MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

後裔記 第1集 No.139

#### ワタテツの{後裔記|139}【1】実学「鳥よ!友よ!」【2】格物「妖怪の予感」 ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 門人学年 **ワタテツ** 齢16

【1】実学
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
鳥よ!友よ!

 **空飛ぶ{同胞|はらから}**

 暫く後裔記を書かなかったことに対して、既に皆が、俺の浅知恵を適当に憶測して完結させてくれているだろうから、恐らくその通りであろう実際の委細については、省く。
 ただ、一つ。
 海辺に出さえすれば、MPG……マリン・パーマネント・ジェネレーションが、使える。海の上しか走らない電波……漂海民専用の、無線付加価値通信網だ。品物に{譬|たと}えるなら、「正に年代物!」と言わざるを得ない代物だが、これがなかなか、燕に迫るよくできた通信システムなのだ。

 唐突だが、思い立ったので、本題に入る。
 スピア君!
 なんで、ハヤブサやトンビやウミネコやカモメとは、*どーぉでもいいこと*まで会話するのに、なんで、肝心の我らが自然エスノ{襲偵|しゅうてい}班の正規メンバー……{鵞鳥|ガチョーォ!!}と、会話しようとしなかったのだァ!
 そりゃあ……まァまァ、言わずもがな、訊かずとも、判る。
 電脳チップを頭に打ち込まれて、羽根は変色して黒ずみ、タケラやミワラに関するすべての{心象|イメージ}記憶が、封印{或|ある}いは抹消されてしまったのだろう。
 (タケラの先輩たちが、一体全体何年かかって、地道に*アイツ*らと信頼関係を築いていったか……)と、{何気|なにげ}にそんなことが頭に浮かんで、その{経緯|いきさつ}を聞かされたことがあるだけに、マジ!で、じんわりジリジリと腹が立ってきてしまう。
 ズングリ丸は見捨てても、卵の中の胎児のころから大事に大事に育ててきた優秀な鵞鳥襲偵員を、見殺しになどできるはずがない。問題の電脳チップは、露出し簡易型とはいえ、脳神経に繋げられてしまっている。無闇には、引き抜けない。
 (電脳チップに、起爆装置が埋め込まれていたら……)と、その程度のことは、先輩タケラたちは百も承知だろう。でも、迷うことなく、身も心もボロボロの鵞鳥は、電脳チップを埋め込まれたまま、廃船寸前にまで痛めつけられたズングリ丸から運び出され、タケラたちの手によってどこかへ緊急搬送されていった。

 ……で、俺。
 身代わりと言うのか、人質というのか、留守番というのか、兎にも角にも、どうにもこうにも、{傾|かし}ぎっ放しで自力で復元すらできなくなってしまったズングリ丸に、俺一人、居残ることになってしまった。(定かではないが、俺の余計な一言で、こういう展開になってしまったのではないか)という憶測が、無意識に、俺の脳裏に浮かび上がってくる……と、いうような往生際の悪い表現は、直ちに撤回する。
 ズングリ丸の{艫|とも}間を最後に出た(というか、正確には、引っ張り上げられたらしい)ムローさんが、{未|いま}だに、目覚めていない……ってことはだァ! 鵞鳥の電脳チップから噴き出した煙は……やはり、睡眠薬だったのだ。道理で……眠いーぃ♪
 {武童|タケラ}が{美童|ミワラ}を、わざわざ危険なところに置き去りにするなんてことは……今までの展開から推し{量|はか}ると……充分に、有り得る! 言われるがまま、{為|な}すがまま、ここに留まってもいいのだろうか。「表が生、裏が死!」みたいな賭けの決断に、迫られている。
 だが、今確実に言えることは、{唯|ただ}一つ。
 寝ないと、きっと死ぬ。
 同じ死ぬなら、寝ている間に、為すがままに、未知の世へ……。

 **最初の目覚め**

 外が、騒々しい。

 (タケラのオッチャンたち、戻って来たのかなァ……。
 てか、そりゃそうさァ♪
 戻って来てくれなきゃ、俺はまた……またまた! 独りだ。
 ここは、揺れる独房だからなァ)

 てか、今こそが、{莫|まく}妄想だッ!
 てか、外が騒々しいのが、気になったんだった。
 {武童|タケラ}の声じゃ……ない。
 じゃあ……誰だーァ?!

