#### サギッチの{後裔記|133}【1】実学「不滅の神話」【2】格物「師たる預言者」 ####
体得、その言行に恥ずるなかりしか。
少年学年 **サギッチ** 齢9
【1】実学
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不滅の神話
文明エスノの{曲者|くせもの}か、和のエスノの指導者か、{将又|はたまた}自然エスノの潜入{武童|タケラ}か……{何|いず}れにしても、気を許す{訳|わけ}にはいかない。でも、その後ろ姿は、{鈍間|のろま}で滑稽で、歩学が好きそうな無害の{団亀|どんがめ}という感じだった。
そんな、突如現れて威勢よく、{然|しか}しながら声を押し殺しておれらを{叱咤|しった}した{得体|えたい}の知れないオッサンを班長として、谷川の岸辺に身を隠しながら、一列縦隊で森の奥へと上って行った。
そして、無駄に{潰|つい}えた時間の後を追うかのように、森に射し込んでいた夕方の西日も、{終|つい}には森の枝葉に{遮|さえぎ}られて、ほぼ完全に{閉|と}ざされてしまった。
するとオッチャンは、ところどころで枯れ葉が堆積している場所を、キョロキョロと束の間見渡すと、その中でも一番表層が乾燥している辺りに、腰を下ろした。
幅の狭い谷川の河原を歩いているうちは、「どうにかして欲しい!」ほどの鈍間に見えていたオッチャンだったが、河原の上り坂の{勾配|こうばい}が角度を増しても、その歩く速度は変わらず、おれたちは知らず知らず、必死こいて歩かされてしまっていた。
オッチャンとおれら七人が枯れ葉の{絨毯|じゅうたん}の上に腰を下ろし終えると、直ぐに、ツボネエが口を開いた。
「ねぇ。なんでそんなにのろのろ歩くのォ?」
オッチャンが、応えて言った。
「早く歩くと、右足を引きずらにゃならん。発見した地域と右足が不自由という情報が電脳チップにインプットされると、該当する人物全員のデータァが抽出され、そのそれぞれの対象人物の思考パターンや行動パターンが、解析されてしまう。
その結果を基に、抽出データァと解析データァに優先順位が施され、いくつかの対応が策定される。更に、もしそれが失敗したときのための対処案も、同時に作成される。
{即|すなわ}ち、完璧なのだッ!
その電脳野郎が出した結果{如何|いかん}で、わしは、殺されるやーァもしれん。将又、無視されて命拾いする結果となるやーァもしれん。じゃから、思考や行動のパターンが、出来るだけ平凡で目立たんように、努めて{居|お}るという訳じゃ」
「じゃあ、オッチャンは、和のエスノかい? 文明の{奴等|やつら}に狙われてるのに、あたいら自然を、助けてくれた……」と、マザメ。
「そうとも限らんさ。事実、港湾管理所の二人は、文明エスノの管理職員にも拘わらず、君らを自然エスノだと見抜いて、助けてくれたじゃないか」と、オッチャン。
「じゃあ、オッチャンも、文明の人なのかァ?」と、オオカミ先輩。
「だから、そうとも限らんと言っとるじゃないかァ! それより、せっかっく港湾の若い衆に{匿|かくま}ってもらったっていうのに、何を血迷ってわざわざ目立つところを*ほっつき*歩いとんじゃあ! まったく……」と、オッチャン。
「そういうときはさァ、{斯|こ}う言うんだよ」と、そこまで言ったおれは、そこで言葉を切られてしまった。
そして、そのおれに代わって、オッチャンが、言った。
「わけわかんねーぇ♪」
「正解! お見事ーォ♪」と、オオカミ先輩。
「随分と読まれ{易|やす}い言動パターンだなッ!」と、ムロー先輩。
「{兎|と}も{角|かく}、どっぷり日が暮れるまで、おまえらもわしも、{迂闊|うかつ}には動けん!」と、オッチャン。
その言葉を聞くと、矢庭に問題児……元い。危険人物のスピアが、口を開いた。
「ねぇ。だったらさァ。そもそも何がどうなってこうなっちゃたのか、知ってる範囲でいいから、話して聴かせてよォ」
「あんたさァ! そもそもと、何がと、どうなってと、こうなっちゃったの*こう*のスペシャル四本立てを聴こうって言うのかい? そんなもん聞かされた日にゃあ、その日の陽がどっぷり暮れるどころか、次の陽がひょっこり昇ってきちゃうじゃないかァ!」と、ヨッコ先輩。実に、正しい。まどろっこしいけど……。
で、そのヨッコ先輩の懇願の叫びを無視して、オッチャンが、語りはじめた。
(爺さんだけじゃ飽き足らず、今度は、オッサンが{標的|ターゲット}かい!)と、思うおれだった。
……ではでは、おれの潜在意識によって、バッサリと{割愛|かつあい}された、オッチャンの講釈。
「こんな感じでーすぅ♪」……ってことでぇ(アセアセ)。
「神話を読み通したことがある人は、どれくらい{居|い}るのだろうか。西洋では、宗教の原典と呼べるものが、数々{編纂|へんさん}された。今の西洋の天地の創造を記した神話と呼べるものは、その宗教の原典の中に編み込まれている。
創世記、出エジプト記、レビ記、民数記など、(夥|おびただ}しい数の諸書を{搔|か}き集めて編纂された、旧約聖書。
もう一つ。
マタイによる福音書、マルコによる福音書、ルカによる福音書、ヨハネによる福音書、使徒行伝など、これまた夥しい数の諸書を搔き集めて{編|あ}まれた、新約聖書。
この二つの原典は、{正|まさ}しく神話! そう呼んでも、誰からも文句は出まい。
我が国{日|ひ}の{本|もと}にも、神話と呼ぶに{相応|ふさわ}しい書が、二編あった。古事記と日本書紀が、それだ。
{況|いわん}や!
