MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

然修録 第1集 No.138

#### ツボネエの{然修録|138}【1】座学「手抜きの神髄」【2】息恒循〈二の循〉{少循令|しょうじゅんれい} ####

 {会得|えとく}、その努力に{憾|うら}みなかりしか。
 少女学年 **ツボネエ** 少循令{飛龍|ひりゅう}
     
【1】座学
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
手抜きの神髄

 町屋の大工、船大工……それに、{長場|ちょうば}の大工さんも「ズングリ丸」の大改造に参加してくれることになった。でも……気になったのが、モクヒャさんの言葉。
 「さすがに、宮大工に声をかける訳にはいかんだろうからなーァ!!」
 さすがにぃ? なんで、「さすがにーぃ!!」なのォ?
 ……なので、その宮大工さんが出てくる{逸話|いつわ}を、探してみた。なんでわざわざ逸話なのかっていうと、「宮大工とは、なんぞや……{云々|うんぬん}」的な本を読むのは、アタイには無理だからだ。{何故|なにゆえ}に無理かっていうと、そんな小難しい本、読みたくないからァ♪

 今は昔……{聖奢頽砕|せいきょうたいさい}で、アタイらの祖国{日|ひ}の{本|もと}が大敗し、アメリカの被保護国になっちゃうその前のお話し……ですデス。

 その逸話を書いた人は、日の本が戦争に負けて、今の中国の東北地区のチチハルから引き揚げてきたんだけど、家は空襲で焼けてしまっていたので、親戚に間借りをして、当座を{凌|しの}いだんだそうです。
 でも、いつまでも{居候|いそうろう}に甘んじている訳にもゆかず、「よし! 家を建てよう♪」と、決心する。でも、金は無し。大工も、そう{易々|やすやす}とは見つからない。そこで、考えたのでした。中国やシベリアの農民が、自分の家を建てるとき、大工さんのような建築の専門家の手は借りない。近所の人たちが集まって、{漫々的|マンマンデー}でやってる。漫々的ってのは、「ゆっくり、のんびりと……」っていう意味なんだってーぇ♪
 {閑話休題|さて}、そのシベリアで見た家は、{殆|ほと}んどが丸太造りで、なかなかガッシリとしていて、住み心地も快適だった。そこで、それと同じような{遣|や}り方で家を建てれば、大工さんに頼らなくっても、何とかなりそうだって思ったってわけ。

 で……どうしたかァ? さすがに家を建てる話なので、専門的なことや数字は、避けては通れない。だったら、要約と{割愛|かつあい}……しかない! なのでサクッと、短く書きます♪

 当時の建築基準では、四〇平方メートル以上の家は、建てられない。木材の購入にも制約があって、一日当たり〇・四立方メートルまでしか、買うことができない。なので、出来るだけ少ない木材で、丈夫な家を建てなければならない。
 そこで、使用する木材の形状を、今で言う「ツー・バイ・フォー」っていう形にすることにした。要は、断面が真四角じゃなくって、長方形にする。{則|すなわ}ち、{圧|お}される方向のほうを、長くしたって{訳|わけ}だ。
 更に、実際に組み上げるときの要領を心得るために、二〇分の一の骨組みの模型を製作した。すると、片手に乗ってしまうくらいちっちゃな、鳥{籠|かご}みたいなのが出来上がった。それを、二〇倍したものを造ればいいだけのことなのだ。
 ……いざッ! 建築開始♪

 建て始めると、お隣りさんの敷地でも、新築工事が始まった。大工さんが、二人来ている。そのうちの一人が、六〇歳くらいの年配の職人。これが、どうにも、一所懸命に作業をしているようには見えない。ちょっと仕事をしては、直ぐに腰掛けてタバコをプカプカと吹かしている。
 {呆|あき}れて眺めていると、なんとその年配の大工が、のこのこと敷地を{跨|また}いで、自分めがけてこっちにやって来た! で、話しかけられた。
 「旦那は、なんの商売の方ですかい?」と、大工。
 「大学に勤めています」と、逸話の著者。
 大工、(建築の先生だなァ……)と、勝手に解釈する。
 「学問は学問だろうが、先生のノコの使い方は、見ちゃいられねぇ! カンナも、ダメだなッ!」……と、その大工は、しきりにそんなことを言いながらも、大工道具の使い方の要領を、それこそ一つひとつ、手取り足取り教えてくれた。
 それは、確かに有り{難|がた}いことだったけれど……でも、気兼ねするので、{訊|き}いてみた。
 「おじさん! 教えてもらえるのは、有り難いんだけど……。あなたの仕事に、差し支えはないのォ?」
 すると、年配の大工は、ニコニコしながら、{斯|こ}う答えた。

