MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

一学89 ミワラ<美童>の然修録 R3.5.23(日) 朝7時

#### 一学ムロー「船乗りのセンス無しとトンビに{揶揄|やゆ}されたオオカミ君へ」然修録 ####

 グライダー野郎から、船長資質に関して手厳しい評価を受けてしまった、オオカミ君。以来、後裔記を書いていないようだが……。*間もなく船出*する、君ら四名。*その船長*として、心に留めておいて欲しいことが、二つある。それは、一に素朴愚拙、二に洞察力だ。
   学人学年 ムロー 青循令{猫刄|みょうじん}

 一つ、学ぶ。

 話が長くなると、ヨッコに怒られる!
 説明が足りないと、ツボネエに怒られる!
 考察が浅いと、マザメに無視される!
 以上、いつも正直な感情を返してくれる学友女子三名に、日頃の感謝を包み隠さず伝えておく。
 ありがとよッ♪……(ポリポリ)

 では、オオカミ君へ。
 ご安航を祈りつつ、次の言葉を贈る。

      **一に、素朴愚拙**

 元来、我ら自然{民族|エスノ}に和と文明を加えた三亜種は、一つの〈ヒト種〉だった……そう、俗に言う、人間。
 その人間の魅力とは、一体全体、なんだったのか。{将又|はたまた}、そもそもそんなものは、無かったのか。俺は、あったと信じる。それは......。
 素、朴、愚、拙。

 特に、〈拙〉。
 これを、今まさに処女航海に{挑|いど}もうとするオオカミ船長への、{餞|はなむけ}としたい。更に、そのオオカミ船長に{順|したが}うマザメ、スピア、サギッチの三名には、〈愚〉にならねばならぬ時があることを、心に命じておいて欲しい。
 さもなくば、おまえらは、海難で仲間割れをして、総員、死ぬ。それはそれで、生きものとして仕方がないことで、何ら悲しむ要因は無いのだが、動乱に備えて動き出す同志は、一人でも多い方がいいに決まっている。
 なので、もしおまえらが、生きて俺らが疎開したこの島に漂着でもしようものなら、それもそれで仕方がないことなので、助けてやるかもしれない。
 でもなッ! もしそれが、原住の民たちの命を危うくするような場合、{或|ある}いは、俺たちが授かった天命を妨げる要因が、ほんの{微塵|みじん}でも発覚しようものなら、迷わず、見殺しにする。
 なので、心して、読め!

   《 {素|そ} 》

 何も、身に着けるな。
 裸で、よし。
 木を、見よ。
 {緑緑|りょくりょく}として、華やかな無数の花を咲かせる木は、人間を、喜ばせる。人間に{譬|たと}えれば、色とりどりの華やかな{召|め}し物を身に{纏|まと}った紳士{淑女|しゅくじょ}のようなものだ。
 だが、そんな若々しい{樹々|きぎ}の**滋養**というものを、考えてみろ。葉や花が、滋養のすべてを、吸い尽くしてしまう。
 結果は、どうだッ!
 幹は、{痩|や}せ細る。人間に譬えれば、弱って寝たきりになるってことだ。
 対して、枯れ葉をボロボロと落とす樹々は、そりゃ確かに、見栄えは悪い。人間に譬えれば、食ったもんを抜けた歯の間からボロボロと{零|こぼ}す、枯れ葉老人みたいなもんだ。
 誰だって、(そんな枯れ葉老人に**だけ**は、成りたくない)と、思うことだろう。でも、実際問題、枯れ葉老人は、実に、力強い。この、見栄えの悪い枯れ木、絶対に成りたくない枯れ葉老人こそが、実は、〈素〉の魅力の神髄なのだ。

   《 {朴|ぼく} 》

 泥臭さを、身に着けろ。
 今、スピアは、(海の上に、泥なんて無いよッ!)って、思っただろッ? だったら、持って行け! マザメの後裔記、読んだだろッ? ジジサマが、角スコップで{掬|すく}った汚泥を{一掴|ひとつか}み、ズボンのポケットにでも、突っ込んどけッ!
 海難を、目の当たりにして、絶望が、視界のすべてを埋め尽くしてしまったとき、頭ん中の脳ミソはサラサラ……何気に、ズボンのポケットに、手を突っ込む。
 すると、何故か、ポケットの中は、カチカチ! ドロドロが、知らぬ間に、カチカチになっている。**ドロドロ**の汚泥が、なんと、ただ乾燥したというだけで、なんの苦労もなく、手間も一切かからず、**カチカチ**の脱水{固形物|ケーキ}に変化したのだ。
 これをまた、人間に譬えてみよう。
 汚泥という、世の中の嫌われ者{或|ある}いは外れ者の人間が、乾燥という{虐|しいた}げられた環境のなかを耐え忍び、脱水ケーキという副産物……そう、世のため人のためと相成る有効有益な建築資材……そんな人財、英雄に、変身したということだ。

