#### 一息マザメ「循観院に珍客! 梅子さんが連れてきた謎の五人」後裔記 ####
そうです。あの追ん出しゲームの五人組が、あたいの島(森)を荒らしに(?)、梅子さんに連れられやって来た! その{齢|よわい}に、唖然! その女の子の言い草に、{感奮|かんふん}!
学徒学年 マザメ 齢12
一つ、息をつく。
「おかえり!」と、あたい。
「暗いねぇ。相変わらず。
森の中でも走ってくればァ?
太陽神、{傾|かし}いでるけど、まだ西の空に見えてるし。
もっと、光を浴びなさいよ。
脳細胞、死んじゃうよーォ?!
だから、あんたが書くこと、いつも暗いのさッ!」と、梅子。
「そうかもね。忠告、有難う」と、あたい。
「友だち、連れてきてやったよ♪
友だち、欲しかったんだろッ?」と、梅子。
「それは、余計なことだったね。
あたい、瞑想の修行中なんだ。
こう見えても……」と、あたい。
「そうなのーォ!?
それは、残念ね。
『あんたたち、{要|い}らないってさ。
悪かったね。帰っておくれッ!』」と、梅子。
「いやいや、それじゃあ、あたいが悪もんじゃんかァ!
あんたのお客なんだからさァ。
そこで{温|あった}まってから、帰ってもらいなよ」と、あたい。
すると、梅子さん……。
「訂正。
要らないけど、あたいの客ならしゃーないから、{身体|からだ}だけ温めたら、直ぐに帰れだってさ。
さァ、入っといでよ。
地底の星の子どもたちーぃ♪」
「まったくッ!」と、あたい。
「何が、『まったく』なんだい?」と、梅子。
「勉強し直せってってことさ。
{言|い}い草じゃなくて、{言|こと}の葉をねぇ!」と、あたい。
「それこそ、要らないよッ!
あたいは{燕|ツバメ}だから、言い草でいいのよ。
言の葉は、あんたが勉強しなさいよッ!」と、梅子。
ぞろぞろと、子どもたちが、入ってくる。……五人。身体を、温めはじめる。皆、無言。
「言の葉ってのは、同年代だと、遠慮しちゃうのねぇ?」と、梅子。
「いやいや、どう見たって、あたいのほうが、上っしょ!」と、あたい。
ここで、チビちゃんたちの中で、一番大きい女の子が、口を開いた。
「礼を言います。
失礼しました。
あたいは、少循令の{石将|せきしょう}。
オオカミさんって人と、同い年。
よろしく。
でも、間もなく失礼します」
「ウギョギョ!
あたいより、年上なのォ?
そう言えば、梅子さんさァ。
さっき、地底の星って、言ってたよねッ?
あんたたち、地底の元祖自然人なのかい?
それとも、新種の亜種かい?」と、あたい。
すると、その一番上の女の子が、{胡坐|あぐら}をかいた格好はそのまま崩さず、あたいのほうに向き直って、言った。
「どっちゃーでもないよ。
あんたたちと同じ、枝分かれした地上の自然人さ。
あたいらの島には、寺学舎はないけどね。
こっちの島の史料室と、朗読室の巡回授業所が、あたいらの学舎さ。
こっちの島に渡るために、穴、掘った訳じゃないんだ。
あたいらの先祖の話ね♪
隣りの島に渡って来たとき、地上には、和の人たちの集落があったんだ。
亜種を{違|たが}えてしまった以上、そこに集落を構えると、島を荒らすことになるからね。
縄張りを、侵すってことさ。
だから、地底に、集落を{創|つく}った。
この島まで掘ったのは、たまたまさ。
この島に渡るために掘った訳じゃないんだ。
それに、この島に{山城|やまじろ}の遺跡が埋まってなかったら、ここに研究棟が建つこともなかっただろうって、タケラたちが言ってた。
星っていうのは、あんたが感じたとおり、小さいってことさ。
地底に{鏤|ちりば}められた、小さな星たちって意味ね。
たまに、こそこそ外に出て遊ぶんだけどさァ。
太陽の光が足りないから、細胞が育つのが、遅いんだ。
だけど、そのぶん、あんたたちより、美肌かもね。
まァ、そんなことは、どっちゃーでもいいんだけどさ。
大事なのは、外見の美じゃなくって、美の世界っしょ!
あんたたちも、そう習ったんでしょ?
寺学舎で……」
(こりゃ、ヤバイ……元い。ヤバ面倒っちい女と、絡んじまったみたいだ。やっぱり、早く帰ってもらわなきゃ!)と、思ったあたい。
……と、あたいが押し黙って物思いに{耽|ふけ}っていると、梅子さんが、{嘴|くちばし}を挟んできたッ!
