MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

一息 56【少年学年サギッチ】スピアとの再会。相変わらず、素っ頓狂! スピアの学師が語った、巡回授業所での講釈。

第3集「自伝編」R3.1.30 (土) 19:00 配信

 一つ、息をつく。

 おれは、時おり思う。スピアが、{羨|うらや}ましい。あいつは、長生きする。そして、{武童|タケラ}の余生……あいつは必ず、亜種記を編むだろう。
 おれは、編まないのかってぇ? そうだね。おれは、隠居する前に、死ぬさ。だからって訳じゃないけど、ふと思う。武童に成れる成れないの前に、おれたちの亜種記を編んでくれているイエロダさんが{美童|ミワラ}だった頃に書いた後裔記と然修録を集纂して、亜種記を編んでみたい。
 無論これは、ここだけの話……ってことにはならないけど^!!^
 入江の岩陰で、何やらブツブツ言ってる怪しい少年に、声をかけた。おれの親友、スピアだ。全宇宙のすべての{現|うつつ}に、興味なし!って顔をしていた。だからかどうなんだか、声をかけよっか{止|や}めよっか、悩んだ。{挙句|あげく}{遂|つい}に、あいつに声をかけた。
 あいつが学師と{慕|した}ってるシンジイのことが{主題|テーマ}なら、あいつは必ず、{俊敏|しゅんびん}な言動を返してくるだろう。結果は、案の定だった。あいつが{未|ま}だ知らない学師シンジイの講釈の一部始終……の半分近くを再現するという、おれにしては能力の限界を超えた大努力をしてやろうって{訳|わけ}だから、あいつにたいそう感謝されても、何ら気兼ねするところはない。
 てな訳で、こんな感じで話してやった。
 「前回の天地創造で、おれたち{民族|エスノ}は、自然の一部として生き残った。そこに、もう一つ。人間という{奴|やつ}らも、生き残った。それから数百年(たぶん)ののち、奴らは人間界を樹立し、初代の天皇が即位した……。
 この段階で{既|すで}に、奴らの分化がはじまってたんだ。
 一つは、自然と{繋|つな}がったままでいようとする{民族|エスノ}……後に、和の{民族|エスノ}と呼ばれるようになる。
 もう一つは、自然と{対峙|たいじ}して自然界の上に立とうとした民族……これが、後に言う文明民族だ。
 {何|いず}れも、ヒト種の一派……新種の亜種さ。  それでおれらヒト種……当たり前の人間、当たり前の種は、{何故|なぜ}か、何もしないうちに、変わり者の亜種の扱いを受けるようになった。そして、自然の一部である我らは、自然の上に立とうとする奴らにとって、徐々に{煙|けむ}たい存在となっていく。そして{挙句|あげく}、敵対……言わずもがなの現在の有り様だ。
 シンジイが、巡回授業所の講壇に立って、{斯|こ}う言った。
 『波打ち際に{据|す}わる、大きな岩となれ。実に{泰然自若|たいぜんじじゃく}としたものだ』……ってね。
 どういう意味かって、誰かが質問をした。シンジイは、斯う答えた。

 『人間は、我慢と辛抱を嫌い、放置を好む。そんな人間の{醜態|しゅうたい}が、自然の法則を狂わせてしまった。それが、自然界の生き物たちを、苦しめた。自然の一部である我ら自然人の先人たちは、その狂わされてしまった法則と{怨念|おんねん}を抱きはじめた生き物たちに、ただ{順|したが}うしか生きる{術|すべ}はなかった。
 それは、事実であり、生きるという正しいことを{為|な}しただけのことだ。だろッ? では問う。正しいとは、何だッ! 生きることが正しいからといって、そのために、本当に{復讐|ふくしゅう}までする必要があるのか。たった今、我ら自然人は、ぶら下がった一部分ではなく、立ち上がった一部分となるべきではないのか。
 {況|いわん}や、我ら自然{亜種|エスノ}は、自然界がどんなに狂わされ荒れ果てようとも、{但惜身命|たんじゃくしんみょう}なるが{故|ゆえ}に{不惜|ふしゃく}身命、不惜身命にして但惜身命であるべきではないのかッ!』……ってね。

 あっちゃこっちゃから、質問が{湧|わ}き起こった。当然だ。シンジイは、それらすべての質問に答えた。おれは思った。思ったから、それを、シンジイに言った。
 「こんなに問答がいっぱい吹き出したら、書き取るだけで精一杯で、考える暇なんか無いじゃん! 問答集、あとで配ってよーォ^!!^」ってね。
 仕方がないじゃないか。だってさ。そのときは、そう思ったんだから。で、シンジイは、この問いというか、要望というか、まァ苦情だけど、{兎|と}に{角|かく}さ。それに応えて、斯う言ったのさ。

