MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

第3集「自伝編」水曜夜7時配信 R3.3.10 一息63

#### 後裔記「未熟な心を見抜いてラスクを得たトンビ」 少年スピア 齢10 ####

 油断して奪われて、己の*心の未熟さ*を恥じる。自反して気づく、*貧乏性の落とし穴*。一言余計なトンビ!

 一つ、息をつく。

 てかさ。社史の要約って、後裔記……日記じゃないよね。
 で、改めて、後裔記を書く。
 史料室を出て、峠を上りはじめて、それからそれから……みたいな話。毎日、何かしら、事件が起きる。今日、一番の事件? それは、その峠道で、起こった。右手の親指と人差し指で挟んで持っていたライ麦のラスクを、奪われたのだ。
 はてさて、{主題|テーマ}も決めてないのに、モチーフを先に決めて、書きはじめちゃったって感じなんだけど、どうしたもんかなって、いま考えてる。でも、「誰からもらったの?」とか、「誰に奪われたの?」とか、それくらいの事には、答えなきゃね♪
 ほらッ! よくあるじゃん。{POP|ポップ}……〈ご自由に、お取りください〉ってやつ。史料室の黙読コーナーのテーブルの上に、それは、置いてあった。POPには、こんなことも、手書きしてあった。〈食堂で余ったライ麦パンを、二度焼きしたものです♪〉って。それは、べつにいいんだけど……(だから、どうだっていうのさッ!)と、思うぼく。で、まァ、手に取った。{齧|かじ}った。その感想……。
 めっちゃ、{美味|おい}しいやーん♪
 もう一枚、{貰|もら}いたいところだったけど、残り四枚……ビミョー!! 結局、角から四分の一ほどを齧ったラスクを、指で{摘|つま}んで持ったまま、史料室を出た。峠道の脇の岩場かどこかに腰掛けて、また、四分の一を齧ろう。残りの二分の一は、二階のぼくの家に帰ってから、夕飯の前に四分の一、そして、夕飯のあとに、最後の四分の一を食べてしまおう……と、思いながら、歩いていた。
 えッ? まァ、大概の人は、理解に苦しむだろうね。ぼくには、後天的な習性というか、{癖|くせ}が、二つある。ひとつが、この貧乏性。もう一つが、階段を上り下りするときの、抜き足差し足忍び足。これが、{所謂|いわゆる}産れ落ちたときに決まってしまう定め。「どんなところに生れ、そんな育てられ方をしたか……」だ。それによって、いくつかの習性が、身に{沁|し}みつく。
 もし、ぼくが無事に、{武童|タケラ}になって、もし、万が一だけど、そのぼくが、大金持ちになったとしても、この二つの癖は、変わらないと思う。〈万が一〉というのは、絶対に起こり{得|え}ないってことを言いたくて、書いた言葉なんだけどさ。
 万が一と言えば、まさか、ぼくら自然{民族|エスノ}が、会社経営……しかも、巨大な事業展開をしてただなんて、これぞ正に、「万が一が、起きたーァ!!」だよね。ゴメン。話が、飛んじゃった(アセアセ)。
 まァ、この国。古より、他の国からは、{斯|こ}う言われてきたそうだ。霊薬が{生|む}す神秘的な島々が{連|つら}なる、不思議というか、不可思議というか、{兎|と}にも{角|かく}にも、不可解な島国……。だから、何が起きても、不思議はない。
 しかも、今やこの星のどこを探してみても、治乱でない場所なんて、一つもない。人間の心の中だって、みんなそれぞれに、治乱だ。それが{判|わか}っていながら、山中の峠道を、子どものぼくが一人歩いてるっていうのに、ぼくは、なんて{愚|おろ}かしい油断をしてしまったんだろう。こういうのを、不覚って言うんだよね?
 片手で{掲|かか}げて歩いていた、そのラスク……。
 トンビに、奪われた!
 もちろん、トンビに罪はないし、腹も立たないし、{悔|くや}しくもない。だって{奴|やつ}らは、人間界に初代天皇が即位したころから、そんな境遇の自然の中に生れて、そんなことが当たり前だって思えるような育てられ{方|かた}をしてきたんだ。だから、ヤツはただ、成功する確率が高いって{踏|ふ}んだから、低空飛行で、ぼくの耳を{掠|かす}めながら、見事、ラスクをゲットしたんだ。
 {寧|むし}ろ、その罪の大半は、ぼくにある。ぼくが、ラスクの残りの四分の三を、一人で食べようだなんて思ったから、神様は、それがお気に{召|め}さなかったんだ。数字の意味を考えることを、ぼくは{怠|おこた}ったんだ。
