MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

東亜学纂学級文庫

『息恒循』を学ぶ

一息87 ミワラ<美童>の後裔記 R3.5.8(土) 夜7時

#### 一息オオカミ「爺さんの{謀|はかりごと}が臭う! おれと二羽の航海実習」後裔記 ####

 ジジサマが、*伝えたかったこと*。我ら自然{民族|エスノ}、{武童|タケラ}の使命、おれら{美童|ミワラ}の使命、文明と和の{民族|エスノ}の{子等|こら}の使命。そしてオマケ、二羽の*使命*!
   学徒学年 オオカミ 齢13

 一つ、息をつく。

 「この空き家、どこに浮かんでたのさッ!」と、ウミネコ。
 {体|てい}は、もたついて{艇|に}渡してもらったくせに、こやつめッ! 口は、一番乗りだ、まったく。
 爺さんは、表情さえ変えなかったけれど、出来れば{訊|き}いて欲しくない{話題|トピック}であるかのように、無表情のまま、空を仰ぎながら、{俄|にわ}かに応えて言った。

 「灘の南西の外れ。ここからだと、真南に下った辺りぢゃった。
 {干出岩|かんしゅつがん}があるはずの辺りに、潮に逆らって流されもせず、動いとらんやった。
 まさかと思って恐る恐る、船を寄せて行ったところ案の定、岩に乗り上げて{船腹|はら}を{擦|す}っとった。
 {舷縁|ふなべり}越しに{甲板|デッキ}を覗いてみたら、顔に見覚えのある老夫婦が、干物になっとた。
 子どもが出来るんが、遅かったからなーァ。
 一所懸命に働いとったが……。
 使命と責任を{全|まっと}うした{挙句|あげく}が、愛しい{子等|こら}に看取られることも出来ず、しかも干物とはなッ!
 自然界とは、無情なもんよォ!」

 「使命ってぇ?」と、直ぐに訊いたおれ。
 そう言ってしまった後で、言う前に少し気遣うべきだったなと、少々反省する。無論、反省しても仕方がない{類|たぐい}の反省だ。
 反省{序|つい}でに……という言い草は、ちょっと無理があるが、ここで、この爺さんを「{爺|じい}さん」と呼んでいることに関する弁解を、しておこうと思う。
 {然|しか}し、まァ! シンジイといい、カアネエといい、この爺さんといい、{武童|タケラ}という生きものは、なんでこうも一人の例外も無く、偏屈な人間ばっかなんだろう。
 一応、この爺さんに、名前を訊くには、訊いたのだ。
 すると……。
 「このわしの顔が、口先に五感を集中させたような梅干し{婆|ばばあ}に見えるとでもいうのかァ! それとも、おまえより年下の男の子にでも見えるってかァ? どう見ても、{爺|じじい}じゃろがい! だったら素直に、{爺様|ジジさま}と呼べ!」
 と、そんな訳なんだけんども、さすがに「ジジさま」は、ちょっと……ねぇ!
 {閑話休題|それはさておき}。

 爺さんは、{斯|こ}う教えてくれた。
 「地上に出たわしらが支流で、{未|いま}だに地底に住んどるやつらが、我ら{民族|エスノ}の本流ぢゃ。
 それは、いいなァ?
 で、ぢゃ。
 地底でも、野菜や果物は、栽培できるようになった。
 でもなッ!
 地底で、新鮮なイワシが群れたり、マグロが{遊弋|ゆうよく}したりなんぞ、でけんやろッ?
 じゃから、誰かが{漁|すなど}って届けるしかないっちゅうことよねぇ。
 それで、ひと休みする時も、休みの日も、ずっと海の上っちゅうことになったという{訳|わけ}ぢゃ。
 解ったかーァ?!」

