MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

一息 44【オオカミの後裔記】シンジイの通勤(歩学で自然の一部になったスピアの養祖父『離島疎開11』

東亜学纂の電子バイオグラフィー v(´▽`*)
後裔記『離島疎開』編(上)
令和2年11月7日(土)号

一つ、息をつく。

〔 シンジイの通勤(歩学で自然の一部になったスピアの養祖父 〕

 今朝は汽艇は借りず、漁師さんに隣りの島まで送迎してもらった。夕方ちょろっと島巡りをしたところで、学ぶべき営みの殆どが既に終わってしまっている。島の朝は、早い。ミワラ〈美童〉の朝の早さにも、定評がある(誰からァ?)。午前四時半、文明を知らない入江の岬の岩堤に、汽艇がタッチアンドゴー。日の出前の隣りの島に降り立った。

 今日は、スピアとの約束で、朝も一番から、やつの引っ越しのお供(荷物持ち)をすることになっていた。さすがに、まだ寝ているだろう。だが、待てよォ? 島の朝は、早いのだ。スピアの養母は別としても、やつの養祖父の爺さんと、早起き自慢ミワラ〈美童〉の(一応)少年学年であるスピアは、すでに座して学を為しているやもしれぬ。活きた朝。この機を逃してなるものか。図らずも相手の迷惑それはそれ、畏懼(いく)することなかれ。迷わずスピアに教えられた道順へとオンコース! 結果は案の定、良し。

 日中限定の一人暮らし初日。それが、今日のスピアの日課のすべてになるはずだった。スピアに説明された通り、峠を越えて谷川沿いの一軒家を探す。気が抜けるほど、直ぐにそれとわかる一軒家が目に飛び込んできた。玄関の引き戸が半開き。一人の出迎えもなく、家の中に入る。無人の台所を抜けると、案の定の光景。スピアとその養祖父シンジイが、既に円卓に向かい合った格好で座していた。スピアが、言った。

 「秘密基地、行かないから」
 「はァ?」
 「探検の続き。シンジイのお供」
 「お供ってぇ?」
 「通勤}
 「はァ?」
 と、座れとも言われず、そんな会話が交わされた。そこでやっと、シンジイ。
 「まァまァ、お座んなさい」

 前の日、おれと入江で別れて家に戻ってすぐ、スピアは晩酌中のシンジイに、何気にさりげなく懇願したのだという。活きた朝、道々、養祖父から、答えを引き出そうと考えたのだ。入江で頭に貼り付けられた立命だの知命だの、尽くすの尽くさないのといったハテナマーク(=?)を、綺麗に拭い去ろうという目論見だった。

 無論、おれとの約束は、何の躊躇(ためら)いもなく、その約束の言の葉を送り出した舌が乾かぬうちに、反故(ほご)されていたという訳だ。(そんなことは、シンジイの晩酌のときにでも訊き出せばいいじゃないかァ!)と、思わないでもなかった。だがその実際はというと、兎角(とかく)養母のカアネエが口を挟み、シンジイが話題の核心に触れる前に敢え無く解散!というのが、実情のようだった。

 いざ!出勤。シンジイの斜め後方に、お供が二名。学徒学年と少年学年のミワラ〈美童〉が一名づつ。谷間の狭い砂利道を、北東に向かって歩く。入江とは、真逆の方角。民家が疎(まば)らに布置(ふち)された景色が一変、雑木林一色となる。すると矢庭に、砂利の人道も、文明知らずの獣道(けものみち)へと見せ方を変えてしまった。

 獣道は、ゆっくりと反時計回りにコースを変え、三人は、真北へと延びる坂道を上りはじめた。シンジイが、口を開いた。息が切れて何を聞いても何も頭に入りそうにない疲労を感じたまさに、そのときだった。

 「家に帰ると、夕飯の支度ができている。子共(こども)、つまり子等(こら)は、それを当然と思うようになる。それも、当然。だがな。半世紀も経ってみろッ! 子等はその夕飯の支度をしてくれていた母親の、介護だ。
 正月ともなれば、当然のように雑煮が出てくる。だがな。半世紀も経ってみろッ! 子供(こども)たちは、その雑煮を作ってくれていた母親の、介護だ。
 雑煮を食べ終わると、マダコやハマチの刺身・・・・・・これも、当然。だがな、」

 「半世紀経つんでしょ?」と、スピア。
 養祖父の話の腰を折る。深々と自身の腰を折りながら、懸命な前傾姿勢。
 「そうだ」と、養祖父シンジイ。
 腰を伸ばして、前傾姿勢。見事な重力への反抗。
 「半世紀経ったら、ぼくらもシンジイみたいに、タケラ〈武童〉になってるんだよねッ?」と、スピア。
 養祖父、無言。