我が国の神話は、古くて難しくて、つまらない。
そもそも、神話というものはだ。不思議と{何処|どこ}となく新しく感じさせるところがあって、誰にでも自力で読めて、しかも面白くなければ、伝承の糸は、ブチ!っと切れてしまう。
この星では珍しく、せっかく宗教の原典ではない、純粋に自国で起こった創造劇だけを説いた神話を持っているというのに……何度も言うようだが、この国で、神話を読み通したことがある人は、どれくらい居るのだろうか。
読者の声が、聞こえてこん{訳|わけ}でもない。古今東西、神話というものは、必ずしも、そのすべてが史実とは限らない。しかも、我が国の神話に到っては、古くて難しくてつまらないときている。
無論!
難しいから{解|わか}らないだけで、面白い場面や関係式も、実は、意外と少なくはないと思うだがな。
{兎|と}も{角|かく}だ。「事実ではない」「科学的ではない」「現実的ではない」「面白くない」……などと、そんなことは、神話を読まなくてもよいという理由にはならんのだ。
そこのところは、西洋人たちのほうが、よく心得て{居|お}る。彼らは、古来悠久、事実ではなく、*真実*を読み、理解しようと努めてきたのだ。
さて。
ここからが、本題だ。
亜種記は、次の天地の神話と、相成ろう♪」
「やっぱオッチャン、タケラじゃん。だって、亜種記のこと知ってるんだから……」と、強引に口を挟むツボネエ。
「亜種記くらい、文明の奴らだって、知っとるわい!」と、鈍間のオッチャン。
(なんか、このオッチャンの名前、*ノロチャン*になりそーォ♪)……って思ったのは、おれだけぇ?
ここで、目には目を、{面倒|めんど}っちいにはメンドッチ・スピアを……てな訳でもないけれど、あの野郎が、口を挟んだ。
「ねぇ。*ノロガメ*さんさァ。亜種記の書き出しって、知ってるぅ?」
「知らん!」と、ノロガメさん(← ナイス! ベリーグッド♪)と、思ったおれ。
そのときだった。魔性の{鮫|サメ}{乙女子|おとめご}の寝言の続きが、始まってしまった。こうなってしまうと、ただただ、その寝言が、小難しくて面白くもない創作神話でないことを、切に願うしかない!
それしにても、ノロガメさん……って、何者なんだろう。
【2】格物
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師たる預言者
物の根たるもの五あり。
曰く、陰陽。
曰く、五行。
曰く、天地。
曰く、人倫。
曰く、死生。
{故|ゆえ}に{其|そ}の初めの始を見る者は神たり。
神にして衆人のために舌たる者を聖と為す。
西洋の主なる宗教は、預言者によって広められた。西洋の宗教とは、わが国では神話に当たる。我が国の神話を語り伝える預言者など、聞いたことが無い。
ところが、なんと平安時代に書かれた書に、この預言者の存在が、名言されていたのだ。それが、日本最古の兵書……『闘戦経』。
「生命の成り立ちである五つの根を、示している。その根の始まりを見るのは神のみであって、しかもその神は、ただ見るのみ。その様子を、衆人のために語れる者が、現れる。それが、聖人だ」と、まァ……こんな意味だ。
根とは、原理原則のこと。仕事であれ学問であれ、原理原則というものが、必ずある。それは{何|いず}れも単純で、一言で言い表すことができる。それは、大努力したものだけに、見えてくる。見えてきたら、その一言を、繰り返し繰り返し、周りの人たちに、{懇々|こんこん}と、説き続ける。
それが、聖人……真の、預言者だ。
その真の預言者を探し当て、師と仰ぐ。
それが、知命への一番の近道なのだ。
爺さんやオッチャンを見ると、すぐに密着して話を聴きたがるスピアの野郎……おまえは、知命への近道を、知っていたのだなッ! 正に、知命へのショートカット♪
……だのになんで、あいつの話は、いつもいつも遠回りで、バッカ長いんだかァ!
追伸。
格物……己を{格|ただ}すためには、先ずは自反。その自反も、せめて{素直|すなお}道の初段くらいの純粋さで、反省しなければならない。
{斯|か}くして、自反を{為|な}して、格物は成る。
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_/ 2 /_/ 後裔記 第1集の子どもたち
寺学舎 美童(ミワラ) ムロー学級8名
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未来の子どもたちのために、
成功するための神話を残したい……
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_/ 1 /_/ 『亜種記』 電子書籍
亜種に分化した子どもたちの闘戦物語
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お見苦しい点、ご容赦ください。
_/_/_/ ご案内 【東亜学纂学級文庫】
Ver,2,Rev.11
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