MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

東亜学纂学級文庫

『息恒循』を学ぶ

ミワラ<美童>の実学紀行 No.111

#### マザメの実学紀行「{現|うつつ}の異郷に学びあり。{嗚呼|ああ}、{余所|よそ}者の郷愁」{後裔記|111} ####


 《湧き上がる郷愁、現の異郷に{嫉妬|しっと}する》《この島にもあった! 難行苦行の峠道》《孫の歩学、峠編》《孫の座学、銭湯編》
   学徒学年 マザメ 齢12

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。

   《 湧き上がる郷愁、現の異郷に嫉妬する 》

 (いいね。血の{繋|つな}がりって。この爺さんと孫、{好|い}い感じじゃないかァ。和の生き方かァ……。悪くないかもねぇ)と、何気に思ってしまったあたい。
 親族が食事を共にするって、この人たちにとっては、正に教学なんだねぇ。ジジッチョは、教えることで学び、ガキッチョは、{躾|しつ}けられることで学ぶ。食卓は、正にその座学の場。家で学び、外でも学ぶ。それが、和の人たち……。
 分化した三つの亜種の中で、最も強いのは、意外と、一番弱く見えてる和の{民族|エスノ}なのかもしれない。あたいら自然の{子等|こら}は、人生のスタートの段階で、{既|すで}に負けている。

 社員食堂……ジジッチョとガキッチョは、向かい合って座り、あたいらムロー学級八分の六人も、その両名の横に三人づつ、向かい合って座っていた。
 ジジッチョが、正面を向いて言った。
 「人間の真価を見分ける方法……。{判|わか}るかァ?」
 「わかんねぇ」と、ぼそっと応えて言う、孫のガキッチョ。
 少しの間(ジジッチョ、咀嚼)。
 そしてまた、ジジッチョが、口を開いた。
 「誤解される屈辱に耐えられるか。大望に比すれば、日常で{蒙|こうむ}る誤解など、取るに足らぬものだ」
 孫、問う。
 「ただ耐えればいいのォ?」
 少しの間(ジジッチョ、咀嚼)。
 「その答えは、{否|いな}だ。恩あれば{報|むく}いを、逆に{仇|あだ}あれば、晴らす! 少なくともわしは、そういう生きものだ」と、ガキッチョの祖父、ジジッチョ。
 「それで、安心したよ」と、ガキッチョ。
 どこに安心を覚えたんだかァ!
 「でも、当座の問題は、燃料の石炭を、どこに積むかだねぇ」と、続けてガキッチョ。
 ジジッチョ、新たなる附帯装置を従えてモンモンと黒煙を上げるズングリ丸のオンボロエンジンを見{遣|や}りながら、{俄|にわ}かに応えて言う。
 「成るまでは、多くを語るな。言語を省いて{以|もっ}て神気を養う。語る暇を惜しんで、ただただ{為|な}せ」

 鉱山の{頂|いただき}に着地したところを下界の民たちに気づかれた{天照|アマテラス}は、バツが悪そうに西の空へと{傾|かし}いでいった。その後、爺さんとその孫は、仕事に就こうとはせず、さっさと家路に就くのだった。
 {況|いわん}やァ! それは、歩学の峠越えだった。
 
   《 この島にもあった! 難行苦行の峠道 》

 この島、ヒノーモロー島やザペングール島よりも、小さいみたいだ。
 あたいらが漂着難破したのは、この島の北側の海岸。小さい砂浜と岩場が交互に並び、その一番東側あたりの鼻先が、北東に向いて突き出している。
 そして、あたいらが平屋十人組に付き従って連行された場所……ジジッチョたちの工場がある石炭の積出港は、島の南側の入江の奥にあり、その口は、南西の方角に開いている。
 その口の中の大半は、防波堤と{消波ブロック|テトラポット}で固められている。そのブロックは、今まで見た中で一番大型のもので、テトラポットの形状の特性に{因|よ}って、重厚に積み上げられたブロックの半分っくらいが{空隙|くうげき}になっている。
 天空に口を開けている暗闇の空隙を覗き込むと、そこは、大きな{洞穴|どうけつ}みたいになっている。あたいら自然エスノの地底住みや漂海{船住居|ふなずまい}の連中が、数十家族住まっていても不思議は無さそうな感じの大きな空間だった。
 ジジッチョたちが働いている採掘機器の保守工場は、この積出港のヤードの西側の端っこに建っている。鉱山が、この島の西側を占めているからだ。

