MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

東亜学纂学級文庫

『息恒循』を学ぶ

一息86 ミワラ<美童>の後裔記 R3.5.7(金) 夜7時

#### 一息オオカミ「宴(?)の後、入江の突端で起きた意外な展開」後裔記 ####

 妄想に陥りそうになったおれを現実に引き戻してくれたのは、意外にもトンビとウミネコの*価値ある*(?!)対談だった。そして、急展開の*首謀者*……あの爺さんが、姿を現した!
   学徒学年 オオカミ 齢13

 一つ、息をつく。

 一月も、半分が過ぎようとしている。
 今は、{烈冬|れっとう}の時令。
 一月は、「{往|い}ぬ」と言う。
 〈{去|い}ぬ〉とも書く。
 どこへ往ぬるのかッ!
 二月も、逃げてゆく。
 どいつもこいつも、別れの時令へと、去りゆく。

 そこが、{結冬|けっとう}の時令。
 その三月は、正に、サッサと{去|さ}る。

 そして、{敲春|こうしゅん}が、やって来る。
 四月、五月……次の動乱の、表舞台へ。
 それは、百年ごとに、必ず、やって来る。

 この世の、すべての生あるものが、この時令に{順|したが}う。
 例外は、無い。

 残存する和の{民族|エスノ}が住まう{宛|さなが}ら廃墟が居並ぶような集落も……。
 山の奥深くや離れ島や孤島や{船住居|ふなずまい}でひっそりと暮らす人びとも……。
 立ち入り{難|がた}き寄り難き{山間|やまあい}や谷間に築造された{落人|おちびと}たちの隠れ{郷|ざと}も……。
 自然から離れて{栄耀栄華|えいようえいが}の躍進を続ける文明{民族|エスノ}も……。
 その文明界の汚物処分場と化した自然界の地底で悠久しぶとく生き残ってきた自然{民族|エスノ}も……。
 自然の一部であるその自然民族が{対峙|たいじ}する文明民族と決戦を交えるための軍資金稼ぎに創建した離島の{山城|やまじろ}工場も……。
 その山城{界隈|かいわい}やその{麓|ふもと}やその離島の沿岸で身を寄せながら{棲息|せいそく}している様々な自然の一部の生きものたちも……。

 それが、皮肉にせよ、{因果|いんが}にせよ、それぞれの{何|いず}れの社会も、どの生きものたちも、この世の時令に{順|したご}うて別れの時節を超え、{治乱|ちらん}と動乱の時代へと突き進んでいる。

 南西に口を開けた、入江の突端……。
 おれが疎開したザペングール島の先に、丸い地球の果てしない海面が、続いている。
 あの広大な海面の先に行き、ムロー学級8人組が結集し、次の動乱に備えなければならない。
 それが、今どきの{美童|ミワラ}の天命……正にそれが、知命だ(と、思う)。
 サギッチの後裔記、ヨッコ先輩の然修録ではないが、この思いは無論、{莫妄想|まくもうそう}……妄想に{非|あら}ず、未来の現実、必定だ!

 {何気|なにげ}に、そんなことを思い考えている間に、西の空から、灰色の雲が迫って来た。
 灰色の雲は、短歌にはならない。でも、その灰色の雲が降らす白い雪は、短歌になる。その雪は、地上の舞い降りると再び灰色に汚され、{穢|けが}され、そして、消え去ゆく。
 「おれたちは、灰色の雲だなッ!」と、思わず独り{言|ご}ちたそのとき、背後から、聞き覚えのある声が聞こえた。

 「ピーヒョロ♪ ヒーヨヨヨッ!」
 「呼んだァ?」と、おれ。
 「べつに……ヨヨヨ」
 少しの間。そして、また。
 「ピーヒョロ♪ ヒーヨヨヨッ!」
 「何か、言っただろッ!」と、おれ。
 「べつに……ヒョロ♪」
 「『用もないのに鳴くのは、禁止だッ!』って、言ったよなァ?」と、おれ。
 「忘れた(アセアセ)……ピーィ♪」
 「覚えてもないのに、忘れる{筈|はず}が無いだろう。言ってないんだからな」と、おれ。
 「納得!……ヒーィ♪」
 「そこは、怒るところだろッ!」と、おれ。
 「承知……ヒョヨ♪」
 ここで、振り返るおれ。
 声が聞こえるほうを見上げると、そこには茶色のグライダー。その{足下|そっか}、前方より、ゼンマイ仕掛けの白猫が、歩いて来る。
 茶色のグラーダー、垂直着陸。
 ゼンマイを解き解き歩み寄る白猫、{身体|からだ}を左右に揺らしながら、着地したグラーダーのすぐ横に到着。
 両者、何やら言いたそう!
 ほどなく、対話がはじまる。

 「音楽が無かったわねぇ。{音学|おとがく}は嫌い。楽しい{楽|がく}がいいねぇ。音楽は、必修さ。それ以外……音学も、数学も、哲学も、学ぶ{学|がく}はぜんぶ、選択科目さッ♪」と、ウミネコ。
 「おまえは、楽しいのが好きなんじゃなくて、{楽|らく}だから好きなんだろッ! しかも、おまえの必修は、音楽なんてもんじゃない。ダイエットだッ!」と、トンビ。
 「じゃあ、あんたの必修は、食卓でのお行儀と、お作法だねッ!」と、ウミネコ。
 「二人とも……てか、おまえらって、五十歩百歩だなァ♪」と、口を挟むおれ。
 「いやいや! こいつは、千歩でも{痩|や}せねぇだろうよ」と、トンビ。

