が汗していた〈手掘りの{浚渫|しゅんせつ}という事情もあって、家船への引っ越しは、限られた時間帯に済ませてしまう必要があった。
 陸上から{直|じか}に、ひと跨ぎするだけで、船住居の敷地内の甲板に入ろうと思うと、中潮か大潮の日の高潮、精々一時間ほどの時間しかないのだ。そんな{訳|わけ}で、朝方に満潮になる大潮の日が、ぼくらの{門出|かどで}……船出の日となった。

 振り返って、おねえさん先生やその生徒たちに、手を振りたかった。でもそれは、マザメ先輩が、許してはくれなかった。
 {斯|こ}う書くと、{何某|なにがし}か、出立の決意のような空気を、頭の中で感じるかもしれない。だけど、その本当の理由は、この家船の構造と、その船住居の様式にあった。
 {兎|と}にも{角|かく}にも、その時のマザメ先輩は、お{腹|なか}の調子が、最悪だったのである。オオカミ先輩が、言った。
 「あいつ、なに食いやがったんだッ!」
 「よりによって、なんで今なんだか……」と、サギッチも。
 ぼくも、何か思ったはずなんだけど、それを、口に出したという記憶がない。

 《 で、その〈家船の構造と、その船住居の様式〉について 》

 船の真ん中のちょっと後ろあたりに、舵輪がある。その直ぐ横に、流し台(……たぶん)。操船しながら娘の話を聴いたり、夫婦{喧嘩|げんか}をしたりと、何かと、便利で不便な配置だ。

 その直ぐ後ろには、{四角い木製の蓋|ハッチ}がある。その下が、{艫|トモ}の{間|ま}。この家で、一番広い部屋だ。ここを、マザメ先輩が使う。

 そして、その後ろが、{厠|かわや}。両手で、握り棒を、しっかり持つ。その手を放せば、液状{或|ある}いは固形の副産物{諸共|もろとも}、自らも、海に{沈|チン}する。

 次、舵輪を握って立っているその{足下|そっか}のすぐ脇にも、木製の蓋がある。やや小さめだ。その下が、ヒヤ間。なんでそう呼ぶのかは、ジジサマも知らなかったみたいだ。
 兎も角、部屋と呼ぶには、めっちゃ狭い。しかも、舵輪と{舵|ラダー}を{繋|つな}ぐ油圧配管まで{這|は}っている。ここが、オオカミ先輩が寝起きをする、船長室だッ!

 次、そのヒヤ間の出入口の直ぐ前。同じ木製だけど、そこは蓋ではなく、でっかい木の板が数枚、渡してある。その下が、機関室だ。

 次、その前。小さめの蓋が、横並びに、等間隔で二つ、並んでいる。その下が、右舷の胴間と、左舷の胴間。それぞれ、ぼくとサギッチが使うことになった。
 {船首|バウ}に向かうに{順|したが}って{船体|ハル}が細くなりはじめたあたりに、また蓋が一つ。ここが、小間。釣りの道具や、{舫|もや}いロープなんかを入れた。
 入れたと言っても、ぼくらがそんなもんを、持っている訳がない。ジジサマが用意してくれて、自らそこに納めてくれていた船具の諸々だ。

 そして、ちょうど船首あたりに、蓋が、もう一つ。ここが、船首の間とは呼ばず、表の間と呼ぶ。{納戸|なんど}……サービスルームといったところかなァ? 床が大きく{傾|かし}ぎ、左右片側の胴間一つよりも狭いので、居室としては、ちょっと難儀だ。
 この表の間に、食材なんかの生活物資が満載だと、ちょっとはマシなクルージングもどきの気分になれたのかもしれないけど、実際には、今ふうの防火仕様の角型ではなく、昔ながらのズングリムックリとした形のポリタンクが、並んでいる。

 出航の前夜、オオカミ先輩が、こんな話をしていた。
 「燃料のリザーブタンクは、各キャビンに分散して納めとかなきゃな。船ってのは、バイ・ザ・スターン……{艫脚|トモアシ}のバランスが崩れると、燃費が落ちるからなッ♪」
 もしサギッチが目覚めていたとしたら、得意の口調で、「なーんじゃそりゃ!」が出てきて{然|しか}りの{場面|シーン}だ。でも、出てこなかったので、本当に寝てたみたいだ。
 まァ、言わないだけで、ぼくも、(なーんじゃそりゃ!)とは思ったんだけど、({俄|にわ}か勉強で気分をよくして喋ってる先輩の腰だか鼻だかを折るようなことを、わざわざそこで言うこともないよねーぇ?!)と、思った{訳|わけ}だ。
 要は、「燃料のポリタンクを一ヵ所に{纏|まと}めて置いといたら、船のバランスが崩れて、{塩梅|あんばい}が悪い! ってことを、言いたかったみたいだ。
 でも、本当に問題なのは、置き場所ではなく、一ヵ所に集めて置いておいたとしても、その集めて置いたあたりの船の喫水……船底から海面までの高さは、殆ど変わらないということだった。
 つまり、予備の燃料が、{愕然|がくぜん}とするほど、少なかったってこと!

   《 荒れる合宿! 揺れる宿舎! 》

 離れゆく岸壁に終始背中を向けていた男ども3名は、その時おそらく、みんな、こんなことを考えていたと思う。
 (いろんな思い出を乗せたまま、離岸してゆく故郷……生まれ育った家。その家船に想いを{馳|は}せながら、片手を{挙|あ}げる、おねえさん先生。
 へんてこりんな*おにいさんたち*と、世にも不思議な{種|しゅ」}のおねえさんが一人……。{何故|なぜ}か不思議と愛着が湧き、無意識に、誰からともなく片手を挙げる、幼い生徒たち……。
 でも、その手は、左右に振られることはなく、そのまま、無残にも、重力に{順|したが}った。
 振り返って、見えなくなるまで、いっぱい手を振ってあげたかったなーァ!!
 でも、それが出来なかった理由、きっと、判ってくれてるだろうから……まッ、いっかーァ♪)……みたいな(アセアセ)。

