MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

後裔記 第1集 No.131

=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=
_/ 2 /_/ 後裔記 第1集の子どもたち
寺学舎 美童(ミワラ) ムロー学級8名
=--=--=--=--=--=--=--=--=--=--=--=--
未来の子どもたちのために、
成功するための神話を残したい……
=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=
_/ 1 /_/ 『亜種記』 電子書籍
亜種に分化した子どもたちの闘戦物語
全12巻、第1~2巻発売中
_/ 2 /_/ 「後裔記」 メールマガジン
亜種記の諸書、子どもたちの実学紀行
週1回、夕方5時配信
_/ 3 /_/ 「然修録」 メールマガジン
亜種記の諸書、子どもたちの座学日誌
週1回、夕方5時配信
=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=

※電子書籍編集のための記号を含みます。
  お見苦しい点、ご容赦ください。

#### ワタテツの実学紀行「ヨッコは表で俺は裏。ザックリ明かす裏事情」{後裔記|131} ####

 ● 裏街道! 内舎の薄暗い牢屋、謎の内舎監理当直室
 ● ある日の監理室……あの二人の会話が、俺を変える?
 門人学年 **ワタテツ** 齢16

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。

 ◆◇◆
 裏街道! 内舎の薄暗い牢屋、謎の内舎監理当直室

 {皆|みな}の期待?!に反して、俺……ワタテツは、生きて{居|お}る。
 悪しからず♪

 次、管理棟の補足。
 ヨッコ{等|ら}が言っている*管理棟*という呼称は、正しい。
 ただそれは、建物の名称だ。管理棟の中には、港湾管理所と、内舎監理当直室がある。ムロー先輩等六人が連れてこられたのは、港湾管理所。俺とヨッコも{然|しか}り。そこから、ヨッコもムロー先輩等も、外舎へと連れて行かれた。ヨッコは外舎の規定どおり軟禁生活に入り、ムロー先輩等は、{此度|こたび}ヨッコ引率の{下|もと}、外舎から脱走した。
 ヨッコは、自分の人格……というか、他人からどう見られるかというところを大きく変えて、自分を良心的な和の{民族|エスノ}だと信じ込ませるために、港湾管理所の所員二名に暗示を掛けた。{由|よ}って、自由度の高い外舎にて軟禁という判断が下された。
 ……で、俺。
 そのまんま!
 {因|よ}って、{怪|あや}しまれ、自由度の少ない内舎にて監禁という判断が、下された。恐らく、幕末に吉田松陰が投獄されたときの牢屋よりはマシな造りだろうとは思うが、そこはやはり牢屋は牢屋……ということで、狭く薄汚れた内装と粗末な便所にチャンガラ寝台がポツン♪……と、いったところだ。

 はてさて、その牢屋の中で、何をするかッ!
 食う、寝る、{放|ひ}る……あとは、筋トレに柔軟体操。そこに何かを付け加えるならば、精々読書くらいなものだ。松陰先生は、処刑の間際まで「本をくれ!」と言って学問を怠らなかったそうだが、さすがにそこまでの筋金は、入っていない。
 それにせよ、目的を{違|たが}えど確かに、(読書は、正解ーぃ♪)と、思われた。
 どう違えていたかというと、松陰先生の目的が学問であるのに対して、俺の読書の目的は、精神を平常に保つため……とでも言おうか、{将又|はたまた}、自分を変えるため? それとも、往生際悪く、生き延びたときのために、どう知命すべきかを考察するための知識……{所謂|いわゆる}、単なる材料集めとしてぇ?
 まァ、そんなこんなって{訳|わけ}で、当直の監理人が牢屋の前を通過するときには、声をかけて本をせがんだ。その{嘆願|たんがん}を聞き入れてくれたのは、入れ替わり立ち代わる当直の面々の中で、たったの二人だけだったが……それが、あの二人。俺とヨッコ、そして漂着した六人を港湾管理所で尋問した、あの若い二人だ。

