MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

後裔記 第1集 No.157

#### 仕来りの旅、始動! サギッチ {後裔記|157} ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 少年学年 **サギッチ** 齢10

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 {仕来|しきた}りの旅……。
 思いもよらなかった。
 「今まさに、それ……」と、言いたい{訳|わけ}じゃない。
 (……みたいなもんだなッ!)くらいに、思っていた。
 そこへきて、本格的に……と言うか、正式に、「仕来りの旅にしてしまおうよォ!」と、誰か……言わずもがな、スピアの野郎が、言いだしたのだ。

 そこは、パータドグロスのマリーナから歩いて直ぐのところにあるドリンクバーって言うのか、カウンターとテーブルと大スクリーンのモニターがあって、カウンター越しの{厨房|ちゅうぼう}みたいなところで、おにいさんがドリンクや軽食をサクッと作って出してくれる店だった。
 そこに、タケゾウ組の五人とムロー学級の八人が{集|つど}って、非現実的だけど安全な今現在の景色を、己の顕在意識に{馴染|なじ}ませようと、{皆|みな}が無意味な挙動と意味不明な発言を断続的に繰り返していたって訳だ。
 そうしようと{努|つと}めていたって*わけ*じゃなく、(そうするしかない!)って潜在意識が判断っていうか無意識に思って、おれたちの脳ミソが、それなりの指令を、己の肉体の隅々に伝達していたって感じだった。

 そんな状況の{最中|さなか}で発せられたスピアの無思慮で無責任な発言が、その言った直ぐ先からのおれたちの未来を、激変させてしまった。{正|まさ}に、*仕来りの旅*が、始まったのだ。
 学人学年のムロー先輩と門人学年のヨッコ先輩ならびにワタテツ先輩は二度目の旅だけど……無論、学徒学年のオオカミ先輩とマザメ先輩、少年学年のスピアの野郎とおれサギッチ、そして少女学年のツボネエにとっては、正真正銘! *お初*の旅だった。
 「{朝飯|アサメシ}前……」とは言うけれど、「{昼飯|ヒルメシ}前直前に思い立って、昼飯前直前に行動に移ること」が、*朝飯前*の{奴|やつ}らが揃っていると言うか、揃ってしまったという現実を、そのとき、思い知らされることとなる。食いしん坊のおれが、昼飯の話題に転じようと、潜在意識と顕在意識が共闘で四苦八苦を始めた正に、そのときだった。

 パパっとグループ分けが{為|な}され、皆、ササっと旅に出てしまった。
 「有り得ん!」と、思わず声に出してしまった。
 おれらのグループ……というか、「取り残された三人」と言ったほうが正しいのかもしれないけれど……まァ、それは{兎|と}も{角|かく}、その三人……タケゾウのおっちゃんとツボネエとおれサギッチの三名が、アースタロリオに居残りの旅衆と{相成|あいな}った訳である。

 {因|ちなみ}に、付け足しで言っておくと……。
 ヨッコ先輩とワタテツ先輩とモクヒャのおっちゃんは、イトリオへ。
 オオカミ先輩とスピアの野郎とテッシャン氏は、スウェーデンへ。
 マザメ先輩とジュシさんは、デンモークへ。
 ムロー先輩とファイねーさんは、アロンドへ。
 ……と、それぞれ旅立って行った。

 {何|いず}れの国名も、(アースタロリオのパータドグロス{界隈|かいわい}で通じるところの{発音|プラノウンス}だったんだけんども、それを我が国{日|ひ}の{本|もと}の日本人たちがどう発音していたかは、{全|まった}く気にも掛からず知りたいとも思わなかったおれである。
 事実! おれらが祖国の*日の本*だって、おれらは「ひのもと」って発音するけんども、マザメ先輩とスピアの野郎とおれサギッチが疎開した「ヒノーモロー{島|とう}」を名付けた外国人は、正に「ヒノーモロー」って発音してたんだろうし、オオカミ先輩が疎開したヒノーモロー島と姉妹島のように並んでいた「ザペングール島」を名付けた外国人は、おれらが英語で「ジャパン」と読んでいた日の本の英語名を、「ザペングール」と発音していた訳である。
 まァ……どうでもいいことを書いてしまったようで、自己嫌悪……嗚呼、{凹|へこ}む。

 出て行った奴らのことは、まァ{何|いず}れ、その気になることがあったら、巻き寿司まきまきモニターで後裔記や然修録を読むだろうから、そんなことは{放|ほ}っといて、先ず{以|もっ}て「顕著」と表現すべき変化というか、目を見張る加速度バシバシ離陸体制やる気満々を{呈|てい}したのが、ツボネエの生まれ持った能力の飛躍だった。
 ここで、誤解する人は居ないだろうけど、{敢|あ}えて言い{足|た}しておく。「これは、{褒|ほ}め言葉ではない!」で、ある。

 おれとツボネエは、タケゾウのおっちゃんに連れられるまま、シッダニーという新都心に向かった。大きな川に、デッカイ橋が{架|か}かり、その{橋桁|はしげた}の{下|もと}、橋脚や橋台の周りには、オシャレでかっちょいいガラス張りの建物が並び、いろんな色形の顔と背格好と{纏|まと}いものをした{老若男女|ろうにゃくなんにょ}たちが集い、意味不明な言葉が飛び交っていた。
 そんな訳で、おれは、うろうろキョロキョロと動き回り、タケゾウのおっちゃんは、誰彼となく話しかけては、フムフムと{頷|うなづ}いていた。(英語……っていうか、あのヘンテコリンな言葉が、{解|わか}るんかい!)と、ちょっとだけ、おっちゃんが頼もしく見えた。
 で、ツボネエ……。

 大きなモニターの前の樹脂製のスツールにドカンと座り、中国ドラマに夢中って感じで、モニターに見入っていた。(十四億人から{選|え}りすぐられた美男美女が織りなす戦国の世の人間模様が、たまらなく魅力的に映ってるんだろうなッ!)なんてことを思いながら、{放|ほお}っておいた。
 (会話は中国語で字幕も英語だから、ストーリーなんか解る{筈|はず}もないのに、どこが面白いんだろう?)と思って、暫くしてからツボネエの横に座って*そう*言ってやったら、ツボネエの{奴|やつ}、{斯|こ}う言い返してきやがった。

 「観てれば、何を言ってるかくらい、{判|わか}るじゃん!
 娘のヤエが、帰宅した。久々の帰省。この春に大学に進学。一人暮らしをはじめて以来、最初の帰省。場面が、一年半前に切り替わる。入試が一年後に迫ったある日、ヤエが、とうちゃんと約束をする。学費が安い難関の大学に合格したら、故郷から離れて一人暮らしをすることを許してもらう。落ちたら、地元の短期の学校に、今住んでる実家から通う。
 そんな次第で、ヤエは、それからの一年間、{如何|いか}なる快楽にも目もくれず、試験勉強に大努力したのだった。
 じゃんじゃん♪」

 「何が『じゃんじゃん♪』だよッ! まったく……」と、おれ。
 てか、おれたち少年少女から失われつつある生まれ持った美質……というか、能力って……やっぱ、(スッゲーぇ!!)と、思うおれなのだった。

 てか……の続き。
 見知らぬ大人たちから中国語でばかり話しかけられる*おれ*って、いったい……。 

_/_/_/ 『後裔記』 第1集 _/_/_/
美童(ミワラ) ムロー学級8名

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未来の子どもたちのために、
成功するための神話を残したい……
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(Vol.09-12) {胎海|たいかい}のレイヤーグ
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 東亜学纂学級文庫★くまもと合志
 東亜学纂★ひろしま福山