#### 一息サギッチ「予感? アマガエルの卵、サクラの花びら、ズリズリ山」{後裔記|105} ####
《心配事が一つと、悪い予感が一つ》《サクラの花びらと、アマガエルの卵》《意味不明を連発するムロー先輩……ジジチョウを、探せ!》《ズリズリ山と、ジジチョウと、シノマゴ!》
少年学年 サギッチ 齢9
一つ、息をつく。
《 心配事が一つと、悪い予感が一つ 》
若干一名を除いて、「心身共に、概ね復活!」と言ってもいいような、そんな日常が、はじまった。
ムローが、言った。
「骨も折れて{居|お}らんし、外傷は、数こそ多いが、どれもこれも{掠|かす}り傷と切り傷ばかり。起き上がれん言い訳など、どこにもない。
まァ、寺学舎の野外実習で、自反と格物が足りんかったっちゅうこどだな。時間は、充分にある。ここでたっぷり自反して、足りとらん格物を、補えばいい」
「『{放|ほ}っとけーぇ!! 寝かしときゃいいのさァ♪』……みたいなァ?」と、スピア。
「頭引っ込めて口だけ出す*デンデンムシムシ*みたいなーァ??」と、ツボネエ。
「あんたさァ……まァ、いいけどさァ。てか、でんでん虫に、失礼だろッ! こいつは、岩陰に隠れて背中に苔が{生|む}してる、ゲンゴロウさッ♪」と、マザメ先輩。
(それって、ゲンゴロウに、失礼じゃないのォ?)と、思うおれ。
本来、スピアの野郎が口を開くと、そのすぐ後に口を挟んで{然|しか}りのおれなんだけんども、そのときは{何故|なぜ}か、そうはしなかった。
実は、ある予感……すべてとは言わないが、少なくともおれにとっては、限りなく*悪い*ほうに近い予感が、おれの空き倉庫だらけの頭ン中の{可成|かな}りの部分を、占めていた。
{故|ゆえ}に、口数も……少ない……おれ。
この島で目覚めた日の翌未明、顕在意識から潜在意識へのバトンタッチが終わろうかというそのとき、ムロー先輩が発したある言葉に、スピアが、ヒクッ! ヒクヒク……っと反応し、一瞬、目をパチッと見開いた。
すると、スピアの野郎、何か心配事が、すぅーっと消えてゆくかのように、そのまま、層脳の記憶の世界へと、沈み込んでいってしまった。おれの顕在意識にしたって、そのあとのことは、一切、何も、見てもいなければ、聞いてもいない。
で、スピアの野郎が反応した言葉と、その言葉から連想した悪い予感……そこは、外せないよねぇ?
はいはい……{斯|こ}うだ。
反応した言葉……それは、〈技師長〉。
連想、開始♪
技師長→熟練→年配→(予感……ひょっとしてぇ? たぶん……それは、間違いなく)→爺さん!
{況|いわん}や!
シンジイ、ジジサマ、ジジチョウ?
あの野郎は、限りなく無意識に近い{夢現|ゆめうつつ}の中で、おれと同じ連想を、したはずだ。そして、斯うも思ったはずだ。
(やったーァ!! 爺さんじゃーん♪ この島の爺さんからは、何を吸い取れるかなーァ♪ また、歩学かなーァ。出て来い、シャザーン♪ ……元い。出て来い、ジジッチョサーン♪)……みたいな(爆アセ、爆アセ)。
で、どうなったーァ??
《 サクラの花びらと、アマガエルの卵 》
深い眠りに落ちる寸前、ムロー先輩は、{斯|こ}う言った。
「震撼! ……と、正にそのときのジジチョウは、六年前の震撼という感覚を、どうにか言葉で伝えようと、{辛苦|しんく}にも近い努力をしているかのようだった」
ここで、久々に、言わせてもらう。
「なんーじゃ、そりゃ!」
スッキリ♪
てか……失礼!
これじゃあ、状況、呑み込めないよねぇ?
「技師長の六年前……」という、ムロー先輩が発した{何気|なにげ}ない言葉を、{何故|なぜ}かどうしても記憶から拭い去れないおれら三人……だったが、この数日、オオカミ先輩の復活を、ただただ、待った。
難破した同志四人揃って、心に突っ掛かっているその拭い去れない*記憶*の真相に、迫りたかったのだ。おれら{美童|ミワラ}にしては、なんとも有り得ない、悠長な展開。
その{訳|わけ}は、みんなの挙動の一つひとつから、見て取れることができた。
その……〈おれの場合〉編!
散った桜の花びらが、小川にプカプカと浮かんで、サラサラと流れて来る。その一枚に、アマガエルを摘まんで、{載|の}せてみる。ビミョーォ!! 何をするにしても、気が乗らない。
だからって、アマガエル君の同意も得ずに、桜の花びらに載せちまったって訳でもないんだけんどもーォ!!
マザメ先輩も、スピアの野郎にしても、なんだか、脳ミソが、{川面|かわも}に浮かんでるアマガエルの卵……グジョグジョで、とろとろとした未確認浮遊物になっちゃったって感じで……。
なんていうか、ぼんやりとして、何をするにしても、挙動不審に、見えるのだった。
で、オオカミ先輩はァ?
依然!
布団を被って……ピクリともせず。
《 意味不明を連発するムロー先輩……ジジチョウを、探せ! 》
なので……って、それ{即|すなわ}ち、疲れを知ってしまった子どもが四人……そのうち、軽症の三人のこと。マザメ先輩と、スピアの野郎と、おれ。
その三人が、ムロー先輩を{促|うなが}して、おれらの心に引っ掛かっている*言葉*の真相の究明に、{愈々|いよいよ}というか、{漸|ようや}くというか、*やっとこさ*っていうか、{兎|と}にも{角|かく}にも{遂|つい}に、重い腰を、上げることとなった。
言わずもがな、スピアの野郎の目は、さりげなくギンギラギン!