 こうした泥臭さを身に着けて{居|お}れば、驚くべき発想……創造力が、そして、それを具現させようとする勇気が、メラメラと{漲|みなぎ}ってくる。
 さすれば、奇跡的に、{同胞|はらから}を超えて共同体感覚で結びついた仲間たちの〈命〉を、更には、もしやももしや、{矛|ほこ}を{止|とど}めさせる武の心の創造が、自然の生きものたちや世の人びとの〈命〉をも、救うことが出来るやもしれぬのだ。

 ここで一つ、寺学舎の{諸兄|しょけい}は{素|もと}より、後輩諸君も大好きな、先人偉人の例を出そう。
 ある著名人が、シベリア{抑留|よくりゅう}を経験したときの話だ。シベリア抑留については、話が長くなってしまうので、惜しみつつ省略……{所謂|いわゆる}{割愛|かつあい}とさせてもらう。
 シベリア……戦争に負けて、捕虜の獄中、極寒、靴下が、盗まれる。その犯人は、当然のことだが、同じ獄中に{居|い}た。そいつらは、なんと! いい育ちをしてきた人びと……。
 その「いい育ち」というのは、高学歴で、役所や会社で{知識人|インテリ}と呼ばれ、自称「道徳の模範」と公言し、長きに{亘|わた}り庶民を見下してきた、特別扱いされることに慣れ腐った人間たちだ。
 その腐れインテリが、ついに被害者たちに取り押さえられたとき、彼らに感奮と自反(反省)の涙を流させたのは、なんと意外にも、町外れで細々と魚屋をやっていたオヤジや、流転しながら{的屋|てきや}をやっていたヤクザまがいの若者たちだったという。
 やつらは、なんとッ!
 「そんな、後ろめたいことをして、自分の心を痛めつけることは、もう、{止|や}めろよ。{辛|つら}いときは、遠慮しないで、手を出す前に、口に出せ。声を挙げればいいんだ。さァ、顔を上げろッ! ほらーァ、俺の靴下を{履|は}けよォ。遠慮なんか、要らないからさァ♪」
 ……と言って、すぐに自分の靴下を脱いで、そのインテリの犯罪者たちに手渡したのだそうだ。そんな限界状態で、温かい情を保ち続けられ{得|う}る人間って、まさに素朴で、なんか田舎もんが、輝いて見えるような気がする。
 そう、思わないかァ?
 俺は、そんな気がしてならないけどな。
 無論、真似はできないが……(ガックシ)。

   《 {愚|ぐ} 》

 これは、阿呆のことだ。馬鹿であること。また、馬鹿になれるかどうかということだ。(そんなもん、成りたくねぇやッ!)と、まァまァ、そう言わずに……。 
 阿呆や馬鹿に成れる人間の下には、多くの門下生が集まるのだ。そう……その通り。実に、不思議だッ!
 何故か、解かるかァ?
 (この人のためなら……)
 (この人がやりたいことなら……俺も!)
 と、思わせてしまう、不思議な魅力というものを、周りの人びとに感じさせるからだ。

 前出のエリートが、実は大バカ者だとしたら、ここで言う阿呆やお馬鹿さんは、まさに、正真正銘の、〈お利口さん〉のことだ。
 実際問題、今後、事あるごとに、観察してみるがよい。「俺が俺が……」と、目から鼻に抜けるようなエリートぶりを、鼻から垂れ流しているような〈才{長|た}けもどき〉の人間ってのは、{慕|した}われるどころか、誰も、寄りつこうとすらしないものだ。

 {何故|なぜ}、寄りつきたくないと思われてしまうのか。以前、誰かが然修録に書いていたが、まさにそれ。〈臭い〉からだ。*自*分を*大*きく見せたがるから、{臭|くさ}いと書く。だから、{臭|にお}う。{故|ゆえ}に、近寄り{難|がた}いのだ。

 {即|すなわ}ち……。
 利口とは、馬鹿のことであり、馬鹿とは、利口のことなのだ。
 なので、馬鹿力、阿呆力を、養え!

   《 {拙|せつ} 》

 その意味は、もう、言わずもがなの周知のことだろう。
 {下手|へた}くそーォ!! ……の、ことだ。
 ヘタっぴな人間以上に、魅力的な人間を、知っているかッ! 無論、皆の答えは、{否|いな}であろう。
 同時に、世間を渡れば渡るほど、{斯|こ}うも思うことだろう。
 (なんと、上手に見せたがる人間……その要領を磨くことにしか興味を{湧|わ}かせることのできない人間が、なんと多いことだろう)……と。

 ここでまた、我ら寺学舎同友諸君が大好きな、先人偉人の話を、おひとつーぅ♪ {挟|はさ}んでおく。
 ご存知、西郷どん。
 維新の功労者……として歴史に残ると思いきや、なんと! 逆賊の汚名を自ら羽織って死んでいった、男のなかの男……。
 その西郷どんに心酔した維新の志士は、数知れず。その一人が書いた手記には、西郷どんへの想いが、{斯|こ}う記されていたそうだ。

