MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

東亜学纂学級文庫

『息恒循』を学ぶ

一息76 ミワラ〈美童〉の後裔記 R3.4.3(土) 夜7時

#### 後裔記「あの世からの使者{曰|いわ}く、この世は上げ膳据え膳!」 学徒オオカミ 齢13 ####

 おれは、あの世からの迷い子! あの世の先達に、逢いに行く♪ {武童|タケラ}たちも動物たちも、あの世に居る使者さえも、この世の治乱を告げるため、おれたち{美童|ミワラ}の周りに集まって来る……。

 一つ、息をつく。

 祖先に{拘|こだわ}っている{訳|わけ}じゃない。
 夢か{現|うつつ}か、{兎|と}にも{角|かく}にも、訳あってこの世に{居|い}る。
 この世に居るということは、天命を拝命してこの世に産れ{出|い}で、その使命を{担|にな}って、天命まで運ぶまでのこと。それ以外に、一体全体、何があるというのか。

 ただ、思う。もう一つの、真実……。
 おれは、平時には有り得ない人間だ。治乱の時代に、幽霊がこの世に産み落とした、{前世|ぜんせ}治乱の生きものなのだ。
 スピアやサギッチ、それに優等生の先輩たちも、おれら……元い。おれと同じ自然{民族|エスノ}であることに、疑いの余地など無い。でも、思う。自然民族も、{何|いず}れは、分裂する運命。何れ必ず分化して、二つの亜種を成す。
 それだけじゃない。文明{民族|エスノ}も、和の{民族|エスノ}も、退化分裂して、三つの亜種が入り乱れて、新たな分化を{為|な}してゆくことだろう。これは、当てずっぽうなんかじゃない。その証拠に、今年の時令になって急に、{武童|タケラ}たちが、おれら{美童|ミワラ}に、異様に関わりはじめた。
 例えば……。
 おれらの循令を、『亜種記』に編みはじめたイエロダさん。スピアの養祖父と養母だと語る、シンジイとカアネエ。死んでいるところを押して姿を見せにやってきた、廃墟住みのおにいさん。それに、史料室のモノさんも、そうだ。

 {更|さら}に、{強|し}いて言えば……。
 おれらと同じ自然の一部、{同胞|はらから}とも言うべき鳥や動物たちだって、そうだ。この島の鳥や動物たちが、元々よく{喋|しゃべ}るって{訳|わけ}じゃないだろう。おれが、{奴|やつ}らの言葉が理解できるような心に、変われた訳でもない。
 奴らが、おれたちがやって来るのを、待っていたのだ。おれたちに{逢|あ}えたから、そこで初めて、喋りだしたんだッ!
 何かが、文明の生きものも、自然の生きものも、何かが、大きく、変わろうとしている。次の天地創造が、近いのかもしれない。前回の天地創造から、もう優に、三千年は{経|た}つだろう。
 {否|いや}、三千年どころの話じゃない。{如何|いかん}せん、三千年より前のことは、{皆目|かいもく}見当もつかないのだから。
 「実は{既|すで}に、五千年を経ている。{愈々|いよいよ}、次の天地創造は、間もなくだッ!」って言われても、「{嗚呼|ああ}、そうかい!」って言って、納得してみせるほかないではないかッ!

 で……だ。人畜無害の{武童|タケラ}……息恒循の恒令にもある『五省』の写しを、大事そうに大事そうに保管してたんだから、ありゃ、間違いなくおれらと同じ血筋……{武童|タケラ}だなッ!
 で、「で……」の、続き。
 廃墟住みのおにいさんに、逢いに行った。正直、一人で行くのは、どうも気乗りがしなかったが、両の親が幽霊だからか{何|なん}なんだか、兎に角、正真正銘の幽霊に話しかけられても、*悪い気はしなかった*。
 (ここは、**{怖|こわ}くはなかった**と、書くべきところなのかもしれないけんども……)と、思うおれ。
 兎に角……「で、」だ。
 おれは、何の{意図|いと}も無い、どうでもいい事を、投げ入れてしまった。おにいさんが、そこに横たわっているであろう、窓際の寝台の、その上の段の、空っぽの{床|とこ}に目掛けて……。

