MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

後裔記 第1集 No.137

#### マザメの{後裔記|137}【1】実学「黒い{刺客|しかく}」【2】格物「罪への愛着」 ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 学徒学年 **マザメ** 齢12

【1】実学
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黒い刺客

 後先を考えない。動いてから考える。その考えの{殆|ほとん}どが、自反。しかもそれは、失敗の反省ばかり。それが、あたいらの船長……オオカミの実態。
 それを、見抜いての行動だったのだろう。スピアは、声を発するより先に、{身体|からだ}を発した。斜めに立て掛けた{梯子|はしご}に左足を乗せるのと同時に、両手でオオカミの服をガッシリと掴み、床に踏ん張っていた右足を浮かせて、左足を置いていた段より更に二段上の踏み板の蹴込みの縁にその浮かせた右足を押し当て、重力に任せて身体のすべての荷重を両手に掛け、思いっきり! オオカミの身体を下に引っ張った。
 結果、二人と一匹が、派手に床の上に転がり落ちた。スピアがオオカミを引っ張り下ろすのと、正に、まったく同時に、白黒{斑|まだら}の気持ち悪い模様をしたデッカイ{鴉|カラス}が、オオカミが頭を覗かせた{蓋付きの出入口|ハッチ}目掛けて、メッチャもの凄い!速度で直滑降してきたのだ。
 スピアとオオカミは、打ち身をした程度の軽い{怪我|けが}だったけれど、その気持ち悪い斑模様をしたバカデッカイ鴉は、{艫|とも}間の床に直接激突し、その真っ黒い{斧|オノ}のような分厚くて鋭い{嘴|くちばし}が、床板を{劈|つんざ}き、パキーン!! っと骨が折れるような気持ちの悪い大きな音を立てたかと思うと、太い首が、マラソンの折り返し地点のように、グニャーァ!! っと大きく曲がり、そのまま床の上に横たわってしまった。
 言葉も出ず、無意識にその様子を見ていると、その鴉のある部分に、あたいの目は釘付けとなった。嘴が、{砥|と}ぎ石のようなもので砥がれ、出刃包丁のように鋭利に輝いているのだ。それは{既|すで}に、突っつくための嘴ではなかった。明らかに、斬る! 刺す! ……ための、正に、{槍|やり}の{刃|やいば}そのものだった。
 あたいが、その刃に見入っている間に、ムロー先輩が、鴉の翼で押し広げられた出入口を、甲板に跳ね{退|の}けられてしまった上蓋を掴み、素早く元通りに{塞|ふさ}いだ。その動作の正に{俊敏|しゅんびん}な*すばしっこさ*は、ムロー先輩らしくなかった。
 (ヒノーモロー島も、ザペングール島も、コオ島も、いろんな人間が登場したけれど、みんな味方だって、直ぐに判った。この島も、いろんな人間が、登場する。そこは、同じ……でも、この島に{居|い}る人たちは、敵か味方か、さっぱり判らない!)と、{何気|なにげ}にそんな妄想が、次から次へと脳裏に浮かんでくる。だけど、そのどれもこれもが、言葉にはならなかった。
 そんな束の間の妄想の間に、スピアが、{端切れ|ウエス}で鴉の目を覆い、オオカミとサギッチが、別の端切れを{捻|ね}じって鴉の首にひと巻きし、その両端を、それぞれ二人が持って力いっぱい{縛|しば}り上げるように引っ張って、鴉の息の根を断とうとしている。

 そこまでを見届けると、ツボネエが、言った。
 「電脳チップって、{格好|かっこ}悪いんじゃん!」
 {傍|そば}にいたサギッチが、直ぐに応えて言った。
 「カラスだからさ。人間だったら、ちゃんと{食|は}み出さないように頭ん中に納めて、埋め込んだ傷口は、ちゃんと縫い合わせるさ。そこに髪の毛が被さるんだから、見分けなんかつくもんかァ!」
 「電脳チップの埋め込みが、{鳥獣|トリケモノ}にまで及んでいたとはなーァ!!」と、ムロー先輩。
 「埋め込むのは、簡単さ。だって、脳ミソのどこに{繋|つな}げるのかは知らないけど、人間の複雑な脳ミソに繋ぎ込んで制御を乗っ取れるんだ。単純構造の鳥獣なんて、屁の河童だろうさ。そんなことより、問題なのは、鳥獣を自由に操れるっていう*事実*さァ!」……と、ヨッコねえさん♪
 「まァ、要は、もし俺たちがタケラだったら、もうとっくに殺されっちまってるってことだな」と、オオカミ。
 「じゃあ、包帯先生は、やっぱ{凄|すご}いんじゃん!」と、あたい。
 「逢ってみたかったわね。ザペングール島のピアノの先生のことでしょ?」と、これもヨッコ先輩。
 「同じ{仕来|しきた}りの旅でも、ミワラとは、大違いだな」と、ムロー先輩。どうやら、自覚はしているようだ。だのに、{未|いま}だ知命できず……おっと、失礼!
 「どう大違いなのォ?」と、ツボネエ。
 「思い出してみろよッ!
 ミワラの仕来りの旅は、寺学舎で門人に進級すれば、誰だって旅に出れる。殺されるような危険も、殆どない。但し、今はもう、事情が変わってるだろうけどなァ。でも、タケラが自然エスノの領域から出るときは、事情が違う。しかも、包帯先生は、潜入班だ。調査員養成講座を修了した、優秀な密偵だ。でも、四六時中、命を狙われている。それを、大怪我をしながらでも、生きて戻って来れたんだ。やっぱりピアノ先生は、凄腕の密偵なのさァ♪」と、力説するオオカミの野郎。
 「そう考えたら、カアネエは、もっと凄い! 逢ってみたいもんだ」と、ムロー先輩。最もカアネエに詳しいスピア……鴉の頭の後ろで端切れの端を{縒|よ}って結びながら、{何故|なぜ}か無言。