 「いやーァ。
 先生が、変わった建て方をしてるんで、わしゃ(なるほどーォ)って感心しとるんでさァ。
 わしゃ、本当は、宮大工なんですがね。
 こんなご時世じゃ、宮を造る仕事なんて、ありゃしませんやなァ。
 それでも、食わなきゃなんねぇんで、建築屋の下請けをしてるって訳なんですがね。
 ところが、一日当たりなんぼの日払いときてやがるんで、わしらみたいな年寄り大工は、大損でサァ!
 ああやって、若いのを働かしておりますが、あいつが一日かかるところを、わしゃ半日でやってしまいますからねぇ。
 そのあと遊んでたって、出来高も日当も、あいつと同じなんでさァ♪」

 さて、ここからが、ミソ!
 宮大工の卓越した仕事ぶりの{噂|うわさ}を{予|かね}てより耳にしていた著者は、(宮大工って、普通の大工さんより、そんなにも手が早いのかァ!)と思って訊いてみたところ、その答えは、意外だった。宮大工のオッサンが、言った。
 「なに、手抜きですよ。
 速いわけじゃない。
 それどころか、若い{奴|やつ}らに、速さで勝てるわけがない。
 多少の見栄えは{兎|と}も{角|かく}としても、量で敵うはずがない。
 実はね。
 現場の監督さんが検査しても判らない程度の手抜きの仕方ってぇもんが、あるんですよ。
 若いもんにゃ、教えませんがね。
 {勿論|もちろん}、そういう手抜きをすると、建物の持ちは、悪くなります。
 だけどね。
 この家は、建て主にとっちゃあ、仮の住まいでね。
 落ち着いたら、本建築に立て直したいんだって言っておりましたから……まァ、十年も持てばいいんでしょう。 
 それなら、何も本式の細工をしなくってもいいってわけで……「{仕口|しぐち}」って言うんですけどね。
 別に、仕口をちょっと変えたからって、直ぐに壊れるってわけじゃないんだからーァ♪
 例えば、こんな感じでサァ!」

 そう言うと、その宮大工は、柱と柱の{接|つ}ぎ手の仕口を、{二|ふた}通りやって見せてくれた。すると……なるほど、仕上がった接ぎ手の部分の外見は、まったく同じ……見分けがつかなかった。{然|しか}し、その一方は、紛れもない{匠|たくみ}の永久建築の仕口。……で、もう片方は、建て売り住宅などで使われる簡便法なんだそうだ。

 話としては、ここで終わりなんだけど……。
 さて、著者は、この体験から、どんな教訓を得たんでしょうか。合理的な手抜きの方法? まさかァ!
 役所仕事なんかでは、よくあることらしいけど、一度「作業手順書」が出来上がってしまうと、何度も何度も、何年も何十年も、その手順書に従い続けるのが通例なんだそうだ。実際に出来上がったものが、なんの目的で造られたのかとか、どんな使われ方をするのかとか、どのくらいの期間に{亘|わた}って使われるものなのかとか、そんなことは、どうでもよくなってしまうらしい。
 「手抜きなんかしたら、{容赦|ようしゃ}しないぞォ!」って言われるのは、その出来上がりが目的や必要な条件に{適|かな}っていなかったり、使いたい期間の途中で壊れてしまったりするからであって、条件をすべて満たして役目を{全|まっと}うするのであれば、手抜きをすればするだけ……それは、「改善」を{為|な}したことに値するのだ。

 則ち「改善」とは、出来上がりに必要な条件を変えないで、{如何|いか}に手抜きをするかッ! ……ってことなのだ。
 それを心得て、{何気|なにげ}に実践している宮大工さんは、やっぱり{凄|スゴ}い! ……と、アタイは思う。