 「かの人、誠に妙な人だ。一日接すれば、一日の愛が生ずる。三日接すれば、三日の愛が生ずる。しかれど接する日を重ね、今や去るべくもあらず。{故|ゆえ}に事の善悪を超越し、かの人と生死を共にする他、我が生きる道はない」

 結局、この手記の主は、かの人……西郷どんと共に、自決してしまったそうだ。死をも恐れないほどに、後輩同輩たちから慕われた西郷どんという人間味……男の、魅力!
 更には、その慕ってくれた若者たちの早まった血気の尻ぬぐいで、{所謂|いわゆる}犬死にをしてしまう、西郷どん。これ以上の〈愚〉が、一体全体、どこにあろうか。
 純粋で愚かでもあるからこそ、その人間に、{凄|すご}みが備わる……と、いうことなのであろうか。

 {因|ちなみ}に、こんなことを言った人も、{居|い}たそうだ。

 「俺の日々の目的というのは犬死にできる人間になることだ。死を飾り、死を意義あらしめようとする人間なんていうのは単なる虚栄の{輩|やから}だ。そんな人間、いざというとき潔く死にゃあせん。人間というのは朝に夕に犬死にの覚悟を新たにしつつ、生きる意義を感じるのが偉いんだ」……と。

 実は、『葉隠』も、赤穂浪士の忠義も、その神髄は、この言葉で、言い尽くされてしまうのではないだろうか。

      **二に、洞察力**

 委細は、省く。
 理由は、この然修録が、長くなり過ぎるからだ。
 何故、長ったらしくなることを怖れるのか。
 それは、{俄|にわか}かに……最悪は、矢庭に、俺の心の健全保持を、危うくされてしまうからだ。その委細は、この然修録の冒頭参照……(アセアセ)。

 いま俺は、この〈洞察力〉について、学んでいる。学んだだけで、どうにかなるような代物ではないことくらい、諸君にだって、直ぐに判ることだろう。なので、学問での会得と併行して、自らの行動による体得に、努めているところだ。
 俺の心が、{何某|なにがし}かの感奮を覚えたならば、その時は、また改めて、その委細を書こうと思う。ただ、一つだけ、判ったことがある。
 我ら{美童|ミワラ}の最たる唯一無二の自慢は、{況|いわん}や! 生まれ持った美質である。{然|しか}し、その美質のなかに、洞察力は、無い。{欠片|かけら}すら、無いのだ。
 {故|ゆえ}に、洞察力というものは、この世に産れ{出|い}でた後で、自らの意思で、その洞察力のすべて……百パーセントを、大努力の修養よって、身に着けるしか{術|すべ}はないということだ。

 またまた、ツボネエに、「また、性懲りもなく、『委細は省く』だってーぇ?! ほんと、ムローって、不親切! 大嫌ーぃ!!」と、言われるか書かれるかしそうなものだが、まァ……ゴメンなさい(ポリポリ)。

   《 蛇足…… 》

 俺は、犬死にできる{臨時雇いの通行人役|エキストラ}を、目指したいと思う。
 気づいただろうか。
 西郷どんに{纏|まつ}わる語録を残したその主……その先人偉人のお二人とも、名前は記していない。シベリア抑留の経験談の主も{然|しか}り。
 何故かッ!
 そのお二人{等|ら}の名前を挙げるならば、その方々を主役にした新たなる{話題|トピック}を、立てるべきだと思ったからだ。
 名も無い……即ち、犬死に!
 犬死にの覚悟がなければ、脇役という**大役**を、演じ{魅|み}せることは出来ない、そんなものなのかもしれない……と、何気に思ってしまったのだ。
 {故|ゆえ}に俺は、大役……犬死にできるエキストラを、目指したいと思う。

_/_/_/「後裔記」と「然修録」_/_/_/
ミワラ<美童>と呼ばれる学童たち。
寺学舎で学び、自らの行動に学び、
知命を目指す。「後裔記」は、その
日記、「然修録」は、その学習帳。
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Hatena Blog (配信済み分の履歴)
配信順とカテゴリー別に閲覧できます。
http://shichimei.hatenablog.com/

_/_/_/『亜種記』_/_/_/
少循令(齢8~14)を共に学ぶ仲間
たちを、寺学舎では「学級」と呼ぶ。
その学級のミワラたちは、知命すると
タケラ<武童>と呼ばれるようになる。
そのタケラが、後輩たち或いは先達
の学級の後裔記と然修録を、概ね
一年分収集する。それを諸書として
伝記に編んだものが、『亜種記』。
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亜種記「世界最強のバーチュー」
Vol.1 『亜種動乱へ(上)』
[ ASIN:B08QGGPYJZ ]
Vol.2 『亜種動乱へ(中)』
[ 想夏8月ごろ発刊予定 ]

// AeFbp // 亜学纂学級文庫
The class libraly of AEF Biographical novel Publishing