MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

一息 19【誰にも会いたくない? わかる。おれも、見れば羨み、聞けばカチン! 病んでたからな】少年、サギッチ

エスノキッズ 心の学問「自伝編」
令和2年5月16日(土)号。


一つ、息(いきを)つく。

今回の主題......テーマ。
無論。
正確には、「病んでいる」だ。

自問。
主題を過去形にしたのは、ツボネエに兄貴風を吹かせたかったから?

自答。
「YES」

男はみんな、偉そうにしたがる。
その割には、すぐに傷つく。

その点、女は強い。
いや、賢い。
そんな男の習慣的な性格をよく理解し、上手に操る。
これまさに、女の習性!

それは兎も角、ツボネエのことだ。
あの幼さで、ツボネエとは何だッ!
兄貴風なんて、可愛いもんだ。
あいつのは、姉貴台風だッ!

で、そのツボネエの後裔記。
《 一息 18 》
誰にも会いたくない?
人が居るところに、行きたくない?
疲れる?
死にたくなるくらいに?

わかる。

どうもおれは、というかおれも、どうにもこうにも、ダメなんだ。

誰かを「いい人だなあ」って思うと、必ずその人から嫌われる。
でも、その人を嫌いになると、心が安まる。

自分の味方を探そうとすると、絶望で生きるのが嫌(いや)になる。
でも、自分の周りはみんな敵ばかりだと思うと、何だか生きていけそうな気がする。

そんな自分を、良いとも悪いとも思わない。
真実は、ただ一つ。
それが、現実だってことさ。

いつも誰かを、他人を羨(うらや)んでる。
そうさ。
スピアでさえ、例外じゃない。

スピアには、何でも相談できる兄貴分がいる。
おれには、いない。

あいつを見ていると、なんだか放っとけなくなる。
あいつは、なにか、そんな徳みたいなものを持ってる。
おれは、持ってない。

もっとも、おれを見て放っとけない、相談ごとを聴いてやろうなんて思うやつがいたとしたら、そいつはたぶん、妖怪か怨霊だ。
まともな人間は、おれを相手になんかしたがらない。
遠ざける。

「当然だ......」と、
最近、そう思えるようになってきた。

おれは、相手が爺(じい)さんだろうが幼児だろうが、犬だろうが木の枝だろうが、口から出た言葉やその相手の存在そのものまで、悉(ことごと)くすべてにカチンカチンきて闇雲に反撃する。

論になってないんで、反論にもならない。

さすがに反省して、最近はちょっと丸くなった......と、ここは言いたいろころだけど、本当のところは、何も変わらない。
変わらないどころか、今では、おれに近寄ってくる人間は、スピアのみとなった。

そうなってしまった今でも、おれのカチンカチン病は、治癒の兆しの欠片も見せない。
喋らない、動かない相手にカチンカチンきて、独りブツクサ文句を言う。

それを抑え込むこともやってはみたが、心の中でカッチンカッチンがふつふつと沸いて、独りイライラしてしまう。

挙げ句、心の中が怒りでパッツンパッツンになって、周りの物も関係も、どんどん壊れてゆく。

そして今日、事件は起きた。

いよいよ、引きこもりが確定しようかという大事な日だ。
もう幾日も、家から出ていない。
スピアが、やってきた。

あやつは、ずかずかと裏庭に回って、おれがいつも居る部屋の掃き出しの一枚窓を、トントントントンと忙しなく叩いた。

スピアの頭が二つ入りそうなくらいの、でっかいヘルメットを被っている。
なぜッ!

スピアが、言った。

「カチンカチンの出来損ないの半自動小銃めッ!

もう、おまえの日本遺産みたいな速射砲なんて恐くない ♪

おまえの船腹に秘めてる錆びついた砲弾を、遠慮なく撃ってこい!

いざッ! ヤーヤァ! 決戦だッ!」

おれは、言った。

「大丈夫かァ?」

スピアが、応えて言った。

「たぶん」

ひとまずは、モニターの前に二人肩を並べて、バーチャル源平合戦の決着に大努力した。

だが......今回も、決着つかず。

そして、いつものように、二人で質屋回りをしてタダ同然で手に入れた二本のアコースティックギターを、二人でただただ、ジャンジャカした。

スピアが、言った。

「今日は、ここで帰るわけにはいかない。

おまえの言い分、おまえ以外の世界中の人類全員が納得できないと思うし、おまえ以外の人類のほうが正しいことは、見えないくらい小さいノミの脳ミソで考えたって、すぐにわかる。

でもおまえは、ノミでもすぐに理解できることを、いくら何度説明されても、わからない。

ノミに負けるのは、仕方がない。
あいつらだって、一所懸命なんだ。

ノミの手を借りるくらいなら、まだぼくの手のほうがマシだろォ!

じゃあ、よく聴けッ!

あの、今日さァ、ぼく、忙しいんだ。
だから、言いたいことだけ言って、帰るね。

おなえのこと、もちろん匿名だけど、どんな病気なのかぜんぜんわからないから、いろんな人に訊いてみたんだ。

心配は、本当に要らない。
おまえの名前は、言ってないから。
ぼくの一人しかいない親友の事だとしか、言ってないから。

で、おまえの病気の正体は、こうだッ!

幕、開きまーす......手動 (^_^;)

おまえは、自分に自信がないから、ふわふわの綿(わた)が飛んできただけなのに、縫い針や裁ち鋏が飛んできたかのように勘違いしてしまうんだ。

自分の意見が否定されると、恨みの感情が、ふつふつと沸いてくる。

自分が正しいと思ってることを否定されると、怒りが込み上げてくる。

なぜか。

根拠のない無意味な劣等感さ。

心が弱い人間は、他人の個人的な愚痴でさえ、自分が否定された言葉のように耳に届く。

周りの人間、一人残らず、敵に思えてくる。

勝ち続けなければ、自分の命がない。

そんな人生、楽しい?

他人から無礼な言葉で闇雲に否定されると、自分の心を守るために反発抵抗する。

そこまでは防衛本能で仕方ないとしても、それが闘争心に発展すると、ただ意見交換をしてるだけだった相手が敵となって、終わりなき争いがはじまる。

おまえの人生、それで終わっていいの?

同じ人間がいないのと同じように、同じ意見を持った人間もいない。

そういう感じ方や、物の捉え方もあるんだなーあ。あーァ、そりゃそりゃ ♪ って思えばいいんだよ。

自分の考えは正しい、自分の行動は完全だみたいに、常に完璧であろうとするから、未熟なだけの些細な言葉尻の一つひとつに、いちいちカチンカチンくるんだ。

いいじゃん、不完全で。
だって、みんな 、そうなんだもん。
完璧な人間なんていないし、
みんな、完全な人間になんてなれないんだよ。

ぼく、今日、忙しいんだ。
薪を、集めに行くんだ。
これから。
谷川沿いに、登って行くんだ。
聞いてる?
今日、ぼくたち、忙しいよ。
あれ、おまえのだから」

そう言ってスピアは、庭に投げてある、お揃いの工事用ヘルメットを指差した。

あいつ、薪拾いを手伝ってほしくて、誘いにきたのか。

てか、それだけぇ?!


令和2年5月16日(土)号

一息 19【誰にも会いたくない? わかる。おれも、見れば羨み、聞けばカチン! 病んでたからな】少年、サギッチ

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生まれもった美質と武の心。
エスノキッズと呼ばれた少年少女たち。

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