 本を何度も何度も{乞|こ}うているうち……ある日のことだ。その二人のうち、{年嵩|としかさ}のほうの青年が、俺が{居|い}る牢屋の前で立ち止まった。そして、{斯|こ}う言った。
 「監理室で尋問だ。怪しいところが無くなるまで、何度でも連れて行くぞ。疑いが晴れなければ、上舎行きだ。出ろッ!」
 それは、意識して……というか、少々わざとらしいほどに大きめの声だった。内舎から内舎監理当直室まで歩くすがら、その年嵩のほうの青年が言った。

 「牢屋は、暗いからな。
 あんなに本ばっか読んでたら、目を悪くする。監理室は明るいし、当直員たちが持ち込んで溜まった本が、本棚にズラッと並んでる。君に頼まれて未だ渡していない本も、何冊かあった{筈|はず}だ。深夜の読書にはなるが、牢屋は昼間でも薄暗いから、読書よりは{寧|むし}ろ、寝る時間に当てたほうがいいだろう。
 言っとくけど、嬉しそうな顔は、するなよなッ! 連れ出し{難|にく}くなるからなァ♪」

 どうやら、この夜の{経緯|いきさつ}は、もう一人の年下のほうの若者にも、それに{倣|なら}うように伝達されたらしい。なので、結構頻繁に、俺は、「監理室で、存分に読書をする」という好待遇に恵まれることと、相成った{訳|わけ}である。

 それは{兎|と}も{角|かく}……港、管理棟、内舎、外舎の位置関係が、概ね見えてきた。管理棟は、港に面している。管理棟と内舎は、広い整地された文明{民族|エスノ}の公有地の中に点在する施設で、歩いても数分という近い距離に{在|あ}る。
 言わずもがな、外舎は、その公有地の外だ。ヨッコが、他の六人を引率して、半島の峠を上りはじめたということは、その峠を越えたところにある港に面した平地が、その公有地とういうことに相成ろう。

 ◆◇◆
 ある日の監理室……あの二人の会話が、俺を変える?

 内舎監理当直室の本棚に、偶然なんだかどうなんだか、暗示に関する本が数冊納まっていることは、意外にも、深夜の読書の最初の日に気づいた。だが、読む気などサラサラなかった。
 それが、どうしたことでしょう!
 写真読みどころか、のちに、精読するに到った。
 そのきっかけとなったのが……あの、例の二人の青年の会話だった。その日は、年嵩の青年が当直だったのだが、どうやら、年下のほうの若者が、その当直を代わってやるようだ……と、{傍|はた}で聞いていて、そう思わせるような会話だった。
 年嵩のほうの青年に連れられて監理室に着いて、間もなくのことだった。港湾管理室で仕事の片づけを終えた年下のほうの若者が、監理室の鉄の片引き戸を引いて、中に入ってきた。そのときの会話が、{斯|こ}うだ。

 先ず……年嵩のほうの青年が、年下のほうの若者に、声をかけた。
 「{鹿頭|しかとう}くんさァ。今日は、デートかーァ!?」
 「ぅーんなわけないっしょ!
 予定なし。発泡酒……っていうか、新ジャンルの発泡酒もどき、場合によって{蕎麦|そば}焼酎の湯割り、読書……は、たぶんせずに、風呂♪
 気づいたときには、それはぼくじゃなくって、潜在意識という名のぼくの正体……みたいな。そんなとこっすかねーぇ♪」……と、鹿頭くん。
 「そっかーァ……」と、年嵩のほうの青年。
 すると鹿頭くん、問われてもないのに、応えて斯う言った。

 「{解|わか}ってますよ。外舎に行きたいんでしょ? 彼も、あの六人も、疑わしさっていう点では、大差はない。それなのに、彼は内舎で監禁。あの六人は、外舎で軟禁。自分が下した判断は、果たして正しかったのか。あの六人は、外舎で大人しくしてしてくれているだろうか。
 そもそも、ヨッコっていう少女……あれ、あの{娘|こ}の*地*なんだろうか。今から思うと、どこか、わざとらしい……みたいな。
 そんなこと、考えてません?
 外舎で何事もないことを確認しないと、オチオチ寝てもいられない……でも、持ち場を離れるわけにもいかず……で、ここ、ぼくに代わって欲しいんでしょ? 『もし何事もなければ、直ぐに戻って来れるから。ちょっと残業になるけど……どうだろう、鹿頭くん!』……みたいなこと、訊きたかったんじゃないですかァ?」