息恒循
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
〈二の循〉{少循令|しょうじゅんれい}

 生涯……{則|すなわ}ち、{天命|てんめい}。
 その最初の重要期を{立命期|りつめいき}と言い、その立命期の後半の循を、{少循令|しょうじゅんれい}という。

 七歳から十三歳までの七年間。
 生涯を通じて、**二番目**の循である。

 「少循令」とは、{如何|いか}なる期か……。

 卓越した創造力、勝れた想像性、{逞|たくま}しき意欲、燃え{滾|たぎ}る熱意、{怯懦|きょうだ}を寄せ付けない勇猛心、慎重に研ぎ澄まされた冒険心……それら、すべてである。
 古来、{子等|こら}や若者たちは、飢えに勝ち、侵略戦争に立ち向かい、偉大なる思想を抱いて維新を重ね、歴史を創ってきた。それらを奪われた現代、子等や若者たちが{苛|いら}立つのは当然であり、苛立たぬは、{腑|ふ}抜けの{空|うつ}け者である。

 いつの時代も、変革は若者が起こし……そして、それを{遣|や}り{遂|と}げるのだ。疑問、{覚醒|かくせい}、憤怒は、彼ら彼女たちの特権だ。{安寧|あんねい}、規制、常識は、老いの成れの果てである。
 国家にせよ、企業組織にせよ、軍隊にせよ、一つの組織が、前例や慣例や建て前に{縛|しば}られて硬直すると、内部に中毒症状を起こす。そして、停滞。やがては崩壊に向かい……終には、{亡|ほろ}びる。これを、{必定|ひってい}と言う。代謝、回転、変形……と、組織も個人も、常に変わり続けなければ、明日は無い。
 この「青春」の運動を、青臭いものと感じ、彼ら彼女たちを静観し、{諦観|ていかん}する眼を奪われ、悪意に満ちた体制に身を{委|ゆだ}ねたそのとき、人間は、その魂を悪魔に売り渡し、身も心も過去へと送られ、{現|うつつ}から抹消されてしまう。

 大化の改新、蒙古の襲来、明治維新……と、何れも、我ら祖国を救ったのは、若者たちによる変革であった。{旧|ふる}いものは新しいものに代わり、小さいものが大きいものに取って代わり、青い者が老いた者に代わって躍動する。その代替わりが、変革なのだ。
 変革者が、英雄になるとは限らない。行動を起こした結果が、逆賊にされてしまうことも、珍しくはない。だが、英雄も逆賊も、貴い先駆者であることには変わりはない。
 有名な句に、こんなのがある。
 「萩に来てふとおもへらくいまの世を
 救わむと{起|た}つ松陰は誰」
 誰? それが、{何|いず}れ「青春」と相成る子どもたちだッ!

 もし、子どもたちが失望されようものなら、その国は、間違いなく亡びる。そんな英雄予備軍の子どもたちを、いじけた大人たちは、あら探しをし、{揶揄|やゆ}し、{挙句|あげく}は、{鬱憤|うっぷん}の{捌|は}け口に利用する。子どもたちに劣等感を感じるのではなく、まだどこか子どもたちと同じところ……同じ心があるはずだと信じ、それを探し出す努力をすべきである。
 そこで、同じものが見つかったとき、子どもたちや若者に対する劣等感は、すっと立ちどころに消えてしまうはずだ。

 いつの時代も、今どきの子どもたちや若者が、世の中を変えてゆくのだ。我らが祖国……{日|ひ}の{本|もと}が救われるためには、今どきの子どもたちに期待するほかに{術|すべ}はない。
 {則|すなわ}ち、{子等|こら}はそれを自覚し、大努力し、自反と格物を日常知とする、**{美童|ミワラ}**とならねばならないのだ。

(Ver.2,Rev.0)

=--=--=--=--=--=--=--=--=--=--=--=--
_/ 3 /_/ 然修録 第1集の子どもたち
寺学舎 美童(ミワラ) ムロー学級8名
=--=--=--=--=--=--=--=--=--=--=--=--

未来の子どもたちのために、
成功するための神話を残したい……
=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=
_/ 1 /_/ 『亜種記』 電子書籍
亜種に分化した子どもたちの闘戦物語
全12巻、第1~2巻発売中
_/ 2 /_/ 「後裔記」 メールマガジン
亜種記の諸書、子どもたちの実学紀行
週1回、夕方5時配信
_/ 3 /_/ 「然修録」 メールマガジン
亜種記の諸書、子どもたちの座学日誌
週1回、夕方5時配信
=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=

電子書籍編集のための記号を含みます。
  お見苦しい点、ご容赦ください。

_/_/_/_/ ご案内 Ver.2,Rev.12
https://shichimei.hatenablog.com/about
_/ 東亜学纂学級文庫
熊本県阿蘇市一の宮町
_/_/ 東亜学纂
広島県福山市鞆町