MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

一息 55【少年学年スピア】再会で明かされた親友の本音。血の真実。深まる養祖父の謎。

第3集「自伝編」R3.1.23 (土) 19:00 配信

 一つ、息をつく。

 その運命は、駆け足ではじまった。一気に、峠を二つ越えた。ぼくは、思った。「結局、会話したのは、あの資料室のおにいさんだけだったな」って。モノさんってのは……ちょっと、ね。ふと何かを思いはじめると、次から次へと、いろんなことが頭に浮かんでくる。今だって、また、浮かんできた。「ぼくには、喜怒哀楽がない!」
 話を戻す。だって、浮かんでくるどれもこれもが、{碌|ろく}なもんじゃないから。上り坂は、競歩。下り坂は、小走りだった。いつもの入江の海岸に出た。ぼくは、岩陰にへたり込んだ。入江の海面には、カモメたちが、オモチャを並べたみたいに浮かんでいた。ほかに浮かんでいるものは、何もなかった。
 オオカミさん? 不思議な人だ。ぼくと一緒に朗読室を出ると、資料室の幾重にも並んだ棚の列を、端から順番に物色しはじめた。「ぼく、もう行くけど」って言うと、「あーァ。じゃあ!」だってさ。するとまた直ぐに物色に戻って、繁々と棚の本と索引札を交互に見ながら、ゆっくりと歩きはじめた。(まさか、ほかの本でまた、朗読する気ーぃ^??^)って思ったけど、そんなことは、{既|すで}にもう、どうでもよかった。
 そして、資料室のおにいさんに約束の挨拶に行って、一人で城門を{潜|くぐ}って、城外に出た。場外かな。それも、どっちでもいいね。それで、一人で入江の岩陰に腰を下ろすことになったってわけ。で、誰にともなく、ぼくは独り{言|ご}ちた。
 「ほんと、君たちって、整列が好きなんだね。よちよち歩くときは、別だけどさ。憎らしいほどに愛らしくって、自由{奔放|ほんぽう}。なんか、そんな母さんとか姉さんとか妹とかがいたら、いいだろうな。
 それにしても、君たちってさ。そうやって海にぷかぷか浮かんでるときも、汽艇の{舷縁|ふなべり}で羽根を休めてたときも、岸辺に倒れてきた老竹の上でカウカウ言いながら{戯|たわむ]れてるときも、いつだってふんわりと整列してるよね?
 みんなは、家族? 親戚? 一族? 友達? 同士? それとも、同志のほうかな。春になったら、みんな一斉に、北の空に飛び去ってしまう。ぼくも、春一番が吹き去る後を追って、ここから去って、どこか遠い島に行ってみたい。君たちより一足先に。君たちとは真逆の、南の海へ。そして毎年、そうだな。秋になったら、またこの入江で、君たちと再会をする。そしたら、ぼくだけまた、直ぐにここを去る。
 カアネエ、どうするんだろうね。どう思う? ここを出て、どこに行くつもりなんだろうね。
 ……まったく。
 えッ? 何が、まったくなのかってぇ? 君たちが穏やかな海面に整列してぷかぷかと浮かんでるのを見ていると、なんだかぼくまで幸せになったような錯覚を起こしてしまうんだ。まさに君たちは、幸せを運ぶ水兵さんさ」  「さっきから、なにブツブツ言ってんのさッ! また、血の{葛藤|かっとう}かい! 心の中の乱れ。だからお前の心は、統制が{利|き}かなくってさ、いつまで経っても喜怒哀楽の指令が出せないのよ。だから、友だちも{居|い}ない。喜怒哀楽がないから、心を通じ合わせるタイミングを、{逃|のが}しっちまう。
 まァ、それでいいんだけどな。お前のバヤイ。そういう奴じゃねぇと、おれの友だち、長続きしねぇから。それに、おまえみたく、一個か二個、歳、上のほうが、いいみたいだし。どうも{同|おな}い年の奴らときたら、包容力ってのがまるっきし欠落しちまっててな。うまくいかねぇんだわさ、おれとは。まァ、おまえっくらいの距離感が、ちょうどいいのさ」
 聞き覚えのある声だった。どこに居たんだか。数日会っていないだけなのに、なんだか別人に見える。でも、間違いなく、鷺助屋一族の言い草だ。  「ぼく、葛藤の必要なんかないよ」と、ぼく。
 「あるさ。自然{民族|エスノ}の血と、軟弱亜種の血。その二つが、おまえら座森屋一族の{身体|からだ}の中には、流れてる。そいつが、心臓や頭ん中の合戦場で{絡|から}み合い、{闘戦|とうせん}してる。それが、おまえらの葛藤さ」と、サギッチ。
 「確かにおまえらは、葛藤はないよな。壊れてるだけだからね」と、ぼく。
