MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

東亜学纂学級文庫

『息恒循』を学ぶ

一息98 ミワラ<美童>の後裔記 R3.6.12(土) 夜7時

#### 一息スピア「アメノウズメも、ビックリ仰天! 震撼と{驚愕|きょうがく}の船出」後裔記 ####

 感動の見送りの場面が……震撼! 一度の下見もなく越してきた宿舎……{家船|えぶね}。その{船住居|ふなずまい}という{様式|スタイル}に……驚愕! 台風の常識を逸したマザメ先輩の行動に、ズングリ号……動揺!
   少年学年 スピア 齢10

 一つ、息をつく。

   《 {跨|また}げば、引っ越し完了ーぉ♪ 》

 以前、ジジサマとオオカミ先輩が汗していた〈手掘りの{浚渫|しゅんせつ}という事情もあって、家船への引っ越しは、限られた時間帯に済ませてしまう必要があった。
 陸上から{直|じか}に、ひと跨ぎするだけで、船住居の敷地内の甲板に入ろうと思うと、中潮か大潮の日の高潮、精々一時間ほどの時間しかないのだ。そんな{訳|わけ}で、朝方に満潮になる大潮の日が、ぼくらの{門出|かどで}……船出の日となった。

 振り返って、おねえさん先生やその生徒たちに、手を振りたかった。でもそれは、マザメ先輩が、許してはくれなかった。
 {斯|こ}う書くと、{何某|なにがし}か、出立の決意のような空気を、頭の中で感じるかもしれない。だけど、その本当の理由は、この家船の構造と、その船住居の様式にあった。
 {兎|と}にも{角|かく}にも、その時のマザメ先輩は、お{腹|なか}の調子が、最悪だったのである。オオカミ先輩が、言った。
 「あいつ、なに食いやがったんだッ!」
 「よりによって、なんで今なんだか……」と、サギッチも。
 ぼくも、何か思ったはずなんだけど、それを、口に出したという記憶がない。

 《 で、その〈家船の構造と、その船住居の様式〉について 》

 船の真ん中のちょっと後ろあたりに、舵輪がある。その直ぐ横に、流し台(……たぶん)。操船しながら娘の話を聴いたり、夫婦{喧嘩|げんか}をしたりと、何かと、便利で不便な配置だ。

 その直ぐ後ろには、{四角い木製の蓋|ハッチ}がある。その下が、{艫|トモ}の{間|ま}。この家で、一番広い部屋だ。ここを、マザメ先輩が使う。

 そして、その後ろが、{厠|かわや}。両手で、握り棒を、しっかり持つ。その手を放せば、液状{或|ある}いは固形の副産物{諸共|もろとも}、自らも、海に{沈|チン}する。

 次、舵輪を握って立っているその{足下|そっか}のすぐ脇にも、木製の蓋がある。やや小さめだ。その下が、ヒヤ間。なんでそう呼ぶのかは、ジジサマも知らなかったみたいだ。
 兎も角、部屋と呼ぶには、めっちゃ狭い。しかも、舵輪と{舵|ラダー}を{繋|つな}ぐ油圧配管まで{這|は}っている。ここが、オオカミ先輩が寝起きをする、船長室だッ!

 次、そのヒヤ間の出入口の直ぐ前。同じ木製だけど、そこは蓋ではなく、でっかい木の板が数枚、渡してある。その下が、機関室だ。

 次、その前。小さめの蓋が、横並びに、等間隔で二つ、並んでいる。その下が、右舷の胴間と、左舷の胴間。それぞれ、ぼくとサギッチが使うことになった。
 {船首|バウ}に向かうに{順|したが}って{船体|ハル}が細くなりはじめたあたりに、また蓋が一つ。ここが、小間。釣りの道具や、{舫|もや}いロープなんかを入れた。
 入れたと言っても、ぼくらがそんなもんを、持っている訳がない。ジジサマが用意してくれて、自らそこに納めてくれていた船具の諸々だ。

