MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

東亜学纂学級文庫

『息恒循』を学ぶ

一息100 ミワラ<美童>の後裔記 R3.6.26(土) 夜7時

#### 一息サギッチ「{處女篤考|ショニョトッコウ}……この世の最期に、思うこと。{鰯|イワシ}のウイリー!!」後裔記 ####

 《 矢庭の荒天 》《 一瞬、一瞬の連続…… 》《 運命の時…… 》《 後悔……慈愛 》
   少年学年 サギッチ 齢9

 一つ、息をつく。

 ……と、いうことは、生きている。
 少なくとも、おれは。
 しかも、おそらくここは、この世。
 ここにいるから、この世。
 果たして*ここ*とは、どこなのか……。

   《 矢庭の荒天 》

 月明かり……。
 それは、矢庭の出来事。
 正に、闇夜。
 予告無き、引き波のような不測の大波。
 ドォーン!!
 船底を{叩|たた}く、大きな音。
 船倉の壁も、床も、ビリビリと{震|ふる}える。

   《 一瞬、一瞬の連続…… 》

 胴の間の{木の蓋|ハッチ}は、開けたままだった。
 {甲板|デッキ}の上に、頭だけ出す。
 直ぐ横、闇夜の中に、白い顔{一|ひと}……スピア。
 舵輪のあたりで、白いクレモナロープが、蛇が斜面を登って逃げて行くように、くねっている。
 不器用……。
 オオカミ先輩が、舵輪の支柱に、自分の{身体|からだ}を、{括|くく}りつけているところだった。
 壊れた……。
 オオカミ先輩が、吠えた。
 「右{200|ふたひゃく}、荒天!
 左200、荒天!
 我が心、{荒涼|こうりょう}なりて、退路無し!」

 スピアが、一言。
 「就寝許可のおにいさんが、見える」
 「どこによッ! なんでよッ!」と、おれ。
 「迎えに来たんじゃない?」と、スピア。
 「あの世からかい! やなこったァ!」と、おれ。
 スピア、大声で叫ぶ。
 「ねーぇ!!
 ヒヤ{間|ま}に、降りとけばーァ?!
 危ないよッ!」
 オオカミ先輩、直ぐに応えて、大声で言い返す。
 「バカこけッ!
 波に船首を立てないと、ズングリ丸、ズングリ返るんだぞッ!」
 意味は判ったけど、後から考えると、意味不明。

 オオカミ先輩、矢庭に吠える。
 「今だッ!
 救命胴衣着て、トモの間に、移れ!
 マザメと三人で、生きる準備、なんかやっとけッ!」
 救命胴衣を着て、再びデッキの上に、顔を出す。
 スピアも、ほぼ同時。
 そのスピアが、言った。
 「ぼくたちの命って、首の皮、一枚だね」
 「皮一枚でぶら下がってんのかよッ!
 痛いだろッ!」と、おれ。
 たぶん、そう言ったと思う。
 これも、後から考えると、意味不明。

 ロープで舵輪の支柱に固定されたオオカミ先輩の足を、*手摺り代わり*にして、どうにか生きたまま、トモの間に降りる。
 オオカミ先輩の左足を{掴|つか}んだとき、スピアは、もう一本の右足のほうに、しがみついていた。
 マザメ先輩……。
 魔性の{鮫|サメ}{乙女子|おとめご}と呼ばれる割には、海は、苦手なご様子!
 そのマザメ先輩が、言った。
 「舟のこととか、天気とか、これからどうなるとか、そんなこと話したら、{打|ぶ}っ飛ばすからねぇ!」
 スピア、無言。
 おれも、思い当たる適当な{話題|トピック}、無し。
 暫し……{間|ま}。

 マザメ先輩が、口火を切った。
 「そうだッ!
 おねえさん先生の名前、知ってるーぅ?!
 ゲンコなんだってーぇ!!
 奥深くて暗い意味の〈玄〉に、十二{支|し}の寅。
 それで、玄寅!」
 「暗闇の海底に沈む{虎|トラ}ってことォ?」と、スピア。
 「かもね。
 そうだッ!
 人望の意味って、知ってるぅ?
 みんなに{奢|おご}ってもらうことだよ。
 将来性があるから、見込みがあるから、未来があるから、奢ってくれるのさ。
 それが、人望さッ!」と、マザメ先輩。
 「じゃあ、ぼくら四人とも、人望無しだね。
 だって、未来なんか、無さそうだし……」と、スピア。
 「それ!
 未来の話も、禁止!
 話題、変えてーぇ!!」と、マザメ先輩。

   《 運命の時…… 》

 ドォ、ドォーン!!
 再び、まるで、太鼓を叩くような音。
 それは、ズングリ丸の、どてっ{腹|ぱら}……機関室の底の方から、響いてきた。
 静寂。
 ピューピューと、風は、{煩|うるさ}く吹き荒れているのに、それでも何故か、耳の中は、静寂だった。
 スピアが、言った。
 「エンジン、切ったのかなァ」と、独り{言|ご}ちるように。
 「燃料切れかもなッ!」と、おれ。
 「じゃあ、走り切ったってことでしょ? あとは、ただ流されるだけで、目的地に着ける。だったわよねぇ?」と、マザメ先輩。
 その時だった。

 「おい!
 誰か、燃料計、見てくれ。
 照明切るから、早くしろ!
 ヒヤ間の隔壁、穴、開いてんだろッ!
 そこから、覗け。
 温度計みたいなの。
 早くしろ!」
 意外なことに、マザメ先輩が、動いた。
 そして、何やらブツクサ言いながら、その温度計みたいなのを見つけると、もったいぶったように、言った。
 「あーァ、いッ!
 うーゥ、えーェ?
 おッ!
 三分の一……じゃなくってーぇ!!
 四分の一と、ちょい! ってとこかなッ♪」

