MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

東亜学纂学級文庫

『息恒循』を学ぶ

後裔記 第1集 No.152

#### マザメの{後裔記|152}【実学】{還夏|かんか}の太陽【格物】60兆個の意識 ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 学徒学年 **マザメ** 齢12

実学
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還夏の太陽

 楽園、ペニンソラ……。
 島の名前かしらん?
 島から島へ。まるで、島流しの漂海民ね。戦う以外に道は無いと確信して、己の覚悟を固くしているオオカミたち男どもが間違っているとは言わないけれど、今のあたいらは、一羽の{鴉|カラス}にも勝てないんだ。本当に戦うと言うなら、火急にやらなければならないことがある。オオカミと、目が合った。あたいの目から、本音の片鱗が{零|こぼ}れていたのかもしれない。
 オオカミが、誰にともなく言った。

 「あの船は、おれの心だ。おれの心は、文明エスノの奴らに攻撃されて、ボロボロになった。クラースメン島には、奴らの中枢の一端を担う都市部がある。それが{判|わか}っていて、おれたちは、{美童|ミワラ}だけならまだしも、{武童|タケラ}までもが一緒になって、この孤立した存在すら明かされることのない島に、逃げ込んだんだ。
 {何故|なぜ}だッ!
 敵の{砦|とりで}があると知りながら、それを破壊もせず戦いもせず、ただ逃げ回って流転するのみ。{正|まさ}に、{恥辱|ちじょく}の到り。一族先人{先達|せんだつ}への、裏切りだ。
 どの{面|つら}さげて、故郷の浦町に戻れようかッ!」

 オオカミの野郎の{呟|つぶや}きを聴いていたのは、あたいとクーラーボックスのオッサン……元い、モクヒャさんだった。何を考えればいいのかも判らないまま、見るでも見ないでもなく、ぼんやりとオオカミの野郎とモクヒャさんの顔を視界の中に収めていた。暫くの間、モクヒャさんは、顔を左右に大きく、静かにゆっくりと振っていた。
 すると突然、時間は止まってくれないというこの星特有の不条理に気づきでもしたかのようなビックリ*くりくり*の目ん玉に変わり、矢庭に面前の自然児に説法をおっぱじめた。

 「我ら自然エスノの人生、天命を{全|まっと}うしたところで{最長|マックス}49年だ。それ以上は有り得んし、それ以下でも困る。十年{一|ひと}昔と言うが、君の人生は、一昔経っても、前になど進まぬ歩みだ。気を{急|せ}かす前にやるべきことが、あまりにも多すぎる。{最|もっと}も、明日、天地創造が起こるのだとしたら、話は別だけどな。
 我ら列島国に、文明エスノの中枢の一端を担う都市部がいくつ点在するか、知っとるかね? まァ、ざっくり百は超えるだろう。その百を超える都市部の、たった一つを相手にするだけで、なんで{徒|むだ}{死|じ}にをせにゃならんのだ。しかも、我ら五人とおまえたち八人、総員十三名が全滅する{訳|わけ}だろォ? バカバカしいとは思わんかねぇ?
 我らは、自然の一部であり続けることを選んだ。男も女も、我らは生涯、自然から学び続ける{徒|ともがら}だ。だから、「学徒」と呼ばれる君らの年代の一刻一刻は、息恒循の49年間を通じて、一番大事な時期なのだ。学徒にとって先決なのは、学問で解決すべき課題のすべてを修めることだ。
 死んでも許されるのは、その後だ。
 もう少し、待て!」

 オオカミの野郎は、正に{肺腑|はいふ}をつかれたような痛々しい顔色に変わっていたが、まァさすがに、大いに{啓蒙|けいもう}されたんだろう。この時からというもの、オオカミの口数は、激減した。口数が減った分、考えが増えたかというと、まさかそんな奴じゃないことは、それこそ正に言わずもがなってぇもんなんだけどさァ♪
 まァ……{閑話休題|それはともかく}。
 そんなあたいら三人目に、見慣れたオッサンの見慣れた登場シーンが、映った。ずっかずっかと、近づいて来る。
 「いやなァ。
 手を振ろうと思ったんだが、この有様で、大声を出そうにも、息が切れてしまってなッ!」と言うなり、タケゾウさんが、両手にぶら下げたモコモコとした白いレジ{袋|たい}を、石積みの{堤|つづみ}の上にどさっと下した。そして、見るからに大急ぎで呼吸を整えると、演題に立ったかのような満足げな緊張感を漂わせながら、一番望まれていない行動に打って出た。
 ……タケゾウさん、語る!

