MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

一学86 ミワラ<美童>の然修録 R3.5.15(土) 朝7時

#### 一学スピア「波動、煽起、言葉の力。命の深さと重さを測る!」然修録 ####

 今まさに、時代は動乱へと、転がり落ちている。武士や維新の志士たちは、そんな動乱で終始した時代に、なぜ、*どうやって感奮できたのか*。そもそも、ぼくらとは、別人? 何が違う? *どこが違うのか*。それは、何を測れば{判|わか}るのかッ!
   少年学年 スピア 少循令{猫刄|みょうじん}

 一つ、学ぶ。

 たぶんだけど、{武童|タケラ}たちの勝手で連れて来られたこの島……いざ離れるとなると、何か物悲しく、心残りを覚えてしまう。
 ほかの連中はどうだか知らないけど、ぼくにとっては、この島は、まだまだいっぱい、学べることがあるような気がする。
 でも、今はもう、学んでいる時でも、バヤイでもない!
 実感は、まだ湧かないけれど、時代は、着実に動乱へと、向かっている……というより、転がり落ちている。
 ぼくらの亜種に限らず……というか、分化が始まる以前、ぼくらの国の先人たちは、己を鼓舞し、涙し、汗し、血に{順|したが}って、幾多の国難を乗り切り、国体と国民の生命を、護り抜いてくれた。
 どうしてそんな、神のような離れ業を、成し遂げることができたんだろう。

   《 波動、{煽起|せんき}、言葉の力 》

 {内にこもる力|ボルテージ}が上がる。そういうときがある。それは、{解|わか}る。では、本当に理解できているか。答えは、{否|いな}。内にこもっている〈力〉って、何ぃ?
 それが、波動。
 武士や維新志士たちの一挙一動からは、波動が出ていた。その波動が、若者に伝わり、奮起させる。{煽|あお}ぐと波動が{戦|そよ}ぎ、それを浴びると、熱意が{漲|みなぎ}り奮起、{終|つい}には、決起する……{是|これ}、煽起。

 こう書くと、如何にも危うく伝わってしまいそうだけれど、家族を{護|まも}るとか、民族を護るとか、{況|ま}してや一国一文明を護るといったような場合は、これくらいの波動が飛び交わなければ、国難を乗り切ることはできないのかもしれない。
 事実、吉田松陰は、{裂|さ}けるほどに見開いた目に涙を{湛|たた}え、髪の毛を逆立たせ、声を震わせて、波動を放ったと言われる。そのときの心情を、自ら{斯|こ}う書き残したそうだ。
 「{甚|はなは}だしきは熱涙点々……」
 普段は、花や昆虫たちと{戯|たわむ}れる、心優しい青年だった松陰……何があって、どうしてそうなったのかッ!

 ここまでボルテージが上がると、言葉にも力が{具|そな}わる。命が{漲|みなぎ}っている証拠だ。
 {即|すなわ}ち、言葉は命!
 命……即ちそれは、自分。
 {故|ゆえ}に言葉は、自分自身を、己の心を、表す。
 ならば、{言霊|ことだま}という言葉も、{頷|うなず}ける。
 言葉は、魂の{息吹|いぶき}。
 魂が漲っていれば、言葉は自信に満ち溢れ、自由{奔放|ほんぽう}にして大胆、されど繊細にして、気が細部まで行き届く。
 それが、波動だ。

 波動も、煽起も、言葉の力も、時間を{刻|きざ}む事も、それらすべてが、命の{仕業|しわざ}なのだ。
 父親のために人間学の書を{著|あらわ}した偉大なる哲学者が、{斯|こ}う教えている。
 「声とはもともと腹よりいずるものなり。声腹よりいずるとき一かどの人物」
 {一廉|ひとかど}というのは、名前に恥じず、能力が他の者より一際{優|すぐ}れているということだ。
 なるほど、頷ける。

   《 命を{測|はか}る 》

 命は、時間で{計|はか}ることができる。でもそれは、長さとか容量とかの計測に過ぎない。命には、重さとか、奥深さというものもある。それを測るには、何を見れば{判|わか}るのか。
 それを判断するためには、「人間の資質を見なければならない」と、偉大な先人たちは、書の中で口を{揃|そろ}える。

 明の時代の儒学者が、三十年の長きに{亘|わた}る{呻|うめ}きを著した書、『{呻吟語|しんぎんご}』のなかに、{深沈|しんちん}{厚重|こうじゅう}という言葉がある。「この深沈厚重こそが、第一等の資質だ」と、言っている。

 深さ、沈み、厚み、重さ……{況|いわん}や、どっしり落ち着いて、深みがある人。そんな資質を持った人のことを、〈人物〉と呼ぶ。人物であるから、その{物|ブツ}を正すことができる。それが、寺学舎で教えられた、格物。
 資質が人物でなければ、自分を正すことも、その天命を{格|ただ}すことも出来ない。深沈厚重の無い資質……即ち、〈物〉を欠いた{人|ヒト}は、言葉にも行動にも仕種にも、芯が無い。
 そもそも、資質そのものが無い?
 それ{故|ゆえ}に……なのか。
 ワーワーと、騒がしい。
 考えが、浅い。
 言葉が、軽い。
 そんなヒト種が、うようよと、{居|い}る。
 それが、この世……{嗚呼|ああ}、生き地獄!

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その編纂 東亜学纂
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