 烈冬二月の最後の日……。
 天気は晴朗、春の陽気。
 海は、壺の水に油を張ったかのような、穏やかな{凪|なぎ}。
 ほどなく、マザメ先輩の腹の不調が、治る。
 快調になると、腹の虫が、元気を取り戻す!
 ズングリ号は、大きく揺れはじめる。
 ピッチング……。
 オモテ{脚|あし}……船首が、海に突んのめる!
 トモ脚……船尾が沈み込み、船首が天を仰ぐ!
 その、繰り返し。
 ローリング……。
 右舷側に、大きく{傾|かし}ぐ。
 左舷側に、大きく傾ぐ。
 その、繰り返し。

 そして、台風が、最接近!
 オオカミ先輩が、言った。
 「おまえの個室、ココ!」
 そう言って、艫の間の蓋を、指差した。目は、天を仰いでいる。マザメ先輩は、それを聞いても、まだ無言のままだった。すると矢庭に、船首のほうに、スタコラと歩いて行く。
 そして、隔壁で区切られた船艙を、一部屋一部屋、物色していった。そうこうしながらまた戻って来ると、再び、オオカミ先輩の横で、立ち止まった。無論、仁王立ち!
 (この家船で、一番広い部屋。しかも、厠に隣接……元い。上接? てか、壁ひとつ隔てれば、そこはもう、天然の便槽♪ 少しは、気に入ってくれたのかなーァ?! このまま、温帯低気圧に変わってくれればいいんだけどォ……)
 と、そんな起こり得ない希望的*天測*を思い描いていると、突如! 雷鳴が、鳴り響いた。マザメ先輩が、吠えた……と、思いきや、人類が亡んだ後のような静けさ宜しく、穏やかだけど不気味な口調で、言った。

 「{訊|き}きたいことが、三つ。
 燃料のポリタン、まさか、あれだけってことは、ないよねッ?
 どこへ行くか、決まってるんだよねッ?
 それがどっちなんだか、判ってるんだよねッ?」

 ここは、オオカミ先輩の{潔|いさぎよ}さっていうか、本質っていうか、トンビの{奴|やつ}が言っていた言葉……「あいつは、船乗りのセンス、ZEROだなッ!」の{論的証拠|エビデンス}っていうか、そんなことを、何気に感じてしまう場面……には、して欲しくなかったんだけど......。
 オオカミ先輩が、応えて言った。
 「あれだけってことで……ある。決まってない。判らん!」

 {間|かん}、{髪|パツ}の一本も入れさせない早さで、マザメ先輩が、吠えた!
 「エンジン、切りなさいよッ! 燃料、{溝|ドブ}に捨ててるのと、{同|おんな}じじゃない!」
 ……と、そう言うなり、舵輪の前の支柱のアチコチを、人差し指で、タッチしはじめた。
 「(なんだってかんだって、タッチすりゃーァ〈ON・OFF〉できる)って、思ってるみたいだなッ!」と、オオカミ先輩。
 「文明人が作ったSFの映画、{観|み}過ぎだねッ! てか、そんなもん、どこで観たんだろう……」と、サギッチ。
 「巻き巻き液晶モニターで、視聴できるじゃん♪ 知らなかったのかァ? おまえッ!」と、ぼく。
 「じゃあ、おまえも、その文明人が作った映画、観てんのかァ?」と、オオカミ先輩。
 「映画は、滅多に観ない」と、ぼく。
 「じゃあ、なに観てんのさッ!」と、サギッチ。
 「アニメとドラマ」と、ぼく。
 「はーァ??」と、オオカミ先輩。
 「所詮おまえも、タダの子どもって{訳|わけ}かーァ♪」と、サギッチ。
 「違うよ。
 てか、ぼくの事じゃなくって、アニメとドラマの事だけど……。
 どうやって、共感を誘うか。
 どこに、暗示を忍ばせてるか。
 そのデータを、集めてるんだ」と、ぼく。
 「アンジってぇ?」と、サギッチ。
 「心理誘導さ」と、オオカミ先輩。
 「なんだッ! 女たらしのことかーァ♪」と、サギッチ。
 「女たらしってーぇ??」と、ぼく。
 「女が、ションベン{垂|た}らすことさッ♪」と、サギッチ。

 ……時を同じくして、マザメ先輩がまだ目の前に{居|い}ることを、忘れてしまっていたことに「はッ!」っと気づいた……まさに、その瞬間。
 三人の男どもの脳裏に、ある同じ言葉が……ひとつ。
 浮かび上がってきた。
 (**後の祭り**)
 温帯低気圧に変わった台風が、再び勢力を取り戻し、史上最強の猛威を振るいながら、しかも回れ右をして、ズングリ号を直撃したのだった。 

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一学94 ミワラ<美童>の然修録 R3.6.12(土) 朝7時

#### 一学スピア「正しい道とは? {中庸|ちゅうよう}に学ぶ。{宿慝|しゅくとく}を吐き出せ!」然修録 ####

 道とは、中と庸。じゃあ、正しい道って、どんな道? 呼吸……でも実際やっているのは、吸呼……キュウコーォ?? 吐くに吐き出せずに{懺悔|ざんげ}の念に{苛|さいな}まれてしまう……その宿慝とは、一体全体!
   少年学年 スピア 少循令{猫刄|みょうじん}

 一つ、学ぶ。

      《 {主題と題材とその動機|モチーフ} 》

   【 {主題|テーマ} 】

 正しい〈道〉とは何か。

   【 {題材|サブジェクト} 】

 『中庸』 一に、〈中〉と〈庸〉。
 『中養』 二に、{吐納|とのう}。

   【 その{動機|モーティブ} 】

 ジジサマに贈られた言乃葉より。

 「茶道や柔道も含めて、〈道〉というものは、この間合い……{即|すなわ}ち、〈構え〉をつくるというところから、その道がはじまる……{云々|うんぬん}」

 心構え、身構え……それが肝要と言いたいんだろうけど、その歩き出さなきゃならない〈道〉っていう道は、どんな道なのかッ!
 それが{解|わか}んなきゃ、構えようがない。この〈道〉について調べはじめてみると、大陸では盛んに論説されているけれど、我が{日|ひ}の{本|もと}列島に{於|お}いては、{然程|さほど}でもない。
 なので自然、大陸の書に目が向く……ですです。

