MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

東亜学纂学級文庫

『息恒循』を学ぶ

一息85 ミワラ<美童>の後裔記 R3.5.1(土) 夜7時

#### 一息サギッチ「生意気五人組の{莫妄想|まくもうそう}VSスピアの屁理屈!」後裔記 ####

 どうやってこっちの島に来たのか。隣りの島の、オッサン追ん出しゲームの子どもたち。正に、数学徒! しかも、莫妄想と、きたもんだ。我らが屁理屈学徒スピア♪ いざ、出陣!
   少年学年 サギッチ 齢9

 一つ、息をつく。

 その海岸、マザメ先輩が去り、オオカミ先輩が去った。
 そもそも、このクッソ寒いのに、海岸に座り込んで算数談議? 無いっしょ!
 おれも、スピアに伴って、海岸を去った。
 暖かい場所……史料室に、そして、朗読室。
 でも、騒々しいいのは、もう勘弁!
 だから……と、いう{訳|わけ}で、おれとスピアは、史料室の黙読コーナーの席に、落ち着いた。いつもラスクが入っているバスケットは、{既|すで}に、空だったけど……。
 隣りの席には、スピア。対面には、地元? ……の、子どもたちが、居並んでいる。が、それには、特に気に掛けることもなく、スピアとおれは、声を{潜|ひそ}めながら、何気ない会話を交わしていた。
 おれが、言った。
 「音も波も、横着だな。前に{居|い}るやつの肩を叩くだけで、自分は、動かねぇ!」
 「{音学|おとがく}って、そういうことなんじゃないのォ?」と、スピア。
 「算数だなッ! 音学も、波学も♪」と、おれ。
 「また、そっちかい! おまえ、好きだな、算数♪」と、スピア。
 「まァ、そう言わずとも、聴けよ」と、おれ。
 「言わなきゃ、聴けないよォ」と、スピア。
 「そうか。そうだよな。なんで音学が算数かっていうと……えっとだなァ! つまり……」と、そのときだった。

 おれの言葉を{遮|さえぎ}って、対面に居並ぶガキどもの一人が、口を出した。
 「{弾|はじ}く弦の長さを二分の一にすると、音の高さは二倍になる。そういう話を、したいんでしょ?」
 (異存は無いが、可愛くないガキだ。てか、口を挟む前に、自己紹介だろッ!)と、思うおれ。何故か、どうにもムカつく。その理由は、そいつが、おれと{同|おな}い年くらいに見えたからだろう。
 そんな不愉快な顔をしているおれを無視して、こんどは、そいつの隣りに座っている女の子が、言った。

 「その点、形ってのは、不正確よね。視覚って、なんでそんな曖昧なものばかり、好むのかしらん!」
 その女の子は、ツボネエと同じくらいの年恰好に見えた。
 何やら、面倒臭そうな{類|たぐい}の、子どもらだ。しかも、ここ史料室で見かけるのは、今日が初めて。それに、おれが住まっている深層住宅の階段でも、一度も見かけたことがない。
 (こいつら、どこから来たんだァ?)と、思うおれ。
 すると、スピアが言った。

 「君たち、〈オッサン追ん出しゲーム〉、やってたっしょ!」
 おれは、素直に、スピアのこういうところが、{凄|すご}いと思う。対面の、また別の少年が、言った。
 「そうだけど。なんで知ってるのォ?」
 「そんなことはいいから、さっきの話、続けてよォ! 音でも形でも、どっちでもいいからさァ♪」と、スピア。
 こういうことが言えないおれは、暫し、黙っておくことにした。これ、精一杯の最善の判断! で、さっきの口火を切った、おれと同い年くらいのやつが、言った。

 「じゃあ、形の話。
 人間は、厳格な三角形を{描|か}くことができない。三辺が完璧に正確で等しい三角形なんて、何千万回挑戦したって、描けっこないってこと。
 ということは、この世に、三角形なんていうものは、存在しないってことさ。
 ぼくら自然人……てか人間は、百億分の一気圧の空気の変動を、感じることが出来るっていうのにさッ! なんとも、{歯痒|はがゆ}い話だよねぇ」
 すると、また別の少年が、言った。おれより、一つっくらい下かなァ? まァ、みんな、年の頃は、似たり寄ったりだった。

