MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

然修録 第1集 No.153

#### 文明{民族|エスノ}の自家中毒 ムロー {然修録|153} ####

 {会得|えとく}、その努力に{憾|うら}みなかりしか。
 学徒学年 **ムロー** 青循令{悪狼|あくろう}

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 異国に到りて貧に生きる。それこそが、「{仕来|しきた}りの旅」の目的である。それ{則|すなわ}ち、生きた学問。分化した一つ……文明の民たちは、貧を嫌った。学ぶことを放棄したということだ。
 ……と、そんなことを考え出した{所為|せい}か、文明の危うさについて読んでみた。

 自然{民族|エスノ}の子どもたちは、今も昔も陽明学を学ぶ。文明の世界では、{兎角|とかく}嫌われる学問だ。革命的であるとか、暴動や{叛乱|はんらん}の論的根拠になるだとか、どうしても危険な学問にしたいらしい。そう言う我ら……王陽明という人物とその思想を信奉する古来の人間にしても、これも*また*と言うか*やはり*と言うか、革命の思想として取り扱い、結局は、危ういものにしてしまっている。

 このように、どちらに転んでも危うい扱いをされてしまう思想が、{何故|なぜ}悠久、断続的であれ持て{囃|はや}され続けてきたのだろうか。

 そこには、ちゃんとした理由がある。社会や人心が{頽廃|たいはい}してくると、人間の心理のなかの*良心*というものが、{俄|にわ}かに騒ぎだす。{故|ゆえ}に、警醒自覚を促す思想やら学問やらが、見直される。そしてそこから、言論が{興|おこ}ってくるのだ。
 人の生命も、同じようなことをやっている。人間の生命には、深くて神秘的な理法というものがある。{所謂|いわゆる}、生理だ。健康が損なわれたり体力が衰えたりすると、必ず生命が身体に警告を発する。それが病気であり、同時にそれは、死へと通じている。
 では、元来不死である{筈|はず}の細胞で構成され、健全に生命を営んでいる我ら人間が、何故必ず死んでしまうのか。これもまた、理由というか、そこには、原因というものがある。その一つが{怪我|けが}、もう一つが、細胞の自家中毒だ。

 はて、自家製の中毒?
 ……であれば、*自家用毒*でよいではないか。わざわざ「中」の字を付ける必要など、無いと思われる……が、この「中」という字! 相対するものを統一して、より高いところへ進むという意味がある。その用法の代表格が、『中庸』だ。
 その『中庸』のなかに、「時中」という字が出てくる。時に中す……。『論語』のなかにも、「君子時中」という言葉がある。君子も、時に中す?
 人は、{現|うつつ}の世界で様々な営みをしているうちに、進化を伴うと同時に、中毒も始まってしまう。所謂、**{中|あた}る**{訳|わけ}だ。健全に生きようとしているだけなのに、その生きることに中ってしまう。

 中毒とは、体内に潜む影のようなもので、常に生に伴っている。すると、生の営みが活発であればあるほど、そこに伴う中毒も、より活発化してしまう。身体が元気で栄養に富んだものをたくさん摂取すれば、それに伴う中毒も、{俄|にわ}かに活性化する。
 {順|したが}って、生が元気で、お金や地位や権力を持つことに貪欲であれば、そのどれもが中毒を伴い、貪欲さに比例して中毒を活発にしてしまうということだ。

 そこで、文明について……。
 民族は、元気であるからこそ、苦労に{挑|いど}み、文明を発達させ、それがために自家中毒が発症し、進行させてしまう。そして、{終|つい}には{亡|ほろ}びる。その繰り返しが、人類の歴史だ。必ず亡びるのであるから、歴史即ち、「没落史」ということにもなる。
 このことは、現近代に起こった{嘗|かつ}ての大戦の頃にも、書物で指摘されていた。第一次世界大戦のときには、ドイツのシュペングラー著に成る『西洋の没落―沈みゆく{黄昏|たそがれ}の国』。文明エスノの連中が言う第二次世界大戦のころには、イギリスのトインビー教授著に成る『歴史の研究』。

 我らヒト種が分化退化への{岐路|きろ}に立たされたとき、科学技術や工業文明は、絶頂に達していた。それは、{未曽有|みぞう}の発展発達だった。{然|しか}し{乍|なが}ら、それが未曽有であればあるほど、必ず伴い興る様々な中毒の現象や症状も、また*同時に*絶大なのである。
 {故|ゆえ}に、文明の繁栄を{放|ほ}ったらかしていると、我ら人類は、滅亡してしまうのだ。なかでも工業文明を最優先に発達させてきた文明{民族|エスノ}は、一人の容赦もなく絶滅してしまうことだろう。

 我ら{日|ひ}の{本|もと}の国が大敗して終戦を迎えた直後、ルーマニアのゲオルギウーという作家が、『二十五時』という小説を世に出したそうだ。二十五時というのは、言わずもがな午前一時のこと。では、何故午前一時ではなく、二十五時なのか。ここにも、明白な理由が存在する。
 午前一時だと、やがて午前三時になり五時となり、夜が明け天から陽光が刺してくる。故に「午前一時」というのは、待てば夜が明け、朝の光を浴びることができることを意味しており、{暁|あかつき}が保障されているという訳だ。
 対して二十五時は、やがて二十七時になり二十九時となり、待てども待てども、夜明けも朝もやって来ない。即ち、永遠の暗黒……それが、敗戦した国や共産主義革命を起こされてしまった国の現実だったのであろう。

 分化が未だ{鈍|にぶ}い異国の地に{於|お}いて、俺とワタテツとヨッコ君は、二度目の「仕来りの旅」と相成りそうだ。{云|い}わば、{遣|や}り直し……もう、次も無ければ、後も無い。

_/_/_/ 『然修録』 第1集 _/_/_/
美童(ミワラ) ムロー学級8名

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未来の子どもたちのために、
成功するための神話を残したい……
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