エスノキッズ 心の学問「自伝編」
令和2年5月23日(土)号。
一つ、息(いきを)つく。
人間は、神秘だ。
夢は、不思議だ。
現(うつつ)の世の中がこんなにも残酷だっていうのに、夢はいつだって、希望に満ち溢れている。
神話の勉強なんてした覚えはないのに、読んだり聞いたりしていたとしても、なーんにも覚えてないっていうのに、夢の中のあたいは、女神だった。
しかも、太陽神。
メジャーな神だ。
でも、石造りの自室に、引きこもっている。
太陽神が引きこもるってことは、どういうことか。
わかる?
そうです。
太陽が、出ない。
朝は、やってこない。
だからずっと、夜!
なんで引きこもったか、てぇ?
あたいが、知ってるわけないじゃん!
だってそれは、夢の中のあたいの話なんだもん (^_^;)
でもさッ ♪
この変な夢、忘れてしまわないように、目覚めてすぐ、書き出したんだ。
忘却と書き出しのおっかけっこだから、断片的で読み辛い物語だけど (^_^;)
でもさッ ♪
あたいの夢は、日々進化を遂げている。
ナレーション付きーィ ♪
みんなも、そうなのかなッ?
その夢のナレーションは、何故か、オオカミの声だった。
あいつは、妖怪と殴りあいの激闘の夢しか見ない。
話が長くなるので、この夢の中の殴り合いの話は、置いときます。
あいつは、こう言い張る。
「おれの祖先は、意富加牟豆美命(おおかむずのみこと)だッ!」と。
どうやら、オオカミという知命の名前は、このオオカムズさんからとったようです。
これは、ちょっと気になる。
神話を、読んでみた。
亡き妻と夫婦喧嘩も酣(たけなわ)のさなか、桃の実に命を助けられた伊邪那岐神(いざなきのかみ)が、桃の木に仰せられた。
「私を助けてくれたように、葦原中国(あしはらのなかつくに)(葦の茂る地上の世界。特に我らが海洋の中の島々の一国を指す)に住む美しき青人草(あおひとくさ)(現世(うつしよ)の人。これが、神が「人間」に言及した初出!)が苦しみ悩むとき、同じように助けなさい」
ってさァ!
そんな立派な人......神が、あのオオカミの祖先?
ないない! ( =^ω^)
それは兎も角として、
さて、わたしの夢の話に戻りましょう ♪
《 登場人物 》
わたし、女神。(たぶん、女です)
弟、男神(おがみ)。
母、女神。(もう、死んじゃってるんですけどーォ!)
《 注釈 》
◎わたし
父さんが生んだ十四柱(とおあまりよはしら)の子の13番目で、父さんの左目から産まれました。
今は、引きこもり (^_^;)
理由。
暴れん坊の弟が、やって来そうだから!
◎弟
父さんが生んだ十四柱(とおあまりよはしら)の子の末っ子で、父さんの鼻から産ました。
嵐の神。
父さんから勘当(かんどう)されて、現世から追放されてしまいました。
理由 。
泣いてばかりいる理由が、「母さんに会いたいよーォ」だったから。
◎母
父さんと一緒に、産まれてきた。
産まれたときには、もう夫婦だった。
禁断の愛、操を守った胎児婚!
