#### 一息マザメ「嵐の{跡|あと}。和歌の調べと、気に{障|さわ}る男どもの一言」後裔記 ####
飛び立つ嵐あり、森へ帰る嵐あり。太陽は、ずっと見ていた。太古より連綿と、{已|や}むことのない、ヒト種の退化。*生きることと、死ぬこと*。動くときと、隠れるとき。*二進法で生きる*、自然界の生きものたち。
学徒学年 マザメ 齢12
一つ、息をつく。
桜花散り残るらし吉野山あらしの{跡|あと}にかかる白雲
と、あたい。
独り、{言|ご}ちる。
その白雲は、まだ桜の{蕾|つぼみ}も固く、吉野の山でもなく、烈冬の時令、嵐の跡のような離島の廃墟、その前の海岸の{遥|はる}か先、西の空の{彼方|かなた}に、拡がっている。
こういう気分のとき、男どもの一言が、気に{障|さわ}る。
「なーんじゃそりゃ!」と、サギッチ。
「ここは、吉野山じゃない。{陥没|かんぼつ}山だ」と、オオカミ。
少しの間。
「五、五、五、七、七? それって、短歌?」と、スピア。
……と、実にウザイ!
(なんで、「さくらばな」って読めんのかねッ!)と、思ったけど、ムカつくと、{却|かえ}って冷静になるあたい……みたい。
「{玉葉|ぎょくよう}和歌集。鎌倉時代の後期。全二十巻の二巻目、「春下」のなかにある歌さ」と、そのあたい。
「その頃の人って、太陽が丸いって、知ってたのかなーァ?!」と、サギッチ。
そっちかい!
(なんで、太陽なのさッ! そこは、雲の話題だろッ! 話の流れでいくと……)と、思ったあたい。されど、冷静♪
「夕焼けかなーァ?! まだ、夕方じゃないけど。焼けたにしては、寒いし。てかさ。丸いもクソもないだろッ! そもそも、空も焼くような太陽、見ないだろう。普通……」と、オオカミ。
「オレンジ色の空。太い黄色い放射線。その中心に、真っ白い太陽がある。それが、丸く見えたんだよッ♪」と、スピア。
({眩|まぶ}しいだけだろッ!)と、思うあたい。
オオカミ、意味ありげに、あたいの顔を、見ている。
そして、言った。
「古代の人間たちは、自分も眩しいから、眩しいものも見えたのさ」
あたい、{努|つと}めて冷静に、応えて言う。
「脳ミソが退化したって、言いたいんだろうけどさァ。あたいらの祖先、地底で暮らしてたんだろッ? スピアとサギッチの祖先だけなんてことは、有り得ないんだからさァ。そいつらが、地上に出てきてごらんよ。月明かりだって、目が{眩|くら}むってもんさァ!
地底じゃあ、進化したのかもしんないけどさァ……」
「ぼくらってさァ。来年の今ごろ、{何処|どこ}で、何してんのかなァ」と、スピア。
「来年かァ。おれたちが、もしハヤブサだったら、奇跡的に長寿の、白髪のジジババだなッ!」と、オオカミ。
「知命しなくっても、ジジババになれるのかなーァ!?」と、サギッチ。
「知命しなかったときの心配する暇があったら、知命するための心配をしなさいよッ!」と、あたい。
「キビシイねッ!」と、サギッチ。
「でも、言えてるねぇ♪」と、スピア。
「文明{民族|エスノ}の子どもたちって、どうなのかなァ」と、サギッチ。
「どうもこうもねぇ! 文明も、和も、自然も、{子等|こら}はみな、向かうは敵ばかり。{来|きた}るも敵ばかり。内に{居|い}ても、敵ばかりさッ!」と、オオカミ。
「出たッ! オオカミ教学」と、サギッチ。
「教学に、飢えてるようだな。
じゃあ、その期待に、応えてやろう♪
オス種は、{闘戦|とうせん}だけが、{戦|いくさ}じゃない。芋を掘るときも、魚介を{漁|すなど}るときも、その一つ一つ、その一瞬一瞬、そのすべてが、闘いなんだッ!」と、オオカミ。
「好きなだけ、闘ってろッ!」と、あたい。
「ねぇ。オス種とメス種、どっちが生き残ると思う?」と、スピア。
「それは、どっちが数学徒で、どっちが哲学徒かによるなッ!」と、サギッチ。
「まだ{懲|こ}りないのかい! あんたの算数病……」と、あたい。
「みんな、算数病なのかもね。だって、生き物はみんな、二進法じゃん。オンかオフの、二つしかない。生きるか死ぬか。それだけじゃん♪」と、スピア。
「可愛げのない子どもだねぇ! ホント、あんたって子は……って、カアネエなら、そう言うよ。きっと……たぶん、間違いなく!」と、あたい。
「二進法じゃないのは、人間だけだ。自然界は、二進法だ。人間は、自然から離れたが{故|ゆえ}に、十六進法になっちまったのさ」と、オオカミ。
「まァ、道理かもね。
ほかの生きものたちは、二進法だから、判り{易|やす}い。死なないように、必死で生きてる。{鯊|ハゼ}は、必至で岩陰に隠れてるし、トンビは、生きるために、徹底的に無頓着に、ボロボロ{溢|こぼ}しながら、いつも必死で食ってる」と、あたい。
「二進法だから、必死で、無頓着なんだねぇ? 鳥たちも、動物たちも……」と、スピア。しみじみとした顔。
(そこは、しみじみとするところかい!)と、思うあたい。
「懲りないから、自然の一部で居られるのさ。何度ぶつかっても、懲りない。音も、波も……」と、オオカミ。
「波?」と、スピア。
「ぶつかるのは、最後だけじゃん! 波打ち際……」と、サギッチ。
三人の男ども、あたいのほうを、チラ見する。
(波……海のことは、{鮫|サメ}{乙女子|おとめご}に{訊|き}けってかい!)と、思うあたい。
で、応えて、三人の男どもに、言った。
「視覚に、頼り過ぎなのさ。
おまえらも、鳥たちも……。
波てのはさァ。ぶつかってもないし、流れるどころか、その場から、少しも動いてないのさ。後ろから肩を叩かれたら、前にいるやつの肩を、叩くだけ。肩叩きドミノさァ♪」
「自然の一部の生きものって、みんな、重なり合ってるだけなんだね」と、スピア。
ここでまた、三人の男ども。あたいの顔を、チラ見する。
こいつら、本当に、判り易い。
三人とも、今、{斯|こ}う思ったのだ。
(魔性の鮫乙女子だけは、例外だな。
回遊……元い。
{遊弋|ゆうよく}してやがる!)と。間違いない。でしょ?
ここで、サギッチの{身体|からだ}に、変化が表れる。
目が、二進法になってるーぅ!?
誰にともなく、サギッチに告ぐ。
この話、まだ続けたいんなら、自分で書きなッ!
_/_/_/ 「後裔記」、「然修録」
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_/_/_/ 『亜種記』
Vol.1 [ ASIN:B08QGGPYJZ ]
_/_/_/ 『息恒循』を学ぶ _/_/_/
その編纂 東亜学纂
その蔵書 東亜学纂学級文庫
その自修 循観院