 そして、ちょうど船首あたりに、蓋が、もう一つ。ここが、船首の間とは呼ばず、表の間と呼ぶ。{納戸|なんど}……サービスルームといったところかなァ? 床が大きく{傾|かし}ぎ、左右片側の胴間一つよりも狭いので、居室としては、ちょっと難儀だ。
 この表の間に、食材なんかの生活物資が満載だと、ちょっとはマシなクルージングもどきの気分になれたのかもしれないけど、実際には、今ふうの防火仕様の角型ではなく、昔ながらのズングリムックリとした形のポリタンクが、並んでいる。

 出航の前夜、オオカミ先輩が、こんな話をしていた。
 「燃料のリザーブタンクは、各キャビンに分散して納めとかなきゃな。船ってのは、バイ・ザ・スターン……{艫脚|トモアシ}のバランスが崩れると、燃費が落ちるからなッ♪」
 もしサギッチが目覚めていたとしたら、得意の口調で、「なーんじゃそりゃ!」が出てきて{然|しか}りの{場面|シーン}だ。でも、出てこなかったので、本当に寝てたみたいだ。
 まァ、言わないだけで、ぼくも、(なーんじゃそりゃ!)とは思ったんだけど、({俄|にわ}か勉強で気分をよくして喋ってる先輩の腰だか鼻だかを折るようなことを、わざわざそこで言うこともないよねーぇ?!)と、思った{訳|わけ}だ。
 要は、「燃料のポリタンクを一ヵ所に{纏|まと}めて置いといたら、船のバランスが崩れて、{塩梅|あんばい}が悪い! ってことを、言いたかったみたいだ。
 でも、本当に問題なのは、置き場所ではなく、一ヵ所に集めて置いておいたとしても、その集めて置いたあたりの船の喫水……船底から海面までの高さは、殆ど変わらないということだった。
 つまり、予備の燃料が、{愕然|がくぜん}とするほど、少なかったってこと!

   《 荒れる合宿! 揺れる宿舎! 》

 離れゆく岸壁に終始背中を向けていた男ども3名は、その時おそらく、みんな、こんなことを考えていたと思う。
 (いろんな思い出を乗せたまま、離岸してゆく故郷……生まれ育った家。その家船に想いを{馳|は}せながら、片手を{挙|あ}げる、おねえさん先生。
 へんてこりんな*おにいさんたち*と、世にも不思議な{種|しゅ」}のおねえさんが一人……。{何故|なぜ}か不思議と愛着が湧き、無意識に、誰からともなく片手を挙げる、幼い生徒たち……。
 でも、その手は、左右に振られることはなく、そのまま、無残にも、重力に{順|したが}った。
 振り返って、見えなくなるまで、いっぱい手を振ってあげたかったなーァ!!
 でも、それが出来なかった理由、きっと、判ってくれてるだろうから……まッ、いっかーァ♪)……みたいな(アセアセ)。

 烈冬二月の最後の日……。
 天気は晴朗、春の陽気。
 海は、壺の水に油を張ったかのような、穏やかな{凪|なぎ}。
 ほどなく、マザメ先輩の腹の不調が、治る。
 快調になると、腹の虫が、元気を取り戻す!
 ズングリ号は、大きく揺れはじめる。
 ピッチング……。
 オモテ{脚|あし}……船首が、海に突んのめる!
 トモ脚……船尾が沈み込み、船首が天を仰ぐ!
 その、繰り返し。
 ローリング……。
 右舷側に、大きく{傾|かし}ぐ。
 左舷側に、大きく傾ぐ。
 その、繰り返し。

