MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

東亜学纂学級文庫

『息恒循』を学ぶ

一息75 ミワラ〈美童〉の後裔記 R3.4.2(金) 夜7時

#### 後裔記「史料室で見かけた意外な二人の意外な目的!」 少年サギッチ 齢9 ####

 史料室で回想。おれが住まう深層住宅の由来に酔う。そこで声を掛けてきた意外な二人。同じウミネコの話でも、意外な一言に反応した二人。*祖先の捜索*に駆り立てた*二人の執念*の真相とは!

 一つ、息をつく。

 なるほどねッ♪
 HGVテックの研究棟の地下にある、深層住宅のことさ。

 「ビルが林立する大都会じゃあるまいし、{何|なん}で地下に、しかも、縦方向にだけ細長く掘ったところに、狭い狭い社宅の部屋が連なっているのか……まァ、そんな歴史があったとは……。でもそれが、おれら子々孫々の誰でもなく、あの、メタボのウミネコの遺伝子に刻まれてたとは……まァ、いっかーァ♪」と、{何気|なにげ}に、ほぼ無意識に、独り{言|ご}ちていたおれだった。

 少しの間……するとまた、次から次へと、新たなる言葉が、突いて出てきた。続いて、また無意識に、言ちるおれ。
 「地上の住まいをあのままにしといたら、延々、海や空からやってくる文明界の{見世物|みせもの}商人たちに見つかりはしないかって、いつもビクビクしてなきゃなんない。
 それにさァ。{奴|やつ}らが空からやってくるたびに、また、茶と黒の鳥たちに大集結してもらって、翼の{絨毯|じゅうたん}を被せてもらわなきゃなんないしさ。なんか、申し訳ないよなァ。
 そのまま、森ん中に穴を掘らなかったのは、山だから、岩盤の地層でもあったのかもな。隣りの島から掘り始めて、わざわざ山の奥の遺跡の下まで掘り進んだってことは、そこから地上に出るまでの地層が、いちばん柔らかかったってことかもしれんしな。
 何せ、穴掘り名人なんだもんな、おれらのご先祖さまはッ!
 で、{下手|へた}に浅く横に掘って、万が一、発掘をおっぱじめっちまった文明人たちに見つかりでもしたら、それこそ、絶好の観光資源の見世物小屋……じゃなくて、見世物{洞穴|どうけつ}だからな。
 縦に長けりゃ、隣りの島から掘って出て来た穴を、そのまま使えるし、もし発見されそうになったら、出口を{塞|ふさ}いで、{暫|しばら}く大人しくしときゃいいんだからさ。
 てか、そのための部屋だったのかな。今、おれが住んでる地底の狭い部屋は……」

 ここは、その研究棟のなかにある史料室……の、黙読コーナー。
 まァ、一応は〈黙読〉って名前が付いてる場所だから、努めて小声でブツクサ言ってたつもりだけど、このだだっ広い史料室の利用者のなかで一人だけ、そのおれの蚊の吐息のようなブツクサが気に入らないらしい男が{居|い}た。
 おれの背後の書棚の前で仁王立ちして、何やら熱心に、目次だけ読んじゃー元の棚に戻し、また次の本の目次を読んじゃー戻し……と、それを延々と繰り返しながら、仁王立ちのまま、カニ歩きをして、おれが腰掛けてる席に接近しつつある。
 で、遂に、おれを視認して。{斯|こ}う言った。

 「なんだァ。おまえかよッ! だったら、もっと早く言やァよかったな。うッせんだよ、おまえッ! ブツブツ……ブツクサって。黙って読めッ!
 てかおまえ、本も持たずに、何を読んでたんだァ? 何も読まずに、ただブツクサ言いたいだけなら、外でやれッ!」と。
 まァ、ご{尤|もっと}も。異論なし。で、一応、{訊|き}いてみた。
 「ねぇ。何を熱心に、ちょこちょこちょこちょこ、次から次へと、立ち読みしながらカニ歩きしてんのォ?」
 「おれかーァ?! おれのことは、いい。だから、気にしないで、出て行ってくれーぇー♪ アーアー♪」と、オオカミ先輩。ハッキリ言って、歌うほうが、うッせえ!
 で、ついつい、余計なことを言ってしまった、おれ。
 「ひょっとして、民族史とか、郷土史とか、そんな本ばっか、見てない? 目次の中に、自分の先祖に関わるようなキーワードがないかどうか、探してたりするぅ? シロデブ……じゃない、シロメタ……どっちでもいいけど、あいつがマザメ先輩に言ったことが気に掛かって、その気になって、自分の祖先のこと、調べてたりして……。
 てかさァ。そんな個人的なこと、本にするかなァ。あったとしても、もしちゃんとした製本だったら自費出版で、小冊子みたいな粗末な{綴|と}じものだったら、精々{頒価|はんか}百円みたいな、趣味の本だよ。
 たぶんそれも無いだろうから、先輩が今やってることって、考えのない{徒労|とろう}ってやつじゃないのーォ?!」……と。
 こういうバヤイ、はっきりと言ってあげたほうがいいと思ったので……でも、口にせずに思うだけに{止|とど}めるのが、普通……(アセアセ)。
 案の定、オオカミ先輩が、その余計な話に応えて、おれに言った。
 「そうか。そうだな。気づかなかったよ。あわや、骨を折って損をするところだった。礼を言う。ありがとちゃん♪}……みたいなッ!

