#### 一学スピア「波動、煽起、言葉の力。命の深さと重さを測る!」然修録 ####
今まさに、時代は動乱へと、転がり落ちている。武士や維新の志士たちは、そんな動乱で終始した時代に、なぜ、*どうやって感奮できたのか*。そもそも、ぼくらとは、別人? 何が違う? *どこが違うのか*。それは、何を測れば{判|わか}るのかッ!
少年学年 スピア 少循令{猫刄|みょうじん}
一つ、学ぶ。
たぶんだけど、{武童|タケラ}たちの勝手で連れて来られたこの島……いざ離れるとなると、何か物悲しく、心残りを覚えてしまう。
ほかの連中はどうだか知らないけど、ぼくにとっては、この島は、まだまだいっぱい、学べることがあるような気がする。
でも、今はもう、学んでいる時でも、バヤイでもない!
実感は、まだ湧かないけれど、時代は、着実に動乱へと、向かっている……というより、転がり落ちている。
ぼくらの亜種に限らず……というか、分化が始まる以前、ぼくらの国の先人たちは、己を鼓舞し、涙し、汗し、血に{順|したが}って、幾多の国難を乗り切り、国体と国民の生命を、護り抜いてくれた。
どうしてそんな、神のような離れ業を、成し遂げることができたんだろう。
《 波動、{煽起|せんき}、言葉の力 》
{内にこもる力|ボルテージ}が上がる。そういうときがある。それは、{解|わか}る。では、本当に理解できているか。答えは、{否|いな}。内にこもっている〈力〉って、何ぃ?
それが、波動。
武士や維新志士たちの一挙一動からは、波動が出ていた。その波動が、若者に伝わり、奮起させる。{煽|あお}ぐと波動が{戦|そよ}ぎ、それを浴びると、熱意が{漲|みなぎ}り奮起、{終|つい}には、決起する……{是|これ}、煽起。
こう書くと、如何にも危うく伝わってしまいそうだけれど、家族を{護|まも}るとか、民族を護るとか、{況|ま}してや一国一文明を護るといったような場合は、これくらいの波動が飛び交わなければ、国難を乗り切ることはできないのかもしれない。
事実、吉田松陰は、{裂|さ}けるほどに見開いた目に涙を{湛|たた}え、髪の毛を逆立たせ、声を震わせて、波動を放ったと言われる。そのときの心情を、自ら{斯|こ}う書き残したそうだ。
「{甚|はなは}だしきは熱涙点々……」
普段は、花や昆虫たちと{戯|たわむ}れる、心優しい青年だった松陰……何があって、どうしてそうなったのかッ!
ここまでボルテージが上がると、言葉にも力が{具|そな}わる。命が{漲|みなぎ}っている証拠だ。
{即|すなわ}ち、言葉は命!
命……即ちそれは、自分。
{故|ゆえ}に言葉は、自分自身を、己の心を、表す。
ならば、{言霊|ことだま}という言葉も、{頷|うなず}ける。
言葉は、魂の{息吹|いぶき}。
魂が漲っていれば、言葉は自信に満ち溢れ、自由{奔放|ほんぽう}にして大胆、されど繊細にして、気が細部まで行き届く。
それが、波動だ。
波動も、煽起も、言葉の力も、時間を{刻|きざ}む事も、それらすべてが、命の{仕業|しわざ}なのだ。
父親のために人間学の書を{著|あらわ}した偉大なる哲学者が、{斯|こ}う教えている。
「声とはもともと腹よりいずるものなり。声腹よりいずるとき一かどの人物」
{一廉|ひとかど}というのは、名前に恥じず、能力が他の者より一際{優|すぐ}れているということだ。
なるほど、頷ける。
《 命を{測|はか}る 》
命は、時間で{計|はか}ることができる。でもそれは、長さとか容量とかの計測に過ぎない。命には、重さとか、奥深さというものもある。それを測るには、何を見れば{判|わか}るのか。
それを判断するためには、「人間の資質を見なければならない」と、偉大な先人たちは、書の中で口を{揃|そろ}える。
明の時代の儒学者が、三十年の長きに{亘|わた}る{呻|うめ}きを著した書、『{呻吟語|しんぎんご}』のなかに、{深沈|しんちん}{厚重|こうじゅう}という言葉がある。「この深沈厚重こそが、第一等の資質だ」と、言っている。
深さ、沈み、厚み、重さ……{況|いわん}や、どっしり落ち着いて、深みがある人。そんな資質を持った人のことを、〈人物〉と呼ぶ。人物であるから、その{物|ブツ}を正すことができる。それが、寺学舎で教えられた、格物。
資質が人物でなければ、自分を正すことも、その天命を{格|ただ}すことも出来ない。深沈厚重の無い資質……即ち、〈物〉を欠いた{人|ヒト}は、言葉にも行動にも仕種にも、芯が無い。
そもそも、資質そのものが無い?
それ{故|ゆえ}に……なのか。
ワーワーと、騒がしい。
考えが、浅い。
言葉が、軽い。
そんなヒト種が、うようよと、{居|い}る。
それが、この世……{嗚呼|ああ}、生き地獄!
_/_/_/ 「後裔記」、「然修録」
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_/_/_/ 『息恒循』を学ぶ _/_/_/
その編纂 東亜学纂
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