MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

一息 51 【学徒学年オオカミ】黄泉の感性。恐れを知らないマザメとスピアのよに、未来は治乱を追い越してゆく。

「自伝編」第3集
R2.12.26(土)pm 7:00 配信

 一つ、息をつく。

 マザメの耳は地獄耳、スピアの口は黄泉の口! おれは凡人、耳も口も普通。目は人間の目だ。「勘弁しろッ!」って言いたい……気分だった。言えなかったけど! 嗚呼、飛び火、とばっちり……。マザメのやつが、枯葉の山から地上に出て言葉を失ってるおれに向かって、こう言いやがった。
 「あーァ、やだやだ。ほらッ! あんた、男の目になってるよッ! あたいをアメノウズメにしたくって、ウルウルしてるじゃないの。まさか、本気ーぃ? だったら、先ずは一人前の自然人、{武童|タケラ}になるこったね。それから更に、三千年は待ってもらわなきゃだけどさ。まッ、『好き勝手に大努力しなッ!』ってことさ」
 そこでまた、スピアの口が、余計なことを言いやがった。
 「そんなに長く待ったら、マザメさん、ミイラになっちゃうじゃん。だったらもう、パンツ脱げないよ。風化しちゃってて……」
 「いつからアメノウズメがパンツ脱いだ話になったのさッ! あたいらの神話、勝手に変えんじゃないよ。あんた、よく本読んでるみたいだけどさ。まァ、それはいいさ。学問のため、行動のためには、読書から先人の語録を読み解くことも必要さ。でもね。注意しなッ! 元い。でもじゃない、だからだ。だから、注意しなッ!」と、マザメ。
 「だからって、なにを?}と、スピアの口。
 「面倒臭いやつだねぇ!
 史書に、本当のことが書いてあるとは限らない。史実と真実は、必ずしも{同じこと|イコール}じゃないってことさ。諸書を{編纂|へんさん}したのが史書。編纂ってのは、いっぱい集めていっぱい編集するってことさ。
 事実……本当にあったことや本当に誰かが言ったことを書いた諸書も、少なくはない。でもさ。その事実だけをクソ真面目に抜き出して書を{纂|さん}じたところで、苦労して{編|あ}まれたその書は、果たして面白いかね。読まねぇだろ、そんなもん! 誰も読まないんだから、誰かの得にもならない。違うかい?
 要はさ。それの書がいつの時代に、どんな政治的な位置に居る人間たちによって編纂されたかってことなのよん。それによって、史実が作文される。聖書だって日本の{記紀|きき}だって、人間が編んだものは、ぜんぶ{同|おんな}じさ。{記|しる}された史実は、何か目的があって作られたってことさ。それを後世の人間たちが、自分たちの目的に{順|したご}うて、好き勝手に解釈して{居|お}る……って{訳|わけ}さ。
 その好き勝手ご都合解釈された訳本を、読まされたり聴かされたりするのは、一体全体、誰なのさッ! あたいら、{子等|こら}じゃないのかい。誰かの目的のために編まれて、それを読んだ誰かの目的のために解釈された史実ってやつを、あたいら子どもは{鵜|う}呑みにして信じ込んでしまう。そrてでいいのかい?
 何かに気付いて、きな臭い不快感で胸がムカムカしてきたときには、もう遅いんだよ。手遅れってやつさ。もうそのころには、目的を持った人間たちに操られて、烏合の衆と化してる。天地創造ってのはさ。神の仕事なんかじゃないんだ。自然界の天地創造で生き残った人間たちによる{仕業|しわざ}なのさ。
 だから、心優しい太陽の神も、{内海|ないかい}で無邪気に遊ぶ暴れん坊の神も、みな人間ってことさ。ほかの神々もみんな、三千年の{演劇|ドラマ}の俳優たちさ。もしあたいがその脚本を書くとしたら……そうだねぇ。決まり! 創世記の冒頭は、タヌキとウリ坊の徒競走だね♪」
 {水路|みずみち}を{轟々|ごうごう}とさせていた濁流が、その姿を清らかな渓流へと戻しつつあった。
 (それはそうとして、サギッチの野郎! この島に居ることは間違いなさそうなんだが、またあいつ! どこかに引きこもってやがるんじゃねぇだろうなーァ)と、思った矢先。マザメが言った。
 「さて……っと。今日の修養は、以上。終わりだ。あたい、帰るから。じゃあ♪」
 「じゃあって……てかさ。帰るって、どこへ?」と、スピア。
 「山小屋さ。てか、おまえら! 今、『魔性の鮫女が、山小屋かよッ!』って、思っただろッ!」と、マザメ。
 (おまえらァ? おれもかよッ!)と、思うおれ。
 「今じゃなくって、いつもだよ。てかさァ。そんなことより、サギッチ、どこに居るか知らない? 会いに行こうよ。三人で。せっかく会えたんだしさァ」と、スピア。
