MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

後裔記 第1集 No.154

#### {奏|かな}でる石と{晒|さら}す尻 ツボネエ {後裔記|154} ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 少女学年 **ツボネエ** 齢8

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 退屈、たいくつ、タイクツ……。

 {美童|ミワラ}のにいさんねーさんも、{武童|タケラ}のオッサンオバハンも、なんか楽しそうに{喋|しゃべ}っているけれど、何が面白いんだか、なんで楽しいんだか、さっぱり{解|わか}らない。

 {堪|たま}りかねて、アタイが、言った。
 「ねぇ。退屈なんだけど。みんなはそのままでいいけど、アタイだけ、どうにかしてよォ!」

 この場……ズングリ丸の甲板上の退屈な空間を離れるきっかけとして、何かを吠えておきたかっただけなので、べつに、「ウンチ行ってくるーぅ!!」でもよかった{訳|わけ}なんだけれど、そろそろアタイも{淑女|レディー}の資質を隠し切れなくなってきているザマスなので、ついついお上品に走ってしまったという訳。ここは、読者は……素直な態度で、「そうなんだーァ♪」と、自然に受け{容|い}れさえすればよい場面なのだ。

 ん? ……。

 特に読者からの異論が無いようなので、次の〈事の次第〉に進みたいと思います……デスデス♪

 上架されたズングリ丸の甲板に立て掛けられたタラップを、パンチラを気にしながら後ろ向きに下りかけたとき、{武童|タケラ}{渡哲|わたてつ}サングラスのファイねーさんに、声を掛けられた。
 「ねぇ! あんたさァ。音感、あるんだからさァ。石笛でも習えばいいじゃん♪」……と。
 (ん? イシブエーぇ?)と、思ったアタイ。
 「イシブエ? なにそれ!」と、アタイが問い返す前に、マザメの{姉御|アネゴ}が、吠えるように問うた。
 「そうよね。マザメちゃんも、音感ありそうだもんねぇ♪ あたいの場合はさァ。他人の失態を自分の欠点として受け{容|い}れなきゃいけないのに、心がそれを『イヤンイヤン』しちゃうときに、石笛を吹いて心を落ち着かせて、自ら己を説得するのさ。そういうことって、あるだろッ? 無いのーォ? ダメじゃん!」と、ファイねーさん。{所謂|いわゆる}一つの自己完結!

 ここで、レジ{袋|タイ}のタケゾウさんが、語りはじめた。アタイのパンチラ、継続中……。
 「ファイくんが言う通り……というか、言いたいことというか、{兎|と}も{角|かく}、{最早|もはや}わしらが石笛を吹いても、なんら、何も感じはせんのだ。だが、実際には、何かが起きている。それを感じて、心が密かに{騒|さわ}いでおる。{女子|オナゴ}諸君は、それを感じる能力に{長|た}けておる。しかも、若年が良し。幼年なら、{猶|なお}良し。
 ツボネンちゃんに、{魔性|ましょう}のサメどん! 君らなら、五感の一つひとつが、その何かを拾い上げてくれるのだ。天から降って下りてくるものあり。地から{這|は}い上がって{湧|わ}き{出|い}でるものあり。遠くから{漂|ただよ}ってくる{潮騒|しおさい}のようでもあり、{足下|あしもと}を打つ波のようでもある。
 石笛……その{音色|ねいろ}は、{正|まさ}に神秘! 鈴の{音|ね}のような女性の独唱が耳に流れ込み、それは、{小人|こびと}が持つ縫い針が{如|ごと}く、脳裏の細胞をチクチクと突き刺す。次に、{太鼓|たいこ}の響き。次に{弾|はじ}けるシンバル、無数のトランペットが破裂し、男女幼老の大合唱が始まる。
 嗚呼、どうやら……。
 わしの文才も、退化してきたようじゃわい!」
 「それ、退化じゃなくて、老化っしょ!」と、日焼けボーイのジュシにいさん。正しいので、{皆|みな}異論なし♪