 そんな{訳|わけ}で選んだ『中庸』とは、何ぞや!
 (……についてから、書くべきだ)と、思われて当然の場面だけど、でも、みんなもう、絶対に忘れてるだろうけど、なんとなんと、この「中庸とは、何ぞや!」について、*あの*サギッチが、然修録に{説|と}いていたのだ。
 ちょうど、オオカミ先輩が、疎開で一人降り立ったザペングール島から漁船に乗って、ぼくら三人が疎開したヒノーモロー島に、やって来たころの事だったと思う。
 なのでぼくは、その『中庸』の〈序〉の部分を、学習してみることにした。

 以上♪ ……みたいな(アセアセ)。

      《 題材の{講釈|レクチャー} 》

   【 『中庸』 一に、〈中〉と〈庸〉 】

 その序、「子{呈|てい}子{曰|いわ}く、……」と、はじまる。ここにある〈子〉は、二つとも、尊敬を意味する。日本語で例えるなら、「{御|おん}マザメ様が{仰|おっしゃ}るに、……」みたいな感じかなッ?
 ゴメンなさい。
 {早速|さっそく}、間違えました。これは、怖ろしいコトへの*警鐘*……元い。怖ろしいヒトへの*敬称*でした(ビクビク!)。

 さて。
 〈中〉は、天下の正しい道。
 〈庸〉は、天下の定まった法則・理法。

 この〈正しい道と、その法則・理法〉は、元々、孔子がその門下に代々伝え授けたもの。
 そこで、その孔子のお孫さん!
 代々を重ねるうちに、その真意を{違|たが}えてしまうことを恐れ、これを書にして、{孟子|もうし}に授けたんだか預けたんだかしたそうだ。
 その内容は、日本語に訳せば直ぐに解るというものではない。古事記も、回り{諄|くど}いって意味で取っ付き{難|にく}いけど、この『中庸』は、理屈っぽいという意味で、同じく取っ付き難い。

 要は(、但し、たぶん)……。
 道とは、不滅の無意識。
 法則・理法とは、限りなく発展する自覚……{即|すなわ}ち、知覚(見て聴いて判断)して、{思惟|しい}(思ったり考えたり)するということ。
 結局(、但し、たぶん)……。
 自分の意識とか経験というのは、不滅であって、それが、道となる。
 それが、正しいかどうかは、生まれ持って自覚していて、その自覚の内容が、無意識の中に、{退蔵|たいぞう}されている。
 その自覚している内容というのが、{所謂|いわゆる}〈天命〉のこと。

 ……とは言うものの、この無意識の中には、{猥雑|わいざつ}なものも含めて、多種多様な〈内的経験〉というものが、退蔵即ち、仕舞い込まれていたり、隠し持たれていたりする。
 ところが、コイツらーァ!!
 **無**意識と言いながら、眠りによって、一切の外界を、自ら遮断してしまう。そして、退蔵されている〈内的体験〉の散見を、はじめる。
 これが、夢♪……なのだ。
 そして、その夢は、眠りから覚めるに{順|したが}って、その遮断が解かれてゆく。散見されていた内的体験(先祖や自分が経験した、その一つひとつの自覚)も、再び、〈退蔵〉に戻される。
 すると、目覚めまでに*蔵戻し*が間に合わなかった内的体験が、意識に取り残されてしまう。
 それが、目覚めたときに覚えている物語……夢の自覚だ。

 この、睡眠による遮断を境界にして、自覚しているほうを、顕在意識。退蔵したり、その退蔵されている内的体験を散見しているほうを、潜在意識……と、言うらしい。
 こういう言い方をすると、何やら〈潜在的無意識〉という言葉が頭に浮かび、心理学や生理学の世界へと、脱線してしまいそうになる。……が、そこは言わずもがなッ!
 ググッと、踏み{止|とど}まらなければならない……が、やはり出来なかったので、余談を一つ(ポリポリ)。

 完全に無意識な状態……即ち、ぐっすりと眠れている時間は、どんなに長くても、70分が限度なんだそうだ。
 なので、オオカミ先輩の後裔記にも書いてたけど、ジジサマの食後の一時間の仮眠の習慣は、実に、理に適っている。{寧|むし}ろ、仮眠なんかじゃなくって、〈ど(っぷり)眠〉なのだッ!
 
 人生は、夢の{如|ごと}し……。
 正しき道は、夢が如く……。

 『荘子』では、そのことが、巧みに説かれているそうだ。
 語録本って、なんでこんなに、何種類も何種類も、いっぱいあるんだかァ!

   【 『中養』 二に、吐納 】

 息を、する……。
 西洋では、この〈息をすること〉さえも、学問になっているらしい。息をしなくなったら、死んでしまう。即ち、息をするということは、〈生きる〉ということだ。
 ところが、この〈息をすること〉を自覚することは、{殆|ほとん}どない。つまり、ぼくら人間は、生きていることを自覚することは、殆どないということだ。

 てな{訳|わけ}で、その〈自覚〉を、試みてみたいと思う。
 息をすることを、〈呼吸〉ともいう。
 吐くことが目的であって、そのために、吸う。
 だから、先ずは呼気……息を、吐くこと。
 吐いたから、吸う。
 {故|ゆえ}に、呼吸。

 ところが、実際にやっているのは、**吸呼**だ。
 吸ってーぇ♪ 吐いてーぇ♪ ……で、ある。
 一回の呼吸で出し入れされる空気は、肺の容量の六分の一しかないそうだ。……と、いうことはだ。肺の中で、空気が入れ替わっているのは、肺の中のごく一部分に過ぎないということだ。
 即ち、肺の大部分は、古い汚れた空気が、溜まったままになっているということだ。だとすると、定期的に深呼吸をしないと、肺は、ゴミ屋敷になっちゃう!