 「{俄|にわ}か船大工の皆の衆への差し入れだ。敵地で栄養価の高い食糧を調達することは、危険度の観点から愚の骨頂なんだが、どうせみんな、自分の昼飯のことなんぞそっちのけで、夢中になっちまってるんだろうからな。わしらが引き起こす物騒の一つや二つ、陽明先生が{潜|くぐ}りに潜った修羅場に比べれば、富士山滑り台を登るより{容易|たやす}いってことよォ♪
 てか、富士山滑り台、まだあるよなァ? ほれぇ! 寺学舎の直ぐ近くの公園に……。まァ、{閑話休題|よかよか}。そう、その陽明先生が、君{等|ら}と同じ年のころに、塾師に{斯|こ}う{訊|たず}ねたそうだ。
 『天下一等の人とは、どういうものですか』
 塾師は、即座に斯う答えた。
 『進士に及第し、親を{顕|あらわ}し、名を{揚|あ}げる人』だと。
 すると少年陽明先生、応えて斯う言う。
 『そんな人はたくさん出るから、第一等の人物とは言えますまい』と。
 なかなか、鋭いことを言う。なるほど、入学試験に資格試験に入社試験と、試験の{類|たぐい}は全国到るところ、しょっちゅうやっておる。さても参り果ててしまった塾師、『おまえは、どう思うかッ!』と、少年陽明先生に問う。すると少年陽明先生……。
 『聖賢となってこそ初めて第一等ではありませんか』と、なかなか生意気なことを言う。
 そんな彼が大人になり、結婚して間もなくのこと。彼は、念願{叶|かな}ってその聖賢の一人を探し当て、訪ねるに到った。その聖賢の人は、青年陽明先生より五十歳も年上で、老熟して齢は七十に近かった。その賢人は、青年陽明先生に斯う教えた。
 『聖人は、必ず学んで、それで達することができるのだ』と。
 俊敏で真剣な学問求道の精神を自負していた青年陽明先生も、初めて{謁|まみ}えたこの老熟した聖人の平凡すぎる返答に、何やら空恐ろしい霊感を感じ得ずにはいられなかったという話だ。今の時代、生きた聖人に謁えるよな機会は、あるまいがな。
 だが……だ。
 学問によってこの世を生きれば、あの世の聖人と通じる道が、{拓|ひら}けるってもんだ。{武童|タケラ}になってしまうとな。悲しいかな、そんなことを考えるような暇は、ない。今しか出来ないことを、一所懸命にやる。それが、自然の一部の生き方というものだ。
 ……いやはや、失礼。
 わしは、そう思う。
 ただ、それだけのことだ」

 モクヒャのオッチャンが、{継|つ}いで何かを言いたそうな顔をしている。そうこうしている間にも、時令は、移り変わる。{還夏|かんか}が、過ぎ去ろうとしているのだ。想夏……夏が盛る七月が、またやってくる。あたいらが離島疎開して、一年が経とうとしている。もう、戦うしかないということを焼きつけてくるような盛った太陽が、今まさに、昇ろうとしているのだ。 