 「勇敢な海賊も、なんか、情けないことになっとるんだなッ!」と、トンビ。
 「おまえ、詳しいのかァ?」と、おれ。
 「あんた、詳しくないのかい?」と、ウミネコ。逆に、問われる!
 (旅のおまえに、言われる筋合いはない!)と、思うおれ。
 「詳しくはないけど、おまえらの祖先、海賊なんだろッ? おまえ、地底の本流さんたちに、会ったことないのかァ?」と、トンビ。露骨に、{怪訝|けげん}な顔。
 「ない!」と、おれ。{何故|なぜ}か、胸を張って。声も、大きく。
 ……ここで爺さん、口を挟む。
 この{瞬間|タイミング}なら、異存はない。
 どうぞーォ♪

 「わしも、無い。誰も、知らんのぢゃ。地底集落が、どこにあるのか。{船住|ふなずまい}の漂海民ですら、漁ったもんの{最終顧客|エンドユーザー}がどこに住んどるか、知らんという訳じゃ。
 昔から、地上集落は、地底集落の近くに{創|つく}ってはならんという決まりがあるんじゃ。地上集落は、標的にされ{易|やす}いからなァ。地上が襲撃されたら、地底も巻き添えになってしまうからなァ」

 「そんなもん、その地底なんとかがどこにあるか判ってないと、そこを避けて地上にそのなんとかを創ることなんか、できしまへんやんけーぇ!! だべしゃーァ??」と、ウミネコ。
 「なすーぅ!! ……なんじゃが、そこは、大丈夫なんぢゃあ♪ 申請書を出すからな。『もそっと東へ五十キロくらい行け』とか、『但し、百キロ以上は行くな』とか、認可と同時に、そんな条件が付いてくるという訳ぢゃ」と、爺さん(自称ジジさま)。

 「てか、でごんす!
 その方向とか範囲とかの条件を集めて、地図に{描き入れ|プロット}すりゃあ、あるていどの位置が判るっちゅうもんたいちりめん!」と、トンビ。こいつ、腹でもへっとんかい!
 「まァ。そうなんじゃがな。でもな。その申請書を管理しておるのは、{遥|はる}か東の{彼方|かなた}の文明界の中枢に入り込んどる潜入班の調査員なんじゃとか、じゃないんじゃとか、どっちやねん! ……とまァ、そんな訳なんぢゃーァ」と、ジジサマ。
 「まァ、わざわざそんな危険なところにまで行って、その申請書を手に入れようなんて考えるバカは、{居|い}ないだろうからなッ!」と、おれ。
 「それが、{居|お}ったんぢゃ。しかもそれは、おまえらが通っとった寺学舎の先輩三人組ぢゃ!」と、ジジサマ。
 「三人組ーぃ!?」と、おれ。
 「知っとるん? あんた、その三人組」と、ウミネコ。
 「知らん!」と、おれ。
 「なんじゃい!」と、トンビ。
 「その話は、これで、終わりぢゃ。
 それより、操舵員、代われ!
 実習にならんじゃろがい!」と、ジジサマ。

 舵取りを代わったおれ。そして、手持ち無沙汰というか、羽持ち無沙汰というか、何か言いたそうに首を左右に振りながら、そわそわ落ち着かない様子の二羽。
 それを察してか、ジジサマ。何やら独り{言|ご}ちるように、{呟|つぶや}きはじめた。