 {順|したが}って、正しい息の仕方は……。
 六回吸ってーぇ!? 六回吐いてーぇ!?
 ……ではない。
 〈汚れた空気を、吐き出す〉
 それが、目的なんだから……。
 六回吐いてーぇ!! 六回吸ってーぇ!!
 と、相成る{由|よし}。
 それでこそ、〈呼吸〉というもの……。
 これを言い換えた言葉が、〈吐納〉なのだ。

 {以上!}……と、言いたいところなんだけれども、ここで説明を終えてしまうと、主題に、〈健康〉を付け加えねばならない事態と相成ってしまう。それでは、{塩梅|あんばい}が悪い。では、〈中〉……天下の正しい道を歩むために、{何故|なぜ}この〈吐納〉が必要なのかッ!

 それ即ち……汚れたものを、吐き出す。
 肺の中で汚れているものは、沈殿した空気(沈気)。
 {身体|からだ}の中で汚れているものは、宿便。
 心の中で汚れているものは、{宿慝|しゅくとく}。
 {故|ゆえ}に、吐き出すものは、三つ。
 沈気、宿便、宿慝……(ハーァ!! ハーァ!!)。

 宿慝の意味だけど……。
 循令の49年間を終え、ぼくらが住まっていた、寺学舎のある浦町に戻って来た{武童|タケラ}……イエロダさんが、言っていた。
 「僕は、知らず{識|し}らずのうちに犯してしまった罪……心の{穢|けが}れというものを、持って帰ってきてしまった」と。
 これがまさに、宿慝! 

      《 {蛇足|スーパーフルーイティ} 》

 本当は、道のことより、その〈構え〉のほうに、興味がある。その構え方によって、正し方が変わってくるからだ。この正し方についても、大陸と我ら海洋の中の一国一文明とでは、{趣|おもむき}を{異|い}とする。
 これを然修録の主題にしようものなら、ぼく的には、長い長い{道程|みちのり}となってしまう。長文は、{禍|わざわい}を招く。。
 故に、長引くほどの知識収集に{処|しょ}しては忍耐力に{缺|か}くるであろうサギッチに、天然の要約を期待して、その主題……〈正し方の比較文化論〉を、託す。
 という訳で、{今宵|こよい}ぼくが吐き出すのは、宿便でもなく宿慝でもなく、なんと*宿題*! なのでありました。
 よろぴくーぅ♪ ……(ポリポリ)。

_/_/_/ 要領よく、このメルマガを読んでいただくために……。
Ver.,1 Rev.,7
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一息97 ミワラ<美童>の後裔記 R3.6.11(金) 夜7時

#### 一息オオカミ「壮行はジジサマ、見送りは包帯先生と生徒たち」後裔記 ####
 息恒循の{伝霊|でんれい}に{順|したが}って目覚めた深夜、思わぬ夜会! *ジジサマ*の、〈贈る言葉〉らしき講釈。見送りに来てくれた*包帯マスクのおねえさん先生*と、*その生徒たち*。故郷の{船住居|ふなずまい}に想いを{馳|は}せる先生。ホトトギスの{子等|こら}よろしく唱歌で見送ってくれた、幼い生徒たち……。
   学徒学年 オオカミ 齢13

 一つ、息をつく。

   《 眠れぬ船出の前夜、壮行の夜会 》

 {烈徒|れっと}の刻の{最中|さなか}……。
 ジジサマに{倣|なら}って、昼食のあと、昼寝♪
 ほっと、{気養|きよう}の刻……。
 ジジサマに{倣|なら}って、夕食のあと、夕寝♪
 暗闇の、{頭映|ずえい}の刻……。
 まだ深夜……当然、目が覚める!

 これ、ジジサマ自慢の、健康法。
 だが、この話は、置く。
 {何故|なぜ}なら、脱線して、話が長引くから。
 船出早々、マザメの小言は、御免{蒙|こうむ}る{故|ゆえ}。

 ジジサマが、言った。
 「なんだ、おまえらッ!
 自然エスノのくせをしおって、頭映の刻に{眠気眼|ねむけまなこ}とは、何ごとだッ!
 わしら和のエスノの早起きは、おまえら自然エスノの息恒循を真似た{訳|わけ}じゃない。真似たのは、おまえら自然エスノのほうじゃ!
 せっかく目覚めたのなら、書でも{捲|めく}ればよかろうにぃ。
 大陸の書なら、春秋戦国から前漢の史記列伝、後漢から戦国の三国志、明の時代なら、陽明先生の史伝と伝習録。
 我ら列島の書なら、{神代|かみよ}から飛鳥の古事記よし。平安の{枕草子|まくらのそうし}よし。おまえらの{所縁|ゆかり}でもある、鎌倉の平家物語もよしだ。
 人生とは、選択の連続だ。
 さてもおまえらなら、どの書を選ぶかッ!」

 (もうちーと、{静静|しずしず}と言えんもんかねッ!)と、思うおれ。
 そして……。
 マザメ、「枕草子」と、答える。
 スピア、「史記の列伝」と、答える。
 サギッチ、「三国志」と、答える。
 そしておれ、「古事記」と、答える。

 ジジサマ、おれのほうを向いて、静静と小言を漏らす。
 「そっちの三人は……まァ、ええじゃろう。じゃが、おまえは、どうかな。古事記が悪いとは言わん。{寧|むし}ろ、最たる大事じゃ。じゃが、船長として船出しようかというその前夜、読みたい書がそれとは、{如何|いかが}なもんかッ!
 せめて*おまえ*くらいは、波瀾苦境で終始した陽明先生の史伝と、答えて欲しかったが……なんと、古事記となッ!」

 ここで、助け船を出してくれたのは、スピアだった。

 「マザメ先輩さァ、後裔記に、書いてたよねッ? オオカミ先輩が、夢の中に出てきて、{斯|こ}う言ったんだったよねぇ?

