MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

ミワラ<美童>の実学紀行 No.118

#### サギッチの実学紀行「イザッ!文明エスノの島へ。総員、戦闘配置」{後裔記|118} ####


 《文明{民族|エスノ}の海域で学ぶ。耐え忍んで生き延びてきた日本人類の歴史!》

   少年学年 サギッチ 齢9

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。

   《 文明{民族|エスノ}の海域で学ぶ。耐え忍んで生き延びてきた日本人類の歴史! 》

 叫んだのは、ムロー先輩。
 「浮遊物、{一|ひと}」
 総員、視認。
 茶色く見える……けど、あれは、ペットボトル。
 {所謂|いわゆる}、ポイ捨て。
 文明{民族|エスノ}の気配!

 最初に行動したのは、オオカミ先輩……元い、船長。
 操舵甲板に戻り、舵輪を意味無さげに回し、海面を{隈|くま}なく見渡す。そして、吠えた。
 「ワッチ、組むぞーォ!!
 ムロー先輩、スピア、サギッチの三人は、交替で三時間づつ寝ろッ!
 マザメとツボネエは、三時間に{拘|こだわ}らなくてもいい。
 目が覚めたら、上がって来い。
 ワッチは、時間厳守だッ!
 おれが寝ている間は、スピア! 舵を取れ。
 おれは、ヒヤ間で寝る。
 何かあったら、ハッチの上で足踏みして、おれを起こせッ!
 以上」

 「以上って、あんたァ……。
 急に、どうしたのさッ!」と、マザメ先輩。
 オオカミ先輩、応えて即答。
 「この先、とんでもないゴミの浮遊物、定置網、{牡蠣|カキ}{筏|いかだ}、干出岩や暗岩、帯状の浅瀬、何が出てきても、不思議じゃない。
 しかも、どいつもこいつも、知命的だッ!
 昼も夜も、雨風の荒天もギンギラギンの晴天も、運航の品質を、均一に保つ必要がある。
 この船は、{最早|もはや}、縦横無尽の{家船|えぶね}じゃない。
 漁網や牡蠣筏を、{曳|ひ}き{綱|づな}で{曳航|えいこう}してる漁船みてーぇなもんだッ!
 フロートの下には、{網籠|あみかご}が海底に向かって、なん個もなん個も連なってる。
 何かに引っ掛かったら、アウトだァ!
 引っ掛かれば、強い衝撃を伴って船足は止まり、引っ掛かった網籠を曳いてる{綱|ロープ}は、引き裂けるか、でなきゃ、ぶった切るしかない!
 小さい無人島が二つ並んでるのが見えたら、この{戦|いくさ}は、おれたちの勝ちだッ!
 その間を、突っ切る。
 でも、{擦|す}り抜けられるかどうか{危|あや}ういくらいに、狭い。
 そこで、エンジニアのおにいさんが用意してくれた{方位磁石|コンパス}と海図で、三点航法をやる。
 無事に擦り抜けられれば、もう目的の島の港に着いたも同然だッ♪」

 みな、無言。
 マザメ先輩、不満そうな顔。
 (また島かい!)と、思っている……たぶん。
 ムロー学級、総員八名、現在員六名。
 ほどなくワッチ……見張りの当直に、就く。
 マザメ先輩とツボネエは、{艫間|ともま}で*ふて寝*……たぶん。
 スピアが最初の就寝で、二つある胴の間の一つで読書……たぶん。
 ワッチは、ムロー先輩と、おれ。
 ムロー先輩が{右舷|うげん}見張りで、おれが{左舷|さげん}見張り。
 おれが、言った。
 {呟|つぶや}くように……というより、訴えるように!
 「文明エスノさえ{居|い}なきゃ、こんなことする必要無かったんだよなッ!
 てか、おれらの目的は、文明エスノを{亡|ほろ}ぼすことだろッ?
 なんでこんな意味不明というか無意味な船旅、延々だらだら続けなきゃなんないのさッ!」

 少しの間……。
 ムロー先輩の声が、聞こえる。
 「おまえ、漫才師を知っとるか。
 人類史上、最も難しい職業だ。
 {他人|ひと}を怒らせることは簡単だが、笑わせることは、難しい。
 おまえは、いつも怒っとるか、文句を言っとるかの、どちらかだ。
 俺が漫才師なら、おまえを笑わせてやれるんだがなッ!
 喜怒哀楽。
 その四つが揃って、はじめて人間だ。
 おまえも早く、人間になれ。
 もう、時間がない。
 これより、文明エスノの島に、突入だ」

 陽の光は、おれたちを{誘|いざな}う。
 満ちた月も、おれたちを誘う。
 誘い込まれたそこは、正に! {黄泉|よみ}の国……。
 {怒哀|どあい}人サギッチ、どこへ行くーぅ♪

 おれの背中が、戦いに{急|せ}いて、ふて腐れてでもいたのか。
 オオカミ先輩が、背後から声をかけてきた。
 「スケッチ班、上がれッ!
 (なーんじゃそりゃ!)って、思うだろォ?
 {聖驕頽砕|せいきょうたいさい}で大敗して、おれたちの国は、アメリカの占領下に入った。
 その後、やっとこさの独立もどきで、{未|いま}だに相変わらず、*もどき*なんだけどさァ。
 そのモドキになって、半世紀が{経|た}とうかというプチ昔の話さ。
 日本の領海内でソ連海軍の巡洋艦に遭遇した護衛艦は、領海侵犯をして*ふてぶてしく*航行してやがる敵艦に向かって、「出て行ってください。出て行ってください……」っていう信号を、送り続けるんだ。
 当然、非力なアメリカの被保護故国のチャンガラ駆逐艦のお願いなんて、聞き入れてくれるはずもない。
 それどころが、〈シャッター音が、敵艦を刺激する〉っていう信じられない理由で、通信の{科|マーク}の隊員たちが、{艦橋|ブリッジ}周りの上甲板に上がってきて、みんなでせっせと敵艦のスケッチを始めるって寸法さ。
 正に、耐え難きを耐え、忍び難きを忍んだって{訳|わけ}さ。
 今はまだ、耐え忍ぶ時期だ。
 おまえも、少しは耐え、少しは忍べぇ!」

   **{格物|かくぶつ}**

 熱意……よし♪
 ど真剣……よし♪
 でも、これだけじゃ、撃沈!
 不名誉な、{殉死|じゅんし}。

 考え方を変えなければ、おれのせいで、みんなを道連れにして、黄泉の坂を、転がり落ちることになる。
 そこに気づいたところは……まァ、よしだなァ♪
 
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