エスノキッズ 心の学問「自伝編」
令和2年5月16日(土)号。
一つ、息(いきを)つく。
今回の主題......テーマ。
無論。
正確には、「病んでいる」だ。
自問。
主題を過去形にしたのは、ツボネエに兄貴風を吹かせたかったから?
自答。
「YES」
男はみんな、偉そうにしたがる。
その割には、すぐに傷つく。
その点、女は強い。
いや、賢い。
そんな男の習慣的な性格をよく理解し、上手に操る。
これまさに、女の習性!
それは兎も角、ツボネエのことだ。
あの幼さで、ツボネエとは何だッ!
兄貴風なんて、可愛いもんだ。
あいつのは、姉貴台風だッ!
で、そのツボネエの後裔記。
《 一息 18 》
誰にも会いたくない?
人が居るところに、行きたくない?
疲れる?
死にたくなるくらいに?
わかる。
どうもおれは、というかおれも、どうにもこうにも、ダメなんだ。
誰かを「いい人だなあ」って思うと、必ずその人から嫌われる。
でも、その人を嫌いになると、心が安まる。
自分の味方を探そうとすると、絶望で生きるのが嫌(いや)になる。
でも、自分の周りはみんな敵ばかりだと思うと、何だか生きていけそうな気がする。
そんな自分を、良いとも悪いとも思わない。
真実は、ただ一つ。
それが、現実だってことさ。
いつも誰かを、他人を羨(うらや)んでる。
そうさ。
スピアでさえ、例外じゃない。
スピアには、何でも相談できる兄貴分がいる。
おれには、いない。
あいつを見ていると、なんだか放っとけなくなる。
あいつは、なにか、そんな徳みたいなものを持ってる。
おれは、持ってない。
もっとも、おれを見て放っとけない、相談ごとを聴いてやろうなんて思うやつがいたとしたら、そいつはたぶん、妖怪か怨霊だ。
まともな人間は、おれを相手になんかしたがらない。
遠ざける。
「当然だ......」と、
最近、そう思えるようになってきた。
おれは、相手が爺(じい)さんだろうが幼児だろうが、犬だろうが木の枝だろうが、口から出た言葉やその相手の存在そのものまで、悉(ことごと)くすべてにカチンカチンきて闇雲に反撃する。
論になってないんで、反論にもならない。
さすがに反省して、最近はちょっと丸くなった......と、ここは言いたいろころだけど、本当のところは、何も変わらない。
変わらないどころか、今では、おれに近寄ってくる人間は、スピアのみとなった。
そうなってしまった今でも、おれのカチンカチン病は、治癒の兆しの欠片も見せない。
喋らない、動かない相手にカチンカチンきて、独りブツクサ文句を言う。
それを抑え込むこともやってはみたが、心の中でカッチンカッチンがふつふつと沸いて、独りイライラしてしまう。
挙げ句、心の中が怒りでパッツンパッツンになって、周りの物も関係も、どんどん壊れてゆく。
そして今日、事件は起きた。
いよいよ、引きこもりが確定しようかという大事な日だ。
もう幾日も、家から出ていない。
スピアが、やってきた。
あやつは、ずかずかと裏庭に回って、おれがいつも居る部屋の掃き出しの一枚窓を、トントントントンと忙しなく叩いた。
スピアの頭が二つ入りそうなくらいの、でっかいヘルメットを被っている。
なぜッ!
スピアが、言った。
「カチンカチンの出来損ないの半自動小銃めッ!
もう、おまえの日本遺産みたいな速射砲なんて恐くない ♪
おまえの船腹に秘めてる錆びついた砲弾を、遠慮なく撃ってこい!
いざッ! ヤーヤァ! 決戦だッ!」
おれは、言った。
「大丈夫かァ?」
スピアが、応えて言った。
「たぶん」
ひとまずは、モニターの前に二人肩を並べて、バーチャル源平合戦の決着に大努力した。
だが......今回も、決着つかず。
そして、いつものように、二人で質屋回りをしてタダ同然で手に入れた二本のアコースティックギターを、二人でただただ、ジャンジャカした。
スピアが、言った。
「今日は、ここで帰るわけにはいかない。
おまえの言い分、おまえ以外の世界中の人類全員が納得できないと思うし、おまえ以外の人類のほうが正しいことは、見えないくらい小さいノミの脳ミソで考えたって、すぐにわかる。
でもおまえは、ノミでもすぐに理解できることを、いくら何度説明されても、わからない。
ノミに負けるのは、仕方がない。
あいつらだって、一所懸命なんだ。
ノミの手を借りるくらいなら、まだぼくの手のほうがマシだろォ!
じゃあ、よく聴けッ!
あの、今日さァ、ぼく、忙しいんだ。
だから、言いたいことだけ言って、帰るね。
おなえのこと、もちろん匿名だけど、どんな病気なのかぜんぜんわからないから、いろんな人に訊いてみたんだ。
心配は、本当に要らない。
おまえの名前は、言ってないから。
ぼくの一人しかいない親友の事だとしか、言ってないから。
で、おまえの病気の正体は、こうだッ!
幕、開きまーす......手動 (^_^;)
おまえは、自分に自信がないから、ふわふわの綿(わた)が飛んできただけなのに、縫い針や裁ち鋏が飛んできたかのように勘違いしてしまうんだ。
自分の意見が否定されると、恨みの感情が、ふつふつと沸いてくる。
自分が正しいと思ってることを否定されると、怒りが込み上げてくる。
なぜか。
根拠のない無意味な劣等感さ。
心が弱い人間は、他人の個人的な愚痴でさえ、自分が否定された言葉のように耳に届く。
周りの人間、一人残らず、敵に思えてくる。
勝ち続けなければ、自分の命がない。
そんな人生、楽しい?
他人から無礼な言葉で闇雲に否定されると、自分の心を守るために反発抵抗する。
そこまでは防衛本能で仕方ないとしても、それが闘争心に発展すると、ただ意見交換をしてるだけだった相手が敵となって、終わりなき争いがはじまる。
おまえの人生、それで終わっていいの?
同じ人間がいないのと同じように、同じ意見を持った人間もいない。
そういう感じ方や、物の捉え方もあるんだなーあ。あーァ、そりゃそりゃ ♪ って思えばいいんだよ。
自分の考えは正しい、自分の行動は完全だみたいに、常に完璧であろうとするから、未熟なだけの些細な言葉尻の一つひとつに、いちいちカチンカチンくるんだ。
いいじゃん、不完全で。
だって、みんな 、そうなんだもん。
完璧な人間なんていないし、
みんな、完全な人間になんてなれないんだよ。
ぼく、今日、忙しいんだ。
薪を、集めに行くんだ。
これから。
谷川沿いに、登って行くんだ。
聞いてる?
今日、ぼくたち、忙しいよ。
あれ、おまえのだから」
そう言ってスピアは、庭に投げてある、お揃いの工事用ヘルメットを指差した。
あいつ、薪拾いを手伝ってほしくて、誘いにきたのか。
てか、それだけぇ?!
令和2年5月16日(土)号
一息 19【誰にも会いたくない? わかる。おれも、見れば羨み、聞けばカチン! 病んでたからな】少年、サギッチ
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生まれもった美質と武の心。
エスノキッズと呼ばれた少年少女たち。
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