 ムロー先輩とツボネエが借りていた長屋の角部屋までは、ヤードの西側に{競|せ}りだしている裾野の雑木林に踏み入り、{獣道|けものみち}から狭いなりにも人道用の峠道に入り、そこから北の方角に上って峠を越えて下りはじめると間もなく、あの銭湯が見えてくる。そこからまた上りはじめれば、{直|じき}に長屋に辿り着く。
 {所謂|いわゆる}、{近道|ショートカット}ってやつだ。長屋に沿って流れている「アマガエル様の小川」(と、あたいが勝手に呼んでいる)は、狭くなったり広くなったりしながら、どうにかこうにかして積出港がある入江に、{灌|そそ}ぎ{出|い}でているようだった。

 この長ったらしい説明の{訳|わけ}は、言わずもがな。長屋への帰路は、このショートカットの険しい上り下りの道を歩かされる{破目|はめ}……好まざる事態へと、進展するのだった。

   《 孫の歩学、峠編 》

 その獣道……。
 先頭は、この森に精通している者でなければならない。{所謂|いわゆる}、案内人。適任、ジジッチョとガキッチョが務める。
 その二人に続いて、長屋十人組の残り九人と、ムロー学級八人組のあたいら六人が、前になったり後ろになったりしながら、入り乱れて付き従っていた。先頭の二人は、まったく後ろを気にする様子もなく、その素振りも見せず、ひっきりなしにどちらかが喋っていた。
 ジジッチョは、低い声で何かを喋っているのは判るんだけど、内容までは、聴き取れない。ガキッチョは、言葉は少なめながらも、ある程度は、〈言葉〉として聞こえてくる。
 特に、次の二つは、ハッキリと聞こえた。しかも、なんども!
 「えーぇ!!」
 「わかった」
 
   《 孫の座学、銭湯編 》

 見覚えのある銭湯を左手に見ると、ムロー学級の六人の歩調は、加速した。{兎|と}にも{角|かく}にも、長屋の角部屋に辿り着いて、自然{民族|エスノ}だけで、いろんなことを整理したかったからだと思う。
 もっと解り易く言えば、横になって、眠りたかった。あたいらには、コミュニケーションは、向いていないのだ。……が、祖父と孫は、脇目も振らず、銭湯に突進した。長屋の残りのガキども九人も、迷わずその後に続く。
 (なんだ、こいつらァ!)と、思った矢先、ジジッチョが振り返って、言った。しかも、あたいの顔を、直視している。
 「おじょうちゃんも、男湯を潜りなさい」
 (はーァ!!)と、思ったあたい。
 ジジッチョが、言った。
 「これこれ、誤解するんじゃない。服は脱がん。昼寝をするだけだ」
 (昼寝? 寝屋かい! 風呂は女専用で、寝屋は混睡でオーケイ♪ってかい。冗談じゃない!)と、思ったあたい。
 何かを察したのか、あたいの顔を見据えたまま、ジジッチョが続けて言った。
 「まァ、それならそれで、問題はない。但し、掃除の邪魔にならんように、隅っちょで寝なさい」
 「どうでもいいけど、そうさせてもらうよォ!」と、即座に応えて言ったあたい。
 言われたとおり、女湯の脱衣場の隅っちょで、横になった。居心地が悪い。眠れない。間仕切りの壁の天端と天井との間には、高さ1メートル半くらいの空間がある。
 間仕切りの壁は、湯場も脱衣場も、男湯と女湯を隔ててはいないのだ。しかも、声が共鳴する。ひそひそ話が、ハッキリと聞こえてくる。