 そのとき、ほどなくというより、やっとのこと。一人の落伍者もなく、無事峠を越えた。足下(そっか)には、異様な光景。広大。遺産のなかの文明。盆地なのに山城のような城壁。その城内の概ね西半分。軌道が、自動車学校のコースよろしく、ぐるりと周囲を縁取っている。その周回コースの内側でも、長短の軌道が交わていた。転じて東半分。かなり大きな、木造の構造物。廃校を連想させるような古びた外観の近代建築だが、異様な威容を放っている。

 「立命ってさ。いつからやればいいの?」と、スピア。
 (いくらなんでも、そんな訊き方はないだろう!)と、思うおれ。

 シンジイ、立ち止まる。歩を休めて、辺りを見回す。おれらくらいの背丈の若木が、白濁した筒形のスリーブを、すっぽりと被っている。それが数百本、いや数千か、整然と密に東西の斜面に居並んでいる。シンジイが、言った。

 「植林と伐採。この森の意思。この森は、立命で甦(よみがえ)った」
 「植毛と散髪だね。植毛が意思で、散髪が立命? シンジイは、植毛で甦ったのォ?」と、再びスピア。
 (おまえ! めちゃくちゃだな)と、思うおれ。
 シンジイ、再び歩を進めはじめると、矢庭に言う。
 「おまえ、昨日(きのう)、誰と出会った」
 スピア、応えて言う。
 「タヌキ、ウリ坊、カモメ。それから、たぶんウミネコ。レギュラーは、そんくらい。ほんで、コイツ。友情出演♪」
 (まァ、な。ありがとう)と、思うおれ。
 「そうか」と、シンジイ。唯一言(ただひとこと)。
 スピア、シンジイの前に回り込んで、再び問う。
 「ねぇねぇ。知命と立命だってばァ! それが解らないとぼくら、タケラ〈武童〉になれないんでしょ?」
 (と、問われて、『はい!これです』って言って出てくるようなもんでもあるまい!)と、おれ。思う。
 「これだ」と、シンジイ。
 (出すんかい!)と、おれ。また思う。

 シンジイが、徐(おもむろ)にズボンの右ポケットから、何かを引っ張り出す。懐中時計? ポケットウオッチだな。カチッ♪ カチッ♪ カチッ♪
 「いい音だね♪」と、スピア。
 (そっちかい! 懐中時計を褒(ほ)めれば、貰えたのにーぃ。違うかァ)と、思うおれ。
 「一刻、それが知命。一息(いっそく)、それが立命だ」と、シンジイ。 
 「わかった」と、スピア。
 (わかったんかい!)と、おれ。

 そのとき、懐中時計が、シンジイの手から離れた。仰角零度。おれは、胸の前で、それを両手でキャッチした。シンジイが、言った。

 「君はもう、必要だろう。こいつには、まだ早い」
 「ねぇ。なんで早いのォ? ぼくが遅いからァ?」と、スピア。不承知の顔。わかり易い。
 「その答えは、お前がまだ胎海(たいかい)に居(お)るときに、遺伝網脳が教えてくれておる」と、シンジイ。
 (なーんじゃ、そりゃ!)と、思うおれ。これ、当然。
 「なーんじゃ、そりゃ!」と、それを言の葉にするスピア。これも、当然。
 「神。己の大祖先だ。己が遅いと知ったとき、カチッ♪ それが、ひと価値だ。おまえからその一息を聴いていたら、懐中時計は、おまえに投げられていただろう。一刻、遅かったな」と、シンジイ。
 (爺ギャクかい!と、思いきや・・・・・・)と、思った矢先。

 「息恒循を学べ! って、ことだよね?」と、スピア。
 素っ頓狂なその顔、なんと、おれのほうに向けられている。
 (やめてよーォ!)と、思うおれ。無論、無言。
 下り坂。上体を後ろに逸らし、六本の足並みが揃う。踏ん反(ぞ)り返ったこの格好で、しかもタケラ〈武童〉と肩を並べて、ここで、「そうだ!」などと偉そうな口を叩く勇気など、このおれの肉体と精神の中の、どこにあろうかッ!
 「そうだ」と、おれ。
 そう言ってしまったと思う。間違いなく、たぶん。
 そのとき、最悪の事態! シンジイが、言った。

 「もう、我慢ならん!」
 シンジイ、おれらに背を向けて、仁王立ち。怒りを必死で抑えているのかッ!
 そして遂に、シンジイが言ったのだった。
 「神よ! ここが、我慢のしどころです。出てこい、シャザーン♪」
 シャ♪ シャ♪ シャザーンーん!?
 そこは、北に流るる谷川の源流。シンジイ、ガクッと肩を落とす。そしてまた、言った。
 「合格ーぅ♪」
 ほっとしたような、安堵の声。