長屋に沿って延びている、不陸な砂利道。
川筋の上流側の長屋の端っこから歩いて{下|くだ}ってゆくと、右側に枝分かれする{獣道|けものみち}が、見えてくる。その道は、その先に{聳|そび}えている{禿|はげ}山へと、延びている。
そのまま、真っ直ぐに{下|お}りてゆくと、下り切った辺りの右側に、銭湯がある。獣道と反対側、分かれ道で立ち止まって、左のほうを向くと、そこは、長屋の下流側の端っこ……ムローとツボネエが借りている、一間しかない一住戸だ。
まァ、一応、角地の一等地ってことで……。
その日の朝、横になっているムロー先輩を、わざわざ叩き起こした。そして三人……{雁首|がんくび}を揃えて、意思表明!
(まったくぅ! 今日は、いきなり、どうしたというんだァ。朝から、{面倒めんどう|}っちい{奴|やつ}らだなァ。はてさて、そうは言っても、仕方がない。技師長は、今日、今の時間、どこに行けば会えるんだかーァ!!)
……と、そんなことを、何気に考えているような、そんな顔を見せながら、ムロー先輩は、{暫|しば}し思案をしていたが、{俄|にわ}かにムクッ!っと立ち上がると、{斯|こ}う言った。
「ジジチョウは、ズリズリ山の帰りに、必ず、ここに寄る。だが、それがいつのことかは、判らん。必ず今日会うためには、銭湯しかない。ジジチョウは、その日の仕事を終えると、シノマゴを連れて、必ず、銭湯にやって来る。
そこを、狙うしかない。もし、夜勤明けなら、まさに、今だッ! 日勤なら、普通に考えれば、夕方狙いだが、職分の高い爺さんだ。長い時間を働くことに、価値を置いては{居|お}らん。即ち、いつなんどき、銭湯に現れるか……まったく、予測不能だ。
決まりだッ!
夕方まで、張り込むぞ。
よし♪ イザ! ……それが、いい♪
イザイザ! 銭湯ーォじゃーァ!!」
……みたいな(ヤレヤレ)。
正に、意味不明!
{禿|はげ}山だから、ズリズリ山?
だからさァ……。
ジジチョウって、誰よォ!
てか、シノマゴって、だれぇ!
待て待て……**誰**とは、限らない。
だったら、シノマゴって、なにぃ!
《 ズリズリ山と、ジジチョウと、シノマゴ! 》
そんな感じで、*マゴマゴ*としていたおれたち……。
幸い……と、そんな甘い希望的観測とは無縁のおれたちは、終日銭湯に張り込み、ヘトヘトになって川筋の一等地に建つ長屋の端っこの{居候|いそうろう}を決め込んでいる部屋へと戻ってくると、そににはなんと、見知らぬ爺さんと少年が一人、そして{何故|なぜ}か、そこにオオカミ先輩が加わり、何やら親し気に、談議の真っ最中だった。
で、その、オオカミ先輩が、言った。
「遅いよッ! ジジチョウの六年前の話、先に聴いてもよかったんだけどさァ。わざわざ、親切に、気{遣|づか}って、おまえらが戻って来るのを、待ってたんだ。
但し! その前にだ。
おまえらが、好き勝手に質問をおっぱじめたら、夜が明けっちまうからなァ。だから……さッ! ムロー先輩の口から出た意味不明の数々……の、中から二つか三つ、おれが、答えてやる。
ズリズリ山とは、{硬|ボタ}山のことだ。ズリとは、炭鉱で掘り出された鉱石のうち、石炭として使えない石っころ……即ち、捨て石のことだ。
そこでジジチョウは、炭鉱技師たちの中の、{長|おさ}。だから、技師長ってわけだ。
シノマゴ君は、ジジチョウの弟子でもあり、お孫さんでもある。だから、*弟子の孫*だ。孫弟子って呼ぶと、弟子の弟子かァ!って、誤解されるから、デシノマゴが、正しいんだ。
でも、ジジチョウは、国際派の爺さんだから、英語みたく、単語の頭文字の{発音|プロナウンス}を省略する習慣が、染みついている。なので、ギシチョウは、{飽|あ}くまで正しく、「デシノマゴ」と、言って{居|お}られるのだ。
ところが、「デ」の発音が無意識に省略されてしまうから、聞くほうとしては、「シノマゴ」と聞こえてしまう……と、いう具合の{顛末|てんまつ}だ。
ところでおまえらッ!
そこに、いつまで突っ立ってるつもりなんだァ?
早く、座れ!」
オオカミ先輩が喋っている間、その爺さんは、黙って目を閉じ、{胡坐|あぐら}をかいて、手は自然に、その{脚|あし}の上にそっと、載せてあった。
禅……{莫|まく}妄想……瞑想?
{否|いや}、そんなことより、おれら三人は、直感した。
この爺さんは、元祖!ヒト種……。
和の{民族|エスノ}だ。
そして、もう一つ。
それは、直感ではなく、直観のほうだ。
ムロー先輩が言っていた、「文明の{奴|やつ}らの潜入調査員」……ではない! と、いうことだ。
潜在意識が、層脳のあらゆる記憶を、瞬時丹念に調べ上げた結果、そう、確信できたのだ。
しかも、ほかの二人……マザメ先輩も、スピアの野郎も、どうやら、異論はなさそうだった。
唯一、判読できなかった顔が、{一|ひと}。
それは……オオカミ先輩。
(やれやれ)と、思うおれ……だった
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Ver.,1 Rev.,9
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