 「文明人は、わしら自然人の存在を、知らんのじゃ。存在せんものに気を遣えっちゅうのも、{酷|こく}っちゅうもんぢゃ。
 じゃあ、存在を知らせたら、気を遣ってもらえるかっちゅうたら、その逆じゃ。消去されてしまう。
 木は倒され、草花は刈られ、土は掘り返され、集落は丸裸にされて、押し潰されて、消滅する。
 文明界の{子等|こら}は、そんなことを、何も知らん。罪は無い。そんな子等も、次の大戦じゃあ、殺さにゃならん。それは、正義かァ?
 じゃが、それをやらねば、{何|いず}れその子等は、存在を知らない分化してしまった亜種……{即|すなわ}ち、わしら自然{民族|エスノ}を、知らず知らずのうちに、絶滅に追い込むことになる。
 大人になったその子等が、もし、わしらの存在を知れば、{躊躇|ちゅうちょ}することなく、わしらを消去することじゃろう。
 これから、大事なことを言うぞッ!
 そこの白いのと、茶色いのォ!
 この半年の間に、少しは、人間のことが解かってきたじゃろう。
 疎開してきたおまえらだって、磯の鳥や、森の動物たちのことが、相当だいぶん、解ってきた{筈|はず}ぢゃ。
 それと、{同|おんな}じことなんよォ♪
 おまえらは、文明{民族|エスノ}の子等や、和の{民族|エスノ}の子等のことを、もっと理解せにゃいけん。
 その逆も、{然|しか}りじゃ。
 相手の努力も必要じゃが、わしら自然{民族|エスノ}も、とくに{美童|ミワラ}のおまえたちは、文明や和の子等に、少しでも多くを理解してもらえるように、もっともっと、努力せねばならん。
 そのためには、もっと、対話せねば!
 そのためには、もっと、交わらねばならんということぢゃ。
 子どもたちだけでも、一つにならねば、一つに戻らねば、次の天地創造を見る前に、ヒト種は跡形もなく、亡びゆく。
 おまえも、門人学年になったら、{躊躇|ためら}うことなく{果敢|かかん}に、文明界や和の連中のところへ、飛び込め!
 おまえらが知命して、無事に{武童|タケラ}になった{暁|あかつき}には、自分の子に、そうするように教えるんぢゃ。
 文明の子等も、和の子等も、もう{既|すで}に、自ら考え、自ら行動して、わしらの世界に飛び込んでくるような能力は、持っておらん。
 大人たちに押さえつけられて、がんじがらめで、考えることも動くことも禁じられて、大人になって気づいたときにはもう、自分一人では、何も考えることができん。自分一人では、何一つ、行動ができん。そんな{憐|あわ}れな変種に、なってしもうとるんよねぇ。
 おまえらが動かねば、もう、一つにはなれん。一つになれなんだら、自然から離脱してしもうた奴らは、わしら自然界のすべてを、亡ぼしてしまうことじゃろう。
 その{要|かなめ}を担うわしら自然{民族|エスノ}とて、既に、{武童|タケラ}{等|ら}はもう{皆|みな}、戦うことを選んで、その準備を着々と進めて{居|お}る。
 おまえらの先ず最初の敵は、おまえらの先輩や{先達|せんだつ}や親たち……即ち、おまえらの{同胞|はらから}なのぢゃ。その味方、身内と先ず闘って、相手を変え、自らも変わってゆかねば、わしら自然の一部のすべての生きものに、未来は無い。
 わしが、おまえらに言いたかったのは、そこんところぢゃあ!」

 暫し沈黙……と、言いたい{場面|シーン}だが、ウミネコのオバンが、その空気を踏み倒すように言った。
 「あのさァ。この船、なんて名前なんだい?」
 「幸福丸♪」と、ジジサマ。
 「アンチョコだなッ!」と、トンビ。
 「{餡|あん}とチョコが、どうしたのさッ!」と、ウミネコ。
 「あんぱんと板チョコが、食いたいってことさッ!」と、おれ。
 「食い散らかすから、陸に上がってからにしてくれんかァ!」と、ジジサマ。
 「なんだかなーァ!! この島に居ると、なんか実感、湧かねーやァ!」と、おれ。
 「左脳が、退化してしもうたでな。わしら自然の人間たちは……」と、ジジサマ。

 「おい!
 そこの羽根が退化したオバハンと、{嘴|くちばし}の器用さが退化したオッサン!
 てか、年齢不詳だけど……。
 おまえらも、なんか手伝えよッ!」と、おれ。
 何も聞こえない振りをする、ウミネコのオバン。
 「指名されても、使命は御免{蒙|こうむ}る!」と、トンビのオジン。
 海面では、カモメの子等が、凛々しい顔で整列して、水泳教室の実技講習に、{勤|いそ}しんでいた。 

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Vol.1 [ ASIN:B08QGGPYJZ ]

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