 場違い、不届き者と{悟|さと}ったのか、この空気の中で{蘊蓄|うんちく}を語ろうとする{美童|ミワラ}は、一人も居なかった。
 ……で、蘊蓄が好きそうな{細長顔|さいちょうがお}のテッシャンのおっちゃんが、継いで語り始め(てしまっ)た。

 「君ら学級の中にも、記憶が得意な人が居ましたよねぇ? ぼくらの組も、ミワラ学級の時分には、よく古典の明文を暗記させられたものです。居並ぶ{徒|ともがら}を前にして、{諳|そら}んじてみたりしてね。そのどれもが{殆|ほと}んど、一{頁|ページ}にも満たない短いものでした。それでも、然修録の帳面に何度も{抄出|しょうしゅつ}しながら、一所懸命に覚えたものです。
 その中に、こんなのがありました。

 『石笛の音は、きいたことのない人にはわかるまいが、{心魂|しんこん}をゆるがすやうな{神々|こうごう}しい響きを持って{ゐ|い}る。
 {清澄|せいちょう}そのものかと思ふと、その底に{玉|ぎょく}のやうな温かい不透明な{澱|よど}みがある。
 {肺腑|はいふ}を貫くやうであって、同時に、{春風駘蕩|しゅんぷうたいとう}たる{風情|ふぜい}に{充|み}ちている。
 古代の湖の底をのぞいて、そこに{魚族|いろくず}や{藻草|もぐさ}のすがたを透かして見るやうな{心地|ここち}がする。
 又あるひは、千文の井戸の奥底にきらめく{清水|しみず}に向かって、{聲|こえ}を発して戻つてきた{谺|やまびこ}をきくやうな心地がする。
 この笛の吹奏がはじまると、私はいつも、眠っている自分の魂が呼びさまされるやうに感じるのである』

 どうですかァ? さすがのミワラ諸君も、これには及ぶまい。それだけ、分化する前の我らが祖先は、鋭い五感を見事に受け継いでいたということなんでしょう。{然|しか}し{乍|なが}ら、その後の先祖たち……ヒト種は、三つの亜種に分化した。そのそれぞれの退化も、始まっている。でも、君らミワラの{活|い}きた五感をもってすれば、この明文が物語る魂の目覚めうを、体現具現することができるんじゃないでしょうか。
 そう、思いませんかァ?」

 (でッ! アタイ、どうすればいいのーォ??)と思う、パンチラを{晒|さら}したままの{不肖|ふしょう}アタクシであった……が、その時、クーラーボックスを覗き込みながら、モクヒャのオッサン(? ジイサン? まァ、どっちゃーでもいいけど……)が、言った。
 「おかしいですねぇ。船大工たちのぶんもクーラーボックスに放り込んで来たんだが、どこに消えたんだろう」
 「じゃあ、探しに行こうよォ!」と、懸命なアタイ。
 「そうだな。失ってしまったものを{懐|なつ}かしんでも、もう、戻っては来ないんだからな」と、{得|う}るものも少ないムロー先輩が、言った。
 「ぼくらの運命は過ぎ去り、未来も終わったんだ。あるのは、今だけだよ」と、スピアの兄貴。
 「わけわかんねーぇ!!」と、サギッチ。{何故|なぜ}か、嬉しそう!

 そのとき、オオカミ船長が、吠えた。出航ラッパが{如|ごと}く……。
 「タテトタンテ・チンチチーン♪ 総員、離艦ーん!!」
 (離艦? 嗚呼、これから{戦|いくさ}になるんだから、間違いでもないッかーァ♪)と、{何気|なにげ}に自己完結するアタイだった。
 
_/_/_/ 『後裔記』 第1集 _/_/_/
美童(ミワラ) ムロー学級8名

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未来の子どもたちのために、
成功するための神話を残したい……
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