 『おれの祖先は、{意富加牟豆美命|おおかむずのみこと}だッ!』って。

 で、古事記に興味が湧いて、読んでみたんだったよねぇ? それで、{斯|こ}う書いてたよねぇ?

 亡き妻との夫婦{喧嘩|ゲンカ}も{酣|たけなわ}、その{最中|さなか}、桃の実に命を助けられた{伊邪那岐神|いざなきのかみ}が、桃の木に{仰|おお}せられた。
 『私を助けてくれたように、{葦原中国|あしはらのなかつくに}に住む美しき{青人草|あおひとくさ}が苦しみ悩むとき、同じように助けなさい』……って、だよね?

 神話用語の解説も、書いてくれてたじゃん♪
 『葦原中国っていうのは、{葦|あし}の茂る地上の世界。特に、ぼくらが住んでる海洋の中の島々……一国一文明を指す。
 青人草っていうのは、{現世|うつしよ}の人……ぼくらみたいな、普通の人間のこと。これが、神が〈人間〉に言及した初出だッ!』……みたいな。

 だからぼくも、神話に興味を持って、古事記を読んでみたんだ。それでぼくも、後裔記に書いた。
 『地球の人口密度は、東京と鳥取の、どっちに近いんだろう。東京に近いとしたら、世界人口を減らさなきゃ!
 少子化は、人類の退化でもなく、絶滅危惧の警告でもない。神々が、葦原中国の青人草を産み過ぎたのを反省して、暫く、人産みを自粛しているだけなんじゃないのかッ!』……ってね。

 百年ごとの戦争は、イザナミが、夫婦喧嘩の売り文句を、律儀に実践し続けてるから。
 なんで律儀にそんなことをやってるかっていうと、イザナキの買い文句で、約束が交わされた事になっちゃったからさ。
 ここ最近の少子化は、イザナキが、その買い文句の約束を、{怠|なま}けちゃってるから。
 だから、オオカミ先輩は、{古事記|こじき}なんだよッ♪」

 嬉しかったが、「だから……{乞食|こじき}なんだよ」という文言が、脳裏にポッカリと、映し出された。{未|いま}だにおれは、貧しきを{糧|かて}にできていない。「オオカミよ。おまえはまだ、学問が足りん!」と、おれの脳ミソが、吠えている。
 おれは、正にオオカミ……{否|いな}、コヨーテだな♪
 てか、これぞ正に、妄想……(ポリポリ)。
 と、少しの間を置いて、{俄|にわ}かにジジサマが、語り出した。

 「〈{群|む}れる〉という字がある。
 中国で生まれた漢字だ。偏の〈君〉は、君主を表す。{旁|つくり}の羊は、{貢|みつ}ぎものを表すと言われておる。
 日本人は、この漢字を使って、『島国の群れの民族』と、言われてきた。自己主張をしない。本音を言わない。{即|すなわ}ち、自我を隠す民族という{訳|わけ}だ。
 でもな。本当に、そうなのだろうか。我ら日本民族は、そんな単純な、ただ群れているだけの、弱虫集団なのだろうか。

 人間には、〈五感〉というものがある。
 視覚、聴覚、{嗅|きゅう}覚、味覚、触覚の五つだ。その一つでも、感覚が{鈍|にぶ}ってしまうと、反応が悪くなってしまう。
 逆に、その感覚が、極めて研ぎ澄まされ、瞬間的な様々な気配を、感じ分けることも出来る。それを、我らのご祖先様は、『霊感』と呼んだ。
 言い換えれば、『直感による{閃|ひらめ}き』だ。〈インスピレーション〉という舶来語も。似たようなもんじゃろう。
 霊性とか精神性を意味する〈スピリチュアリティ〉という舶来語もあるが、これは少々、{趣|おもむき}を{異|い}とする。人間が、本来備え持っっている、物理的な機能という枠を超えて、宗教的な意識とか精神とかいったものを、指しておるんだと思う。

 〈間合い〉という言葉がある。
 人は、常に相手との{間|ま}を計り、気を合わせて、相手の出方を{量|はか}ろうとする。剣道の{鍔|つば}{迫|ぜ}り合いが、正にそれだ。五感を、研ぎ澄ます。
 茶道や柔道も含めて、〈道〉というものは、この間合い……{即|すなわ}ち、〈構え〉をつくるというところから、その道がはじまる。この道を究めようとする人は、己の内面の{怠慢|たいまん}な本性を見出し、自反し、その道を歩むための態度を、正してゆく。

 茶の道では、〈おもてなし〉の心を、大事とする。
 客人に喜んで{戴|いただ}けるように、いろいろと工夫をし、それに、趣向を添える。床の間には、掛け軸。花瓶には、野に咲く自然の花が、{生|い}けてある。主人も客人も共に、自然を共有し、自然の一部となって、共に、その自然を{愉|たの}しむのだ。

 日本人は、ただ群れているのではない。個々が、このような独自な道……即ち、〈構え〉というものを、持っておる。
 **構えて、{集|つど}う**。
 これが、群れているように見える日本人の真相……{神髄|しんずい}なのだ。
 我らの祖先は、構えて、豊かなる様々な創造性を発揮してきた。これが、古来{悠久|ゆうきゅう}、我が国が、『神の国』であるとか、『霊薬{生|む}す国』と呼ばれてきた{所以|ゆえん}なのだ」

 和の{民族|エスノ}という呼び方は、最近生まれたもので、おれが幼いころは、この人たちのことを、ただ単に、「旧態人間」と、呼んでいた。
 ジジサマが、構えて語り終わったあと、(旧態というより、「元祖自然人」だなッ!)などと、独り納得したような事をいくつか思ったけれども、一番は、やっぱり……。
 (で、その話ってさ。
 なんで、今なのよーォ!?)だった。