 静寂の次に、沈黙が、訪れた。
 その次に訪れたのは、スピアの声。
 「切ったんじゃなくて、止まったんだね。
 エンジン……。
 さっきの、ドォーンでぇ!」
 そして、沈黙とスピアの声の次に訪れた音は……。
 カスッ、ルルルルル......
 カスゥ、ルルルルル……
 と、{哀|かな}し{気|げ}な、エンジンの絶望音♪

 真っ黒い雲
 暗黒の海流
 {牙|きば}のような白波
 水墨画が描く
 地獄絵巻

 向かってくる暗黒の海流と牙のような白波に船首を立てなければ、船は波の肩叩きリレーに押されて{横倒|よこだお}しか、最悪は、船尾を{煽|あお}られて……オカマを掘られてぇ! ほんでもって*つんのめって*、その反動で、ズングリ丸は{顎|あご}を上げて、真っ黒い雲を{仰|あお}ぎながら、ブクブクと、ブクブクと、海底に在るのだろう〈あの世〉へと、サヨナラしてしまう。

   《 後悔……慈愛 》

 マザメ先輩が、変なことを、言いだした。
 そのとき、何故だか、何気に、こんなことを思った。
 (生きているうちに、優しい言葉の一つも、掛けてあげればよかったかなァ……)と。
 マジで、本当に、そんなことを思った、おれ。
 マザメ先輩が言った、変なこと……例えば。

 「人道ってのは、二つあるんだ。
 ペデストリアンと、バーチュー。
 {歩|ある}く道と、{歩|あゆ}むべき道。
 歩く道……ペデストリアンは、もう無い。
 海、海、海……。
 こん{畜生|ちきしょう}!
 歩けやしない!
 {最早|もはや}、歩むべき道に、進むしかない。
 美徳の道……バーチュー。
 あの世の、ペデストリアンさ。
 {解|わか}るだろーォ??」 

 スピアが、言った。
 「親と{同|おんな}じだね。
 女の子って......。
 孝したいときには、もう、死んでる」
 その時だった。
 オオカミ先輩が、吠えた。
 無論、言っておくけど、スピアの言葉が、届いたはずもない。
 依然、荒れ狂う風雨が、耳ん中を、支配していた。
 で、オオカミ先輩……。
 「ショニョトッコウだッ!
 こっちは、おれに任せろッ!
 マザメに、ショニョトッコウしてやってくれ。
 頼む!」

 その時は、その言葉に関しては、まったく、意味不明だった。でも、不思議と、オオカミ先輩が、おれらにして欲しいことが、判るような気がした。
 後で調べてみると、その言葉は、〈處女篤考〉と書くことが、判った。
 その意味は……。

 「女性に接するときは、真心を込めて、愛情のこもった孝行をする」

 (そんなことが出来たら、歴史に、名を{刻|きざ}めるぜぇ!)と、あとになって思った、おれ。
 でも、スピアは、もっと{上手|うわて}だった。
 そのスピアが、壊れた白い顔をして、独り{言|ご}ちた。
 「{處人藹然|しょじんあいぜん}。
 息恒循。
 恒令六日目、{六然|りくぜん}。
 人に接して相手を楽しませ、心地よくさせる。
 この世で最後に、ぼくがやるべきこと……。
 その相手が、マザメ先輩。
 光栄……されど、無念!
 さらば……有事{斬然|ざんぜん}」

 また、オオカミ先輩が、吠えた!
 「重い物は、ぜんぶ、海に捨てろッ!
 船ん中のバケツとロープ、ぜんぶ集めろッ!
 やるだけやって、ダメなら、死ぬだけだ。
 海に落ちてもいい。
 誰が先に死んだって、恨みっこ無しだァ!
 動けーぇ!!」

 動いた結果、おれとスピアは、まだ生きていた。
 集めた鉄バケツにロープを{括|くく}りつけ、オオカミ船長に指示されるがまま、それらすべてを、船尾の右舷側に、投げ入れた。そのロープの末端は、オオカミ先輩の{身体|からだ}に、括りつけられている。
 そして、オオカミ先輩が、言った。
 「おまえらッ! もう、船倉に入れ。
 伏せて、神に祈れ!」

 ズングリ丸は、ピッチング、ローリング、ヨーイングを、繰り返した。つまり、前後、左右、上下に、それぞれ好き勝手に、大いに揺れ続けたということだ。
 その果て……。
 トモの間の出入口に、木製の上げ{蓋|ぶた}……{所謂|いわゆる}カーゴハッチが、被さった。
 言わずもがな、オオカミ先輩の{仕業|しわざ}……即ち、「おまえらだけでも、どうにでもして、何がなんでも、生き残れッ!」っていう、所謂余計な、大きな*お節介*だった。

  ぼくとスピアは、重ね着しているズタボロのポロシャツやラガーシャツのすべてを脱ぎ捨て、それらすべてを、マザメ先輩の身体に巻き付けたり、被せたりした。

 スピアが、おれの目を見た。
 おれも、スピアの目を見た。
 そして、オオカミが、吠えた!

 「{鰯|イワシ}のウイリーじゃーァ!!!!!!」

 【註釈】
 ウイリー……後輪走行。
 それを、鰯の立ち泳ぎに{譬|たと}えたもの。
 {敢|あ}えて漢字で書けば……〈船尾走行〉。

 この世で最後に妄想する光景が、イワシのウイリーとは……。
 いやはや、なんとも。

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Ver.,1 Rev.,7
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