MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

一息 57【少年学年サギッチ】史料室で起こった大事件! 講釈の当番になった講座の前日。灰になった大努力の講釈原稿。

第3集「自伝編」R3.2.6 (土) 19:00 配信

 一つ、息をつく。

 スピアのやつが史料室を気に入ったのは、訊かなくても明らかだった。今日も、その史料室で、あやつの後ろ姿を発見! 閲覧席にほど近い書棚の列の前をカニ歩きしながら、{寸暇|すんか}を惜しむかのような熱心さで立ち読みに専念している様子……。
 おれは、その閲覧席に、腰を下ろした。すると矢庭に、ズタズターァ♪ ズタッズタッズタッズタッ^!!^ 明らかに性格が悪いと判る、女のベタベタ歩き……が、急接近! 最悪の事態を疑う要因は、一切思い当たらない。だけどここは、〈確認〉という、大人たちが大の苦手としている基本にして初歩的な{所作|しょさ}が、必要な場面だ。
 おれは、振り返った。確認の対象物、ロック! よし♪ でも同時に、その未確認物体からも、ロックされてしまった。しかも、時間を止めるという、{卑劣|ひれつ}な魔法をかけられて……。世界最強の高性能誘導速射砲が、束になって迫って来る。危うし! ほどなく、被弾^!!^ 魔性の鮫女が、吠えた。
 「なにやってんのさッ! あんたたち……」
 (いやいや、本読みに来たんだってぇ。判るっしょ! 訊かなくても……)と、言い返してやりたいのは{山山|やまやま}のもひとつ山山だったけど、無論、言えるはずもなく、それでもおれは、誠意を尽くして、応えて言い返したのだった。
 「明日の講釈の資料づくり」
 「はーァ? 確かに、明日だわッ! で、まだ決まってないわけぇ? なに喋るかッ^!!^ 呆れた! だからいつまで経っても、ボンクラ候補坊やなのさァ、あんたたち……ふたり」
 (ムカつく!)「てか、課題が出たんだ。史料室長のおにいさんから。みんなに、説明してやってくれって……」と、(思ったのも言ったのも、)おれ。
 「いつーぅ? それ」と、マザメ様。
 「きのう」と、おれ。
 「明日、開講なのにぃ^??^」と、マザメ様。
 「そう」と、おれ。
 「あっそッ。まァ、頑張んなッ! どうせまた、何かやらかしたんだろッ? 罰ゲームってやつだね。で、何しでかしたのさ」と、マザメーェ!
 「違う。アイツ……」(てか、〈また〉って、何だよッ!)と、言って{且|か}つ思うおれ。
 「違う? アイツってぇ? 何かやらかしたの、スピアなんだァ^!!^ それで二人で、罰ゲームってわけね♪ 納得。{主題|テーマ}のほうの原稿は、仕上がってんだろッ? 見せなよォ♪」と、マザメ。
 「いやだよ」と、おれ。
 「遠慮すんなよ。おんなじ寺学舎の{誼|よしみ}で、添削してやっからさァ♪」と、一応先輩……一応学徒の、マザメ。
 さすがに、何回も「いやだよ!」って言う勇気はなく、懸命に断り文句を考えた。そして、言った。  「だったら、朗読室に持って行って、実際に声出して、講釈してみてよーォ♪」
 「やだよッ!」と、マザメ先輩。
 (よしよし♪)と、思うおれ。そして、チラッとスピアの野郎のほうを見る。背中……カニ歩き……変化なし……てか、無視……っていうより、無関心!  (ムカつくーぅ^!!^)と、思うおれ。その寸暇を狙って、空対空ミサイル被弾! 主題の講釈原稿、奪われる。そして、マザメが言った。
 「ねぇ。てかさァ……だけど。なんで、手書きなん^??^」
 そうだ。そうだった。この島に降り立って最初の巡回授業所の開講んとき、マザメの姿は無かった。まだ、山から下りてきてなかったんだな。たぶん。「でしょ?」なんて、口が裂けても訊けない。そのときだった。スピアが、{徐|おもむろ}に振り返って、得意科目の〈素っ頓狂〉を演じるように、斯う言い放った。
 「巡回授業所、二回目じゃないのォ? 出なかったのォ?……前回の開講。熊みたいに、山をウロウロしてたのォ? でしょ? 図星みたいだねぇ♪」
 「ねぇ。あのさァ。おまえの{縛|しば}り首は、後に回してさァ。その前に、なんで前回の講座にあたいが出てないって、{判|わか}んのさッ!」と、ズルっこしの鮫少女。
 「いろいろと、{規定|ポリシー}があるみたいでさ。巡回授業所って……。その一つが、手書きってわけ」と、努めて丁寧に説明する、おれ。
 「メ・ン・ド・ク・セ・ー・ェ^!!^ あたいが当番のとき、あんたらどっちか、代わりなさいよね。わかったーァ?」と、生まれつきの悪性を保ち続けて生きてしまっているぼくらの先輩……その名も、{魔鮫|マザメ}^!!^
 「無理だよ。だって、{美童|ミワラ}は〈講釈当番〉必修だって、史料室のおにいさんが言ってたもん」と、能天気に拒絶するスピアの野郎。そのとばっちりが、大事な親友に飛来するかもしれないって、なんでそう思えないのか、まったく理解できない。で、そのとばっちりについて……。
 「{水疱瘡|みずぼうそう}とか{風疹|ふうしん}とか、虚弱体質とか、ズル休みの理由なんて、ハエの脳ミソで考えたって、星の数ほど浮かんでくるだろがい! ちったァ頭使えよ、おまえら……ってってってか……なーんじゃ、こりゃ^!!^ おまえの講釈原稿さ。ぜんぶ、書き直しだね♪」
 決戦の前日、就寝許可証を渡されて、寝たきりになった気分……。
 スピアと、目が合った。目で、会話した。
 「はじまるね^?!^」と、スピア。
 「だな」と、おれ。
 で、はじまった。学徒マザメが、言った……元い。語りはじめた……元い。吠え続けた!  