 おれとスピアも、シンジイと肩を並べて、仁王立ち。
 (なんでみんな、仁王立ちなんだろう?)と、思うおれ。
 「君は、夢をみたことはあるか」と、シンジイ。なんと!俺の方に、顔を向けている。
 「はい」と、おれ。
 「どんな夢をみるんだねッ?」と、シンジイ。再度、問うてくる。
 「夢ってさッ! 知ってる人と知らない人、知ってる場所と知らない場所が、ゴッチャゴッチャに出てくるんだよね。なんでぇ?」と、スピア。
 (おまえかい!)と、おれ思う。でも、(助かった)とも思う。シンジイに、目で訴える。シンジイ、それに応えて、口で言(ご)ちる。

 「眠りの中で、脳髄(なずき)の格同士が交信して居(お)るからだ。格で解らねば、塊脳と層脳。塊の中では、自らが記憶したことを、いつでも見ることができる。然(しか)し悲しいかな、それは直(じき)に、消えてしまう。層の中には、ご先祖さまたちの記憶が、秘蔵されて居る。然し悲しいかな、それを、自らの意思で見ること叶(かな)わん。
 夢の中で知っている事物は、己の記憶。知らない事物は、ご先祖さまの記憶。と、いうわけだ。だが、気を付けろ! ご先祖さまは、頑固だ。夢の中にあっては、層脳の取り扱いに充分な注意が、必要だ」

 (現世(うつしよ)にあっては、爺さんの取り扱いに、充分な注意が必要だ)と、おれ思う。スピアと、目が合う。同意の目。ヒト種が生まれ持った美質、ミワラ〈美童〉の直感が、物語る互いの目を読み合った瞬間だった。間違いない。無論、たぶん。

 スピアは、どうやらそれなりに納得した様子で、シンジイの斜め後方を、歩きはじめた。でもおれは、どうしてもこの爺さんに訊いてみたいことが、一つだけあった。意を決して、スピアを追い越して、シンジイと並ぶ。そして、言った。

 「どうなれば、合格なんですかァ?」
 シンジイ、チラッと、おれを見る。すぐに、応えてくれたのだ。そして、言った。
 「出る前も、戻ってからも、一滴も漏らさず。出せるときに、すべてを出し切る」
 と、その声を聴くや否や、やにわにスピアがおれを追い越し、シンジイの前に出て言った。
 「したくなくてもォ?」
 「そうだ」と、シンジイ。
 「なんでさ。出ないもん、出ないじゃん!」と、スピア。食い下がる。
 「出る。一滴入魂!」と、頑固爺。元い、シンジイ。
 「時間の無駄じゃん! ミワラ〈美童〉は、シンジイが思ってるほど、暇じゃないんだ」と、スピア。まさに、一息入魂! シンジイ、慌てず騒がず、穏やかに応えて斯(か)く言う。
 「一滴残存していたがために、充満破裂という失態に見舞われることもあろう。それが、男の立命。現世(うつしよ)の真実。悲しいかな現実だ」

 俄(にわ)かに、竹林を潜(くぐ)る。
 (立命って、痛そうだな)と、思いながら、峠を下ってゆく学徒一匹!
 おれは、つくづく思った。
 (こいつらと一緒の島じゃなくて、本当によかった。島暮らしは、何と言っても一人。孤独が、一番だなッ♪)と。

2020年11月7日(土) 活きた朝 2:29
学徒、オオカミ

令和2年11月7日(土)号
一息 44【オオカミの後裔記】シンジイの通勤(歩学で自然の一部になったスピアの養祖父『離島疎開11』

◎ 東亜学纂の電子書籍

Akio Nandai
Volume 1 to 12
VIRTUE KIDS
VIRTUE is what a Japanized ked quite simply has,painlessly,as a birthright.
_/_AeFbp_// A.E.F. Biografhy Publishing

『亜種記』 全12巻 順次発刊
著者 南内彬男(なんだいあきお)
発行 _/_AeFbp_// 東亜学纂

Motto : Japanize Destinies Distribution
Concept : Adventure, Ethnokids, Fantasy
E-zine , Biography Editing :
https://www.mag2.com/m/0001131415.html
E-zine, Education and Learning Editing :
https://www.mag2.com/m/0001675353.html
Web Log : http://www.akinan.net/
E-book plan :
VIRTUE KIDS Volume 1 to 12
Electronic Mail : switchgigi@gmail.com

_/_ AeFbp _// 東亜学纂
A.E.F. Biography Publishing