MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

後裔記 第1集 No.136

#### ヨッコの{後裔記|136}【1】実学「生きどき」【2】格物「線苦点楽」 ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 門人学年 **ヨッコ** 齢15

【1】実学
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生きどき

 粉っぽい? {黴|カビ}臭い? 嫌なニオイ?
 確かに、間違いじゃない。
 でもそれは、麻袋の臭いじゃない。
 「薬草の臭いさァ!」……と、そう言い切れる。
 「なんで言い切れるのさァ!」だってーぇ?!
 だって、このあたいが、爆睡したんだ。そう、{瞑想|めいそう}の達人(!?)の……このあたいがさァ。薬草には詳しくないけど、麻袋の内側に、眠くなるような薬草を、塗り込んであった。間違いない。
 そして、寝ている間に、運ばれた。その証拠に、岩場の上に降ろされた{筈|はず}なのに、起きてみたら、ここは、板の間だ。しかも、むさ苦しい。その上、目覚めて一番に耳に飛び込んできた音は、*最悪*の代名詞……マザメの寝言だった。しかも、{平|ひら}谷川で聞かされた内容と同じ、歯医者の場面!
 次に気づいたことは、腕の痛みが、消えていることだ。{淑女|しゅくじょ}なんだから、少しくらい手加減してくれたっていいのに、力いっぱい締め上げられて、両腕が、痛かった。それが、深い深い爆睡から目覚めてみると、なんの痛みも感じない。(ひょっとしてぇ?)と思ったら、案の定♪ あたいをグルグル巻きに縛っていた{紐|ひも}は、{解|ほど}かれていた。
 麻袋だけは、まだ、頭の上からスッポリ被さったままだった。そっと、ちょっとずつ、恐る恐る、麻袋を{剥|は}ぎ取る。オオカミと、目が合う。キョトンとした目で、ポカンと口を、開けている。まだ半分、眠っているみたいだ。
 そのとき……またまた、
マザメが吠えた!

 「めしーぃ!! 歯、治ったわよーォ!! だから、朝昼{晩|ばん}めしーぃ!!」
 目覚めてはいるみたいだけど、どうやら、寝ぼけているみたいだ。麻袋を被ったまま、吠えている。見廻すと、全員の紐が、{既|すで}に解かれている。麻袋を剥ぎ取っているのは、まだ、オオカミとあたいだけだった。そのオオカミくんが、言った。
 「夢も{現|うつつ}も、ゴッチャゴッチャだなァ、コイツ!」
 「ずっと、寝てればいいのに……一生♪」と、サギッチ。
 (ちゃっかり、起きてるんじゃん!)と、思うあたい。
 そのちゃっかりが、もう一人……。
 「歯医者さんに、行ってたんでしょ? よいかったね。虫歯が治って……」と、スピア。
 顔は、まだ麻袋で隠されてはいるけれど、でも、スピアのクソ{餓鬼|ガキ}野郎! こいつ絶対、今……間違いなく、真顔で言ったよねぇ? まったく。寝ても覚めても、{面倒|めんど}っちい{奴|やつ}だ。
 しかも……問題の、マザメちゃん! 律儀に、その問いに応えて、{斯|こ}う言った。
 「違うよ。歯医者なんか、行ってないってばァ。あたいが行ったのは、自然治癒力覚醒道場……別名、オルゴール美容院ーん♪」
 「そっかァ。{解|わか}った」と、ツボネエちゃん。
 (何が解ったんだかァ!)……と、思ったあたい。
 「ふーぅむ、なるほど♪」と、ムロー先輩。周りを{憚|はばか}るでもなく、{独|ひと}り{言|ご}ちた。
 「ダメだ、こりゃ!」と、{呟|つぶや}くオオカミ。
 あたいも、同感である。
 「何がダメなんだってーぇ?!」と、勘違い大魔王……元い、魔女……{況|いわん}や、マザメ!
 「{鮫|サメ}{乙女子おとめご}、{豹変|ひょうへん}警報発令! 秒読み開始……カチ、カチ、カチ」と、サギッチ。なんと、無謀なことを! いつもながらだけど……(やれやれ)

