エスノキッズ 心の学問「自伝編」
令和2年6月13日(土)号。
一つ、息(いきを)つく。
おれのオヤジは、何も言わなかった。
おれが、畑のミカンを万引きして捕まったときも。
大喧嘩をして怪我をさせた人の家に、母さんが二晩(ふたばん)がかりで謝って回ったときも。
おれのオヤジは、息子のおれに、何も言わなかった。
そんなオヤジを、嫌いだとは思わなかった代わりに、家族として、意識することも無かった。
結局、一度も、おれを叱ることもなく、無論、褒めることも、説教を垂れることもなく、おれとは無縁のまま、家を出て行った。
母さんの言葉によると、どこかで一所懸命に働いて、最低限充分なお金を、毎月きっちりと、振り込んでくれているそうだ。
家夫長として、当然のことを果たしてくれているんだから、それだけで良しとしましょう。
と、それが、母が下した、父への役割。
父が与えられた、最低限の義務。
でも、父親としての義務はァ?
免除ッ!
ある日。
それは、最近。
おれは、あることを信じて、疑うことを知らなかった。
それはァ?
夏男と夏女は、熱中症にはかからない。
夏男と夏女が、夏限定で恋をして、夏女が、夏胎児を産んだ。
その夏胎児が、おれだ。
三人は、夏だけを、共有した。
それが、この夏。
一変した。
夏女が、熱中症になった。
あり得ない、現実だった。
一変して、認知症という新たな愛称を得た母は、真実を、語りはじめた。
実話!『母さんは、言った』
覚えてるかい?
おまえが引きこもって、一週間。
母さんは、どうにかして、何かを悩んでばかりいるおまえの話相手になりたくて、もう、ノイローゼ状態だった。
そんな母さんを見て、父さんが、こう言ったのさ。
「苦労性の人間は、早死にする。
それは、分析心理学の研究成果だ。
不安や恐怖は、人生という機械の歯車に付着した汚泥や砂のようなものだ。
すぐに異音を発して、クラッシュさッ!
でもさ。
それで、いいのさ。
巨大な屑鉄にして、売り払っちまえばいい。
でもさ。
歯車は、別だ。
歯車は、自分だ。
鉄かもしれんが、屑じゃない。
汚泥や砂を拭い去って、スーパー潤滑油を塗りたくれば、歯車として一人立ちして、歯車一個で、世間を渡ってゆける。
そのスーパー潤滑油が、信念さ!
そう、あいつに、伝えてやってくれッ ♪ 」
で、母さんは、父さんに、こう言った。
「そう言ってやってよォ!
あの子に。
直接ーぅ ♪ 」
で、父さんが、言ったそうだ。
「わかった」
ってね ♪
「それ、覚えてるだろッ?」
と、母さんが言った。
熱中症で、認知症の現実へと転がり落ちながら、必死で語ってくれた母に、
「知らない。初めて聞いたよッ!」
とは、言えなかった。
来年の夏、父は、戻ってくるのだろうか。
父が好きな、真夏の港町。
父を待っている、夏女のところへ......。
おれは、思った。
( おれも、そんな父親になるのかなッ? )
母とおれの顔に、笑みが零れた。
そんな父親になるとしたら、母さんみたいな女性と......。
縁尋機妙(えんじんきみょう) (^_^;)
令和2年6月13日(土)号
一息 23【何も言わなかった父。そうじゃないだろッ! 父親って。母が明かす。父の心の声】学徒、オオカミ
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生まれもった美質と武の心。
エスノキッズと呼ばれた少年少女たち。
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