EF ^^/ 然修緑 第2集 第10回
一、想夏 (9)
門人学年 エセラ (美童 齢十三)
「息恒循」齢 立命期・少循令・鐡将
歴史を読まないから未来が亡びる
調査によると、亜種に係わらず、父兄や教師や子等にも係わらず、日本人は、本を読まなくなった。
特に、肝心な子等が、{甚|はなは}だしく読まなくなった。
その傾向は、学年が上がるほど、徐々に読まなくなってゆく。
学校に通うだけで精一杯で、疲れ果て、教養のための読書や人間力を養うための読書をしようという気力が、残っていないのだ。
だから、親や先生が薦めてくれた本にも、興味が起こらない。
本に対してがそんなだから、なんに対しても、無関心になってゆく。
一ヶ月の読書時間が数時間という、怖ろしい調査結果もある。
こんなに大きな問題にも係わらず、{日|ひ}の{本|もと}の行く末のあまりの怖ろしさに、マスコミもメディアも、この問題に触れようとはしない。
ヨーロッパの人たちの現状と比較してみても、その恐ろしさは明白だ。
ヨーロッパ諸国の大人たちは、何かと暇を作っては、ギリシャやローマの古典、フランスやイギリスの著名なモラリストの本を、読み{漁|あさ}っている。
言わずもがな、対して我が国の大人たちは、歴史や人間の生き方に関する本どころか、読むことすらしない。
マンガやアニメから、知らず知らず歴史やモラリズムを学んでいる大人たちは、まだマシ、辛うじてまだ救える崖っぷちの人間たちと、言えるのかもしれない。
{聖驕頽砕|せいきょうたいさい}でアメリカの保護国となり、日の本の国が亡んだまさにその前後、英国が反面教師として、素晴らしい教材を、日本人に授けてくれていた。
英国のG・オーエル、彼{曰|いわ}く。
「最近十数年に於けるイギリス生活の支配的な事実の一つは、支配階級の能力の低下ということである。
特に一九二〇年から四〇年にかけては、それが化学反応のような速さで起こりつつあった。
何故か支配階級は墜落した。
能力を、勇敢さを、遂には強情さまで失って、外見だけで根性の無い人物が立派な才幹を持った人物として立てるようになった。
――けれども一九三〇年代から起こった帝国主義の一般的{衰頽|すいたい}、又ある程度までイギリス人の志気そのものも衰頽したことは、帝国の沈滞が生んだ副産物の左翼インテリ層の{所為|せい}であった。
現在忘れてならないのは、何らかの意味で左翼でないインテリはいないということである。
彼等の精神構造は各種の週刊月刊の雑誌を見ればよくわかる。
それらのすぐ目につく特徴は一貫して否定的な、文句ばかり並べて、建設的な示唆が全く無いことである。
料理はパリから、思想はモスクワからの輸入である。
彼等は考え方を異にする一種の島をなしている。
インテリが自分の国を恥じているという国は大国の中ではイギリスだけかもしれない。
国旗を冷笑し、勇敢を野蛮視する、こんな滑稽な習慣が永続できないことは言うまでもない」
彼は、このようなことを各方面で公平{辛辣|しんらつ}に観察しながら、{斯|こ}うも論じている。
「最後はイギリスがそれとわからぬくらいに変わっても、やはりイギリスはイギリスとして残るであろう」
「イギリス」という言葉を、「日の本」に変えても、当て{嵌|はま}まらなくなる部分は、一句も一字もない。
我が国は、せっかくの反面教師から一切名何も学ぶことをせず、全く同じ道を辿ったのだ。
せめて、わが国を反面教師として、墜落や滅亡を免れる国があり、国民が居ることを、切に願う。
我ら日本人は、これから互いに殺し合い、真の滅亡を阻止するのみ。
2024.3.17 配信
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発行 Ethno Fantasy 東亜学纂