MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

一息 53【学徒学年オオカミ】角楼に現れた修羅アニーィ! 自称、史料室の者。ズバリ! 自然人を説く。

第3集「自伝編」R3.1.9 (土) 19:00 配信

 一つ、息をつく。

 さて、入江からは見えない二つ目の峠の坂道を上る三人……爺さん、スピア、そしておれ。
 天空から差す月明かりは無く、前も後ろも真っ暗闇。右手の{彼方|かなた}に、気のせいかと思えるほどの{微|かす}かな薄明り。峠の頂に立つ。向かう先、そこには{煌々|こうこう}と輝く非自然の光源の数々。峠を下りきる。再び、角楼に上った。
 「また、待たされんのかなッ!」と、思ったおれの心を探って動き出したかのように、なんと、一台の鉄の箱が、飛び出した。それは、場内。路面電車。古びた単車……が、あれよ!あれよ!と合いの手を誘うかのように暴走。その後を、男たちが追いかける。研究員……だそうだ。
 場内に敷かれた軌道は、どこも不陸……平坦とは言えないってこと。小高い丘もある。その土手っ{腹|ぱら}を、{隧道|トンネル}が貫く。路面電車は、その隧道の入り口近くの{穏|ゆる}やかなカーブで脱線し、止まった。片側に、少し{傾|かし}いでいる。
 煌々の正体は、投光器だった。一人の男子……青年風?が、角楼を上ってくる。記憶に残っている開発のおにいさんの容姿とは、明らかに異なっている。少し年嵩のようだ。{既|すで}にシンジイは、消えている。今回は、何も言い残さなかった。
 (あんたが連れてきたんやろッ! どうしろっちゅうねん!)などと、当然の事を必然の{刻|とき}に思うおれ。青年の自己紹介は、簡単という字を感嘆に変えたくなるほど、明瞭だった。「史料室の者です」以上。そして、史料室の仕事柄か、{適宜|てきぎ}{丁寧|ていねい}な説明を返してくれた。
 「LED投光器です。野球のナイターの外野よりは暗いですが、野外でも修理や保全作業が出来るように、車両の組み立てに最低限必要な明るさよりも、少し明るくしてあります。あの明るさで、六〇〇ルクスあります」
 「ここ、路面電車の工場なのォ?」と、スピア。
 「はい。説明が、必要ですね」と、史料室の者の青年のおにいさん。
 「てか、どこで発電してるのォ?」と、続けてスピア。
 (そうそう。電柱も無いし、それに……島だし!)と、思うおれ。
 「はい。説明が、必要ですね」と、略して史料室のおにいさん。
 「あッ! もう一つ。開発のおにいさんに訊くの忘れてた事なんだけどさ。何でこんな{凹|くぼ}んだ場所に、高見の城壁や角楼があるのォ?」と、またスピア。
 「はい。説明が、必要ですね」と、もっと略して、説明あにさん!
 スピアのやつ、まだなんか物足りなさそうで、何かほかに訊きたいことを忘れてはいないかと頭ん中で記憶のスキャナーを巡り巡らせてるって感じ。おれの頭ん中は、既にパンパン! もう、何を言われてもムリ。整理がつかない。そこに、説明あにさんが、取って置きの{言乃葉|ことのは}爆弾を投下!
 「OH! グレーゴルよ」
 (なーんじゃ、そりゃ!)と、思うおれ。あにさんの目の{遣|や}るほうに照準を合わせると、モサモサと{手摺子|てすりこ}に隠れ隠れしながら連続歩調中の一匹!の隊列……嫌われる勇気に掛けては世界中で名を{馳|は}せる百足虫が、{一|ひと}。スピアがキョトンとした顔で見ていると、あにさんが一言。
 「ご辺は、オーストリア文学は、お嫌いかァ?」
 (お嫌いかって、あにさん! 訊くならせめて、アメリカ文学とかイギリス文学とかにしてくれッ! 無論、どっちも読んだことなんて無いけんども……)と、さりげなく思うおれ。
 「嫌いかどうか……てか、ごへんってーぇ?」と、スピア。(そっちかい!)と、思うおれ。
 あにさん、ニッコリ。すべてを判っているような顔で、言った。
 「読書は、分野を{問|と}うてはダメだ。{史|ふみ}の{類|たぐい}に留まらず、あらゆる分野の書を読む。これ、必要。それが、先人や未知の{先達|せんだつ}との出逢い、学問に処するということだ。大事は、どのような態度で処するかであって、どのような書を読むかではない」
 「読んでるよ。ちょっとは」と、スピア。さすがに、小声。オマケに、小顔! おれは? 「訊くなッ!」 てか、どうやらスピアは、あにさんの物言いが、気に入らない様子。確かに、開発のおにいさんの優しい喋り方とは対照的……みたいな。
 続けて、気に入らないほうの物言い。
 「読書は、目で読んでもダメだ。目と口と耳を使って、己の心の中に{容|い}れる。そこでグツグツと煮て初めて、そいれが学問という{灰汁|あく}になる。良薬口に{苦|にが}し。薬の{素|もと}は、みな毒だ。その最も効能が優れた毒が、音読。副作用も、飛びっきり。その飛びっきりが、更によく効く薬となり{得|う}る。それが、逆境。修羅場に行けば、売ってくれる。どうだ。金は要らん。一緒に行ってみないかァ?」
 「ろうどく?」と、スピア。
 (決まってんだろがァ! 牢獄で毒を盛られることじゃろがい! ……これ、{牢毒|ROUDOKU})と、マジ思ったおれ。  「そうです」と、あにさん。
 (ほれほれ。おれは、正しい!)と、{咄嗟|とっさ}に思わされてしまったおれ。
 「シュラバに行くってことォ?」と、スピア。
 (行かないよな。まさか)と、確信していたおれ。
 「そうです。学問、行動、自反。学問、行動、自反。この繰り返しこそが、〈循〉。循令の循です。その循は、自然の一部。その一部が、亜種自然人。修羅場に座せば、その一部と{相成|あいな}れましょう」と、説明あにさん改め、修羅アニーィ!
 「それそれ! 自然人。それが知りたかったんだ」と、スピア。何やら、悪い予感……そしうて、スピア。
 「行くよ、ぼく」
 (行くんかい^!!^)と、思わず声に出かかった俺の{雄叫|おたけ}び!
 「オオカミさんも、行くでしょ?」……と、これは聞かなかったことにする。
 (とは、いかない。あーァ)と、思うおれだった。

皇紀2681年1月9日(土) 活きた朝 4:41
学徒オオカミ 齢13

令和3年1月9日(土)号
一息 53 【学徒学年オオカミ】角楼に現れた修羅アニーィ! 自称、史料室の者。ズバリ! 自然人を説く。

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MIWARA BIOGRAPHY
(C) Akio Nandai "VIRTUE KIDS" Vol.1 to 12
V.K. is a biographical novel series written in Japanese with a traditional style.
Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.
// AeFbp // AEF Biographical novel Publishing
A.E.F. is an abbreviation for Adventure, Ethnokids, and Fantasy.