MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

東亜学纂学級文庫

『息恒循』を学ぶ

一息79 ミワラ〈美童〉の後裔記 R3.4.15(木) 夜7時

#### 後裔記「半分寝ながら飛ぶ梅子! {余所|よそ}者の極意」 学徒マザメ 齢12 ####

 {燕|ツバメ}の母ちゃんが語る、*極意の数々*! 離乳食調理法、余所者の{掟|おきて}、旅路の心得、カモメの爺さんに{訊|き}く{危|あや}うさ、*寝ながら飛ぶ*睡眠法!

 一つ、息をつく。

 梅子さんが、バッタとコオロギを{銜|くわ}えて、山小屋の軒先に戻って来た。彼女の独り{言|ごと}が、聞こえてくる。もしゃもしゃと{咀嚼|そしゃく}しながら……どうやら、口の中が、調理場になっているようだ。
 それは……そう、{宛|さなが}ら料理番組で語る、家庭料理研究家! てな感じ。

 「料理は、難儀だべしゃ。固い{脚|あし}は切り離し、頭は{喉|のど}につっかえるから、{潰|つぶ}してやんなきゃだからねぇ。
 しかも、こいつらの好物の食材は、飛んでるのさ。そいつらを{捕|つか}まえて運んでくるだけでも、{一苦労|ひとくろう}だってのにさァ。こいつら、調理してやんなきゃ、食わねぇときてる。
 まだあるのよん。飛んでる食材のなかでも、好き嫌いがあるんだわァ、こいつらッ!
 {蠅|ハエ}は、食わないんだよ。{解|わか}るけどさ。でも、あたいらが子どもんころは、好き嫌いせずに、吐き出されたものを、何でも食ったもんさ。これも、ご時世ってやつなのかねーぇ。
 なすーぅ?!
 それでもさッ! だからって、子どもたちの面倒、{嫌|いや}だって思ったことは、一度だってないんだ。だってあたいは、こいつらが好きなんだもの。
 あたいの血を分かつ、可愛い子たちさ。ご時世がどうだろうと、たとえ象さんみたいに、{一|いち}ん{日|ち}で30キロも40キロも爆食いする{戯|たわ}けたベビーが産まれてきたって、不滅の母性は、{怯|ひる}みはしない。
 ただ、扱いは、変わるだろうけどさ。べしーゃ?!
 その無情非情な扱いにも耐え、生存競争に打ち勝って、鋭気を保ち、肉体を作りながら、巣に留まる。それが、母の血を分かつ{子等|こら}の使命、務めさ。
 で、あんた……。
 あんたは、ここの{何|なん}で、そのあんたは、誰なのさッ!」

 「はい、はい、はい、はい……」と、あたいは独り{言|ご}ちて、三回……元い。四回、頭を縦に振って、{頷|うなづ}いて見せた。
 そのあたいは、無意識のうちに小屋の外に出て、軒下を見上げていた。意外と、ずっと見ていても、退屈しない光景だった。
 なので……というより、他に差し当たって用事もなかったので、そのへんに{堆積|たいせき}しているカピカピに乾いた枯れ葉を座布団にして、そこにケツを下ろした。
 すると、待ってましたとばかり……矢庭に、梅子さんが、{一言|ひとこと}……かなって思えたけど、喋りはじめたら、これがまた、やっぱりというか、{二言三言|ふたことみこと}……嗚呼、止まらない!