   《 見送りは、おねえさん先生と、その生徒たち 》

 包帯マスクのおねえさん先生と、その生徒たちは、ジジサマの前に呆然と突っ立って話を聴かされているおれら4人を見{遣|や}りながら、終始ニコニコと、{愉|たの}しそうな笑みを浮かべていた。
 そして、ジジサマの回り{諄|くど}い講釈の弁明を引き受けでもしたかのように、おねえさん先生が、優しい笑顔のまま、{斯|こ}う言った。

 「ユダヤ人の有名な哲学者は、斯う言っています。
 『人は{創|はじ}めることを忘れなければ、いつまでも若くある』と。
 おジジサマが、いつまでもお若いのは、その言葉を実践しておられるからなのかもしれませんねッ♪
 人間の脳というものは、本当に、不思議なものです。使えば使うほど、活性化する。逆に、{心苦しい緊張|ストレス}を感じてしまうと、その脳に、悪影響を与えてしまいます。
 せっかくの講釈も、よい刺激として聴き入れるのはいいのですけれども、聞かされてストレスを感じてしまうのは、よくないですね。
 そのストレスの研究で有名な学者さんは、斯う言っています。
 『よい刺激はその人の潜在能力を引き出す』と。

 島と島の連なり……。
 あなたたちには、そう見えると思います。
 でも、同じ自然エスノとは呼ばれていても、{私|わたくし}たち漂海民には、静と静の連なりにしか、見えないのです。
 海に住まい、時令に{順|したご}うて、次の海へ、次の海へと、移り住む。
 静は、見えて見えないもの。
 海に、友は{居|い}ない。

 嬉しく思っています。
 私の家が、{主|あるじ}を{換|か}えて、また、海を渡ることを……。

 最後に、『希望の島』という歌を、あなたたち4人に、贈りたいと思います。
 みんなで、歌いますねッ♪」

 おねえさん先生は、「最近、覚えたばかりなのよねッ♪」と、おれらと生徒たちを交互に見遣りながらそう言うと、幼い生徒たち一人ひとりの頭を、優しく{撫|な}でて回った。

 それから、ザペングール島が、{遥|はる}か後方の小さな点になるまで、おれの耳には、その子どもたちの歌声だけが、いつまでも聴こえていたのだった。
 それは、{宛|さなが}ら、ホトトギスの{子等|こら}の鳴き声レッスンに、少々、似たところはあっただけんどもーォ♪

 遥か隔つ 海の彼方
 波風静かに
 四時花咲き 香りは満つ
 哀れこの島よ
 希望の島、希望の島
 物みな足り満ち
 日は落ちず 花散らぬ
 歓びの常世辺

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一学93 ミワラ<美童>の然修録 R3.6.6(日) 朝7時

#### 一学オオカミ「何事も要領よく{熟|こな}すための〈行動の学〉十ヵ条」然修録 ####

 何事も要領よく……その十ヵ条。*抜け道*と手抜きの違い。物を言う*直観力*! 要領訓練のゲームに熱中していた、例の{子等|こら}五人組……。そのゲームに{纏|まつ}わるおれとサギッチのキャッチボール。己の生涯をあの世に延ばす残酷な宿命とは。
   学徒学年 オオカミ 少循令{石将|せきしょう}

 一つ、学ぶ。

      《 {主題と題材とその動機|モチーフ} 》

   【 {主題|テーマ} 】

 何事も要領よく熟すための〈行動の学〉十ヵ条。
 ……その後半、実践段階の五ヵ条。

   【 {題材|サブジェクト} 】

 第一に、(うまくいかなかったら、どうするぅ?)という不安。
 第二に、それでも成功させるには、どうするぅ?
 第三に、成功! 祝杯♪ でも実は、満たされぬ本音。
 第四に、挫折、成功、ご褒美。そしてまた、挫折。
 第五に、素直さは、脳エンジンの無二の燃料♪

   【 その{動機|モーティブ} 】

 この島、ザペングール島に一人降り立って間もなく、五人組の子等に遭遇した。{奴|やつ}らは、〈オッサン追出しゲーム〉と称する手作りのゲーム盤で、遊んでいた。そのゲームの目的は、何事も要領よく{熟|こな}すための訓練!
 そのゲームが終わると、奴らは、馬乗り遊びに没頭した。それは、ご褒美でもあり、罰でもある。{何故|なぜ}なら、ゲームを{如何|いか}に要領よく熟せたかの度合いに{順|したが}って、馬乗り遊びの配役を決るからだ。
 柱、その柱に頭を突っ込む馬、その馬に乗る勝者!
 その奴ら流の馬乗り遊びは、〈尾てい骨落とし〉も、馬のスカート{捲|めく}りも、突き出したお尻に突き刺さる〈必殺浣腸突き〉も無い。なんとも、紳士的だった。

 おれは、その五人組の奴らの会話を、必死で記憶した。そして、その要領訓練のあらましを、然修録に書いた。すると、それにサギッチが呼応して、然修録に、こんな事を書いてよこした。

 「大事なのは、それをいつ、どんな手順でやるかだ。
 {云|い}わば、{やるべき事を要領よくやる研究|Operations Research}。
 {所謂|いわゆる}、{作業分析|OR}だッ!」

 それに応えて、おれも、然修録に、こんな事を書いた。

 「{所謂|いわゆる}、{集団発想法|ブレインストーミング}。
 {即|すなわ}ち……。
 思いついたことは、何でも構わん。
 他の人の発言を、批判するなッ!
 自由奔放、よし♪
 みんながドッと笑うような発言なら、なおよし!だ」

 サギッチが、再び応えて、{斯|こ}う書いた。

 「手順書ってやつは、実践・実行と直結しているから、机上の作業ではあっても、立派に、行動の学なのだッ!」

 以上の{遣|や}り取りを、以下のように{纏|まと}めてみた。

 『何事も要領よく{熟|こな}すための〈行動の学〉十ヵ条』
 ……その前半、準備段階の五ヵ条。
 第一に、先ずは、目的や目標をハッキリ決めて自覚する。
 第二に、情報や方法を、{搔|か}き集める。所謂調査だ。
 第三に、集まった方法や情報を並べて、一覧にしてみる。
 第四に、その中から、最良で最適な方法を一つ決める。
 第五に、その{遣|や}り方の具体的な手順書を、作る。