 「音圧も、{凄|すご}いよなッ♪ 同じ空気の圧力だけどさァ。一秒に一回、鼓膜を叩く。これが、一ヘルツ。千二百五十ヘルツだと、一秒間に、千二百五十回、鼓膜を叩かれる。これはもう、立派に、{虐|いじ}めの行為だなッ!」
 (こいつらも、おれが当番んときの講釈、聴いてたのかなァ。こいつら、おれより凄いじゃん!)と、思うおれ……(アセアセ)。
 すると今度は、一番年長っぽい少女が言った。

 「厄介なのは、その叩かれる音の大きささ。比率で表すから。むかし文明界にあった黒電話の呼び{鈴|リン}と、飛行機エンジンの{輷輷|ごうごう}する音は、五〇対一二〇。
 これが、デシベル。なんでそうなるんだか、解んない。
 しかもその音は飛ぶわけだから、当然、速さの違いもある。空気の中では、音は一秒間に三百メートル進み、ヘリウムの中では、その三倍の九百メートル進む」

 「ねぇ。みんな、いつも、そんなことばっか考えてるのォ? てか、そんな本ばっか読んでるからか、誰かから教えてもらってるのか知らないけどさァ。それは、どっちでもいいんだけど。
 そんなことばっか考えてて、面白いのーォ?!」と、スピア。
 (当然の感想だなッ!)と、思うおれ。
 すると、最後のもう一人の少年が、口を開いた。

 「面白いときもあるけど、面白くないときもあるよ」
 するとスピア、何やら{怪訝|けげん}な顔。どうやら、納得できない様子。そして、{斯|こ}う言った。
 「ねぇ。釣り、したことあるよねぇ?
 {鯊|ハゼ}が、釣れました。
 でも、その鯊の可哀想な身の上を案じて、海に{還|かえ}してやりました。
 ところが、そのヘタな同情が気に食わなかったのか、海の神が、地球上のすべての海を、{掻|か}き回してしまいました。
 するとその鯊は、北極海、南極海、インド洋、大西洋と、渦に{順|したご}うて、{なすがまま|LET IT BE}♪
 さて、ここで、問題です。
 その鯊が、また同じ場所で釣れる確率は、どれくらいだと思う?」
 すると、最初に口火を切った少年が、斯う言った。

 「思わないし、考えもしない。以上」
 (ホント、可愛くねぇやつらだなァ……まったくーぅ!!)と、思うおれ。
 「どうしてぇ?」と、即、訊き返すスピア。
 「考えても仕方がないことだから」と、即答する少年。
 すると、「形は不正確で、曖昧で……」みたいなことを言った、最初の少女が、また言った。

 「考えても、仕方があることと、仕方がないことがある。仕方がないのに、なんで考えなきゃなんないのォ? あたいらの頭ん中には、そんな仕方がないことが、いっぱい潜んでるのよね。
 でも、そいつらを{放|ほう}っておいたら、仕方がないことを考えて、時間を無駄に使ってしまう。命を、無駄に削ってしまうってこと。だからさ。頭ん中にある仕方がないことは、早く追ん出さなきゃなんない。
 だからいつも、追ん出しゲームをやって、追ん出す{訓練|トレーニング}をしてるのよ」
 するとまた同じ順んで、別の少年が、口を出す。

 「オッサンってのは、仕方がないってことさ。だから、オッサン追ん出しゲーム。でも、本当の名前は、{莫妄想|まくもうそう}訓練{勝負|ゲーム}って言うんだッ♪」
 「マクモウソーォ??」と、スピア。
 なーんじゃ、そりゃ! ……と、思わず、いつもの言葉が突いて出そうになったけど、思い直して、ぐぐっと口を{噤|つぐ}んだ。こいつらに対して、その言葉は、吐きたくなかった。{面子|めんつ}っていうか、{自尊心|プライド}ってやつかな。