 「さァねぇ。どうなんだか。あたいは、ここで修養してただけ。これからも、それだけどさ。あたいら自然人は、次の天地創造までに文明を{亡|ほろ}ぼし、文明の人間たちを根絶やしにしなきゃなんないんだ。そして、次の天地創造で生き残る。そこでまた文明人たちが生き残ったら、また自然阻害の三千年が始まっちまうだろッ? だから、あたいらが生き残んなきゃダメなのさ。
 そのためには、あいつらの文明の力を、超えなきゃなんない。でも、自然力だけじゃ、文明の{力|りき}ってやつには勝てない。あいつらと戦うためには、膨大な資金が要る。軍資金さ。ドングリで爆弾が買えるんなら、朝から晩まで、来る日も来る日もドングリ拾いをしてりゃあいいんだけどさ。買えねぇだろッ!
 実際問題、実戦で必要なのは、文明社会の通貨さ。だから{武童|タケラ}……あたいらの先輩たちは、文明界でいろんな{利益の追求のみを目的とした仕事|ビジネス}をしてるのさ。ここヒノーモロー島で暗躍してる{武童|タケラ}たちだって、そうさ。オオカミが疎開したザペングール島の武童たちだって、例外じゃない。
 この世は、{治乱|ちらん}。
 治乱の中に、この世はあるのよ」
 と、マザメはそこまでを一気呵成が如く言い放つと、プツリと言葉を切った。サギッチには、あんまり関心がない様子。
 「チランってぇ?」と、スピア。いちいち訊くやつ!
 「てかさァ。あんたもカンイチゴ、食べるぅ?」と、マザメ。
 (なんでやねん!)と、思うおれ。
 「えッ? うん♪」と、スピア。
 「口移しで食べさせてあげよっかァ?」と、マザメ。なんとッ!
 「ミイラの口でぇ?」と、スピア。ドイッカーン! 黄泉の口。
 「はァ?」と、マザメ。口を大きく開けて、固まる。
 雲に隠れてその様子を垣間見ていた太陽神が、{眉|まゆ}を{顰|ひそ}めた。マザメが、その天を仰ぐ。そして、言った。
 「あたいは、天命に{順|したが}う。まだ知命した訳じゃないけどさ。でもそれを、運命期でどうにかしようとは思わない。でも、スピア。あんたたち座の一族は、あたいらの天命に異を唱えた。過激なサギッチたち{鷺|さぎ}の連中も、どうかとは思うけどさ。でも、どっちが{邪魔|じゃま}かって訊かれたら、悪いね。スピア、あんたたちさ。
 鷺助屋の血は、確かに過激だけど、あたいらと{同|おんな}じ血。でもあんたたち座森屋の血は、あたいらとは別の血。別の道で、命を運びはじめたってことさ。でもさ。そんなあんたたちだって、自然の枝葉である限りは、あたいらの{同胞|はらから}。自然人の血は、一つなのさ。
 一つである以上、その道は、いつか必ず、交わる。そこで衝突して闘いが起こるか、共に手を組んで文明の人間たちと{対峙|たいじ}するか……。未来のことなんて、誰にも計り知ることなんてできやしない。それがたとえ、一系生粋の同胞、あたいら自然人のことであったとしてもさ。
 読みづらいんだよね、あんたたち座の一族って。特におまえ、スピア! おまえの腹、読みづらいんだよ。でもさ。それが、おまえら座一族の武器なのさ。
 それを、どんなふうに使おうが、どんな使い方をしようが、おまえらの自由さ。でもさ。それが武器だってこと、{或|ある}いは武器になるってことを、決して忘れちゃならない。わかるだろッ? いいね?  わかったんなら、それでいい。
 じゃあ、さいならーァ♪」
 そのとき一瞬、太陽神が雲間から顔を覗かせて、何かを{呟|つぶや}いた。
 「あやーァ、いいお天気だことーォ♪」
 「はあーァ?」って、そりゃそうだけど。
 だって、そう聞こえたんだから。仕方ないじゃん!

2020年12月26日(土) 活きた朝 0:43
学徒オオカミ 齢13

一息 51 【学徒学年オオカミ】黄泉の感性。恐れを知らないマザメとスピアのよに、未来は治乱を追い越してゆく。

東亜学纂学級文庫
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**M I W A R A BIOGRAPHY
- Akio Nandai "VIRTUE KIDS" Vol.1 to 12 -
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Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.
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