MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

然修録 第1集 No.149

#### 時令が変わる そして命も サギッチ {然修録|149} ####

 {会得|えとく}、その努力に{憾|うら}みなかりしか。
 少年学年 **サギッチ** 少循令{猛牛|もうぎゅう}

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 時令の七季目、{還夏|かんか}が終わる。六月が終わり、一年の周期が完結するということだ。寺学舎で過ごした最後の夏から、一年が経った。時令の力は、恐ろしい。何があっても、決まった周期で、必ず変わる。人の生死も、世間の{流行|はやり}り{廃|すた}れも、一定ではないものの周期的に、必ず繰り返す。
 なかでも特筆注視すべきは、流行り廃れだ。流行るほどの人気を博しておきながら、{何故|なにゆえ}に廃れてしまうのか。それは、{流行|りゅうこう}だの話題だのといった危うい乗り物に乗ってしまうと、{兎角|とかく}物事の真を失う{嫌|きら}いがあるからだ。{甚|はなは}だしきは、その真を誤ること。これでは、何を乗せても廃れてしまうのは、当然の{到|いた}りというものだ。
 以前、誤解され{易|やす}いもののいくつかを、然修録だか後裔記だか、{何時|いつ}だったか誰だったかが、書いていた。そのいくつかの一つに、陽明学がある。言わずもがな、寺学舎で必ず学ぶ古典の一つだ。なので、ここで改めて、陽明学の流行り廃れの原因となった〈真の誤り〉について、読書してみた。

 おれ思うに、自然も、その自然の一部である{民族|エスノ}も、流行り廃れの{悪|あ}しき時流に、決して乗っても乗せてもならない。でもおれたちは、そいつに、乗ってしまった。*真を誤る定め*の時流に……。

 {時宜|じぎ}を得たのは{好|よ}しとしても、真を誤らずに学ぶためには、やはり文献を{渉猟|しょうりょう}することが大事となる。陽明先生本人の言論や文章を知らなければ、それこそ一場の耳学問……断片的であり、立ち話や{暇潰|ひまつぶ}しの*ネタ*にしかならない。ネタとは、真実でない悪ふざけの言動……{況|いわん}や、*ガセネタ*の略語だ。

 流行り廃れの原因……その一つが、時局の緊迫だ。だんだん深刻になってきて、今までみたいな{好|い}い加減なことでは済まなくなってきたということだ。欧米では、これをよく表現した言葉が存在する。{ステイシス|stasis}、一つの変化の微妙な状態とか、変化の危機といった意味だ。語源は、ヨーロッパ中世の哲学用語「スタシス」。

 アメリカの大学教授が、アメリカの現代文明や市民生活を分析した結果を、本に書いている。それによると、アメリカは{嘗|かつ}て人類の歴史に類のないほどの物質的・経済的な繁栄に恵まれ世界に時めいていたが、意外に早く流行り廃れの「型」の{如|ごと}く{頽廃|たいはい}に向かい、現に、今やどうにも取り返しがつかぬ状態まで来ている……ということを、痛切な観察を{以|もっ}て指摘している。
 この{終焉|しゅうえん}への秒読みという絶体絶命の危機からアメリカ国民を救うためには、余程真剣な規律と犠牲の精神を要するが、悲しいことにアメリカの移民族たちは、このような*危機下で努力に耐える*という経験をしたことがない。{則|すなわ}ち、我が国を含め、ヨーロッパ諸国や中国大陸のように、治乱興亡という深刻で余程の真剣味を要する時代を、体験したことがないということだ。
 例外は、ある。建国当時のワシントンやジェファーソン、南北戦争の頃のリンカーンや、彼らに{私淑|ししゅく}した勇士をはじめとする庶民たちは、真剣な生活や精神や努力というものを、肌身で感じて体得していたことだろう。では、現代の人びと……{殊|こと}に、我が国{日|ひ}の{本|もと}と戦争をしたように、外国と直接対決をした戦争を知らない若い世代の市民たちは、どうだろう。
 その答えは、言わずもがなだ。彼らが、今の時代から知り得ることができるものは、成功と繁栄に伴う{享楽|きょうらく}だけだ。例えば、苦労を知らない良家の{拠|よ}ん所なく軽薄に育ってしまった子女が、{今更|いまさら}規律だの犠牲だの忍耐だの辛抱だの精神だのと{懇々|こんこん}と言われたところで、{正|まさ}に犬語か猫語を聞かされているくらいにしか思わないことだろう。

 無論、この本は、太平洋を越えた先の大陸にある歴史の浅い{俄|にわ}か大国に対する警告の書だ。だが、日本人たちの読後感は、これに{順|したが}っていない。一様に、{斯|こ}う言う。
 「もう、痛いほどに{判|わか}る。これは、アメリカのことではなく、我が国……*日の本*のことだッ!」と。
 事実というか案の定というか、この時分よりアメリカでは、当代の危機を率直に指摘し、また将来を深刻に{憂慮|ゆうりょ}する警世、憂世、憂国、憂民の議論対談や著書が、随分多く出回り、時期同じくしてわが国でも、その翻訳が陸続として出回った。{終|つい}には、「人類最後の……{云々|うんぬん}」といった不気味な{主題|タイトル}まで、持て{囃|はや}されるに到る。
 そうなった理由の根底には、やはり日本民族の良心の{呵責|かしゃく}というか、{自反|じはん}と{格物|かくぶつ}……則ち、反省と己を正す過程で苦痛に{喘|あえ}ぐ声が、{唸|うな}り響いていたと考えられる。{恰|あたか}も、呂新吾の『{呻吟|しんぎん}語』や、陽明先生の『{抜本塞源論|ばっぽんそくげんろん}』を読んだかのように……。
 これらの語録は、現代の痛切な「スタシス」に当たって直接的に我らに訴え、響き、反省へと導いてくれる、正に*名論*なのである。

 ……と、(こんなことを書いている本は、一体全体、いつごろ書かれたのだろう?)と思って、裏表紙を{捲|めく}って、{奥付|おくづけ}を見た。すると、この本が書かれて、もう、半世紀を超えている。
 この本が書かれて半世紀……我が国「日の本」は、どうなったのか?

 ……ようこそ♪
 亜種動乱の時代へ。

_/_/_/ 『然修録』 第1集 _/_/_/
美童(ミワラ) ムロー学級8名

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未来の子どもたちのために、
成功するための神話を残したい……
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