 『書いたさ。すべてを。君たちが考え及ばないところまでをも含めて、その予測し{得|う}る一部始終をな。と同時に、そのすべてを、講座の資料から削除した。誰からも苦情が出ないように、その部分はすべて、{已|や}む無く削除したのだ。
 何故なら、そこで展開される批判の{類|たぐい}……{所謂|いわゆる}問い掛け、要望、{或|ある}いは苦情といったどれもこれもの中に、真理に導いてくれるようなものは一つも無く、元々大して気にするほどの公共性を持っているとは思えなかったからだ。
 無論、それを省いたことによって、何かに気付けなかったり、{解|わか}らないままだったりすることがあるかもしれない。だが、そこまでしなければ気付けない、そこまでしてもらわなければ解りもしないようなことは、元々、わざわざ知るべき必要も無い、他愛もないことだったという訳だ』

 場内が、どやどやした。おれは、下を向いて、{唯唯|ただただ}書き続けた。おれにしてみれば、不可解な行動だ。書くのも読むのも、嫌いだからな。でも何故か、一言一句洩らさずに書き残したいと、そのとき思った。その甲斐は、成果には表れなかったけんど、「努力に{憾|うら}みなかりしか!」って自問しても、胸を張って「なかった。惜しみなく努力したぢょ」って言える。
 おれらが、今こうやって生きてるってことは、本当に不思議なことだな。だってさ。たった今そう言った今は、もう既に過ぎ去った過去になってしまった。その寸陰を、おれらは、果たして大事にしていると言えるんだろうか。それが、但惜身命だろッ?
 それが出来る、それを身に着けることに比すれば、日常の身命なんて、何の値打ちもない……って、それが、不惜身命なんだろッ?
 そんな、本当にあるべき自分と、本当に今ある自分を見つけるために、身命を{惜|お}しまない。その先にあるものが、復讐……。それが、おれら{鷺助屋|さぎすけや}一族が目指してる、報復ってやつさ。今やそれは、{怨念|おんねん}が結び付けた一族一族の集合体さ。そしておれは、その後裔……しかも、その源流の直系だ。
 なァ、気付いてるかァ?」
 と、おれは、何気にスピアに問い掛けていた。スピアが、応えて言った。
 「何を?」
 「人間たちが、おれらから奪った、おれたちにとって一番大事な、一番大切にしていたもの」と、答えるおれ。
 「知らない」と、スピア……一言。
 「笑顔さ」と、答えるおれ。
 「笑顔?」と、スピア……素っ頓狂な顔。
 「そうさ。でも、人間の{子共|こども}({子供|こども}の複数形)は、笑ってやがる。腹が立つ。じっとモニターを見つめて、ニヤニヤしてやがる。気色が悪い。そのうち、ハンカチモニターとか、コンタクトモニターとか、奴らが身に着けるものすべてが、モニターになるんじゃないのかッ^?!^って感じだ。
 和の{民族|エスノ}の{子等|こら}は、まだどっちにでも転げることができる。自然の一部として生きるか、それとも、自然と対峙して、おれらと敵対するか。
 何れにしても、おれらの代で、終わりが来る。次の大戦……百年ごとの、人類の{掟|おきて}さ。
 次の巡回授業所の開講、誘われたんだってな。巡回って言っても、次の開講は、誰も来ねぇ。当番が、講釈する。輪番で回ってくるんだってさ。で、次回の講釈人は、なんと! おれだ。おまえも、気を付けろ。{余所|よそ}者は、目立つからな。まァ、おまえのことだから、講釈人を命ぜられても、{然|さ}して苦でもないんだろうけんど……。
 {序|つい}でに言うと、次の講釈、自由{主題|テーマ}のほかに、課題の主題を与えられた。しかも、三つだったか四つだったか。誰だか知んねーけんど、余計なことしやがる。なッ、スピアっち!」と、長々と答えてしまったおれ。
 「ふーん^!!^ 課題ってぇ?」と、スピア。まるで{他人事|ひとごと}!
 「おまえに訊けってさァ^!!^」と、答えるおれ。
 「なんでぇ?」と、スピア。
 「忘れたんだってさァ」と、おれ。
 「はーァ?」と、スピア。{呆気|あっけ}にとられたって感じ。
 おれとスピアが腰掛けた岩場の前を、一羽のウミネコが、通り過ぎて行った。よちよち歩き。やや肥満。若くはない。頭から首にかけては、白黒の{縞|しま}柄。黒髪混じりの白髪って感じ^!!^
 おれは、{俄|にわ}かに立ち上がった。
 スピアとの再会のひとときは、そこで終わった。

皇紀2681年1月30日(土) 活きた朝 4:44
少年サギッチ 齢9

令和3年1月30日(土)号
一息 56【少年学年サギッチ】スピアとの再会。相変わらず、素っ頓狂! スピアの学師が語った、巡回授業所での講釈。

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東亜学纂

MIWARA BIOGRAPHY
(C) Akio Nandai "VIRTUE KIDS" Vol.1 to 12
V.K. is a biographical novel series written in Japanese with a traditional style.
Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.
A.E.F. is an abbreviation for Adventure, Ethnokids, and Fantasy.

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