MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

一息 54【少年学年スピア】イザ修羅場、史料室から朗読室へ! 本の中の過去の世界。引き出された学問を為す美人とは。

第3集「自伝編」R3.1.16 (土) 19:00 配信

 一つ、息をつく。

 (はてさて。今日は、どんな展開になるのやら^?!^ まだ、朝も早いし。ここで、サヨナラされてもな。でも、本当に修羅場に連れて行かれるのも、ちょっと……な。それに、そうそう。オオカミさんだよ。逃げる気、満々じゃんかァ! そうは、させないから。たぶん……でも、どうやってぇ?)
 と、そんんことを何気に思っていると、史料室のモノさんが、やっとというか、また口を開いた。今度は打って変わって、{何故|なぜ}か優しい口調。心の中を読まれたのかな、ぼくらは……。
 「課題を、いっぱい持ってるんだね。いいことです。でも、自然人とか自然の一部とかは、ちょっと壮大過ぎるかな。今日のことになる課題……そう、小説がいいですね。それなら、都合がいい。史料室、朗読室のコースで、ご案内できます。でも、{面喰|めんくら}って、逃げださないようにしてくださいね」
 モノさんがそう言い終えても、オオカミさんは無言のまま、どことなく、{余所余所|よそよそ}しい。それでもぼくらは、モノさんに伴われて、大きな建物の前まで歩いた。入り口に〈研究棟〉と{切り抜き|カルプ}文字が貼ってあるその建屋の中に入ると、先ず目に入ったのは、館内の案内板だった。モノさんが、〈史料室〉と書かれたところを指差して、ニコリと一度だけ微笑む。すると再び、歩を運びはじめた。資料室は、バカ広かった! ここで、モノさんの{案内|ガイド}が入る。
 「右手と左手とその奥も、世界中から、あらゆる分野の様々な本が、ここに集められています。書かれている言語も、様々です。ぼくは、{日|ひ}の{本|もと}の言語しか読めませんけどね。でも、それで困ったことは、まだありません。負けないくらい{夥|おびただ}しい数の翻訳本が、ここにはあるんです。それを読むだけでも、一生ではとてもとても足りません。五生か……{否|いや}、十生は必要でしょうね^?!^」
 そう言い終えるとモノさんは、{俄|にわ}かに歩を休めた。そこは、小説の文庫本が並んだ棚が連なる筋、その入り口辺りだった。モノさんが、何故か嬉しそうに、{斯|こ}う言った。
 「小説でしたよねぇ^!!^」と。
 〈あ〉から〈わ〉までの索引の札に{順|したが}って、小説の文庫本が、整然と棚に収められている。いちばん手前の棚には、〈わ〉の頭文字の著者の本が、並んでいる。そして{遥|はる}か彼方に、〈た〉と〈つ〉の索引札が、やっと見てとれるのだった。
 モノさん、それらの棚を物色しながら、その筋をゆっくりと、進んでゆく。ほどなく、その歩が止まる。無造作にも見える挙動で、一冊の本を手にとる。すると、今度こそ正真正銘の無造作で、ペラペラッと意図も無さげに数枚を{捲|めく}る。すると開いた{頁|ページ}のどの段落ともつかない最初の行あたりを指で示しながら、ぼくに言った。
 「この四行にしましょう」
 「はッ! あァ」と、ぼく。
 「じゃあ、行きましょう」と、モノさん。
 「どこへぇ^??^」と、オオカミさんの目。
 「朗読室ですよ」と、モノさんが優しい目が応えて、史料室の出入口の引き戸のほうを見{遣|や}った。
 (えッ! てか、こんな朝早くにぃ?)と、ぼくは思ったけど、(まァ、そのほうが誰も居なくて、気兼ねがなくていっかーァ)と、直ぐに思い直して、(えッ!)を「はい」に換えて、軽く{頷|うなず}いた。それを見て取るとモノさんも軽く頷き、〈み〉から〈あ〉の索引札のほうに、歩き出した。そして、大きな一枚扉の引き戸を開けると、軽く振り返って、ぼくらを招くような素振りを見せた。
 ぼくも、モノさんに続いて廊下に出た。案内板には共用部と書かれていて、史料室と朗読室に挟まれた、結構広い空間だ。テキ屋さんたちの夜店をズラリ並べても、ゆったり行き来できるほどの幅がある。オオカミさんも、ぼくの後ろから続いて出て来る気配だった。ぼくが「行くでしょ?」って{訊|き}いても、気の無いような顔で{頷|うなず}くだけだったけど……はてさて、やれやれだ。
 少し不安になって、(行くんだよね? 一緒に!)って思いながら何気に振り返ってみると、オオカミさんが、史料室の引き戸を閉めているところだった。ところが、閉め終わると急に、またまた何やらぼくらと他人のような余所余所しい素振りで、ぼくらに背中を向けたまま、歩き出してしまった。まるでトイレでも探すかのように、素っ頓狂に頭を左右に振りながら、ブレた足取りで、歩いてゆく。
 (逃がして{堪|たま}るものかッ!)と、思うぼく。そして、言った。
 「あッ! 入り口、あっちだ。ねぇ、オオカミさん! あったよ。朗読室の入り口。こっちだよ!」
 ぼくは{咄嗟|とっさ}に、オオカミさんの挙動不審の原因となったオオカミさん自身が決めた目的を、何とか変えてやろうと思ったのだ。これでもう、ぼくらと一緒に朗読室に入るしかない。オオカミさんは一瞬、心の中で何かぼくに言いたげな素振りを見せたけど、直ぐに振り返ってぼくらのほうに歩き出した。(作戦、成功^!!^)と、思ったぼくだった。
 そんなあれこれを無言で見守っていたモノさんが、{安堵|あんど}したかのような穏やかな顔で、口を開いた。
 「朗読室の中は騒々しいので、ここで話しておきます。朗読するにあたり、一つ注意しなければならないことがあります。この本は、日本語で書かれています。単語の多くは、漢字です。これから君たちが朗読する四行の中で一箇所だけ、読み間違えがないように、〈読み仮名〉が振られています。それ以外の漢字にも、読めないで困ることがないように、ぼくが2Bの鉛筆で、〈振り仮名〉を付けましょう。
 君たちも、書き込みは自由です。但し、芯の柔らかい2Bの鉛筆に限ります。これは決めごとで、本題の注意ではありません。で、その注意の話なんすがァ……。
 漢字というのは、表意文字と言って、字義を追いかけることになります。でも、その漢字にせよ平仮名にせよ、その単語の意味を理解するだけでは、ダメなんです。それでは、{訓詁註釈|くんこちゅうしゃく}に{陥|おちい}ってしまいます。{字面|じづら}だけの解釈で事足れりと、思ってしまう。と、いうことです。これでは、読書も朗読も、学問を{為|な}すことは出来ません。
 {口耳|こうじ}の学も、{然|しか}りです。口で言って耳で聞くだけでは、ダメ! と、いうことです。
 どの本も、一冊の例外もなく、それが書かれたのは、過去です。未来に書かれた本は、ここには置いていません。わたしたち自然人亜種は……というか、本来は、人間はみんなそうだったんだと思うんですが、立命に{順|したが}って、何かを実践しようとするとき、過去からその参考となる教えを探ろうとします。教えというのは、過去に生きた人たちの行動実績のことです。それが、学問のための読書です。
 そして、探り出したその教えを、己の心の中に{容|い}れる。そのためには、心の中を綺麗に片付けて、邪魔なだけで〈徳〉とは無縁の損得の副産物をすべて捨て去り、{予|あらかじ}め、教えが入る空間を用意しておかなくてはなりません。それが、朗読です。以上が、注意です。
 では、入りましょう」
 片開き戸が、重々しい音をたてて開く。その防音扉を開くと、その中は正に、戦場! 怒声、{罵声|ばせい}、{嘆|なげ}きに、泣き笑い。喜怒哀楽の声が、ドングリヒッチンかや〈返〉して、思わず両の耳を{塞|ふさ}がんばかりだった。
 「あそこが、空いています」と、モノさんが言って指差した先を見ると、子どもたちが居並んだ大テーブルの隅のほうに、席が一つだけ空いていた。続けて、モノさんは同様の所作で、すぐさまもう一つの空席を見つけ出して、また同じように指差した。(こんな朝早くに……)と、思いながら、唖然としたまま、ぼくらは突っ立ったままだった。するとモノさんが、また言った。
 「午後の二十四時、眠りが一番深くなるようにするんです。潜在意識に、{最|もっと}も機嫌よく働いてもらうためです。そうするとだね。午前の零時を過ぎると、ほどなく顕在意識へのバトンタッチが{始|はじ}まってくれる。それで、午前も四時ともなれば、ここはもう、老若男女で盛況満席って{訳|わけ}です。
 特に、今朝は早い。特別なんです。明日は、巡回授業所が開講する日ですから。あッ! 君が抱えている課題は、三つ……{否|いや}、四つでしたかね? 明日の講座に、盛り込んでもらいましょう。さて……と。ぼくは、史料室の奥の事務所に居ます。終わったら、ぼくのところに来てください。
 では、どうぞ」
 指差された空席からモノさんのほうに目を{遣|や}ると、もうモノさんはぼくらのほうに背中を見せて、スタコラと歩きはじめていた。(やれやれ……)と、思い、歩を進めるぼく。オオカミさんは、またも挙動不審! それでもどうにか、席に辿り着く二人。
 (どれどれ……)と、親指を挟み込んでいた{頁|ページ}を開き、モノさんが指し示した四行を、眺める。(どらどら……)と、目で読む。あたりを、見渡す。観念する。戦闘……元い。朗読、開始!

