#### 一息ツボネエ「川筋の長屋……人生最初で最後?の休養日」後裔記 ####
《ムローの長屋生活、喜ぶスピアの兄貴》《〈風呂〉の観を{呈|てい}さなかった山女の有り{様|よう}》《SAKE、デビュタント!》《この世の〈就寝許可証〉》
少女学年 ツボネエ 齢8
一つ、息をつく。
《 ムローの長屋生活、喜ぶスピアの兄貴 》
「4人で、よかったんだなッ?」と、ムロー。
「はい」と、ハリツケゴクモン……ではなく、オオカミ先輩♪
「ならば、よし」と、ムロー。
「ここ、どこォ?」と、マザメのねーさん。なんか、居心地が、悪そう。
「仮の住まいだ」と、ムロー。
サギッチは、無言。「腹が減って、喋る元気なんかねぇよッ!」と、顔に書いてある。
そして最後……スピアの兄貴!
なんか、嬉しそう。人呼んで、長屋大好き男!
{土壁|つちかべ}に囲まれた六畳一間だけの居宅が、一つ屋根の下で、長い平屋を成している。
その長屋に沿って、子どもたちの粗末な長靴でも靴下を濡らさずに渡れそうな浅い谷川の支流が、延びている。そのせせらぎでは、油断しきったアマガエルが、ピョンピョン{跳|は}ねて遊んでいる。
「おい! 醤油を、借りて来い」と、ムロー。
「わかった。友達作戦で、いい?」と、アタイ。
「手段は問わんが、こいつらの誰かを連れて行け。そのほうが、余計な時間を取られず、{幾|いく}ばくかの気兼ねも省ける」と、ムロー。
「わかった。速攻逃げきりだねッ♪」と、アタイ。
「それでいいが、借りたものは、必ず、{何某|なにがし}かの礼を添えて、速攻で返せ。いいなッ!」と、ムロー。
「その前に、風呂に連れて行こうよ。だって、臭いじゃん!」と、アタイ。
「わかった。銭湯に着いたら一番に、誰か麦と{蕎麦汁|そばじる}を融通出来んか、番台のオヤジから情報を取れ! 但し、くれぐれも、貸しをつくるでないぞッ!」と、ムロー。
《 〈風呂〉の観を呈さなかった山女の有り様 》
オオカミ先輩とスピアの兄貴とサギッチの先輩くんは、その後裔記から察するに、まだ文明が健全だったころに発祥した〈風呂〉という文化施設を利用しているような、そんな観を呈した生活ぶりだった。
でも、マザメねぇさんのバヤイは、山小屋……元い。循観院に、風呂があるようには、読み取れない。
と、いうことは……雨水を、{溜|た}めていたァ? 谷川に溜まっている{静水|せいすい}を、浴びていたーァ?! 夏なら{兎|と}も{角|かく}、長かった冬……火を起こして湯にしたところで、その直後の湯冷めは、強烈だッ!
それより何より、マザメ様が、そんなことに手間をかけるような女だとは、どうしても思えない。ムローも、マザメのねぇさんのことは、{殊更|ことさら}に気にしていたようだ。
こんなことを、言っていた。
「アイツら、立命期の男ども三名……。
その立命期の後半、少循令の初期段階に{於|お}いて、強いて「功績があった」と何か例を挙げなければならないとするならば、それは唯一、マザメくんを連れ出し、しかも生かしたまま、この島まで旅の共を勤め上げたことだ。
それが今後、{如何|いか}なる{禍|わざわい}の{種|たね}になるかは……兎も角! 自らの行動から、女性を大事にするということを学んだのであれば、それは素直に、『よし♪』とすべきところだろう。
女という{種|しゅ}は、頭脳は{聡賢|そうけん}だが、その心は、{危|あや}うく怖ろしい。
海の神が、{男神|おがみ}のスサノオだったから良かったものの、これがもし、女神のアマテラスだったならば、マザメくんに{好|よ}からぬ{嫉妬|しっと}と怖れを抱き、海も空も、もっと激しく、{荒|すさ}んでいたことだろう」……と。
《 SAKE、デビュタント! 》
陽が、落ちた。
銭湯から戻ったアタイらは、醤油と麦を、ムローは、小川を{遡|さかのぼ}り、{渓流|けいりゅう}の静水で{戯|たわむ}れていた天然{鰻|ウナギ}を、持ち帰っていた。たいそう立派な、{厭|いや}らしい太さをしている。
再び、再会したみんなが揃ったところで、ムローが、言った。