その最後のケース、5カップル目。
三十五柱(みそちあまりいつはしら)の子を産み、若くして死す。
理由。
火の神を産んだとき、御陰(みほこ)に大火傷(おおやけど)を負ったから。
その後も病床で子を産み続けるが、父さんの看病の甲斐もなく、ついに神避(かむさ)りあそばされた。
《 本編 》
この物語は、夢の中の現(うつつ)である。
ここは、閉鎖されて、しかも殺風景な、石造りの部屋の中。
ここに、一柱(ひとはしら)の女が、引きこもっている。
見た目には心優しそうな、太陽の神だ。
父親から産まれた、末娘。
この物語の、主人公。
この物語の、作者。
彼女が、あなただ。
だからあなたは、この物語の作者であり、主人公でもある。
つまり、この物語は、あなたの心の自伝というわけだ。
さて、
そこに、一柱の女がやって来る。
人生のすべてを目的のために捧げた、既に死んでいる女。
あなたの、母さんだ。
あなたの母さんは、女の元祖であり、母親の元祖であり、妻の元祖でもあるというスーパーレディーであるが、すでに亡くなっている。
そこにまた、今度は、若い男が一柱、やって来る。
人生のすべての結果の責任を、過去の己の体験に押しつけようとする男。
あなたの、弟だ。
この弟、あなたと同じ父親から産まれた末っ子の男神であり、嵐の神として生まれ、現世の統治を命じられたが、その後追放され、今では荒(すさ)んだ生活をおくっている。
さてこの、三柱(みはしら)の神々。
今風に言うなれば、古代の名のある三人の男女。
引きこもりの末娘と、
不良の末っ子の息子と、
その二人を父親に代理出産させた既に死んでいる肝っ玉の母親。
本日の夢は、この三人の対話で終始する。
因みにナレーターは、わたくし。
意富加牟豆美命(おおかむずのみこと)が、務めます。
では、あなたの夢の幕を開けます。
どうぞーォ ♪
母さんの顔を見るなり、弟は愚痴りはじめた。
「父さんは、おれに、こう言ったんだ。
『私は、複雑な人間など、一人も産んでない。
みんな、簡素な子供だ。
人間の人生は、一人の例外もなく、単純だ。
だから、わたしが産んだ子に限って、悩みなどあろう筈がない』
ってね。
おれの父さんは、とんでもない喰わせもんだッ!
確かに父さんが言うとおり、子供には、その真理が当てはまるだろうさ。
勤労や納税の義務もない。
親や社会に守られてる。
毎日が、自由気儘だ。
未来は、希望に満ち溢れている。
おれに、成れないものなんてない。
おれに、出来ないことなんてない。
醜い現実を見なくてもすむように、子供たちの目は、覆い隠されている。
ところが、大人になるにつれて、現実の世の中は、その醜い本性を現してくる。
現実は、社会に出てきた子供たちに、何度も何度も、こう語りかけてくる。
『所詮おめーは、その程度の人間なのさッ!』
ってね。
どうかいのーォ!
人生の道端で待ってくれていたはずの様々な可能性とあらゆる希望のすべてが、どこに曲がりくねろうとも道々容赦なく、不可能という一言に書き換えられる。
ファンタジックでロマンティシズムの幸せな人生は終わり、残酷な人生のメカニズムの名もない消耗品の歯車の一つに組み込まれる。
なんでこんな複雑で残酷な人生をつくったのさッ!
なんでそんなクソ意地の悪いことをしたのさッ!」
母さんが、言った。
「そおッ?
面白いね ♪ 」
弟が、激烈に応えて言った。
「面白い?
どこが面白いのさッ!
大人になれば、クソ意地の悪い人間関係に絡まれる。
身勝手な都合で、責任ばかりを押しつけられる。
職場でも、家庭の中でも、自治会だのなんだのって社会の中でも、どこに居たって行ったって、逃げ場なんてどこにもない。
そのうちに、格差で差別されている自分に気づく。
差別されれば、歯向かう、争う、そして激突、果ては戦争さ。
そうだろォ?」
「そうだね」と、母さん。
弟が、言った。
「神への信仰が、聞いて呆れるぜッ!
こんな人生のどこが単純で、悩みなんか有り得ないって言えるんだよ。
どうせ父さんと喧嘩するんならさァ。
愛しい男に夫婦離別の呪文......事戸(ことど)だっけぇ? を述べられたとか、わけのわかんねーぇことで言い争うんじゃなくて、自分たちがつくった人間たちの残酷なメカニズムの現実の責任が、どっちにあるのか。
どっちもなのか。
そっち系で、喧嘩を仕切り直せッ! つーぅのよ。まったくぅ」
「そこは、わたしの考えも、愛しいあなたの父さんと同じです。
人間の人生は、単純。
悩みんか、有り得ません」と、母さん。
「わけわかんねーぇ!
