MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

第4集「自伝編」金曜夜7時配信 R3.3.12 一息65

#### 後裔記「気になっていた社史にあった〈その日〉を映し出す」 少年スピア 齢10 ####

 社史の訣別の節にあった〈その日〉の{経緯|いきさつ}とは……。なんと! ぼくの潜在意識が、*遺伝子*を{辿|たど}って、ぼくの*膜脳*に、映し出してくれたァ♪

 一つ、息をつく。

 早いな。秋が終わった。毎年そうだ。秋が来たと思ったら、それと並ぶ勢いで、すぐに冬がやってくる。こうなると断然、お布団の中が恋しい。読書の秋が終われば、言わずもがな、眠りの冬だ。
 日が暮れるのも、早くなった。カアネエの台所仕事は、一向に早くはならないけど。でも、シンジイの講釈は、短くなった。早く{床|とこ}に入りたいだけかもしれないけど。という{訳|わけ}で、{今宵|こよい}も特別(に奇怪な{献立|メニュー})だった夕飯を早々に済ませると、ぼくは二階の家(六畳の間)に戻った。
 この時令、布団はまだ冷たいというほどではなく、布団に{潜|もぐ}ると直ぐにそこは、快適な穴倉の闇の世界だった。そう思った次の瞬間、一つの記憶が、ぼくの脳裏に浮かび上がった。
 (黒{鷺|さぎ}くんの後裔記と、座黒くんの後裔記。そして、その双方の{史|ふみ}に記されているという〈その日のこと〉って……)
 ……{俄|にわ}かに、暗闇の穴倉の中で、ぼくの{腹脳|ふくのう}が目を覚ました。そして、いつものように、ぼくの頭の脳の膜に、まったく見知らぬ、初めて見聞きする写像を、映しはじめた。腹脳が再び眠りについた後、それを鑑賞していたぼくの脳ミソのやつが、どれくらいそれを覚えているか……それが、その物語のすべてになる。こんな、物語だった。

