MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

東亜学纂学級文庫

『息恒循』を学ぶ

後裔記 第1集 No.147

#### ワタテツの{後裔記|147}【実学】{寒生|かんせい}な女の奇態【格物】四苦八苦を{背負|しょ}い込む{訳|わけ} ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 門人学年 **ワタテツ** 齢16

実学
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寒生な女の奇態

 マザメの捜索に一週間近くも掛かった{経緯|いきさつ}を書き{綴|つづ}ることは、言い{訳|わけ}以外の何物でもない。{故|ゆえ}に、委細は省く。
 {然|しか}しながら、居場所は、直ぐに判った。十二名の予測が、完全一致したのだ。だが、あるはずの林道は、影も形も無く、在るか無いさえ定かではない場所へと、隠れ潜みながら野宿の連続の捜索は、実に困難を極めた。
 前置きは、以上。

 知命を志した自然人とは言っても、そこはまだ育ち盛りの人間……{所謂|いわゆる}、少女。しかも、一〇〇パーセント天然の生身。野生の{鳥獣|トリケモノ}とは、訳が違う……が、実際問題、かなりの部分が似通っているのではあるが……まァ、話がややこしくなるので、それはそれとしてここに置き去りにして、次を急ぐ。

 人間……喰わねば{飢餓|きが}の毒牙が、正気を{蝕|むしば}む。枯れた肉体は、意にそぐう{所作|しょさ}を{阻|はば}む。マザメ自身も、それを自覚したものとみえる。掘り終えて解錠された炊事場は、一体の{重篤|じゅうとく}を知らせるに充分な様相を呈していた。引き開けられた焼杉の木戸の{軋|きし}む音の波が、その*一体*の透けた肉体を{射|い}たのだった。
 マザメが、目覚めて言った。なんとッ! 生きていたのだ。その一大事に気を取られて、その言葉の異常さに気づくのに、数秒を要した。{斯|こ}うだ。
 「あたいが、正気を失わぬように、何か{兵糧|ひょうろう}を{施|ほどこ}して{賜|たも}れ」
 その*数秒*ののち、銘々が、独り{言|ご}ちた。
 「今は、何も{訊|き}くまい」と、ムロー先輩。
 「てか、一人で掘ったんかい!」と、日焼けした青年、ジュシさん。
 「スッゲーぇ!!」と、サギッチ。
 ……と、沸いて出た{呟|つぶや}きの数々は、枚挙に{暇|いとま}がない。無論、この女の短所は目に余るけんども、長所は、それにも{況|ま}して、桁外れなところがある。
 {千辛万苦|せんしんばんく}の浮沈を{舐|な}めようとも、この{娘|こ}は、決して、自ら{胸襟|ちょうきん}を開いたりはしない。{赤裸々|せきらら}な自己を、決して他人に見せたりはしない。{正|まさ}しく、自然児。人前で、{帯紐|おびひも}を決して{緩|ゆる}めぬ女。その{形|なり}は、ヨレヨレで疑いようのない、{正|まさ}に*寒生*。
 そんな、そのまんまの異星人のような一個体の形が、そのとき正に、俺たちの面前で、横たえていたのだった。その{様|さま}のどこに、{安穏|あんのん}を期待して安き思いを抱けようかッ!

 昼どきかどうかまでは定かではないが、太陽は、今まさに高いところに昇って、地球に照りつけている{筈|はず}だ。だが現実は、{蔓|つる}植物が網を張った雑木林に覆われて、深い夕闇のような薄暗さだった。{建屋|たてや}の四方の頭上のあちこちで、小さな{鳴管|めいかん}が、チウチウと細やかな音を奏でている。
 マザメを預かる予定になっていたクーラーボックスのモクヒャさんが、ふと我に返ったような顔を、「ブルン」と左右に数回振ってから、斯う言った。
 「電気は無いし、ガスのボンベも撤去されてるだろうって思ったもんでさァ。冷たくても胃気が上がりそうなものを、詰め込んできたんだ。まァ、俗に言う保存食っていうか……今どきの宇宙食より味は落ちるかもしれんが、{兎|と}にも{角|かく}にも、先ずは、胃袋を動かさんとなッ♪」
 ヨッコと、{渡哲|ワタテツ}サングラス若い女……ファイの二人が、マザメの両脇に{片膝|かたひざ}をつくと、ゆっくり、ゆっくりと、マザメを、抱き起した。そして、マザメが、口を開いた。

 「{忙裏|ぼうり}の{小閑|しょうかん}は、命より尊しさ。{一喫|いっさつ}の茶で礼をするところだけど、この{有様|ありさま}さ。許して賜れ。時令が許せば、あたい自慢のカンイチゴ・ティーで持て成すに値する{施|ほどこ}しだよ。オッチャンの長所は、女を見る目があることさ。惜しいかな、オッチャンとの交わりの日々のあまりにも短きことよ……。
 でもさァ。たとえどんなに滞留が短かろうと、それがどんなに遠い{昔日|しゃくじつ}のことになろうとも、断じて、約束を{違|たが}えたりはしないから。礼は、必ずするよォ♪」
 無論、そこに居た十二人の誰もが、礼など望んではいなかった。異星から落下して来た星の王女様「マザメ」の生態を、無言で見守っているだけだった。その奇怪な生命体の一挙手一投足を観察しながら、銘々が、己の脳裏に浮かび上がって来る{某|なにがし}かの推測を、どうにか{現|うつつ}の空間で確信に変えたいと願い、焦り、躍起になっていたのだ。