 そして、ついに、その〈実践・実行〉の日が、目前に迫っている。他の島に疎開した先輩たちから、各々の経験から{捻|ひね}り出した助言を、然修録のなかで授かった。
 それはそれとして、素直に感謝の気持ちでいっぱいだ。でも、おれは、あの五人組の子等がやっていた〈要領の訓練〉を、絶望の航海に活かしたいと思う。

 なので、「手順書の次は、如何にあるべきかッ!」に関して読み訊きしたことを、この絶望航海で実践して、自ら試してみたいと思う。

      《 題材の{講釈|レクチャー} 》

   【 (うまくいかなかったら、どうするぅ?)という不安 】

 前掲の〈準備段階の五ヵ条〉を言い換えると、〈計画〉だ。
 「手順書は、立派に行動の学だ」とは言っても、それは、頭の行動……考えることの{範疇|はんちゅう}を出ない。その次の段階からが、いよいよ{身体|からだ}を動かし、計画の一つひとつを具現へと{推|お}し進めてゆく。
 正にそこが、要領の良し{悪|あ}しが、物を言う!

 こんな格言が、あるそうだ。
 「計画は計画でないから計画である」
 なーんじゃ、そりゃ!
 その意味は……。
 計画というのは、実際にやってみると、決して計画どおりにはいかない。そのことを解った上で練った計画でない限り、本当の計画とは呼べない。
 即ち、計画どおりにはいかないことを解った上で計画を実行するからこそ、その計画が成り立つというものであって、計画どおりにいくものと期待して実行してしまっては、直ぐに挫折したり、腹を立てたりして、その計画は、{頓挫|とんざ}してしまうということだ。

 では、どうするかッ!
 要領よくやるためには、その計画も、要領よく作らなければならない。
 即ち、その計画の中に、「計画どおりにいかなかったときには、どうするか」という、イザ!というときのための枝葉の行動も、考えておかなければならないということだ。
 言い換えれば、**逃げ道**。

 例えるなら……進路を定める。
 舵輪を操って、{進路を保つ|オンコース}♪
 ところが、舵が{利|き}かない!
 さァ、どうするーぅ?! ……みたいな。
 舵が利かないというのは、航海という計画の中では、大問題だ。ここで肝要なことは、この大問題に関して*だけ*、逃げ道を考えておくということだ。
 あれもこれもと想定外な事象を頭に浮かべて、それらすべての逃げ道を考え出してしまうと、それこそ正に、**妄想**になってしまう。
 些細な問題は、その時々で、*臨機*応変に対処する。そうしなければ、計画だけで、人生の大半を費やしてしまう!

 さてここで、直観力……創造力のことを、思い出した。
 正にこれが、臨機応変の〈臨機〉なのだ。
 臨機とは、その場に及んで、即座に適当な手段を{施|ほどこ}すことだ。つまり、頭で考えずに、即座に{身体|からだ}が動くということ。この臨機の能力のことを、直観力という。
 人の頭の中は、{過去の経験を画像として記憶したもの|イメージ}で、満たされている。その中から、その局面で最も適したイメージが、自動的に、頭に思い浮かんでくる。
 これが、直観だッ!

 なんと、{摩訶|まか}不思議!
 なんでそんな手立てを、思い浮かべることができたのか……それは、頭で考えたって、理解できるはずもない。何故なら、それは、頭で覚えて記憶したことではなく、身体で覚えて記憶したからだ。 

   【 それでも成功させるには、どうするぅ? 】

 そんな{訳|わけ}で、そんなふうに手順書の出来栄えが良ければ、あとは、そのとおりに実行しさえすればよい。
 ……とは、いかない!
 実際にやってみると、「こっちのほうが簡単で、時間んもかからないじゃん♪」とか、「ちょっと強引だけど、こっちのほうが、確実だよなッ!」とか、湧いて出てくる代案のどれもこれもが、そりゃあもう、魅力的に映し出されてくるのだ。
 でも、それが、失敗へと導く、悪魔の誘い……。
 そんな悪魔の誘いは、次の計画のために、集めるべき方法や情報の一つとして、記憶だけしておけばいい。ただ、それだけのことなのだ。それは、何故か……。

 そんなことは、判りきったことだ。
 計画、そして、その手順書というものは、{夥|おびただ}しい数の人と物を巻き込みながら、それを、{絨毯|じゅうたん}よろしく、巧みに且つ*しなやか*に編み込んで、完成させたものなのだ。
 もし、その{絡|から}み合った計画のなかの一人である自分が、手順書に{背|そむ}いて、好き勝手なことをしたら、どうなるだろうか。本人が気づかない、{或|ある}いは気づけないところで、重大な問題を、引き起こしてしまう。

 ここで、ノーベル{言乃葉|ことのは}賞♪
 計画やその手順書どおりに実行しないことを、**手抜き**という。この〈手抜き〉の狂信者たちは、その言い訳を、こう{説|と}く。
 「結果が同じならば、手段は選ばず!」
 確かに、{尤|もっと}もらしい。
 でも、問題が、一つある。
 手順書どおりに進めなければ、計画どおりの当初切望した目的や目標を{射|い}ることはできない……と、いうことだ。

 ムロー先輩だったか、ワタテツ先輩だったか忘れちゃったけど、旅の思い出話のなかで、こんなことを言っていた。

 「文明の奴らの目的は、正直に手順書どおりに仕事を{為|な}し{遂|と}げることじゃない。
 『ただ、完成検査に合格しさえすればよい』と、いうことだ」……と。

 これ正に、反面教師!
 こんな事が起きてしまうから、要領十ヵ条のその第一義、『先ずは、目的や目標をハッキリ決めて自覚する』ということが、最も、極めて重要になってくるという訳だ。
 更には、こんな事が起こらないようにするためには、計画の段階で、チェック機構が必要となる。実践行動の過程のどこで、何をチェックするか……と、それも、手順書に盛り込んでおく必要があるということだ。 