「メスってのは、徐々に、威厳と貫禄が備わってくる生きものなのさ。
そこが、美の世界。
崇拝と信仰によって、初めて、到達し{得|う}る。
そこを目指す道が、哲学よ。
科学では、到達は{疎|おろ}か、そもそも、道が違う。
若いメスにその美を探し求めても、その美の世界を観ることはできない。
美の世界に到達するためには、長い年月を必要とするからさ。
根気が要る。
ときには、大努力も要る。
その長きに亘った忍耐と大努力が、ある日突然、一夜にして、無に帰す。
そこが、美の世界さッ♪」
この梅子さんの持論展開に、意外にも、あたいよりも先に、あたいよりも年上らしい{美童|ミワラ}の女が、応えて言い返した。
「あたいらが星って呼ばれるのは、そんな訳の解んない美の{所為|せい}じゃないよ。
ミワラだろうが和だろうが文明だろうが、あたいらヒト種の子どもはみんな、生まれ持った美ってもんがあんのさッ!
……美徳。
それが、運命の{道標|みちしるべ}となる。
その道の先に、あんたが言う美の世界があるのかもしれないけど、そんなことは、どうだっていい。
あたいらは、闘わなきゃならないんだ。
ヒト種は、百年ごとに戦争をやるっていう、ふざけた宿命があんのさ。
神様の{気紛|きまぐ}れ……てか、夫婦喧嘩の勢い!
そんなもんであたいらは、闘うために生れ、その戦いによって死んでゆく。
それが、あたいらヒト種の生き方なのさ。
あたいらが、あんたたち鳥の種のことを理解できないように、あんたたち鳥の種だって、あたいらヒトの種を理解することは、不可能なのさ。
あんたが、悪い訳じゃない。
子を産んで育ててる大先輩に、あんたってのは、随分失礼な言い草に聞こえるでしょうけど、まァ、悪くは思ってないから、大目に見てちょうだいねッ♪」
梅子さん、これまた意外! まったく動ぜず、ぼそっと言った。
「あんたの言う生まれ持った美も、あたいが言ってる美の世界の美も、どっちも美術品って訳さ。
美術品は、同じ美術品を、鑑賞したりなんかしない。
美は、他の美を見たりなんかしないってことさ。
だから、あんたが持ってる美と、あたいが言ってる美とは、一生、出逢うことも無ければ、たとえ接近したって、相手を見て取ることもない。
それで、いいのさ♪
だから、変われる。
だから、生き残れる。
それが、あたいら自然の一部が、今まで悠久延々と、繰り返し繰り返し{遣|や}り続けてきた、**進化**ってやつさ」
ここであたい、口を出す。耐えがたきは耐えない主義なので……(信じられないでしょうけどーォ♪)。
「どうでもいいけどさァ。
さっきから、あんたしか、喋ってないじゃん!
他の四人は、人間の言葉も、{燕|ツバメ}の言葉も、喋れないって訳かい?」
あたいより年上らしき少女、これまた以外にも、明解に即答!
「{微|び}に入り{細|さい}を{穿|うが}つ。
あんたたちは、地上でしか暮らしたことがないから、言葉でしか気を遣えないのさ。
そんな下等動物が、あたいらに異見なんか唱えるんじゃないよッ!
千年早いわァ!
てか、そのころにはあんたたち、もうとっくに、退化の{挙句|あげく}に亡んでるわよッ!
{身体|からだ}、温まったから、ご指示通り、行くねぇ♪
礼を言うよ。
有難う。
最後に一つ。
オオカミっていう男に、もし置いてけぼりにされて、先に行かれちゃったら、相談に乗るよ。
一宿一飯の恩義までは無いけど、一瞬一温の恩義くらいは、この美しい肌に、感じてるからさーァ♪
じゃあねッ!」
女がそう言い終わると、五人、ぞろぞろと、サッサと出て行ってしまった。
あたい……梅子さんに向かって、一言。
「納得できないんだけど。
一人だけが、ベラベラ!
あたいらムロー学級8人組では、絶対に有り得ない。
8人みんな、腹ん中にあるもんは、全部口から出し切る!
だから、仲間なんじゃないのォ?
あたい、間違ってるーぅ?!」
梅子さん、{暫|しば}し間を置いて、ぼそっと応えて言う。
「{六然|りくぜん}さ。
六然に徹しないと、地底では、生きていけないってことさ。
でも、あの子たちだって、あんたたちと同じ、地上のミワラさ。
{俄|にわ}か地底人でさえ、あれだけ六然に徹しないと、生きていけないんだ。
何百年も地底で生き続けてるあんたたち自然{民族|エスノ}の本流の人たちは、想像を絶する厳格さで、六然とか七養とかを、固く護り続けてきたんだろうねーぇ」
そんまま、夜は、勝手{気儘|きまま}に、{更|ふ}けていった。
(置いてけぼり?
オオカミが、動き出したァ?
勝手にーぃ??
あたいらに、何の断わりもなくーぅ?!
次会ったら、ぶっ飛ばしてやるッ!)
あッ、いけない!
莫妄想、莫妄想……。
おやすみなさい♪
_/_/_/ 「後裔記」、「然修録」
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_/_/_/ 『亜種記』
Vol.1 [ ASIN:B08QGGPYJZ ]
_/_/_/ 『息恒循』を学ぶ _/_/_/
その編纂 東亜学纂
その蔵書 東亜学纂学級文庫
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