格物
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60兆個の意識

 まァ、あたいが書きそうなことは、森の動物も植物も、あたいらと同類一体で、あたいら人間は、自然のなかの細胞の一つにすら{勝|まさ}ってはいないってこと。文明の野郎どもは、遺伝子工学だの遺伝子生物学だのと言って、遺伝子の組み換えとかなんとか「わけわかんねーぇ!!」ことを盛んにやってるみたいだけど……でもって言うか、ところがさァ。その研究者ですら、一つの細胞が持ってる知能に、{驚愕|きょがく}してるらしい。
 遺伝子の組み換えをする場合、{癌|ガン}細胞だとか様々な種類の細胞を集めてきて、シャーレーっていうガラスの容器の中に養分をたくさん入れて{培地|ばいち}っていう環境を作ってやって、その中に集めて来た細胞を入れて、増殖させるんだとか。
 ……で、それを、顕微鏡で観察する{訳|わけ}さ。すると、細胞をたくさん入れたシャーレーの中の細胞は、次から次へと分裂を繰り返す。でも、数個しか細胞を入れなかったシャーレーの中の細胞は、動きがまったく緩慢で、{遅々|ちち}として増殖が進まないんだそうだ。
 その実験を終えた研究者の先生が、{斯|こ}う感想を漏らしたそうだ。

 「私は、心の働きなんてものは、大したものではないと思っていたが、こうやって実験を通じて細胞の一つ一つと付き合っていると、小さな数ミクロンの細胞一個一個にも、意識というものがあるのではないかと思うようになったんです」……と。

 一個の細胞の中には、当然脳ミソなんかない。でも、仲間がたくさん居ると、元気に勢いよく増殖する。でも、仲間が少ないと、元気が無く、あまり増殖しない。だから、一個一個の細胞にも、意識があるのかもしれない……と、その先生は、思った訳だ。
 あたいら人間の{身体|からだ}は、60兆個から70兆個の細胞から出来ているんだそうだ。脳細胞なんて、そのほんの一部に過ぎない。だから、あたいらの思いがすべて脳細胞から作り出されているって考えるのは、まったく見当違いもいいところだって、思ってしまうのだ。
 事実は、変えられない……。
 あたいら人間を作っている60兆個の細胞の一つひとつすべてが、意識を持っている……これは、事実なのだ。

 人間は、大人になると、心配事をよくする。「血の小便が出るくらいでなければ、一人前の経営者にはなれない」ということを、戦後復興期だか高度成長期だか知らないけれど、そんな言葉が飛び交う時代があったそうだ。それは{兎|と}も{角|かく}、ところで{何故|なぜ}、心配事をすると、血の小便が出るんだろうか。
 人間は、頭だけで悩むんじゃない。「たいへんだァ!」って思うのは、頭だけじゃないってこと。全身の60兆、70兆もの細胞一つひとつが、心配事で打ち震える状態になるのだ。小便だけに、留まらない。心配事があると、ストレスが{溜|た}まって、{胃潰瘍|いかいよう}になったりもする。
 胃の細胞は、頑強だ。塩酸が主成分で鉄をも溶かす胃酸にも、めげない。その胃酸が多量に出れば、胸はヒリヒリするし、胸焼けもする。そんな胃酸を溜め込んでいるのが、胃の内壁の細胞だ。その強靭な細胞が、悩みごと一つで、{脆|もろ}くも急性胃潰瘍になったり、{終|つい}には胃に穴が空いたりしてしまうのだ。
 逆に、胃腸が消化不良を起こして機能不全に{陥|おちい}ると、爽快に動いていた脳細胞も、次第に{憂鬱|ゆううつ}となり、やがて頭がうまく回らないなってしまう。腰が痛くても、頭は憂鬱となり、どうにも考えがまとまらなくなってしまう。{則|すなわ}ち、身体のどこか一部が不調を{来|きた}せば、必ず身体全体の調子に影響が出てしまうって訳だ。

 痛い部分の細胞の意識が、身体全体の意識に波及する。であれば、植物の細胞が意識を持っていても、なんの不思議もない。あたいら自然{民族|エスノ}の最大の武器は、それを、肌身を通じて知っているということだ。あたい*らしい*言い草だけど、でもさァ……。
 どうやったって、事実を曲げることなんて、誰にもできやしないのさ。
 
_/_/_/ 『然修録』 第1集 _/_/_/
美童(ミワラ) ムロー学級8名
武道(タケラ) タケゾウ組5名

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未来の子どもたちのために、
成功するための神話を残したい……
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