 そこでやっと、潜在意識が機能しはじめた……あたい。
 「ちょっと、静かにぃ! {甲板|デッキ}に誰かが居たら、どうすんだよ」と、出来る限り声を押し殺して、あたいが言った。
 「甲板? あッ! 早く言ってよォ。解けてるんじゃん♪」と、スピアの面倒臭い顕在意識も、とうとう目覚めてしまった模様。
 ……と、そのとき、出入口の{上蓋|ハッチ}を、押し開けようとするオオカミ。
 「ねぇ! やめたほうがいいよ」と、麻袋を剥ぎ取るなり、スピアが言った。振り返る、オオカミ。{頷|うなず}いて、戻って来る。ムロー学級、総員八名、現在員七名……皆、素顔を現す。
 「敵と闘う{身支度|みじたく}をしながら、外の様子を{窺|うかが}いながら、今までのことを、整理しよう♪」と、ムローのオッサン。いつも落ち着いているのはいいけれど、落ち着いていないところを、一度も見たことがない。それは、何を意味しているんだろう……(まったく!)

 スピアが、言った。
 「あの板、ムロー先輩なら、手で剥がせるよねぇ? あそこ、剥がせたら……ねぇ、ツボネエ!」
 「はァ?」と、ツボネエ。
 「なるほどねッ♪」と、サギッチ。
 「確かに!」と、オオカミ。
 「{艫|とも}間の上蓋、目立つから、動かしたら気づかれっちゃうよ。ヒヤ間の上蓋なら、舵輪の囲いに隠れてるから、近くに誰か{居|い}ないかだけ気をつけてズラせば、たぶん大丈夫だよ」と、スピア。
 「確かに、ツボネエは、細身だからな。あそこ、通れるだろうけどさァ。気をつけながら、そっと、上蓋をズラすーぅ?! この子がァ? 無理!無理! 上蓋が、ドッカンバッタン……誰だッ! 逃げるぞッ! 捕まえろッ! ……みたいな。もう、縛られるのも、被せられるのも、あたい、嫌だからねッ!」と、魔性の{鮫|サメ}{乙女子|おとめご}。
 不思議そうに、ポカンと口を開けたまま、みんなの会話を聞いていた、あたい。そんなあたいを見て、ツボネエちゃんが、声を掛けてきた。
 「ここ、ズングリ丸の中なんだよォ♪」
 納得……でもないかァ!

 あたいらが寝かされていた艫の間というのは、七人がみんな横になれるくらいの広さがあった。その両側の壁は、湾曲しているので、直ぐに船側だと判る。その船首側が、丈夫そうな板壁で区切られている。その板が、一ヵ所、剥がれそうになっている。
 その壁の向こう側には、みんなが「ヒヤ間」と呼んでいる狭い空間があった。真ん中に太い{貫柱|ぬきばしら}が立っていて、その上のほうに、舵輪が取りつけてある。ムローが、その板を引き千切って、開いた穴を恐る恐る、覗き込んだ。実際、覗き込むまでもなく、直ぐに甲板上の様子が、見て取れた。(問題の上蓋とやらは、{既|すで}にぶっ飛んだか、それとも、外されて投げられているか……)とまァ、そんなようなところだろうと思った。
 ムローが開けた穴は、確かに、ツボネエの細身の胴体を、辛うじて通してはくれそうだった。でも、服を引っ掛けずに押し込めたとしても、向こうのヒヤ間にボットン♪ と、落とすことになる。ロープ{梯子|はしご}を上れば、甲板の上に頭を出すことはできるけれども、ヒヤ間から艫間に戻るためには、ツボネエの両手を持って引っ張り上げなくてはならない。
 そんなことをしたら、折れた板に引っ掛かりまくって、せっかく着替え用に手に入れてやった新調の服が、*傷だらけのヒデキーィ♪*……(失礼、アセアセ)に、なってしまう。