 「ねぇ。{豆餅|まめもち}と{餡子餅|あんこもち}、どっちが好き?
 おれは、{搗|つ}き立ての{白餅|しろもち}が好きなんだけど……。食べたこと、無いんだけどさ。そのどれもこれも。寺学舎に{供|そな}えてあったの、見ただけさ。カチカチの白餅。豆餅と餡子餅は、写真で見た。何の写真だったか、忘れちゃったけどさ」
 と、そこまで喋ったところで、その姿が見えないほど体温が下がりまくりだった*おにいさん*が、毛布よろしく{煎餅|せんべい}布団に{包|くる}まった姿で現れ、体温上がりまくりで、{捲|ま}くし立ててきた。
 「餅、食べたことないだってぇ? 見たことあるのは、お供えのカチカチの白餅だけだってーぇ!?
 君、この世に来てから、正月を何度経験したんだァ? 見たところ、{優|ゆう}に十ぺんは超えてるだろだろうに……。それで、餅を食べたことがないってことは、一体全体、君は正月に、何を食べてたって言うんだ。んんーん?」
 おれ、何も答えられず、絶句。
 でも、「何かしゃべらなきゃ!」と、{焦|あせ}る。
 で、言った。
 「ただ……。
 スピアが、餅が好きでさ。変な話、いま何気に思い出したっていうか……。カアネエに、『餅作ってぇ♪』って、お願いしたらしいんだ。そしたら、カアネエ。『おまえは、バカかッ! {食|く}ったことないもん、どうやって作れって言うのさァ。ど{阿呆|あほう}!』って、言ったそうなんだ。
 そしたら、スピアのやつさァ、『じゃあさァ、なんで女の人は、{産|う}んだこともないのに、子どもを作れるのォ?』って、{咄嗟|とっさ}に応えて{訊|き}いたんだってさ。
 そしたら直ぐに、カアネエに、『黙らっしゃい!』って言われて、{敢|あ}えなく一件落着……みたいな(アセアセ)」

 {暫|しば}し、{静寂|せいじゃく}……。
 おにいさんが、言った。
 「ねぇ。もうすぐ、正月だよね。今度の正月くらい、カアネエの家に集まって、ゆっくりみんなで、お{雑煮|ぞうに}でも食べたらどうだろう。もうぼくには、{叶|かな}わないことだけど……。君らは、まだ間に合うんだ。雑煮って、言葉だけ覚えときなよ。シンジイなら、知ってるから。
 君らだって、今度の正月を{逃|のが}したら、次はどうなるか、{判|わか}らないんだからさッ! そうだ。それより、さっきの話……。正月、君は、何を食べてたのォ?」
 (何でそこに、{拘|こだわ}るかなーァ!?)と、思うおれ。で、観念して、応えて言った。
 「おにいさんが死んでる{間|あいだ}、この国も、随分と変わってしまったんだよ」
 「何がァ? どんなふうにぃ?」と、おにいさん。
 「正月には、宇宙食を、食べるんだ」と、おれ。
 「宇宙食って、宇宙人が食べてる{御節|おせち}料理のことかい?」と、おにいさん。
 「そうかもね。いや、確かに、そうです。文明人っていう、宇宙人が{居|い}るんだ。そいつらは、{樹脂製|プラスチック}の袋や、宙に浮きそうなくらい軽い西洋風の{容器|トレー}に食べるものを入れて、保存しとくんだ。
 そのまま食べれるものもあるし、{温|あたた}めたりお湯をかけたりして食べるものもある。食べ終わったら、その袋や容器を、食べ残しと一緒に、山の中や畑や海岸に、捨てるんだ」
 「プラスチックって、プラスチック爆弾のことだろォ? なんと、爆弾の中に、食べ物を忍ばせとくのかい? 宇宙人は、そこまで緊迫した{闘戦|とうせん}をしてるってことなのかい? 一体全体……まさか、その闘戦の相手は、君らなにかい?」と、おにいさん。
 「プラスチック爆弾って、茶碗を二つ合わせたみたいな感じなのォ? 中に、食べ物も入れられるのォ?」と、おれ。訊かれてるのはおれなのに、{何故|なぜ}か{偏屈|へんくつ}な{鸚鵡|オウム}みたいに、問い返す!
 「火薬とゴムを{練|ね}って作るんだ。敵軍のアメリカで開発されたものなんだけどさ。君の言うプラスチックの袋っていうのも、アメリカで開発されたものなのかい?」と、おにいさん。
 「ゴムも火薬も、入ってないよ。袋もお椀も、ペレットとマスターバッチで作るんだ」と、おれ。
 「何なんだい? その……」と、おにいさん。
 「石油と絵の具だよ。どっちとも小さい粒で、米粒みたいな形をしてるんだ」と、ぼく。
 「{日|ひ}の{本|もと}のお正月は、石油と絵の具で作ったお椀で、宇宙食を食べるようになったんだね? いやはや、長生きはするもんだッ!」と、おにいさん。
 「てか、死んでるじゃん! おにいさん」と、おれ。
 なんか、一刀両断……みたいな。