「寺学舎の我らが学級八名のうち、ここに六名が、無事にというか、なんちゅうか、兎にも角にも、{相|あい}{揃|そろ}った。
この目出{度|た}い席に、(果汁とか牛の{乳|ちち}とかの調達を、忘れとるやんけーぇ!!)と、思われてしまうところだが、この島にそんなもんがあるという話は、一度も耳にしたことがない。
{故|ゆえ}に{皆|みな}、これを、{呑|の}め♪」
「これ、水?」と、マザメのねぇさん。
「違う。文明がまだ健全だったころに発明された、機能性飲料だ」と、ムロー。
「言わないのォ?」と、スピアの兄貴。
サギッチの顔を、覗き込む。
「なーんじゃ、そりゃ!」と、皆の期待に応えて、サギッチの先輩くん。
「{蕎麦|そば}{焼酎|じょうちゅう}と、呼ばれておる。アマガエルたちから、そこの静水を{一汲|ひとく}み{拝借|はいしゃく}して、薄めてある。適度な冷水で、いい感じだァ♪
拝借とは言っても、返す必要は、無いがなッ!」と、ムロー。
「目出度いかどうかは別にして、兎も角、乾杯しようよッ♪」と、マザメのねぇさん。
グラスは、{何故|なぜ}か土壁と同じ色の、茶碗……それでもまァ、ほどなく、乾杯を済ませた。
四人の先輩たちの{覚束|おぼつか}無い飲みっぷりに、思わず苦笑する、アタイ。そして、{斯|こ}う言った。
「SAKE、デビュタントだねぇ♪」
「ナ・ン・ジャ・そりゃーァ♪」と、歌いだすサギッチ。
「初心者という意味だ。べつに、褒められた{訳|わけ}じゃない!」と、ムロー。
《 この世の〈就寝許可証〉 》
「てか、初舞台だよ。修行環境仮想薬で{創|つく}った、修羅場の{一|ひと}コマ……」と、アタイ。
「はッ! はーァ??」と、スピアの兄貴。
「元々、酒の{類|たぐい}は、プロパガンダや洗脳によって狂わされたような、異常な心を仮想的に創り出すための妙薬だった。
それを、自ら実体験し、その状況下で、{如何|いか}に正常な思考をし、如何に適切な行動を{為|な}し遂げられるかという、仮想修羅場空間に{於|お}ける修行を、目的としていたのだ。
だが、どんな薬も、元は、毒だ。
醗酵アルコール飲料という、{類|たぐい}{稀|まれ}な効果を発揮する修行薬だが、それだけに、{病|や}みつきとなる危うさを、多分に{孕|はら}んで{居|お}る。
心を狂わされたまま、元の正常な心に戻らなかった中毒者が、続出したのだ。
それが、ヒト種が分化し、文明{民族|エスノ}という亜種が誕生するまでの歴史……史実の一つだ」……と、仮想修羅場体験中の四人に、真顔で説くムロー!
「それはそうと、さっきから黙りこくってるけど、なんか、文句でもあんのかい?」と、オオカミ先輩にからむ、マザメねぇさん♪
すると、{俄|にわ}かに、なんら{躊躇|ためら}う様子もなく、ごく自然に、オオカミ先輩が、応えて言った。
「マザメ!
牛の乳が無いんなら、おまえのオッパイ、吸わせろッ! ちょっとくらいなら、出るだろッ! {乳|チチ}……」
「オッパイ? どこにあるのォ?」と、サギッチ。
「なんか、怖ろしい夢、見てた……(ムニャムニャ)」と、独り{言|ご}ちるスピアの兄貴。
言わずもがな、その怖ろしい夢は、夢では終わらなかった。
ムローが、蒲鉾の板に、マジックインキで、何やら文字を書いている。書き終わると、無言のまま、その蒲鉾板を、四人に示した。
〈就寝許可証〉と、書かれていた。
四人が寝静まったのを見届けると、ムローは、立ち上がった。
そして、{斯|こ}う言った。
「暫くここで、ゆっくりすればいい。家に風呂は無いが、湯銭だけは、どうにかしよう。{乙女子|おとめご}に、不自由や恥ずかしい思いは、させたくないからな。
おまえには、苦労をかけるな。
まァ、勘弁してくれーぃ♪」……と。
てか、それって、なんか、夫婦の会話ァ?
……みたいな(えーぇ!!)。
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Ver.,1 Rev.,8
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