 そして、台風が、最接近!
 オオカミ先輩が、言った。
 「おまえの個室、ココ!」
 そう言って、艫の間の蓋を、指差した。目は、天を仰いでいる。マザメ先輩は、それを聞いても、まだ無言のままだった。すると矢庭に、船首のほうに、スタコラと歩いて行く。
 そして、隔壁で区切られた船艙を、一部屋一部屋、物色していった。そうこうしながらまた戻って来ると、再び、オオカミ先輩の横で、立ち止まった。無論、仁王立ち!
 (この家船で、一番広い部屋。しかも、厠に隣接……元い。上接? てか、壁ひとつ隔てれば、そこはもう、天然の便槽♪ 少しは、気に入ってくれたのかなーァ?! このまま、温帯低気圧に変わってくれればいいんだけどォ……)
 と、そんな起こり得ない希望的*天測*を思い描いていると、突如! 雷鳴が、鳴り響いた。マザメ先輩が、吠えた……と、思いきや、人類が亡んだ後のような静けさ宜しく、穏やかだけど不気味な口調で、言った。

 「{訊|き}きたいことが、三つ。
 燃料のポリタン、まさか、あれだけってことは、ないよねッ?
 どこへ行くか、決まってるんだよねッ?
 それがどっちなんだか、判ってるんだよねッ?」

 ここは、オオカミ先輩の{潔|いさぎよ}さっていうか、本質っていうか、トンビの{奴|やつ}が言っていた言葉……「あいつは、船乗りのセンス、ZEROだなッ!」の{論的証拠|エビデンス}っていうか、そんなことを、何気に感じてしまう場面……には、して欲しくなかったんだけど......。
 オオカミ先輩が、応えて言った。
 「あれだけってことで……ある。決まってない。判らん!」

 {間|かん}、{髪|パツ}の一本も入れさせない早さで、マザメ先輩が、吠えた!
 「エンジン、切りなさいよッ! 燃料、{溝|ドブ}に捨ててるのと、{同|おんな}じじゃない!」
 ……と、そう言うなり、舵輪の前の支柱のアチコチを、人差し指で、タッチしはじめた。
 「(なんだってかんだって、タッチすりゃーァ〈ON・OFF〉できる)って、思ってるみたいだなッ!」と、オオカミ先輩。
 「文明人が作ったSFの映画、{観|み}過ぎだねッ! てか、そんなもん、どこで観たんだろう……」と、サギッチ。
 「巻き巻き液晶モニターで、視聴できるじゃん♪ 知らなかったのかァ? おまえッ!」と、ぼく。
 「じゃあ、おまえも、その文明人が作った映画、観てんのかァ?」と、オオカミ先輩。
 「映画は、滅多に観ない」と、ぼく。
 「じゃあ、なに観てんのさッ!」と、サギッチ。
 「アニメとドラマ」と、ぼく。
 「はーァ??」と、オオカミ先輩。
 「所詮おまえも、タダの子どもって{訳|わけ}かーァ♪」と、サギッチ。
 「違うよ。
 てか、ぼくの事じゃなくって、アニメとドラマの事だけど……。
 どうやって、共感を誘うか。
 どこに、暗示を忍ばせてるか。
 そのデータを、集めてるんだ」と、ぼく。
 「アンジってぇ?」と、サギッチ。
 「心理誘導さ」と、オオカミ先輩。
 「なんだッ! 女たらしのことかーァ♪」と、サギッチ。
 「女たらしってーぇ??」と、ぼく。
 「女が、ションベン{垂|た}らすことさッ♪」と、サギッチ。

 ……時を同じくして、マザメ先輩がまだ目の前に{居|い}ることを、忘れてしまっていたことに「はッ!」っと気づいた……まさに、その瞬間。
 三人の男どもの脳裏に、ある同じ言葉が……ひとつ。
 浮かび上がってきた。
 (**後の祭り**)
 温帯低気圧に変わった台風が、再び勢力を取り戻し、史上最強の猛威を振るいながら、しかも回れ右をして、ズングリ号を直撃したのだった。 

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Ver.,1 Rev.,7
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