 暫く、モクヒャさんがクーラーボックスの中をガサガサと{掻|か}き回す音だけが、炊事場の薄暗い空間を漂っていた。そして、思い立ったかのように、理論派の細長顔の中年のオッチャン……テッシャンが、言った。それこそ正に、独り言ちるかのように。
 「言葉は失礼千万で、森の{狼|オオカミ}に育てられたような野性的で粗暴な自然児少女なのに、この{娘|こ}の{語韻|ごいん}の{清々|すがすが}しさは、どういう{訳|わけ}なんだろう。その言葉の終わり方は、いつも、低くもなく、高くもなく、強いわけでもなく、弱いわけでもない。だのに、アジサイのような、梅雨どきの{潤|うる}んだ鮮やかさを感じさせる。正に、香気のある響きとなったような余韻だ。
 きっと、この娘は、自分に関わったすべての生きものを、じっくりと煮込んで、死滅させてしまうんだろう。この娘はまだ、そのことに気づいていない。その点、俺たちは、自然界の様々な、あらゆる野生の能力が、退化してしまった。
 この娘も、{何|いず}れは、俺たちと同じ道を、辿るのかもしれない。もし、そうだとしても、俺たちは、誤りを正すべきなんだろう。俺たちは、神話も、様々な伝説のあれこれも、それらすべてを、無闇……闇雲の{下|もと}に、{猥雑|わいざつ}な作り話として、片づけてしまったんだ」

 マザメが、はたと気づいたような顔をして、不思議そうな目を、テッシャンに向けた。その口が、無言で物語る*食欲*は、{既|すで}に、マザメが魔性の{鮫|サメ}{乙女子|おとめご}に戻っていることを、静かに無音で物語っていた。

格物
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四苦八苦を背負い込む訳

 人間には、様々な苦がある。その代表選手が、生きていることの苦だ。それは、大概、他者と自分の対立によって生じる。誰かに憎まれても、逆に、誰かを憎んでも、どちらの場合も、双方に苦が生まれてしまうのだ。そうこうしている間にも、病の苦、老いの苦……と、様々な苦が押し寄せて来て、{挙句|あげく}、最後には必ず、死の苦が、待ち受けている。
 生苦、老苦、病苦、死苦……{所謂|いわゆる}これが、{四苦|しく}だ。これに、更に四つの苦を加えると、{八苦|はっく}となる。仏教でお馴染みの「しくはっくする」の、語源だ。
 {因|ちなみ}に、残りの四つの苦とは……。
 {愛別離苦|あいべつりく}……愛する者とも別れなければならない苦しみ。
 {怨憎会苦|おんぞうえく}……会いたくない人とも会わざるを得ない苦しみ。
 {求不得苦|ぐふとっく}……欲しい物が得られない苦しみ。
 {五陰盛苦|ごおんじょうく}……心身の苦悩。

 {何故|なぜ}人間は、好むと好まざるに関わらず、盛りだくさんの四苦八苦を背負い込むのか。それは、そこには必ず、「自分」{或|ある}いは「モノ」が存在するからに他ならない。
 *自分*が、この世から消え去ってゆく。
 *自分*は、死んだら、地獄に落ちるのではないか。
 *自分*は、不治の病で、余命いくばくもない。
 ここから、**自分**を、抜き去ってみる。すると、当然と言えば当然なのだが、苦しみは、跡形もなく消え去ってしまう。

 次に、「モノ」とは……。
 金銀財宝、肉体、愛する心、憎しみの情動、地位、名誉……これらすべてが、「モノ」なのだ。{故|ゆえ}に、これら「モノ」に執着すれば、例外なく苦しみを味わうことになる。正に、欲しい物が得られない苦しみ……求不得苦というものだ。
 何かが欲しい、何かに成りたい……と、それ自体は立派な目標意識なのだろうが、それが{叶|かな}わなければ、「副産物として、苦しみが生成される」と、いう訳だ。
 そこで、*自分*の事例に{倣|なら}い、これら「モノ」を、消し去ってみよう……と、理屈では、そんな展開になるだろう。
 原始仏教由来の{唯識|ゆいしき}の論によると、これを、「唯識{無境|むきょう}」という。「境」というのが、正に「モノ」であり、{唯|ただ}、識があるだけで、{境|さかい}はない……{況|いわん}やッ! 「ヒトという一己の生命の外側……外界には、何も無い」……{則|すなわ}ち、「モノは、存在しない」と、いう訳だ。

 自分の中に、自分は、存在せず。
 自分の外に、モノは、存在せず。

 これを、この星の万人が、理解することができたなら、この世から、すべての{闘戦|とうせん}が、消えて無くなってしまうことだろう。
 正にそこが、「世のため人のため」を目指してきた原始仏教大乗仏教が、成就するところなのだ。

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寺学舎 美童(ミワラ) ムロー学級8名

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