 「はいは、一回で大丈夫。
 無駄は、{禁物|きんもつ}さ。
 ……。
 あんたは、知らない動物!
 だけど、{息災|そくさい}みたいだね♪
 だから、それで、よしとしましょう。
 ……。
 あたいらは……さァ。
 越冬のためにここまで飛んできて、{餌場|えさば}であるこの地に留まる……{即|すなわ}ち、旅の者さ。あんたらに言わせりゃあ、{余所|よそ}者ってやつさ。
 その餌場で子を育て上げたら、またみんな、銘々に、飛び立つ。次の目的地、シベリアの空を目指してねぇ。
 でもさ。こんなに早くここにやってくるのは、あたいら家族だけ。何年前だったかしらん。その年は、あたいとしたことが、とんだ不覚だったのよん!
 聴きたい? まァ、どっちでもいいけど。
 カモメに、{騙|だま}されたのさ。
 あれは{確|たし}か、オオトウゾクの爺さんカモメ!
 そのオス、まことに、せっかちときてる。
 たしか、{斯|こ}う言った。
 『急ぎなさい! 行かないのかね、君らはッ!』……って。
 そりゃあんた、そこまで言われた日にゃーァ、釣られて赤道を越えちゃったわよッ! 越えて北半球♪ 飛びに飛んで、ホンコン、タイワーンあたりで、さすがに気づいたのさ。
 『まだ、寒いじゃないのさッ!』ってね。
 でも、後の祭り。
 案の定、ジャペーンに着いたら、雪だよッ!
 それでもこの辺……{内海|うちうみ}の沿岸や、その沿岸に迫る山の{麓|ふもと}は、寒さもそんなに厳しくなくって、雪も少なかった。だからってさ。{町中|まちなか}は、まだあたいらの出る幕じゃない。で、半島の岸辺や麓に見切りをつけて、離島に渡ってみたのさ。
 それで辿り着いたのが、この島!
 留まったのが、この森!
 落ち着いたのが、この山小屋!
 出逢ったのが、カアネエさん!
 ……って{訳|わけ}さ。
 カアネエさんの赤ら顔が、なんとも可愛らしくってさァ♪ (来年も、また逢いたいなーァ)って、思った訳さ。
 でも聞くと、元旦しか、この山小屋には来ないって言うじゃないかッ! (じゃあ、いつもの春の時令に、カアネエさん{住|ず}みの町中の家に、巣を構えればいいじゃんかーァ♪)って、思うでしょ? 思わない? 思ってよねッ!
 思ったんなら、仕方がない。
 説明しましょう。
 定期航路は、時期も進路も、{辿|たど}る道筋も、宿る軒先も、そのすべてが決められた{旅程|りょてい}に{順|したご}うて、行動せなあかんねん!
 勝手な行動は、許されへん。そやし、あたいらだけ好き勝手にこの島に飛んできて、子を産み育てる……みたいなことは、でけへんわけやんかーァ。べしゃーァ?!
 で、{脱藩|だっぱん}やァ!
 一匹狼……じゃなくって、一匹{燕|ツバメ}ってなことになって、毎年、寒空を飛んで飛んで、この島にやって来てるって訳さ。
 解ったーァ?!」

 ここは、「はい」と、一言だけ応えて言うのが、大人の対応……てか、{六然|りくぜん}や{人覚|にんがく}に{順|したが}うということだ。 だよねッ?

 「はい」と、あたい。
 梅子さん、即応えて、斯う言った。
 「そう言うと思ったよッ♪
 そんなことよりさ。
 今年の正月、暖かいって、思わない?
 今年だけじゃない。
 去年だって、{一昨年|おととし}だって、そうさ。
 あたいらの本隊の旅団の出発も、年々早くなってる。
 このぶんじゃ、来年は、あたいらと{同|おんな}じ時期に、本隊の旅団も、出発するかもしれないねぇ。
 そうなったら、あたいらだけ別行動って訳には、いかないのよッ!
 ここに来れるのは、今年が最後かもしれない。
 だったらさ。だったらって訳でもないんだけど、今年は、サーカリンまで行ってみようかしらん♪ なんて、思ったりもしてるのさ。
 まァ……実際はさァ。
 いいとこ、イトローフが関の山ってところかねぇ。
 あッ! そろそろ、行くね。
 あたいら、あんたらみたく、暇じゃないんだよ。
 だって、寝る暇なんかないんだからさァ。
 あたいらはね、飛びながら眠るのさ。
 {訳|わけ}、{解|わか}んないだろッ?
 左脳が寝てるときは、右脳が起きてる。
 右脳が寝てるときは、左脳が起きてる。
 だから、右脳であんたたちを{鳥瞰|ちょうかん}してるときは、あんたたちの動きが、読める。でも反対に、左脳で鳥瞰してるときは、あんたたちの{遣|や}ること{為|な}すこと、まったく理解できない。
 事実今、右脳は眠ってるから、あんたと対話……っていうか、意思の疎通は、難しいって訳さ。
 でもさ。そろそろ、右脳を起こさなきゃ! 狩りは、理屈じゃないからねぇ。直感が、決め手になることが多い。その**感**が外れたら、死!だけどさァ。
 あんたも、もうちっと、左脳を鍛えたほうが、いいだろうねーぇ。
 じゃあねッ♪」

 結局、一言も発することが出来ず、ただ軒先を見上げるだけのあたいだった。
 てか、左脳がどうのこうのって、誰か、然修録に書いてたよねぇ?
 どうやれば、鍛えられるんだったっけーぇ?!

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「自伝編」夜7時配信……次回へとつづく。
「教学編」は、自伝編の翌朝7時に配信です。

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