 分母なんて、どうだっていい。分子が、3なんだ。誰が考えたって、三人で分けろッ!ってことくらい、すぐに{判|わか}る。(シンジイとカアネエとぼくの三人で、四分の一づつ分け合って、みんなで食べよう♪)って、ぼくが思ってさえいれば、こんな悲劇は、起こらなかったはずだ。
 だから、不思議と本当に、腹も立たず、悔しくもなかった……あいつが、戻って来るまでは。そう……あいつ、グライダー化したトンビ! やつが、戻ってきたんだ。ぼくが、それを見て取ると、やつは、悠然と、コナラの木の枝に、{着木|ちゃくぎ}した。そして、言った。
 「なァ。ニンゲン〈人間〉って言い{方|かた}、変だろォ? だろッ! ニンゲンカイ〈人間界〉って、もっと変だろォ? だろッ? おまえの新しいじいちゃんが、この国のことを、ヒノモト〈日の本〉って言ってたのを聞いて、(変なのーォ!)って思ったけど、ニンゲン〈人間〉のほうが、もっと変じゃんか。だろッ?
 ワシは、そう思う。ワシはワシでも、{鷲|ワシ}じゃないから、そこんとこ、よろしく♪
 おまえらの{大人|おとな}どもなら、ここで、矢のような屁理屈を並べたてるんだけどな。まァ、おまえは、まだ子どもだから、その屁理屈すら、思いつかん。おまえは、平凡な子どもだから、それはそれで、仕方がないことだ。だが……嗚呼、情けなや、情けなや。
 冗談だ。気にするな。{屈辱|くつじょく}は、{糞|クソ}と一緒に、その辺に投げ散らしておけばよい。そんなことより、なんでおまえら人間が〈変〉なのか! その{訳|わけ}を、教えてやろう。おまえらは、人だろッ? ヒト種なんだろッ? ……まだ、一応。
 その人の{間|あいだ}ってことはさ。人と{間|あいだ}を置いた、人じゃない、変な生命体ってことだろッ? それとも、{間|ま}の抜けた、変な亜種ってことかァ?
 ワシらが立命しちょる世界が自然界だとしたら、おまえら人間が、えっちらこっちら運命しちょる世界は、文明界だろッ? おまえら、口では自然の一部分だの、自然{民族|エスノ}だのって言ってるけんどもさァ。おれたち自然の一部の生き物たちから言わせりゃあ、おまえらは、{所詮|しょせん}、文明{民族|エスノ}さ。
 まァ、深く考えるな。これは、{飽|あ}くまで、タカ{目|もく}タカ科に属する自然鳥の個鳥的な、見解だ。ハヤブサ目ハヤブサ科のやつらはやつらで、きっと、まったく異なる個鳥的な見解を持っちょるはずだ。興味があるんなら、直接、{訊|き}いてみるがいい。
 まァ、じゃーァなッ♪ ラスクの礼は、言わん。自然の出来事だったからな。まァ、そんな{訳|わけ}で、悪く思うなッ! また、どこかで会おう♪」
 トンビは、そう言うなり、翼を大きく羽ばたかせ、急上昇と滑空を繰り返しながら、更に森の深く深くへと、飛び去ってしまった。そんなトンビの後ろ姿を、ぼくは、{何気|なにげ}に見{遣|や}っていた。そして、ヤツが見えなくなって暫くして、ぼくは、思った。
 (カモメは、整列が習性で、トンビは、グライダーが習性で、そしぼくは、貧乏性が習性なんだな。自然の一部は、みんな、いろいろ。それで、いい♪)と。
 結局、{主題|テーマ}は、決まらなかった。
 それでも、終わらない文筆は無い。だから、以上。
 悪しからずーぅ♪

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 _/_/_/ エスノキッズ心の学問「自伝編」 _/_/_/
 平成22(2010)年4月創刊
 旧メルマガ名: 「オールドパパスの配信小説」

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 今週の配信は、水木金土の夜7時です。
 この周期は、創作の作業段階によって、変動します。
  【い】シントピック・リーディング期間
  【ろ】草稿期間
  【は】メルマガ編集期間
  【に】電子書籍編集期間
 最も時間を費やすのが、シントピック・リーディング期間です。同じ主題(テーマ)の本を、数冊読みます。一つの主題に関して、多層的な視点を持つことによって、どの論説にも{偏|かたよ}らない、客観的な解釈を実現できます。

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     289円(税込) ASIN: B08QGGPYJZ

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 東亜学纂学級文庫
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