 「なーんじゃ、そりゃ!」と、おれ……(アセアセ)。
 「幕を張って、妄想を防ぐってことーォ??」と、スピア。
 「違う!」と、また、最年長っぽい、最も生意気そうなデシベル女が、即答した。
 「違うってぇ?」と、スピア。即、得意の{鸚鵡|オウム}返し♪
 するとこんどは、最後の五人目に口を出した少年が、また言った。
 「妄想すること{莫|なか}れ、さッ!」
 (嗚呼、完敗! ……だな)と、思ったおれ。
 すると、スピアが言った。

 「凄いんだね、君たちって。
 オンダシ学級五人組かァ。ぼくらは、ムロー学級八人組。訳あって、この島には、三人だけだけど。もひとつ訳あって、今は、四人なんだけどね。
 ところで、さっきの{鯊|ハゼ}の話なんだけどさァ。
 同じ鯊が、また同じ場所で釣れる確率……。
 答えは、50パーセントさ。
 仕方があっただろッ? 考えて……♪」
 「なんでさァ!」と、また最年長らしき少女。

 「だって、釣れるか釣れないかの、二択じゃん!
 数字っていうのは、追い求めれば追い求めるほど、身近な数に様変わりして、戻って来るんだ。
 その数を{掴|つか}む修養を積んで、自修を目指す者……それが、数学徒。{因|ちなみ}にこいつ、それを目指してるみたいなんだけどさァ。その数学徒が、次の動乱で、軍師になる。きっと、たぶんね。
 これから、ぼくらって、文明{民族|エスノ}と戦うことになるんだろッ? そんな話、聞いたことあるでしょ?
 勝つか負けるか、これもまた、二択。
 ぼくらが住んでる不可解な星には、複雑怪奇ないろんな〈数〉が、山ほどある。でも、そのどれもこれも、追及してみれば、結局は、二択の組み合わせに過ぎない。
 確率なんてものはさッ! 衣を脱ぎ捨ててしまえば、みな同じ。すべて、50パーセントさ♪
 {即|すなわ}ち、二択。
 ONか、OFF。
 つまり、二進法さ。
 文明人たちが自慢にしてる電脳……人工知能ってやつも、二進法。だから、二進法で戦っても、勝つ確率は、やっぱり50パーセントさ。
 でも、それじゃあ、次の天地創造で、ぼくら自然{民族|エスノ}は、生き残れない。だから、{腹脳|ふくのう}で勝負する。層脳と、膜脳のこと。{観|み}るほうの直観力と、感じるほうの直感力のことさ。
 君たちが言ってる{莫妄想|まくもうそう}っていうのは、無駄な妄想はしないってことでしょ? それは、層脳を整理整頓するってことだから、直観力を養うってことだよねぇ?
 ぼくらは、寺学舎の座学で、儒学とか心理学とかを学ぼうとしてた。それも、層脳を片付けるってこと。君たちの莫妄想ゲームと、{同|おんな}じさッ♪
 生き残るか、亡びるか。
 ぼくらの未来には、その二つしかないんだ。
 でも、二進法で戦う限り、いつまで{経|た}っても、生き残れる確率は、50パーセントのままってことさ」と、スピア。
 (さすが、我らムロー学級の屁理屈オッサン……元い。屁理屈少年♪)と、思ったおれなのでした……(アセアセ)×2。

 そして、もう一つ。スピアが付け加えて、言った。
 「ねぇ。君たちって、隣りの島から来たんだろッ?
 どうやって来たのォ?」

_/_/_/ 「後裔記」、「然修録」
http://shichimei.hatenablog.com/
_/_/_/ 『亜種記』
Vol.1 [ ASIN:B08QGGPYJZ ]

_/_/_/ 『息恒循』を学ぶ _/_/_/
その編纂 東亜学纂
その蔵書 東亜学纂学級文庫
その自修 循観院