MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

第4集「自伝編」木曜夜7時配信 R3.3.25 一息71

#### 後裔記「重労働に秘められた目論見、講釈の要旨その前半」 学徒オオカミ 齢13 ####

 善意で引き受けた重労働、そこには要領に{長|た}けた後輩の*目論見*が、秘められていた。遂に明かされる、サギッチの*長ったらしい講釈の要約*……その前半!

 一つ、息をつく。

 寒空の{下|もと}……。
 湿って重々しい、実際に重い敷布団を{担|かつ}いで、峠を上る。そのすぐ隣りを歩く少年、{一|ひと}。ブランケットのような薄手の毛布を畳んで頭の上に載せ、軽快に二足歩行……。見ようによっては、ふざけているようにも映る、その態度!

 秘密基地……元い。{五省|ごせい}舎? 実際、どっちゃーでもいい。おれにとっては、ただの目的地に過ぎない。{兎|と}にも{角|かく}にも、そこに、やっと到着。
 いつも一人で寂しいだろう幽霊さんの隣りに寝転んで、話し相手になってやろう……というスピアの思い{遣|や}りは、尊重してやらねばならない。なので、この重労働を渋々、快い顔で引き受けた。そのスピアが、言った。
 「そこでいいよ♪」
 そことは、掃き出し窓の前の、太陽の光がよく入る板の間。
 (取り敢えず、荷を降ろせってことかァ。まァ、そうだよなッ♪)と、思うおれ。
 「そっちの向きじゃなくて、窓際に添わせて広げてよォ!」と、スピア。
 (広げるーぅ??)と、思うおれ。
 「ノート、これ使ってよ。そのまま、オオカミ先輩の後裔記の下書きノートにしちゃっていいからさァ♪」と、スピア。新品の大学ノートと、スピアの背中から降ろされたリュックザックの中に入っていた筆記具を、受け取る。
 「兎に角、長いんだよ。アイツの講釈。{脚|あし}、冷えるし、痛いじゃん。だからこれ、正解でしょ?」と、スピア。
 徐々に、情況の全容が、見えてきた。スピアが、サギッチの講釈の全容に{亘|わた}る記憶を、{諳|そら}んじる。それをおれが、その新品のノートに書き{留|と}める。これから、そんな展開が始まる。それは、意外と直ぐに、予測することができた。でも、{何故|なにゆえ}に!
 スピアが、言った。
 「ぼくが、数字が苦手なの、知ってるでしょ? だから、『数字で捉えた{何|なん}ちゃらかんちゃら』っていうアヤツの講釈の要約は、当然パス。頼れる高学年の先輩たちは、ここには{居|い}ない。なんで、頼めるのは、オオカミ先輩だけ。ほかに、選択肢無し。決まり♪
 ねぇ。早く始めようよォ!」
 一瞬、{目眩|めまい}と立ち{眩|くら}みを覚える。諳んじ始めたスピアを{止|とど}める{術|すべ}は、武の心をどう{捉|とら}えても、その術に結び付く糸口は、一本も見つからない。太陽が、動いている。そんな、気がした。よく見たけど、それを確かめることは、出来なかった。

 サギッチの「数字で捉えた云々……」の講釈、そのモチーフというか、理屈というか……兎も角それは、七つの見出しで{括|くく}ることができそうだった。息恒循でもあるまいし、そんなにいっぱい、余計なことを!
 結局……二人の共同作業の結果、その最初の四つは、確かに算数の範疇と捉えることが出来たが、残りの三つは、算数というほどのものはない。なので、前半の四つは、おれが要約し、残りの三つは、スピアが要約する……ということで、一件落着した。無論、納得したという意味は、{兼|か}ねてはいない。
 ここは、とやかく言うべきところではない。ワタテツ先輩が然修録に取り上げた『{闘戦経|とうせんきょう}』ではないが、ここは正に、「{因|いん}と{果|が}とを弁ぜず」で、ある。

   《 一、大航海時代の算数的発想 》

 大航海時代……。
 冒険家が地球を一周して、地球が丸いことを証明して見せた。だが、自然人たちは、その当時{既|すで}に、しかも、とっくの昔に、そのことを自ら証明して、知り得ていた。自然を観察すれば、直ぐに判ることだ。
 船が遠ざかると、下のほうからだんだんと見えなくなる。
 高い山から海や平原を見ると、曲線に見える。
 月の欠けたところも、曲線だ。
 {即|すなわ}ち、地球の影が丸いということだ。
 月食の満ち欠けも、これと同じ理屈。
 地球の影が、丸いということだ。
 星の影が丸いと、その星自体も丸いという仮定は、月の形と、日食のときの太陽の満ち欠けの様子を見れば、容易に証明することができる。
 まァ、そこまで観察しなくっても、「太陽も月も丸いんだから、地球だって丸いだろッ!」って話だ。

   《 二、算数で捉えた天地創造の真相 》

 天地創造の真相は、その{殆|ほとん}どが、大{隕石|いんせき}の落下。
 特に、ザックリ六五〇〇万年前の天地創造は、{凄|すご}かった。直径13キロの巨大隕石が、時速10万キロの{猛烈|もうれつ}な{速さ|スピード}で、地球に激突!
 数年間、その{粉塵|ふんじん}で、太陽の光が閉ざされてしまった。
 {因|ちな}みに、隕石が歩いている人の頭に当たる確率は、六千億分の一。百万分の一以下の確率の天災は〈予知不可能〉と規定されているらしいので、予防や対策は無用……と、いうのが、現代の通説となっている。
 {方|かた}や、文明界で日常的に起きている人災の代表格……交通事故。この事故に{遭|あ}う確率は、なんとーォ!! 一万分の一。嗚呼、恐ろしや人災。恐ろしや、文明界!