 「アメリカの{漫画|まんが}に、こんなのがある。一人の{着飾|きかざ}った美人が歩いている。中年のご{夫婦|ふうふ}が、{立止|たちど}まって、それを見ている。すると奧さんの目にはその美人の着物だけが、歩いているように見え、{旦那|だんな}さんの目にはその美人が{真|ま}っ{裸|ぱだか}で歩いているように見えるのである」

 どの席にも、テーブルの上には、数種類の辞書が{備|そな}えてある。印刷された読み仮名は、旦那(だんな)のところだけ。それ以外はすべて、モノさんが書き入れた{振り仮名|ルビ}だ。朗読を、続ける。{暫|しば}し、時間を忘れた。そしてぼくは、思った。
 (立命、そして……。ぼくの運命は、動き出す)

皇紀2681年1月16日(土) 活きた朝 3:36
少年スピア 齢10

令和3年1月16日(土)号
一息 54【少年学年スピア】イザ修羅場、史料室から朗読室へ! 本の中の過去の世界。引き出された学問を為す美人とは。

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MIWARA BIOGRAPHY
(C) Akio Nandai "VIRTUE KIDS" Vol.1 to 12
V.K. is a biographical novel series written in Japanese with a traditional style.
Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.
A.E.F. is an abbreviation for Adventure, Ethnokids, and Fantasy.

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