 「聞いとらんかなーァ。
 船を見せて欲しいいうて、頼んどいたんじゃけどーォ!!」

 その声質と喋り方は、{如何|いか}にも人畜無害そうな気性を、充分過ぎるほどに{醸|かも}し出していた。そのとき、俺の頭の中は……無! 誤解を恐れて、言う。それは、無意味の「無」……{則|すなわ}ち、「空っぽ!」だ。
 {艫|とも}間の{出入口|ハッチ}から、{生|なま}の頭を覗かせた。犬っころよろしくロープで繋がれた天蓋が、甲板の{船縁|ふなべり}を乗り越えようとして思い止まったように、間一髪的に引っ掛かって止まっている。そのことに今やっと気づいた俺の視野の狭さに、愕然とした。
 ズングリ丸は、ここに連れて来られたときと何も変わらず、接岸して船首と船尾を、岸壁に{繋|つな}がれていた。{繋船曲柱|けいせんきょくちゅう}に、几帳面に{舫|もや}われている。その船首側と船尾側の繋船曲柱に挟まれる格好で、大人の男が五人、ズングリ丸の前に、横並びに居並んでいる。
 俄かに、俺のボサ頭に気づいたのだろう。「あッ!」っと言ういう間もなく、一列に並んだ凸凹び視線が、俺のボサ頭に集まった。彼らの年齢は、一言では表現し{難|がた}かった。一様に、職人{風情|ふぜい}? 一人が、両手に、白いレジ袋を、ぶら下げている。(敵か、味方か……)などと思う頭は、もうそこには無かった。

 「許可は、もらっとるんじゃがなァ。
 乗せてもらっても、ええかいのォ?」

 レジ袋を両手にぶら下げているその人畜無害の声の主は、もし自然{民族|エスノ}の端くれならば、今まさにか{既|すで}にか息恒循の天命を終えているであろう年恰好で、作業服姿ではあったが、そこからは、{生業|なりわい}特有の化学品や土や潮の臭いは、一切何も、漂ってはこなかった。
 キョトン♪ 無防備……白旗状態の、俺。
 五人の男たちが、ズングリ丸の作業甲板によじ登り、五人とも、絶句したような顔で、自分を円の中心にして、くるくると回りはじめた。そしてまた、人畜無害のレジ袋のオッチャンが、言った。

 「伝わってなかったかーァ!!
 わしらは、この町の大工でな。仕事は、大工なんだが、{生業|なりわい}は、左官だったり、配管工だったり、土木の掘り屋だったりするわけなんじゃが、{兎|と}にも{角|かく}にも我ら五人、週末には必ず、律儀に、{艇団|フリート}が水上繋留しとる港に集うんだが……。
 兎も角だ。
 大声で話せることは、そう、多くはない。
 喋るより、座ったほうが、今は、利口だろう」

 人畜無害は有難かったが、五人とも……まったく、正体が判らないままだった。まァ、そんなことは、どうでもいい。今やるべきことは、「どうぞーォ♪」と、そのひとことだけ言って、スピアたちが居室にしていた船倉か、その上の作業甲板の上にでも腰を{据|す}えてもらって、もう二度と俺を深い眠りから呼び起こさないように最善の注意を払ってもらいながら、レジ袋のオッチャンが言うとおりに見学をしてもらって、納得してもらえたら、そこでサッサと帰って{戴|いただ}く……みたいな♪
 さすがに、いくらなんでもそうなった{時分|じぶん}には、俺も深い眠りから自ら覚めて、自力で、{身|み}も心も〈シャキン状態!〉になっていることだろう……たぶん♪

 **大望のシャキン!状態**

 なんど目覚めても、そこはここで、そのここは、やっぱり騒々しい! 声は、作業甲板の上のほうから、聞こえてくる。なんにんかの大人と、なんにんかの子どもが、喋っているようだった。ズングリ丸のどてっ{腹|ぱら}に風穴を開けた船は、セーリングクルーザーという種類の汽帆走艇で、今喋っている大人たちは、その船の{持ち主の艇長|オーナー}だったり、{乗組員|クルー}だったりするようだった。
 彼らは、その汽帆走艇で、俗に言うヨットレースというやつに参戦というか出場というか……兎にも角にもその*レーシングの*クルーザーってやつに、みんなで乗っているらしい。
ガサガサ……♪ ガサガサ……♪ と、これほど大きい音を立てるレジ袋は、ゴワゴワしている。{超ーォ!!高密度|ハイモレキュラー・ハイデンスティー}のポリエチレンなんだそうだ。 
 その、*ハイモレハイデン*のレジ袋が、大魔神を、千年の眠りから目覚めさせてしまったことに、そのときは未だ、誰一人として知る{由|よし}もなかった。(でも、ガサガサ音が、耳に{障|さわ}った訳ではない)……と、直感的に、直ぐに判った。レジ袋の中身に、反応したのだ。正に大魔神は、{斯|こ}う言ったのだった。