 (難儀だわね。どうするのかしらん!)と、{他人事|ひとごと}のように妄想していると、外から誰かが、こちらに向かって呼び掛けている声が、聞こえてきた。
 「どなたか、{居|お}ってんないかねーぇ?! 誰も居らんのんかいのォ、ほんにぃ! あのーォ、すみませんがのーォ!!」
 (動きがノロガメの次は、声がノロガメかい!)と、思ったあたい。
 「勝負に出て運を天に{委|ゆだ}ねるか、ここに隠れ通して飢え死にするか。二択だな」と、ムロー。
 「腹が減って死ぬくらいなら、戦って死ぬほうがマシだねッ!」と、マザメちゃん。
 その声を聞いて、オオカミが、動いた。
 {階段風の立て掛けた木製の梯子|タラップ}を上り、そろそろ恐る恐る上蓋を押し上げて、ズルズルゆっくりとズラしてゆく。潜望鏡よろしく、頭一つ、甲板の上に覗かせた。オオカミは、「メッチャ{眩|まぶ}しい!」とでも言いたげに、顔をしかめた。そのとき、天の陽は、{仰角|ぎょうかく}四十五度。半島の陰に、今まさに隠れようとしていた。
 オオカミは、一点を注視していた。その方角が、ちょうど太陽が沈む方角だったのだ。暫し、無言。なんか、じれったい。*ノロガメ声*のオッサンの声も、聞こえてこなくなった。({喋|しゃべ}るのがノロガメなんだから、しゃーないかーァ……)と、{何気|なにげ}に思ったあたい。
 そのときだった。スピアが、するすると梯子を、上ってゆく。「理屈で勝負が出来る相手かどうか、ちゃんと確かめてから首を突っ込みなさいよねぇ!」と、言ってやりたかったけど、スピアには無視され、外の未確認人体には、この船の中に美しい声の{淑女|しゅくじょ}が居ることを、なんの代償も無しに明かしてしまうようなものだ。
 (まァ……精々、そんなところよねぇ)と思ったので、口を出すのは、{止|や}めにした。

 (もう、今更、ジタバタしても、仕方がないっかーァ♪)と、思いながらも……でも、あたいらが戦う本番は、まだまだ先。その戦いが終息するのは、二十三年後……皇紀二七〇五年のこと! 百年ごとに必ず起こる、大動乱。あたいらは、{武童|タケラ}として、その夜明け……朝を、迎えなければならない。
 無論、ムロー学級の総員、八名揃って……ねぇ♪

【2】格物
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線苦点楽

 世界にその名を{馳|は}せた日本人のプロゴルファーが、{絶不調|スランプ}に{陥|おちい}ったとき、(前も後ろもない。あるのは、今とここだけ……)という境地に到った瞬間、すべてが吹っ切れて、大復活の快進撃がはじまったそうだ。
 {何故|なぜ}、絶不調……不安、迷い、悩み、{憂鬱|ゆううつ}が、長く尾を引いてしまうのだろうか。
 知性も、理性も、概念も、観念も、なんもかんも、それらすべて、一つの点に過ぎない。人間は、それを、{繋|つな}げたがる。繋げると、線になる。線になると……それは自然と、連鎖してゆく。昨日と今日を繋ぎ、今日と明日を繋ぐ。やがてそれは、広大な過去と現在を、繋ぐ。すると……また自然と、その現在は、遠大な未来へと繋げられてゆく。だから、不安も、迷いも、悩みも、憂鬱も、延々と続くのだ。

 何故、繋いでしまうのかッ!
 感性は、そのすべて、そのどれもこれもが、一つの点である。正に、「前も後ろもない。あるのは、今とここだけ」だ。{故|ゆえ}に、繋げずに、点のままで生きれば、もっと楽な……不安も、迷いも、悩みも無い、憂鬱とも無縁な生き方が、出来るのではないだろうか。
 事実、明治維新を駆け抜けた志士たちは、点……湧き上がる感性の、*今とここだけ*で生きた。だから彼らは、*感性型人間*と呼ばれる。今日と明日を、繋げない……{則|すなわ}ち、仮説無し! だから、なんの不安も悩みも無く、今日という一日を、一所懸命に駆け抜けることが出来たのだ。

 あの時代、みんな、一日一日、ただただ、行動しただけだった。そうやって点のままで、迫り来る時代に挑んだから、あの維新という世界にも{稀|まれ}な大奇跡が起きたのだ。
 そうに、違いない……たぶん♪ 

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_/ 2 /_/ 後裔記 第1集の子どもたち
寺学舎 美童(ミワラ) ムロー学級8名
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未来の子どもたちのために、
成功するための神話を残したい……
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