 (まったく。察しがいいというか、{遣|や}り{難|にく}いというか……)と、思っているような微妙な表情を隠せなかった先輩の青年。そして、{俄|にわ}かに言った。
 「何事もないってことは無いような気がするんだ。その予感がもし当たれば、鹿頭くんは、{此処|ここ}で夜明かしだ。予告のない残業や休日出勤は、普段の昼間の仕事の二倍……{否|いや}、三倍疲れるからなァ。
 ……っていうか、今、どんな本を読んでるんだい?」
 「マンガっすよ♪
 但し、世界中のローニャクニャンニョが読んでる名作ですけどねぇ」と、鹿頭くん。
 「じゃあ、僕も、こんどそれ、読んでみるかなァ♪ もし君が、貸してくれればの話なんけど……」と、先輩の青年。
 「そこの棚に、並べてありますよ。興味が無いものは、視界に入ってきませんからね。今なら、視界に入るんじゃないですかァ?」と、後輩の若者。
 俺を連れて戻って椅子に腰かける{ちょっとした間|タイミング}を逃してしまった先輩の青年は、立ったままの{序|つい}でにといった感じで、窓際の書棚が並んでいる一角のほうに歩きだした。ほどなく、書棚を挟んで、俺と向かい合う。

 すると、後輩の若者が、言った。
 「じゃあ、当直、頑張ってください。お先ーッすぅ♪」
 「えッ?」と、思わず先輩の青年……小声を漏らす。
 「いやいや……」と、思わず俺。ため息のように、息を吐きながら、小声が漏れる……と、その矢先、我に返った。

 後輩の若者の意外過ぎる言葉と、それによって決定づけられた想定外の展開のお蔭で、ヨッコ等七人は、命拾いをしたのだ。そう、この日は、ムロー先輩等六人が、無意味な原っぱまで護送され、ヨッコに外舎まで連れて行かれ、そして、俺が監理室まで連れ出してもらったそのとき、ヨッコの引率によるムロー学級七名の峠越えが、まさに現在進行形だったのである。

 鹿頭くんが、出入口の鉄の片開き戸を押しながら、振り返りもせず、斯う言った。
 「言われなくても{判|わか}ってると思いますけど、先輩、ヨッコって少女に、甘いっすからねぇ。まァ、それも仕方がないってのも、解るんっすけどねーぇ♪」

 **{格物|かくぶつ}**

 修練の成果……好感度バツグンのヨッコと、元々偽善に満ちた好感度を身に着けた六人が、ここにやって来る。「感度よーしぃ♪」と、暗示を掛けることに成功した七人は、ほどなくズングリ丸に帰着すべく、ここを{発|た}つ。
 そして、疑惑満載で{仏頂面|ぶっちょうづら}の俺は、何事も無かったかのように、内舎の牢屋へと、連れ戻される。
 演技、暗示を掛ける……{即|すなわ}ち、自分を変える。{所謂|いわゆる}一つの、超不得意分野!
 でも、その苦手意識を克服しなければ、ムロー学級から脱落……その、第一号になってしまう。

 まったく……難儀だ。
 たいぎーぃ!!
 
_/_/_/ ご案内 【東亜学纂学級文庫】
Ver,2,Rev.11

https://shichimei.hatenablog.com/about

【レーベル】〈メルマガ配信〉 東亜学纂学級文庫
熊本県阿蘇市一の宮町
《阿蘇神社総本社/肥後一の宮「阿蘇神社」最寄》

【パブリッシング】〈電子書籍発行〉 東亜学纂
広島県福山市鞆町
《日本遺産/国立公園第一号「鞆の浦」平港最寄》