 「アンタさ。これ、誰の講釈、聴き取ったのさ。どこが草稿なのさッ! アンタこれ、一字一句{違|たが}えずに読む気じゃないだろうねぇ。まァ、そうじゃなきゃ、こんな書き方にはならないだろうけど。最初のほうだけ読んでやっから、聴いてなッ!
 『〈対文明戦のための数学的思考のススメ〉と題して、{拙|つたな}いボクの論考を聴いて{戴|いただ}きたいと思うんですけども、その前に、史料室長より課題を頂戴致しまして、先ずはそちらから説明をさせて戴きたいと思います。
 まず一つ目。〈ここは、路面電車の工場? ここって、HGV社のテクニカルセンターだよね? HGV社って、側溝車輌のメーカーじゃなかったの?〉
 次、二つ目。〈こんなに広い場内を{煌々|こうこう}と照らして、一体全体、どこで発電してるのォ?〉
 最後、三つ目。〈なんでこんな{凹|くぼ}んだ場所に、城壁やら高見の角楼なんかが造ってあるの? 意味無いじゃん!〉
 ……以上の、三つです。
 {何|いず}れもある意味、{尤|もっと}もな疑問だと思います。そこでまずは、一つ目の疑問に関してですが、えっと……』
 てかさァ。なによッ、この『えっと』って。それに、何枚あんのさ、この原稿! 書くのもたいへんだったでしょうけど、聴かされるほうは、その数十倍も疲れるんだからね。解ってるぅ^??^
 兎に角、書き直し! レジュメでいいのよ。履歴書を書けって言ってんじゃないからね。レジュメはレジュメでも、概要、要旨のほうのレジュメさ。箇条書きでいいのよ。
 そうさッ! こういうときに使いなさいよーォ。あの……なんだけぇ。ムロー先輩が好きな……そうそう、写真読み。目次だよッ! 要約して、それが箇条書きになってりゃ、写真読みだって{鳥瞰|ちょうかん}読みだって、なんだっていいのよ。新聞読めって言ってんじゃないからねッ! 判ってるぅ^??^
 本文は、{頭|ドタマ}ん中に書いて、本番は、それを諳んじなさい!
 これ、山で燃やしとくから。宜しくーぅ♪
 じゃあ、あたい、行くから。ほんじゃあ。
 あ、すったこらせーぇの、とーおりゃんせぇーッとォ♪」

 スピアが、独り言ちた。「不吉だ……」
 「わかるけど。てか、おまえが言ってる不吉って、どんな不吉?」と、おれ。
 「カアネエと、おんなじ{口癖|くちぐせ}。アレンジは、ちょっと違うけど……」と、スピア。
 「あのふたり、繋がってたりしてなッ!」と、おれ。
 「どこでぇ?」と、スピア。マジ心配そうな顔。
 「黄泉の国」と、おれ。
 「だったら、三人だね」と、スピア。
 「三人? 誰よォ! もうひとり……」と、おれ。
 「イザナミ」と、スピア。
 (納得^!!^ 嗚呼……)と、思ったおれなのだった。
 おわり。

皇紀2681年2月6日(土) 活きた朝 5:32
少年サギッチ 齢9

令和3年2月6日(土)号
一息 57【少年学年サギッチ】史料室で起こった大事件! 講釈の当番になった講座の前日。灰になった大努力の講釈原稿。

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東亜学纂

MIWARA BIOGRAPHY
(C) Akio Nandai "VIRTUE KIDS" Vol.1 to 12
V.K. is a biographical novel series written in Japanese with a traditional style.
Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.
A.E.F. is an abbreviation for Adventure, Ethnokids, and Fantasy.

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