この死にこくれのオバハン」と、弟。
「死にこくれではありません。
死んでます。
オバハンではありません。
あなたの母です。
わけわかんねーぇこと、ありません。
わけわかんねーぇことにしているのは、あなた自身です。
人生を複雑にしているのも、残酷にしているのも、あなた自身の意思です」
と、母さんは言う。
「おれがッ?」と、弟
呆れたような、不服顔。
続けて、母さんが言った。
「人間は、無縁で勝手に出来上がった世の中にポツンと置かれているのではありません。
それは客観的なだけの空間であって、そこに自分、人間は、存在しません。
人間は、自分で考えて、自分が生き易い世の中を、自分で、創るのです。
その主観的な空間の中に、人間の人生があります。
ですから、母さんの世の中も、父さんの世の中も、姉さんのそれも、あなたのそれも、如何なる人間の世の中も、どれ一つとして、同じものは無いのです。
違うのですよ」
「わるいけど。
やっぱり、わけわかんねーぇ!」と、弟。
「では、あなたに問います。
あなた、お姉さんのこと、冷たい女だと思っていますね?
では、お姉さんのこと、優しいなって思ったことは、一度もないにですかァ?」
と、母さんが言った。
「無いこともないけんどもォ......」と、弟。
あさってのほうに、目を遣る。
おかまいなく、母さんは続けた。
「おや、可笑しいことを言う子だねえ。
あんたの姉さんは、太陽神。
いつだって、どこだって、誰にだって、もちろんあなたにだって、まったく同じ明かりを照らしてる。
姉さんは、いつだって、客観的な空間を創っているのです。
それを、今日はなんだか明るいだの暗いだの、寒いだの暑いだの、優しいだの冷たいだのって感じるのは、あなたが創った主観的な世の中で、あなたが勝手に思っているだけに過ぎないのです。
これでも「わけわかんねーぇ」かったら、これならどお?
お風呂。
同じ温度。
極寒の吹雪のなかから帰ってきて、すぐにお風呂にジャブン。
熱い!
猛暑の激烈容赦ない日照りのなかから帰ってきて、すぐにお風呂にジャブン。
温(ぬる)い!
問題は、お風呂の湯がどうであるかではなく、ジャブンと飛び込んだあなた自身がどうであるかなのです」
「おれがァ?
どうであるかァ?」と、弟。
「もしかしたらあんたは、見えない帽子を被ってるのかもしれないねぇ。
怒りに燃えてカチンカチンしてるときは、その帽子を深く被って、自分の足下(そっか、あしもと)だけを見て、歩いてる。
気が緩んで俄(にわか)に有頂天になると、グッとその帽子を持ち上げて、青空を見上げたり木々の呼吸を感じたりしながら、歩いてる。
そんな帽子、脱いで道端に捨てちゃいなさい!
でもまた、あなたは帽子が欲しくなって、引き返して、泥のついた帽子を拾い上げるんでしょうね。
勇気を、持ちなさい!
残酷も、複雑も、悩みも、問題は、あなたに帽子を捨てる勇気があるかどうかです」
母さんは、そういうと、わたしが被っている帽子をちょこんと持ち上げて、わたしの顔を覗き込んだ。
弟が、言った。
「帽子を脱げば、悩みのない自分に変われるとでもォ?」
母さんが、応えて言った。
「そのとおり。
変われます。
人生は、単純ですから」
怪力の弟が、人差し指一本で、ちょこっと天岩屋(あまのいわや)の出入口の引戸を開けた。
見ると、一人の巫女(みこ)が、セミヌードで踊っている。
ずいぶんと久しぶりに、夜が明けた。
そこには、疲弊した太陽神を案じて参集した神々や巫女たちの笑顔があった。
活きた朝が、訪れた。
令和2年5月23日(土)号
一息 20【不思議な夢と残酷な人生のメカニズム。
あたいは引きこもりの女神。黄泉の国から母さんが来る】学徒、マザメ
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生まれもった美質と武の心。
エスノキッズと呼ばれた少年少女たち。
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『亜種記』『息恒循』『然修録』『後裔記』
陽明アドラー武童研
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