   《 三、銀河系は大宇宙の算数銀座 》

 太陽系が属している銀河系には、恒星と呼ばれる太陽のような核融合で自ら光っている星が、これがまたなんとッ! 一千億個もあるという。
 {更|さら}に、小宇宙とよばれる銀河系のような星雲も、大宇宙には、これまたまたなんとッ! 一千億個もあるそうだ。
 こうなってくると、さすがに、この{途轍|とてつ}もなく広大な宇宙に、宇宙人が{居|い}ないなんて「有り得ねーぇ!!」と、思えてくる。その宇宙人が居そうな星は、そう遠くない。
 そのイプシロン星のあるエリダス座までは、約11光年。同様に、次に近いタウ星のある*くじら*座までは、約12光年。
 宇宙は、無限だ!
 でも、その無限の宇宙の外側には、一体全体、何があるのだろう。
 バカデッカイ巨人が、大宇宙を一族の家宝として、神棚に上げて祭っているのかもしれない。だとすると、その巨人は、宇宙外大星人!
 その点、数というものは、**真の無限**が、いくつもある。
 自然数の、一、二、三……無限!
 値の等しい分数、二分の一、四分の二、六分の三……無限!
 自然数以外の特定の性質を持った数列……例えば、一、三、五……無限!
 でも、あの、頭が変になりそうなくらい巨大な大宇宙でさえ、無限であることの証明は、不可能なのだ。有限の形あるものとして、巨人が神棚に上げているかもしれない。この〈有限〉を否定したところで、それを証明して見せることはできない。無限の否定を証明できないのと同様に、有限の否定の証明も、不可能なのだ。

   《 四、最強多勢の大数に落とし穴あり 》

 ヒト種の一部の人間たちが、この数の神秘と、そこに秘められた力を知って、それを学び、{操|あやつ}りはじめた。いろんなものを操れるようになってくると、こんどは有ろう事か、自然の存在が煙たくなってくる。
 数という無敵の知能を有する軍師を得たその一部の人間たちは、次々と自然を、そして{忠純|ちゅうじゅん}にして{頑|かたく}なにその自然の一部で在り続けようとする生きものたちを、次々と{亡|ほろ}ぼしてゆく。
 その文明軍の兵士たちは、数々のものが、それぞれに大数となるまで{籠城|ろうじょう}し、ただひたすらに待つ。大数に到るまで、兵士はもちろん、{兵糧|ひょうろう}から何から何まで、何があっても動かさない。{護|まも}りに、徹する。
 結果……{即|すなわ}ち戦果が、お決まりの確率どおりになるまで、数を積み重ねるということだ。
 例えば……。
 サイコロの〈一〉の目が出る確率が六分の一になるまで、サイコロを振り続ける。
 少人数ながらやっと立ち上げた保険会社……その設立初年度で、10人しか契約できなかったとする。その10人全員が、その翌年に病気や事故で死亡したら、その保険会社は、設立二年目にして、巨額の負債を残して倒産という悲劇に、見舞われてしまう。
 子どもたちが好きな、草野球♪ 一度限りの打席でヒットを打ったら、何と打率十割の、プロスカウト必至のスーパーヒーロー♪
 逆にアウトになってしまったら、打率ゼロ割バッターで、末代までの恥!
 結局大事なのは、試合に出続けて、確率が三割で安定するまで、数を稼ぐことだ。
 でもそこに、落とし穴あり! 数を稼ぐだけでは、三割には届かない。それが、高原現象!
 打率三割が見えた途端、何者かに手足を操られて、打率の上昇運動にブレーキがかかる。どんなに必死に大努力をしても、二割キープが精一杯なのだ。それでも{諦|あきら}めないで、打席に立ち続ける。
 すると、{摩訶|まか}不思議! それが、諦めかけた次の打席の一打目か、数百打目の追い詰められたツーストライクの捨て身!渾身!の一打かは{判|わか}らないが、いつか必ず、たった一打のことがきっかけとなり、晴れて念願の三割の山場を、超えることが出来るのだ。

 以上。これだけでも、マザメは、「長いよッ! 馬鹿か、オマエはーッ!!」と、吠えると思う。その確率は、言わずもがな。誰に{訊|き}いても、十割だ……(アセアセ)。

 蛇足……新品の大学ノートの運命。
 スピアが諳んじた{彼|か}の有名な当番講釈人の持論の数々で、全{頁|ページ}白紙の真新しいノートの十割の頁が、黒々とした鉛筆文字で埋め尽くされたのだった。

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 _/_/_/ エスノキッズ心の学問「自伝編」 _/_/_/
 平成22(2010)年4月創刊
 旧メルマガ名: 「オールドパパスの配信小説」

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 今週の配信は、水木金土の夜7時です。
 この周期は、創作の作業段階によって、変動します。
  【い】シントピック・リーディング期間
  【ろ】草稿期間
  【は】メルマガ編集期間
  【に】電子書籍編集期間
 最も時間を費やすのが、シントピック・リーディング期間です。同じ主題(テーマ)の本を、数冊読みます。一つの主題に関して、多層的な視点を持つことによって、どの論説にも{偏|かたよ}らない、客観的な解釈を実現できます。

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