 また、暫くの間。そのあいだにオオカミ先輩、おれの隣りの椅子を引いて、腰掛ける。そして、言った。
 「おまえは、いいよな。調べなくても、先祖の中に例外を探す必要が無いからなッ!」
 「例外? 何の話ーぃ?!」と、おれ。
 「{鷺|さぎ}助屋一族。一人の例外もない。隣りの島の何とか{V|ブイ}テックの発案者で、あっちとこっちの何とかV社の両方の創業者だ。
 スピアだって、そうさ。血統書付きだ。座森屋一族。一人の例外もない」と、オオカミ先輩。何やら、不満というか、不服というか、{兎|と}に{角|かく}、不機嫌!
 「先輩だって、どこかの一族なんでしょ?」と、おれ。べつに、深い意味は無かった。言い換えると、何も考えずに、ただ何気に出た言葉!
 「ない! いや、ある。幽霊一族だ」と、オオカミ先輩。
 (なんじゃーそッ……おっとと、何じゃそりゃ!なんて、冗談で済みそうな空気じゃないな。黙ってるに限る。言語を省いて、何とやらァ♪)と、思い直して押し黙っていることができたおれ。偉いと思う。自画自賛♪
 ところが……。
 「{訊|き}かれないと、答えずらい」と、オオカミ先輩。
 「じゃあ。なんーじゃ、それは……ですかァ?」と、おれ。日本語に、なってない!
 「オヤジは、直ぐに消える。そして{終|つい}には、{居|い}なくなった。
 オッカアは、今の時代には、有り得ん! まるで、江戸時代にでも住んでいた女で、あの世からおれを監視して、必要とあらば、ひょっこりとおれの前に現れて、{訳|わけ}つの{判|わか}らん{御託|ごたく}を並べると、納得したようにサッサとあの世に帰っちまう。
 だから、幽霊一族……つっか、幽霊一家だッ!」と、オオカミ先輩。
 「ふーん。そうなんだァ♪」と、おれ。
 「てか、つっか、納得すんのかい!」と、オオカミ先輩。
 「闇雲に否定するのは、大人のすることっしょ!」と、おれ。
 「納得!」と、オオカミ先輩。
 「で、何で、例外を探さなきゃなんないのォ?」と、おれ。そこは、ハッキリさせておきたかったので。
 「例外ってことは、幽霊じゃないってことだ。幽霊じゃないってことは、ちゃんと成仏した普通の……というか、真っ当な人間ってことだろッ!」と、先輩。
 「でも、本には、出てないっしょ!」と、おれ。
 「見つけた」と、先輩。
 「マジっすかァ! すっげーぇ!!」と、おれ。
 「一人目は……」と、先輩。
 「そんなにーぃ!!」と、おれ。
 「声が、デカイ! 魔性の{鮫|サメ}{乙女子|おとめご}が、目を覚ますぞッ!」と、先輩。
 「それだけは、それだけは、それだけは、ご勘弁!」と、念を押し押し、おれ。
 「聞くは数奇、語るは{波瀾|はらん}。古来、偉人変人は、数知れず。
 で、一人目……大学の教授のような学士。
 次、一国の大臣のような士君子。
 次、{酒々落々|しゅしゃらくらく}と女豪を{湛|たた}えた{御寮|ごりょう}さん。
 次、無為自然で老荘的な{民|たみ}。
 次、{拘泥|こうでい}なく風流な流転人。
 次、{豪傑|ごうけつ}肌が{祟|たた}って、獄中{遣|や}る{方|かた}無く{堅気|かたぎ}同然の同僚……元い。同獄の女に手を出し、獄中結婚した不届き者。
 次、その続き。獄中にあってはその野郎の子を産み、{娑婆|しゃば}にあってはその子を女手ひとつで育て上げた、その野郎の見上げた恋女房。
 で、結論。
 数々の候補が{挙|あ}がった中で、おれの祖先は、その獄中で産れた子だった。
 以上」と、先輩。何故か、どや顔! 意味不明……。
 「えッ! 一人目はァ? 二人目……てか、オオカミ先輩の祖先って、最後の獄中産れの子と、獄中結婚したその子のオヤジとオカンの、三人だけーぇ??」と、おれ。{判|わか}りきったことを、{敢|あ}えて言ってしまった。{大人気|おとなげ}ない……元い。{子供気|こどもげ}ない……??

 まさに、そのときだった。
 「あんたらかい! {判|わか}ってたら、もっと早くすっ飛んできて、おまえらのドタマ{蹴|け}り回して、キンコン♪ カンコン♪ 言わしてたのにさァ!
 うッせーんだよ、さっきから。
 あたい、今、大事な調べごとしてんだ。
 黙って読めないんなら、とっとと出て行きなッ!」
 と、言わずもがな。
 {既|すで}に……てか、とうの昔に、お目覚めでいらっしゃった魔性の鮫オトメゴが、二人の背後で、仁王立ち!
 どこかのオオカミ先輩より、よっぽど様になっている……てか、比較にならないくらい、恐ろし{気|げ}!

 オオカミ先輩が、絶妙な小声で、おれの目を見ながら、言った。
 「おまえ、今おれに言ったのと同じこと、先祖捜索中のこの生きものに、言えるかァ?」
 無論、おれの首が、無意識に、高速スイングするのだった。
 「寒いのーォ?!」と、マザメ先輩。
 「うぅ、うぅぅ、ぅん! 大丈夫。ありがとォ」……と、有りったけの勇気で言葉を絞り出した、おれなのだった。

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「自伝編」夜7時配信……次回へとつづく。
「教学編」は、自伝編の翌朝7時に配信です。

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