 ……沈黙の予感。
 その予想は、{概|おおむ}ね当たる。
 ここでまた……間が、少々。
 「こっちの世から観たら、確かにそう見えるんだよな。ぼくらって……」と、おにいさん。
 「あっちだと、どんなふうに見えるのォ?」と、おれ。当然の疑問だ……と、思う。
 「よく判らないんだ。あんまり長居っていうか、まだ腰を落ち着けたこと無いしさァ」と、おにいさん。
 「なるほどね。たしかに、引っ越しも、まだなんだもんね」と、おれ。
 「引っ越し? そうか。そうだよね。まだ、こっちに置いあったんだったね。今、気がづいたよッ!」と、おにいさん。
 「それは、良かったね……じゃなくってぇ! 遅いっしょ! 死ぬ前に、考えるっしょ、普通……」と、ぼく。
 「それは、どうかな。それが五十年後か、{将又|はたまた}三秒後か、君には、判るのかい? 半世紀も前から死ぬ準備をする人って、{居|い}るのかい? 逆に、それが三秒後だったら、どんな準備が出来るんだい?
 あっちは、何があってもおかしくないような世の中みたいなんだけど、最近は、こっちも、なんかそんな世の中になってきたような気がするよ」と、おにいさん。
 「何があっても……って、たとえばどんなことがあるのォ?」と、おれ。なんかおれ、しつこいモードになってきたーァ!!
 「龍王と{善女|ぜんにょ}龍王の{喧嘩|ケンカ}は、*オオカミ*も食わないって言われてるんだけどさ。そうと判ってても、{怖|こわ}がり屋さんの太陽神は、直ぐに{石戸|いわど}の陰に隠れっちまうんだよね。そうなっちゃうと、天界の男女の喧嘩はもう、{遣|や}りたい放題さ。
 雲を{蹴|け}飛ばし、{稲妻|イナズマ}を{射|い}り、豪雨を投下し、強風を浴びせる……そう! そうそう♪ きみに一つ、教えてあげるよ。天国だとか地獄だとかっていうのは、決まった場所がある訳じゃないんだよ。自分で、映し出さなきゃならないんだ。
 その点、こっちの世は、上げ{膳|ぜん}{据|す}え膳さァ♪ 何もしなくても、勝手に{現|うつつ}という幕が上がり、{放|ほ}っときゃまた、自然に幕が下りる。
 教えついでに、もう一つ。
 最初はみんな、こっちへ来るんだよ。だってさ。あっちへ行ったり、こっちへ来たりしながら振り分けるのって、結構、たいへんだろッ? だから神様は、考えたんだ。最初は一旦、一か所に{纏|まと}めておいて、そこで、振り分けよう……ってね。
 自分で映し出す地獄や天国みたく、そんな{凪|なぎ}と微風の違いみたいな世の中じゃなくって、もっとハッキリ、もっともっと激しく異なった世の中が、いくつもある。そこに、振り分けられて行くんだよ、ぼくたちは……。
 ほら、あの子たちだって、いつ振り分けられるか、判ったもんじゃない。まだ子どもだからって、それがまだまだ先だとは、限らないんだよ」

 見ると、半開きの玄関引き戸からも、半開きの掃き出し窓からも、いつの間にか{戦|そよ}ぎだして矢庭に変貌した突風から避難するかのように、次々と、自然界の同士たちが、舞い戻って来ている……その、{最中|さなか}の{有|あ}り{様|よう}だった。
 窓からは、ハヤブサ、トンビ、カモメ、ウミネコ……。
 扉からは、小鹿、タヌキ、ウリ坊……。
 そして{何故|なぜ}か、*壁際でーぇ♪ 寝返り打ぅてーぇ♪*……いるのは、淡い薄黄土色をした新入り……ハツカネズミだった!

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「自伝編」夜7時配信……次回へとつづく。
「教学編」は、自伝編の翌朝7時に配信です。

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