 ジジッチョが、言った。
 「本当に、寝てしまったようじゃな。旅の{奴|やっこ}さんたち」
 「どういうことォ?」と、孫。
 「{瞑想|めいそう}を知らんということだ」と、ジジッチョ。
 「どういうことォ?」と、孫のガキッチョ。
 「禅の修行をしとらんということだ」と、ジジッチョ。
 「座禅かァ! ねぇ……」と、ガキッチョ。
 少しの{間|ま}。
 「あのさァ……」と、続けてガキッチョ。
 「どうしたァ」と、ジジッチョ。
 そして、クソ孫野郎が、言った。
 「あの六人ってさァ。なんかさァ。薄気味悪くない?」
 「当然だ」と、クソジジ野郎。

 (なんでやねん!)と、思わず独り{言|ご}ちそうになったあたい。
 確かに、瞑想のことは、まだ{解|わか}っちゃいない。禅の修行なんてもんも、知ったこっちゃない! でも、ヨッコ先輩の瞑想熱に感化されて、{莫|まく}妄想は、習慣化の域に届いている。だから、掃除してる{女将|おかみ}さん(たぶん)からは、ぐっすり眠っているように見えていたはずだ。

 おクソ孫くんが、また問う。
 「当然ってぇ? どうしてぇ?」
 「感じたり思ったりしたことが、たとえ間違いなく正しくて、当然だと確信できたとしても、それを口に出してもよいという道理を探すことは、難儀。{況|ま}してや、その道理を実際に見つけ出すということは、実際問題、実に困難なことだ」と、ジジッチョ。
 (実に、{面倒|めんど}っちい!)と、思うあたい。
 「それ、どう答えていいか判らないときの言い訳に、使えるねぇ♪」と、ガキッチョ。実に、不届き者!
 「それだッ! 確かに、そうかもしれん。じゃがな。おまえの何気ない言葉一つで、相手の心が深く傷つくこともある。
 己の口から出た言葉で誰かに恥をかかせたり、関係する誰かに余計な{思慮|しりょ}や{詮索|せんさく}を{促|うなが}すようなことがあってはならん」と、クソ孫の実の祖父、ジジッチョ。
 「思慮を{少|すくの}うして{以|もっ}て心気を養う。でしょ? 解ってるけどさァ……てかさァ。じいちゃん! ぼくに、余計な思慮をさせたじゃん」と、ガキッチョ。
 「ばーばばばーァ!! なすかーァ!?」と、じいさん、絶叫!
 少しの間。
 そして、気を取り直して(たぶん)、じいちゃんが、言った。
 「{聡賢|そうけん}は、よいことだ。それが成ったことなら、それでもうよい。これからは、{未|いま}だ成っていないことを{為|な}せ。わしらの世代を筆頭に、わしら亜種、和のエスノは、みなまだ未熟者揃いじゃ。民族を代表して、子々孫々に{詫|わ}びを申す」

 そして、詫びられたその孫々の一人! ……が、言った。
 「詫びなくてもいいからさァ。余計な思慮の始末、ちゃんと{付|つ}けてよねぇ!」

   **{格物|かくぶつ}**

 自反と格物は、最強のワンセットだって思ってたけど、どうやら、そうでもないみたいだね。
 あたいの口は、{禍|わざわい}。
 男どもが{仰|おっしゃ}るとおり、魔性の{鮫|サメ}{乙女子|おとめご}だ。
 確かに自反と格物……己を顧みて、素直に反省して、己を正すってことも、大事だと思うし、王道だとも思う。
 でも、「人の振り見て我が振り直せ」って言葉、あるよねぇ?
 そのほうが早いし、確実かもーぉ!?

 それにしても、自然エスノの{爺|じい}さんも面倒っこいけど、和のエスノの爺さんも、なかなか面倒っちいわい! ……元い。……ですことよん♪
 
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