MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

一学 3【見考動反。疑宿して再び見考動反】門人、ワタテツ

E&L.ZR0202160003

一つ学ぶ。

後裔記を書くことには慣れたが、然修録への書き込みは、未だに慣れない。
無理もない。
学人としてはまだ駆け出し、学徒からやっと門人を名乗るに到ったばかりだ。
しかも、まだ旅立ってはいない。

前置きは、以上。
余談と本題を書く。

先ずは、余談。
おれには、どうしても合点がいかないことが三つある。

一、簡単な話を、わざわざ難しい話に変えること。

仮にその話が、幼稚で他愛もないものだったとしよう。
これを、児戯に類するともいう。
実際に無邪気な子どもが、その話を、平易な言葉で一所懸命に話す。
その姿は、微笑ましくもあり、好感度バツグンに映る。
それを、さも難しいことのように話すわけだから、それはそれで、そこには某(なにがし)かの工夫や努力があるんだろう。
でもそれは、その話を語っているのではなく、自分がどんなふうに思われたいかを語っているのではないか。
自分は、おまえたちみたいに簡単な人間じゃないんだ、みたいな。
どうも、自分を大きく見せようとしているようで、人間の鮮度が落ちて何やら臭(にお)う。
なるほど、自分を大きく見せると、臭うのか。
それなら、合点がいく。
納得。

二、簡単な言葉を、わざわざ難しい熟語に変えること。

はい、仰(おっしゃ)るとおり。
然修録が主題としている七命暦は、漢字やその連なりの熟語が、少なくない。
むしろ、多い。
漢字や熟語が多いと、それを読めただけで、何やら解(わか)ったような気になってしまう。
そこが、落とし穴。
そんな読書を続けていると、それが学問だと勘違いしてしまう。
それを防ぎ、学問の道から逸(そ)れてしまわないように、漢字や熟語の意味するところを補ってくれるのが、この然修録なのだ。
なので、学徒オオカミくんが書いた前回の尽己自反の説明は、まだちょっと小難しい。
まだまだ、行動が必要だ。
と、思う。

三、心の弱さを、わざわざ小難しい名前の病(やまい)に変えること。

病というのは、肉体に表れる。
身体機能の異変、パーツの磨耗や破損を知らせてくれる注意信号でもある。
このお節介な忠告を素直に深刻に受け止めて効果的な養生をする能力を、自然治癒力という。
心の中には、このお節介者がいない。
だから、突如折れたり、壊れたりする。
なので、日ごろより鍛えておかなければならない。
その方法の一つが、七命暦にある尽己と自反なのだ。
入塾してまず最初の課題が尽己自反なのは、一つにこのへんも所以(ゆえん)しているのかなと思う。

で、本題。
何を尽己すればいいかを知る方法。
結論。
見る。考える。動く。反(かえ)る。疑う。宿る。再び見考動反。

一つ学んだ、一つ善いことをしたと気分を良くした瞬間、やにわに親や先生や上司や職長から、罵声の一撃が飛んでくる。
あんたのためにやったのに。
みんなが喜ぶと思ってやったのに。
心が折れる。
ぼくの心、封鎖しまーす!
病院へ行く。
心の病と診断される。
罪を犯しても、責任能力無しとの審判が下る。
無罪、心が腐る。
これこそが、有罪。
この世から、心がまた一つ、腐敗して地に還(かえ)る。
自分に反(かえ)りたかったのに......。
こんな経験は、したくないものだ。

地べたにカバーシートが畳んで置いてある。
その上に、誰かが放った空き缶が転がっている。
それを拾って分別のゴミ箱に入れようと思った。
手を伸ばした。
職長の怒鳴り声!
「まだこっちが終わってないだろッ!
自分のことばっかり考えやがって!
何べん言ってもダメだなあ。
ほんとに腹が立つ!」

そうです。
これ、誤解です。
だから、悪いのは職長で、自分は悪くない?
そうでしょうか。
誤解の原因を作ったのは、職長でしょうか。
誰が考えても自分は悪くないと思えるようなことでも、その事態の原因となる何らかの行動をしたのは、誰でもない、自分なのです。
だから、大事なのです。
せっかくの尽己、善意で一所懸命にやったことも、それが闇雲だと、悲劇を巻き起こす。
それが、人災。
自分の心や肉体を、最悪は相手や他人の心や肉体を、傷つける。

ここからが、結論の解説。
行動の学。
何を尽己するかを知るために、
おれがやったこと。

一、いっぱい見る。よく考える。
結果、人災!

二、昨日よりいっぱい見る。昨日よりよく考える。
結果、人災!

三、考えてから見る。
何のために見るのか。
よく考えてから、いっぱい見る。
結果、人災。

四、考えて見て考える。
考えて行動して考える。
一つ学んだと勘違いし、いい気になる。
結果、人災。

五、考えて見て考える。
考えて行動して考える。
素直な気持ちで反省する(自反)。
今度こそ学んだと確信する。
結果、人災。

六、考えて見て考える。
考えて行動して考える。
自反する。
自分が自分に下した評価を疑う。
その検証の方法がわからない。
放置。
結果、人災。

七、考えて見て考える。
考えて行動して考える。
自反する。
疑う。
相手や他人の目と頭で見て考え(宿る)、再び自(みずか)ら行動する。
一つ学ぶための足掛かりが出来たと思う。
結果、今日もまた、尽己自反。

峠を七回越えると、人が通る道がやっと、遥か彼方(かなた)に姿を現す。

人生何事も、一つを知って学べることはない。
七つを知って、やっと一事(いちじ)が見える。


◎今日の録責(ろくせき)
◯門人、ワタテツ

◎現在の七命暦
◯運命 知命して最初の7年間なので、
第一循令。
◯循令 第一循令の一年目なので、飛龍。
◯時令 冷え込む2月なので、烈冬(れっとう)
◯恒令 今日は金曜日なので、七養(しちよう)
◯伝霊 活きた朝も5時を過ぎたので、
体考(たいこう)