 ぼくにしては、わりとハッキリと言ったほうだと思う。サギッチにしても、ぼくにそんな皮肉の直球を投げられたら、いつもならバットを振り回して、場外まで振り逃げオーバーランするところだけど、今日は何故か、怒らない。その代わりに、今日のサギッチは、よく{喋|しゃべ}る。サギッチが、言った。
 「自然人は、{病|や}んでるんだ。真心は、すべて{怨念|おんねん}に変わっちまった。自然は、その三千年の運命によって、自ら己の一部のおれたち{青人草|あおひとくさ}の天命を、変えてしまったのさ。正確には、追記。世のため人のため。そのために、亜種文明{民族|エスノ}を{亡|ほろ}ぼす。
 だからおれたちは、ただ天命に{順|したが}ってるだけさ。それが、自然の法則ってやつさ。自然が、自ら決定した報復。仕返しさ。自然が、{復讐|ふくしゅう}を開始したのさ。文明は絶え、文明{民族|エスノ}は、みんな死ぬ」  ぼくの心の中は、確かに絡み合っていた。何も、言葉が出てこない。するとまた、サギッチが言った。
 「やっぱり、血だな。おまえだって、自然の決定には、{抗|あらが}えない。おまえ、鏡で自分の顔、見たことあるかァ? その憎たらしい顔、自分で見たことないだろッ! 宿ってるのさ。おまえにも」
 「宿ってる? 何がァ?」と、やっと出たぼくの言葉。
 「平家さ」と、サギッチ。
 「なんで平家?」と、ぼく。
 「旧態人間……和の{民族|エスノ}のなかに、自然と関わり続けた無名の種族があった。彼らの祖先が、怨念の起源さ。この世の本当の怨念の起源は、もっと{遡|さかのぼ}るんだけどさ。その無名の種族が、おれたちがよく知ってる平家なのさ。  自然人は、その平家の末裔と、血を分けた。そして、その両者の怨念が、合一された。知恵と行動の合体さ。だからおれたちは、危険なのさ。次の天地創造は、近い。25^年後の人類の定め……百年ごとの殺し合いは、その天地創造の{生き残り|サバイバル}戦さ。
 だから、厄介なのさ。おまえら、座森屋一族さ。武の心だかなんだか、{矛|ほこ}を{止|とど}めさせるとかなんとか……そりゃあさァ。間違いじゃないよ、おまえらが思い考えやってること。間違いどころか、見上げたもんさ。マジさ。でも、今はもう、そういう時代じゃないんだ。天地創造が、近いんだ。勝たなきゃ、亡びる。負けたら、死ぬんだ。おれも、おまえも、みんなさ」
 そこまで言われてもまだ、ぼくはやっぱり、ダメだった。言葉が、何かが絡み合った間から、出てこれない。それでも、最後にもう一度、頭一つ抜け出してる言葉を、引っ張り出した。そして、やっとの思いで、それを放った。
 「天命を変えられるのは、自分だけだよ。格物。{物|ブツ}……己を、正す。その正された己が、天命を{格|ただ}すんだ」
 「おまえ、本当にそんなこと、信じてんのかァ? 本当は気付いてることを{惚|とぼ}けて誤魔化すことが、座森屋流の格物なのかァ? 自反して、恥ずかしいと思ったことはないのかァ? シンジイが教えてくれたこと、おまえにも教えてやろっかァ^?!^」
 「えッ! 知ってるの? てか、会ったことあるの? なんでぇ? なんて言ったんだよッ! シンジイ……」と、無意識に突いてゾロゾロと出て来た、ぼくの可愛い{言乃葉|ことのは}たちなのだった。
 はーァ^!!^

皇紀2681年1月23日(土) 活きた朝 5:52
少年スピア 齢10

令和3年1月23日(土)号
一息 55【少年学年スピア】再会で明かされた親友の本音。血の真実。深まる養祖父の謎。

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MIWARA BIOGRAPHY
(C) Akio Nandai "VIRTUE KIDS" Vol.1 to 12
V.K. is a biographical novel series written in Japanese with a traditional style.
Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.
A.E.F. is an abbreviation for Adventure, Ethnokids, and Fantasy.

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