 「朝昼晩メシーぃ!!」
 ……と、魔性の{鮫|サメ}{乙女子|おとめご}の歓喜とも悲痛ともなんとも言えぬ声が、海岸線近くまで張り出した半島の{緑々|りょくりょく}たる森林に、{木霊|こだま}してゆくのだった。

【2】格物
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
妖怪の予感

 不思議なものだ。少し寝て直ぐに起きたそのちょっとの間に、この星は激変している。{居|い}るはずもない様々な生命体が、俺の視界を支配し、ここには居ないはずの{阿婆擦|あばず}れ乙女子が、空腹に病んで絶叫の爆音を木霊させていたりする……。

 その乙女子たちの年ごろ……立命期の目的は、言わずもがな、知命! その知命に到らぬまま、運命期に転がり込むと、「無知運命期」と呼ばれる。{怪訝|けげん}に思いつつも、{然|さ}して問題とも思わず放置してきたのだが、この*無知運命期*の三人……ムロー先輩、俺(ワタテツ)、ヨッコのうち、ムロー先輩だけが、学級の後輩たちから「無知!運命期」と言われ、{未|いま}だ知命に到っていないことを、{執拗|しつよう}に強調されている。
 無論、無理もない。どれだけ歳を重ねようとも、知命しない限りは、{武童|タケラ}にはなれないのだ。{則|すなわ}ち、{美童|ミワラ}のままということだ。タケラと成れば、使命がある。「その使命のために、タケラになる」と、言ってもいい。その使命は、三つの組織に割り振られ、そこで実行することになる。{斥候|せっこう}班、潜入班、{襲偵|しゅうてい}班……この、三つだ。

 この程度のことを知っているだけで、立命期の後半の概ねすべてを没入することとなる寺学舎の目的は、知れたこととなる。
 知命のため? ……果たして、そうなのだろうか。
 {寧|むし}ろ、逆ではないのか。喜怒哀楽の激しい部分を削ぐため! {美童|ミワラ}は、本来……感情が、激しい。だから、その「野生」とも言うべき、激しく理性の利かない情緒と性格を{和|やわ}らげるために、その情緒や性格が育成され完成すると言われる立命期の少循令七年間を、寺学舎に軟禁する……。
 そこで、心を落ち着かせることによって、短命による天命の不履行を予防しようとしているのではないか。
 {何故|なぜ}、自然に逆らい、予防が必要なのか。
 不履行が、問題だからか……違う!

 問題なのは、〈短命〉のほうなのだ。長かろうが短かろうが、肉体は、寿命が来れば、くたばり{亡|ほろ}びる。だが、魂は、天命を{全|まっと}うするまで、生き続ける。肉体が無くなった後は、魂だけが、{彷徨|さまよ}い続ける。
 それを、{古|いにしえ}より、「妖怪」と、呼んでいる。
 その妖怪も、{現|うつつ}に生きていたころと同じような問題を、{孕|はら}まされてしまった。俺たちが居る{現|うつつ}の世界で天命を生きる人間たちは、自らの分化によって、三つの亜種に分かれてしまった。
 そして、肉体が亡んで魂だけが生き残った世界では、外来種の侵入によって、二つの亜種に分けられてしまう。則ち、在来種である{日|ひ}の{本|もと}古来の妖怪と、{余所|よそ}者の{所謂|いわゆる}外来種が、種を違え、二つの亜種を形成してしまったのである。 

=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=
_/ 2 /_/ 後裔記 第1集の子どもたち
寺学舎 美童(ミワラ) ムロー学級8名
=--=--=--=--=--=--=--=--=--=--=--=--
未来の子どもたちのために、
成功するための神話を残したい……
=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=
_/ 1 /_/ 『亜種記』 電子書籍
亜種に分化した子どもたちの闘戦物語
全12巻、第1~2巻発売中
_/ 2 /_/ 「後裔記」 メールマガジン
亜種記の諸書、子どもたちの実学紀行
週1回、夕方5時配信
_/ 3 /_/ 「然修録」 メールマガジン
亜種記の諸書、子どもたちの座学日誌
週1回、夕方5時配信
=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=

電子書籍編集のための記号を含みます。
  お見苦しい点、ご容赦ください。
 
_/_/_/ ご案内 【東亜学纂学級文庫
Ver,2,Rev.12

https://shichimei.hatenablog.com/about

【レーベル】〈メルマガ配信〉 東亜学纂学級文庫
熊本県阿蘇市一の宮町
阿蘇神社総本社/肥後一の宮阿蘇神社」最寄》

【パブリッシング】〈電子書籍発行〉 東亜学纂
広島県福山市鞆町
《日本遺産/国立公園第一号「鞆の浦」平港最寄》