 「なァ、ザグッチ」
 「なんだ、クロスケ」
 と、黒鷺くんが問い掛け、座黒くんが応えた。
 「月と太陽の法則を、知っとるか」と、クロスケ。
 「知らん」と、ザグッチ。
 「じゃあ、教えてやる、長い忍耐と辛抱を経て、陽も月もまた昇る。その力は、どこにあると思うか」と、クロスケ。
 「知らん」と、ザグッチ。
 「じゃあ、教えてやる。{怨念|おんねん}だ」と、クロスケ。
 「怨念?」と、ザグッチ。{鸚鵡|おうむ}返し、{常套|じょうとう}手段。
 「そうだ。自然界の生き物たちの怨念。それが、どれほどのものか、{判|わか}るか」と、クロスケ。
 「誰に、何をされたんだ」と、ザグッチ。
 「{況|いわん}や! 人間……{否|いな}。文明界の人間……元い。文明人と呼ぼう。{奴|やつ}らは、自然から離れ過ぎたんだ。そればかりか、文明界を創造し、自然界に布告なき{宣戦|せんせん}を、態度で示してきやがった。先ずは、空爆が、{始|はじ}まった。
 冷蔵庫投下、タヌキ即死。テレビ投下、ウリ坊即死。便器投下、鹿の{乙女子|おとめご}ちゃん即死。{獣道|けものみち}も{渓流|けいりゅう}も空爆され、林道の脇には、腐った文明人どもの食べ残しが{堆積|たいせき}して、毒ガスが、森の奥へ奥へと{漂|ただよ}ってゆく。{最早|もはや}、退路は断たれた。
 そんな天敵、有害腐れ人間どもを生かしておく道理が、一体全体どこにあるかッ!」と、クロスケ。
 「知らん。だが、義なら、二つある」と、ザグッチ。
 「{何|なん}だ」と、クロスケ。
 「教えてやる。自然の一部としての忠純、{或|ある}いは{面子|めんつ}だ」と、ザグッチ。
 「義など、どうでもいい。おれが言ってるのは、理だ。理があるから、決行する。このまま、奴らを生かしておく{訳|わけ}にはいかん。奴らを一人残らず殺してしまわなければ、{直|じき}に自然界は、奴らが空爆したゴミの山に埋もれた、巨大な古墳となってしまうことだろう。
 それが、我ら自然界の生き物たちの、怨念の象徴だ。そのゴミの{築山|つきやま}が、どの山にも、どの森にも、{亡|ほろ}びた生き物たちの代わりに、我らの怨念の象徴として、末代までそこに、{居座|いすわ}り続けるのだ」と、クロスケ。
 「前天地創造時代……それは、三千余年前の{今|こん}時代の天地創造から、{更|さら}に{遡|さかのぼ}ること数千年。我らヒト種はみな、自然界の生き物たちの{同胞|はらから}だった。この星の生き物はみな、自然の一部だったという訳だ。
 それが、{後|こう}天地創造時代……今まさに亡びゆく我らが生きる今の時代で、ヒト種は、亜種に分裂した。一部の人間どもが、自然界を離反……自然に{背|そむ}き、自然から離れ、同胞たちを、無情無情に裏切った。
 その{醜悪|しゅうあく}非道な一部の人間どもが、今の文明界の開祖だ。文明人どもに殺されて、死して生を営んでいる自然界の同胞たちが、どれほど文明人とその開祖の人間たちを憎んでいるか。それを、{慮|おもんばか}らぬ自然人は、{居|い}ない。
 人間の{過|あやま}ちは、人間自ら正さねばならない。それを、文明人に知らしめる。それが、先決ではないか。{何|いず}れにしても、ぼくたち人間の中で、始末をつけねばならん。{故|ゆえ}に、皆殺しは、有りだ。
 だがそれは、奴らの{戈|ほこ}を{止|とど}める大努力をしたあとに、結果として{出|い}でる話だ。我ら自然人は、武の心に{順|したご}うて立命し、知命を{以|もっ}て、運命を歩まねばならん」と、ザグッチ。
 「{美童|ミワラ}の優等生らしい言い草だな」と、クロスケ。
 「{放|ほう}っておけ。社会主義革命だかコミュンテルン(共産主義インターナショナル)の洗脳だか、{思想宣伝戦略|プロパガンダ}だか、何だかよく{解|わか}んないけどさァ。{兎|と}にも{角|かく}にも、{放|ほ}ったくっとくだけで、何れにしてもそのうち、奴らは身内で殺し合いを{始|はじ}めて、成れの果てに、自ら亡んでくれるさ」と、ザグッチ。
 「そうかもしれん。否。そうなってほしい。だが、奴らは、生き残る。そして、我らが神の国、霊薬を{湛|たた}える列島に、社会主義独裁文明国家を樹立する。我ら自然の一部である亜種は、計画未遂のまま、一人の生存者も許されず、情け容赦なく、亡ぼされてしまうだろう。故に文明人は、何があっても、何がどうあろうとも、完全に、絶滅してもらわねばならんのだ」と、クロスケ。
 「{美童|ミワラ}の悪ガキらしい言い分だな」と、ザグッチ。
 「だろッ?」と、クロスケ。
 「おまえは、どこまで考えてるんだァ?」と、ザグッチ。
 「よくぞ、{訊|き}いてくれたッ♪ 話そう。語ろう。陽はまだ、高い。
 ……で、だ。洗脳というのは、{脆|もろ}いものだ。そこが、問題なのだ。洗脳された文明人が、洗脳もプロパガンダも受け付けない文明人たちを、地道に次々と、{或|ある}いは{一纏|ひとまと}めにしながら、着実に、殺してゆく。だがそのうちに、潜在していて消し去ることのできない{日|ひ}の{本|もと}{魂|だましい}の血が煮えはじめ、やがて{滾|たぎ}り、{終|つい}には。{煮沸|しゃふつ}する。
 そこが、洗脳の限界点だ。以後、それ以上、仲間割れした人間たちを、殺せなくなる。そこが、困るのだ。洗脳を拒絶した亜種たる和の人間たちも、洗脳を自ら{解|と}いた文明の亜種たちも、一人残らず誰かに殺されるか、或いは、自ら死んでもらわねばならない。それを可能にするのが、奴らが自慢して{已|や}まない、人工知能さ。
 文明人の洗脳されて壊れた頭ん中に、人口知能を、埋め込む。そいつを、遠隔操作して、文明人たちを、忠純な兵士にする。産科のある病院内で、まだ柔らかい生まれたばかりの赤子の頭ん中に、電脳チップを埋め込むのさ。
 それが、確実な方法だ。だが一つ、この方法には、大きな問題がある。他者を確実に殺せるだけの脳力と肉体力が備わる年齢に達するまで、ただひたすらに、待たされねばならない。それでは、遅い。次の新・天地創造に、間に合わない{虞|おそれ}、大いにあり。
 ……で、だ。
 ザグッチよ」と、クロスケ。ここで、{一息|いっそく}。
 「{何|なん}だ」と、ザグッチ。
 「おれとおまえの血の性質と気の性分を比較{勘案|かんあん}した結果、一つ、提案したいことがある」と、クロスケ。
 「何だ」と、ザグッチ。
 「おまえが提唱した側溝車輌製造會社と、おれが提唱した中空車輌製造會社。この二つは、おれが引き受けた。だからおまえは、それを利用して、文明界の一番深いところまで入り込め。そして、文明人の科学のすべてを盗め。それを、おれたちの會社で、再現する。その資金は、その二つの會社が、稼ぎ出す。
 これで、文明人が自慢して已まない科学ってやつに、追い付ける。そこでいよいよ、即効性の電脳チップを、開発する。お互い、{誉|ほま}れと誇り高き大役だ。どうだ。ここまで明かせば、ぐうの音も、すうの音も、出まい!」と、クロスケ。
 「出る」と、ザグッチ。
 「何とッ! いま、何と言ったッ!」と、クロスケ。
 「出る。と、言ったのだ」と、ザグッチ。
 「おまえの口と、己の耳を疑う。出せるものなら、だしてみよッ!」と、クロスケ。
 「おまえの計画は、{頓挫|とんざ}するだろう。
 この国の自然は、{古|いにしえ}より、霊薬を湛えると言われてきた。霊薬の元は、何だ。毒だろう。本当におまえが、敵意を{研|と}ぎ澄まして、血は煮沸し、胸ん中に燃え{滾|たぎ}るものがあると言うのなら、その毒を使うことを、考えない{筈|はず}があるまい。
 おまえはただ、おまえの肉体のど真ん中を流れる武の心の血に、まるで幼い悪ガキであるかのように、ただ逆らっているだけなんだ」と、ザグッチ。
 「どうして、そんなことが言える。{何故|なぜ}、そう言い切れる。
 やい! ザグッチ。教えろッ! おまえが好きな常套手段、{論的証拠|エビデンス}だ。それを、今こそ、ここに示せ。さァ、教えろッ!」と、クロスケ。
 「教えろッ?」と、ザグッチ。鸚鵡返し。言わずもがな、これも、常套手段。
 「そっちかいッ!」と、クロスケ。

 ここで、目が覚めた。

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 _/_/_/ エスノキッズ心の学問「自伝編」 _/_/_/
 平成22(2010)年4月創刊
 旧メルマガ名: 「オールドパパスの配信小説」

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 この周期は、創作の作業段階によって、変動します。
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  【は】メルマガ編集期間
  【に】電子書籍編集期間
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