 そのスピアとムロー先輩が、バタついて耳{障|ざわ}り、目障りだった鴉の翼を、これも端切れを捻じって繋いで紐状にして、悪戦苦闘しながらグルグルに縛ろうとしているところだった。矢庭に、スピアが語りはじめた。
 「ぼくらが、タケラに護られてることは、間違いないよ。
 確かに、説明できないことばっかさ。
 門人に満たないぼくらまでもが、{仕来|しきた}りでもないのに旅に連れ出された。誰かが、何かの理由があって、何かの目的のために……。しかも、その連れ出された先は、自然エスノの島が四人、和のエスノの島が二人、文明エスノの島が、二人。誰かが、何かの理由があって、何かの目的のために、ぼくら八人を、三つの島に{布置|ふち}した。
 そして、誰かが、何かの理由があって、何かの目的のために、ぼくら八人を、護ってくれている。きっと、亜種動乱は、もう{始|はじ}まってるんだよ」
 (亜種動乱……かァ。久しぶりに、聞いたわね。寺学舎の座学で聞いた以来かしらん?)と、思ったあたい。確かに、亜種動乱が終結するまで、あと……二十何年かだったっけぇ? もう、始まっていても、なんの不思議もない。
 オオカミの野郎が、言った。
 「{兎|と}も{角|かく}、よっぽどのドジさえ踏まなきゃ、殺されることは無いってことだなァ♪」
 「その心配があるのは、おまえだけだろがァ!」と、吠えるあたい。当然の*無条件*反射である。

 「早く、オオカミ君に、船長に戻ってもらわねばなァ。陸の上に置いておいたら、何をしでかすかわからんからなッ♪」と、ムロー先輩。最近、本当にたまにだけど、{未|いま}だ{的|まと}には{中|あた}りはしない訳だけれども、少しは的の端を{戦|そよ}がせるようなことを言うようになった。無論、{褒|ほ}め言葉♪
 「じゃあ、早くコイツ……ズングリ丸を修理して、ワタテツ先輩も、助け出さなきゃねぇ♪」と、スピア。
 (最後まで生き残るのは、こいつかツボネエの、どっちかなんだろうなーァ……)と、根拠もなく、何気に思うあたいだった。

【2】格物
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罪への愛着

 {氷柱|つらら}のように清く透き通って鋭い観察、痛切な批評……と、こんな詩が生まれたのは、聖なるスイスの大自然に育まれたからだろうか。はじめて目に触れる、世界的な詩人……そして哲学者、アミエルという偉人。

 「我々の主義なるものは恐らく我々の欠陥に対する一種知らず{識|し}らずの弁護に他ならないであろう。我々の眼から自分の未練を持つ{罪業|our favourite sin}を{隠蔽|いんぺい}することを目的とする大見栄に他ならないであろう」

 〈罪業〉という単語を、{敢|あ}えて、〈好感を持つ〉という意味の単語で形容している。人間というものは、自分で罪と認めながらも、その罪に少なからぬ愛着を持ったり、未練を引き{摺|ず}ったりしていると言う。正に、清く透き通った氷柱の鋭利な先端だ。
 人間も、世の中も、複雑だ。
 真実とか、人の本心とか{本音|ほんね}なんていうものは、あたいらの短小な想像では、到底及び到ることは出来ない。それは、宇宙の果てと同じくらい、途方もなく遠いところにあるのかもしれない。人間が発する言葉が、虚偽であるか否か。その行動が、偽装や粉飾であるか否か。そんなことを計り知る方法なんて、そもそも、きっと、元々、有りはしないしないのだ。……と、そう思えてくる。
 これが、三つの亜種……文明、和、自然の{民族|エスノ}たちすべてに共通する、ヒト種の特性……{則|すなわ}ちこれが、自分ではどうすることもできない、逃げることも{逃|のが}れることもできない、あたいら人間みんなが生まれながらにして背負わされている*あれ*……〈宿命〉というものなのではないか。

 あたいら{日|ひ}の{本|もと}の国の昔の偉い哲学者も、こんな意味の語録を残している。あたい流に割愛要約すると、{斯|こ}うだ。

 「……それで、本当に{謂|い}いのだろうか。
 会議では、熱烈にマルクス主義共産主義を語り、参じて仲間内だけになると、自由主義者よろしく好き勝手に虫の{好|い}いご都合を並べ、家に帰ると、封建主義の暴君に変身する。世間の人間というものは、{兎角|とかく}大なり小なり、そんなものだ。
 ……これで、本当に{謂|い}いのだろうか。
 {如何|いか}なる政策も、如何なる約束も、その実態は、{車夫馬丁|しゃふばてい}も恥ずるような虚偽や偽装や粉飾に過ぎない。
 ……*それ*も、*これ*も、それで謂い{訳|わけ}がない!
 結局人間は、己自身……人間を変えるしか、生きる道は無いのだ」

 あたいも、そう思う。

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_/ 2 /_/ 後裔記 第1集の子どもたち
寺学舎 美童(ミワラ) ムロー学級8名
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