   【 成功! 祝杯♪ でも実は、満たされぬ本音 】
   【 挫折、成功、ご褒美。そしてまた、挫折 】
   【 素直さは、脳エンジンの無二の燃料♪ 】

 さてさて……。
 この、十ヵ条の最後の三つは、その「ムロー先輩だったか、ワタテツ先輩だったか」に、{委|ゆだ}ねたいと思う。
 本当は、{適宜|てきぎ}終始呼応してくれたサギッチに、それを委ねたかった。有終の美を{以|もっ}て、この蛇のように長くなってしまった論考を、アヤツに締め{括|くく}ってもらいたかったのだ。
 だけんども……{如何|いかん}せん!
 そのサギッチも、絶望の航海を、おれと共にするのだ。
 「{暫|しば}し、終始海難!」という計画……手順書に{順|したが}い、その暫しの間、然修録どころではないだろう!

      《 {蛇足|スーパーフルーイティ} 》

 「今日を{怠|おこた}るは、己の生涯を、あの世に延ばすが同じ!」

 {諫言|かんげん}というほどの、大それたことではない。
 些細な……されど大事な苦言が、一つ。
 然修録に、意義がある。
 然修録は、己の学問の覚え書き。
 後裔記は、その己の日常の日記。
 それは、みなが理解している。
 知命に{喘|あえ}ぐ先輩が、然修録に、斯う書いていた。言い回しは勝手に変えているが、趣旨は、{違|たが}えていない。

 「然修録が、乱れている。後裔記を読まなければ、なんのことか解らないようなことを書く者が、増えている。更には、然修録と題して、その内容の{殆|ほとん}どを後裔記にしてしまう{児戯|じぎ}すら、横行して{居|お}る。
 これは、自反を{怠|おこた}っている証拠だ。
 必要なのは、格物。
 己も、然修録も、正さねばならない」

 でも、ツボネエちゃんの然修録を読んで、確信した。
 確かに、あのツボネエちゃんの然修録の内容は、後裔記であり、その日記という性質が{故|ゆえ}に、長ったらしく、取り留めもない。
 更に、追い打ちをかけるようなことを言わせてもらえば、長ったらしく、取り留めもないのは、日記という性質が故ではない。それこそ、自反と格物の欠如というものだ。
 日記であれ、哀愁に包まれた回想記であれ、だからといって、長ったらしく、取り留めもなくていいという理屈は、成り立たない。先ずは、その〈長ったらしく、取り留めもない〉ことを書いてしまうことを許した己の頭の構造を、正さねばならない。

 そこまで理解した上で、{敢|あ}えて、苦言を{呈|てい}する。

 悔しいとか、腹が立つとか、死にたいとか、殺してやりたいとか、そんな生きた日常と切り離して書かれた学習帳……然修録は、果たして、本当に己の血肉と成り得るような学問を記したものと言えるのだろうか。
 日常があるから、学問を成せる。
 学問をしたいから、日常を大事にする。
 だから、ツボネエちゃんは、己の幼少期の暗黒につつまれた記憶を、然修録に書き殴ったのではないかだろうか。

 おれは、文明{民族|エスノ}と、直接触れ合ったことはない。でも、スピアが{居候|いそうろう}をしている二階建て長屋で、スピアの養祖父と養母を自称する二人……シンジイとカアネエの話を聴いているうちに、{已|や}むに已まれぬ感情に、襲われた。
 (文明エスノと呼ばれる亜種の人間たちは、なんと{憐|あわ}れで、なんと可哀想な人たちなのだろう)……と。
 そう、つくづく、思ってしまったのだ。
 何故なら、彼ら彼女たちは、過去を想い、{嘆|なげ}き、悩み、{病|や}んでゆくからだ。
 なんとも……有り得ん!

 おれら亜種、自然{民族|エスノ}の子ども期である{美童|ミワラ}たちは、未来に大宇宙のような希望を抱き、その大宇宙に乗り出すための計画に、余念がない。
 過去のことを考えるだなんて、そんな時間なんて無いのは言わずもがなであって、過去のことを考えたり、{況|ま}してや悩んだりなど、有り得ないのだ。
 しかも、正直、過去を懐かしんで哀愁に浸るという**漬物人間**など、目{障|ざわ}りにして耳障りも加わって、まったくもって、迷惑千万なのである。

 実際問題、文明{民族|エスノ}の子どもたちに、罪は無い。
 罪は無いのに、大人たちから、毎日毎日、重い重い、致命的な**罰**を、{蒙|こうむ}り続けている。人生で一番大事な幼少期にしかできない脳ミソの鍛錬を、やらせてもらえないのだ。
 無念……明日に、延ばすしかない。
 その明日……また、明日に延ばすしかない。
 そんな毎日毎日を経て、大人になる。
 晴れて、自由な時間を、手に入れる。
 じゃあ、やっと、晴れて、今日やるべきことを、脳ミソの鍛錬を、思い存分にやることが、果たして、出来るのだろうか……。

 その答えは、二つの理由で、{否|いな}だッ!
 一つ目の理由。
 その{遣|や}り方、方法を、知らないのだ。今日やるべきことを今日やるには、どうすればいいか。その方法を、知らないということだ。だから、また、やっぱり、今日やるべきことは、明日に延ばすしかない。
 二つ目の理由。
 もし、それが出来たとしても、それは{既|すで}に、手遅れなのだ。しかもそれは、とうの昔に……。

 今、{何気|なにげ}に、呼吸をした。
 そのひと{吐息|といき}が、人生の実体だ。
 {即|すなわ}ち、それが、〈命〉そのもの……。

 そのひと呼吸を集めて、今日が成る。
 その〈今日〉にやるべきことを、明日に延ばすということは、一度しかない己の人生でやるべきことを、*あの世に延ばす*ということと、まったく同じことなのだ。

 絶望の船出を目前に控えて、独り夜な夜な、そんなことを妄想しながら、眠れぬ夜を、過ごしている。

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