 そのときだ。
 入江の奥の峠道の入り口のほうから、猪突猛進してくる物体あり!
 「家船が、見えるぢょーォ!!」と、ウリ坊。
 おれ、矢庭に振り返る。
 一艇の船が、こちらに向かって来ているように見える。確かに、家船のような恰好だ。屋根もある。黒ずんではいるが、あれは、{帆布|はんぷ}だ。
 ほどなく、その家船は、おれたちが{居|い}る入江の突端の岩場に、{朽|く}ちかけた{船首|バウ}を突っ込んで来た。{船体|ハル}も、朽ちたように黒ずんでいる。{焚場|たでば}でフジツボを焼いた{跡|あと}のような黒さではない。天然の海の{垢|アカ}だ。
 老人の、遠吠え!
 舵輪とクラッチを操りながら、見慣れた爺さんが、叫んでいる。
 「乗れッ! タッチ・アンド・ゴーぢゃ♪」
 最初に、オンボロ漁船を貸してくれた、あの気さくな漁師の爺さんだ。
 さらに、続けて吠えた。
 「操船の実技講習ぢゃーあ。{早|は}よ、乗らんかァ!」
 トンビが飛び立ち、ほどなく、その家船の{舳先|へさき}に降り立った。
 おれも、慌てて飛び乗る。
 ウミネコ、どうするかと思ったら、……言った。
 「手を、貸しておくれでないかい?」
 それを聞いていた船長の爺さんが、吠えた。
 「貸さんでもないが……。
 飛びやがれーぇ!!」

 ウミネコが、飛んーだーァ♪

 ニワトリが羽ばたき飛びでもしたようなこの感動は、一体全体、なんなのだろう!
 てか……羽ばたくと言うより、翼を広げてバランスを取っただけで、ただそのまま飛び乗っただけって感じ!
 (どこまで飛びたくないんじゃ、このオバハンはーァ!!)と、思ったおれだった。
 家船は、結局、岩場にタッチすることなく、一瞬接近しただけで、{速|すみ}やかに後進を掛けて離岸して行った。さすがは、操り慣れた名手の{捌|さば}きだッ♪

 「どうしたんですかァ? この……」と、おれは言いかけたが、{上手|うま}い言葉が、出てこない。
 すると……。
 「このオンボロ船、どうしたのか訊きたいんだろッ?
 確かにオンボロだが、無理すれば、使えんことはない!
 旅に出るんだろッ?
 再会の旅、動乱への{船出|ふなで}なんだろッ?
 その船が無くて、どうする!
 この船、使え。
 遠慮すんなッ♪
 船主は、居ない。
 死んだんだ。
 住まう家族も、居ない。
 子どもが二人{居|お}るが、男の子は工場で働いとる。
 『漂海民が地底人に雇われて、地上で働くってかい! それが、今どきの時代ってもんかね。どうなっちまったんだかねぇ、この国……この世の中はァ!』って、まァ、そう言って{嘆|なげ}いとったけんどなァ。
 娘っ子は、頭のいい{娘|こ}でなァ。
 オッサン追ん出しゲームの王座を、一度も、誰にも{譲|ゆず}らんかった。
 いつも、隣りのヒノ(-モロー){島|じま}のカアネエとかいう娘っ子と、何をするにも、張り合っとった。
 そのカアネエという娘っ子も、なかなかの切れ者じゃったらしい。
 じゃが、女っちゅうもんは、よう解らん!
 その競い合っとた二人が、手に手を取って、二人仲{良|よ}う潜入班に志願したんぢゃあ!
 二人とも、優秀な成績で調査学校のすべての課程を修めて、ヒノ島を出て行った。
 この家船の娘っ子は、今もどこかに潜入して、まだ任務に就いとるんじゃろうてぇ」

 何やら、訊きたいことが、次から次へと噴き出してくる感じ!
 何はともあれ、一つだけ、訊くことにした。
 「調査学校ってーぇ??」と、おれ。
 するとその馴染みの爺さんは、応えて{斯|こ}う教えてくれた。
 「本当の授業のときが、調査学校さ。
 巡回授業所って呼ばれるときは、授業じゃのうて、聴講のときよねぇ♪」……と。

 本当は、そんなことよりも先に、どうしても訊いて確認しておきたいことが、一つだけあった。
 それは……。
 「この(オンボロ・クソボロ)船で、{遠出|とおで}?
 冗談だよねッ?
 冗談、好きだもんねぇ?
 ねッ?
 ねーぇ?!」
 ……と。

_/_/_/ 「後裔記」、「然修録」
http://shichimei.hatenablog.com/
_/_/_/ 『亜種記』
Vol.1 [ ASIN:B08QGGPYJZ ]

_/_/_/ 『息恒循』を学ぶ _/_/_/
その編纂 東亜学纂
その蔵書 東亜学纂学級文庫
その自修 循観院