MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

一息 17【この自然界。人間は、心の弱さにかけては定評がある。一粒の種にも劣るのかッ!】門人、ワタテツ

エスノキッズ 心の学問「自伝編」
令和2年5月2日(土)号。


一つ、息(いきを)つく。

ある日のことだった。

早朝から肉体労働。
所謂(いわゆる)一つの、旅の途中。

おれは、余所者(よそもの)。
世間の風は、余所者には冷たい。
そう思おうと、自分で決めただけのこと。
確かに、そうかもしれない。

自尊心に、五寸釘が食い込む。
ぶつかり合いが醸(かも)し出すエキサイト。
一段上の才能の世界を目指す鬩合(せめぎあい)?
猥雑(わいざつ)な俗世間で、それはない。
自尊心と自尊心がぶつかり合い、傷つけ合う。
そう思おうと、自分で決めただけのこと。
確かに、そうかもしれない。

その事実が、過去に存在する。
そのある日の夜。
一冊の本を手に取った。

著者は、牧師だったと思う。
写真読みで、頁(ページ)をペラペラと捲ってゆく。
日曜弥撒(にちようみさ)の説教なのだろうか。
自己啓発よろしく前向きな文言が、絵画でも観賞するかのように、頭のなかに写し取られてゆく。

すると、ある頁にきたところで、捲る手が止まった。

同じ論調の文言が書かれているだけなのだが、なぜかおれの脳は、小鳥が囀(さえ)ずるような詩を撮り、そいつを脳裏に写し出した。

うろ覚えで、随所創作に変化しているが、こんな感じだった。


ある日 招かざる客
無慈悲な強い風 それは突如
幸せに暮らしていた種の一家を 襲う

子供の種 無論 罪はない
風に 拐(さら)われた

風はやがて 襲来の遊びに飽きる
子供の種は 見知らぬ岸辺に置き去り

歩道を転がる 小さく幼い種
乾いたセメント
その割れ目に嵌(は)まって 止まる

突如 鬼のようなブーツの踵が 空を覆う
さらに割れ目の奥へ 奥へ
もう 動けない
もう 家族にも逢えない

あらゆるものから見捨てられた 孤児
持っているものは 一つだけ
不思議な不思議な 生命力
そいつは 死の恐怖に 果敢に挑む

ぼくは 生きる
だから 死なない
耳を澄ますと それは 自分の声だった

その 翌朝
タネ少年は 夜露を浴びて 濡れそぼっていた

みじめ みじめ

そのときだった
タネ少年は はたと気付いた
夜露が 喉を潤している
割れ目に蹴り落とされた砂ぼこりは
毛布よろしく
夜明け前の厳しい寒気を 遮っている

タネ少年は 独り 言(ご)ちた
すげーぇ!

タネ少年は 誰にともなく
天を仰いで 叫んだ

誰かが 植えてくれたんだ
遠慮は 要らない
ここで 根付けばいいんだ
ここで 大きくなればいいんだ
すごい!
ぼくは 世界で一番幸せな タネだ ♪

ある活きた朝 背伸びをする
秋の時令
瑞々(みずみず)しく繁った枝葉が
朝霧を払い落とす

道行く猫背の人びと
その頭上
タネ少年が
語りかけた

こんなちっぽけなぼくだって
ガラッとガラリと
非情で理不尽な運命を
変えることができた

一粒の ちっぽけな
しかも 孤児のぼくが
変われたんだ

だから きみにだって できる
変われるんだ
しかも きみなら ぼくよりもっと
簡単に


下を向いて猫背で歩いている人たちは、路面の割れ目に嵌(は)まり込んだタネ少年に、胸を張っている自分を見せているのだろうか。

それも、骨が折れる!


令和2年5月2日(土)号
一息 17【この自然界。人間は、心の弱さにかけては定評がある。一粒の種にも劣るのかッ!】門人、ワタテツ

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生まれもった美質と武の心。
エスノキッズと呼ばれた少年少女たち。

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