uki ^^/ 後裔記 第2集 第42回
三、 執冬 (4)
女はニコッと笑い、手招きをやめて説明用のマニュアルのような冊子を片手に抱えて立ち上がった。
団子めがけて、{颯爽|さっそう}と歩いてくる。
そして、団子とショーケースの間に割り入ると、ニコニコしながら{流暢|りゅうちょう}に語りはじめた。
「大きな鉄の板を{接着|せっちゃく}するロボットなの。
不格好だけどね。
でも、海の底でも接着してくれるの。
すごいでしょ?
そこにあるカタログを読むとよくわかるんだけど、今あなたたちが話している言葉では書かれてないのよ。
ゴメンなさいね。
実はね。
あなたたちが、わたしが接客する最後のお客さまなの。
素敵な{紳士|しんし}{淑女|しゅくじょ}でよかったわ。
ちっちゃいけどね♪
{定年退職|ていねんたいしょく}って、わかる?
おばあちゃんになっちゃったから、国に帰るのよ。
{孫|まご}が三人いるの。
みんなで、お祝いをしてくれるんですって。
素敵でしょ?
あなたたちも、とってもいい子ね」
おばあちゃんのおばさんは、そこまでを言い終えるとマニュアルを持っていないほうの腕でららを抱き上げ、ほっぺに何度もキスをした。
ららが、言った。
「おばあちゃん、ほっぺがキスマークだらけになっちゃうよォ!」
エセラは思った。
(おばあちゃん?
孫?
かあさんと同じくらいの歳にしか見えないんだけど……)
おばあちゃんのおばさんが、ららをそっと床に下ろして言った。
「冬は日が暮れるのが早いから、そろそろ帰ったほうがいいわね。
どこまで……。
どうやって帰るの?」
「歩いて……」と、シンタがぼそっと応えて言った。
「そぉ。
じゃあ、近いのね。
それでも、早いほうがいいわね。
あなたたち、おばあちゃんはいるのォ?」と、おばあちゃんのおばさん。
「ばァばがいます」と、エセラ。
「そぉ。
あなたのばァばも、きっと幸せでしょうね」
……と、おばあちゃんのおばさんはそう言うと、穏やかな笑顔で手を振ってくれた。
まるで、自分の孫たちを見守るような優しい瞳で……。
状況判断という{疎|うと}ましい習慣にしたがって、団子から{単縦陣|たんじゅうじん}に再編成した四人は、出入口へと引き返すべき場面に直面した。
先頭で{佇|たたず}むのは、{旗艦|きかん}の軽巡洋艦「シンタ」。
おばちゃんが事務所の中に引っ込んだのを見届けると、セメントで白舗装された通路の奥に見ゆ通用口らしき鉄の片開き戸めがけて微速前進をはじめた。
その鉄の扉のすぐ手前には、{蹴込|けこ}み板のない、{千鳥|ちどり}型{鋼板|こうはん}の踏み板とドブメッキの単管パイプを溶接しただけのような、工事現場の仮設でもおかしくない{味気|あじけ}のない階段があるだけだ。
抜き足、差し足、忍び足……。
ときおり、{匍匐|ほふく}前進。
シンタは、腹を決めた。
夜の行軍は、{危険が大きすぎる|デインジャラス}。
この雑居ビルのどこかで、夜明けを待つしかない。
目指すは、掃除用具庫。
あるいは、屋上に出る階段の踊り場。
仮設階段を匍匐してよじ登る四人の子どもたちは、あまりにも{怪|あや}しすぎる。
四人は、号令もなく一気に階段を{駆|か}け上がった。
二階も、一階と似たような感じだった。
壁と天井は、{間仕切り|パーテション}で隠し{果|おお}せるとでも思ったのか、コンクリート打ち{放|っぱな}しのスケルトンだ。
そのときだった。
{呆|あき}れるくらい無神経な大きな声で、誰かが吠えた。
おっさんの声だ。
総員被弾!
{危|あや}うし。
絶体絶命!
「あれぇ?
君たちは確かーァ。
だよなッ!
なんだーァ。
友だちになっちゃったのかァ。
こりゃゆかいゆかい♪」
その声の主は、事務所用に間仕切って入り口が並んでいるあたりに突っ立っていた。
声のとおり、ズングリとした体形のオッサンだった。
「あッ!」と、カズキチ。
「おーォ!!」と、スピア。
2024.12.22 配信
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発行 UKI library 卯喜書房
{格武童|サブライ} {自然|しぜん}を{敬|うやま}う{人|ひと}たち
{守護童|マモリベ} {伝統|でんとう}を敬う{人間|にんげん}たち
{青草童|ビドーサ} {電脳|でんのう}に{向|む}かうヒト{種|しゅ}
{茶猩猩|チチンパ} {進化|しんんか}した{動物|どうぶつ}たち