MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

寺学舎の子どもたちの冒険日記と学習帳

uki ^^/ 後裔記 第2集 第56回

uki ^^/ 後裔記 第2集 第56回

 4章(6)

 「この8年で、ずいぶん物騒になっていると思っていたが、住み{辛|づら}くなっただけみたいだな」と、ほそっとモノさん2号が言った。
 「あたしは、その逆だと思うけどね」と、ヴィルーシ。
 「8年前に、ここに住んでたのォ?
 二人とも……」と、エセラ。
 「ここじゃないけど……まァ、似たようなもんだな」と、モノさん2号。
 「どうでもいいけど、やっぱモノさん2号って、柄じゃないよねッ!」と、ヴィルーシ。
 「おまえが言い出したんじゃねえかァ、モノさん2号だってぇ。
 ……てか、おまえこそッ!
 なんだよ、ヴィルーシって。
 まさか、海外に居るときに、ヴィルーシって名のってたんじゃないだろうなァ。
 それこそ、柄じゃないだろがァ!
 まァ精々、スッタコラセーのスタ子だなッ♪」と、モノさん2号。
 「わかったよ、面倒っちい!
 あたしの名前は、ヨッコ。
 こいつは、ワタテツだ。
 自己紹介は、長くなるからしない。
 それより、本当に花子ばァばの娘さんちに行くのかい?
 花子一族は、マモリベだろォ?
 それが、ビドーサの街に住んでる。
 サブライなら潜入班ってこともあるけど、マモリベなら、たまたまだろう。
 旦那さんがビドーサさんなんだかマモリベなんだか、知らないけどさ。
 そんな危うい家族んとこにサブライのあたいらが大挙して行ったら、目立つじゃん。
 あたしらは逃げ足が速いから屁でもないけど、子連れのマモリベ家族なんだろォ?
 死ぬねッ!
 悪いことは言わない。
 やめときなッ!」と、ヨッコ。
 まいど得意の口調だ。
 「それはそうと、エセラくんって、なんかスピアに似てるよな」と、ワタテツ。
 「カズキチくんは、サギッチだねぇ♪」と、ヨッコ。
 「言えたなーァ♪」とワタテツが言うと、二人とも目を交わしてにやりと笑った。
 「わけわかんねーぇ!!」と、カズキチ。
 するとこんどは、二人ともゲラゲラと大声をあげて笑い出してしまった。
 「さて……っと。
 あたしらサブライは、どうしますかねぇ」と、ヨッコ。
 「海外に脱出するんだろがァ!
 そのために準備してきたんじゃないか」と、ワタテツ。
 「そうだけどさァ。
 素直じゃないサブライのガキんちょたちも{居|い}るわけさ。
 この子たちがどうなんだか、知らないけどねぇ♪」と、ヨッコ。
 すると、ワタテツが後部座席に振り返って、真顔で言った。
 「なァ、おまえら。
 いや……、君たち。
 おまえらは、どうするぅ?
 海外に逃げたいんなら、俺たちについてこい。
 どうする?」
 「急に言われたって、わかんないよォ」と、エセラ。
 「てか、オッチャンたちって、誰なのォ?」と、カズキチ。
 「{取舵|とーりかーじ}♪
 オオカミ船長なら、そう言う場面だな」と、ワタテツ。
 「川の方に向かえって走れってかい!
 どの橋が一番近いか、ナビよろぴこ。
 さて……っと。
 あッ、スッタコラセーのドッコイショっとくらーァ♪」と、楽しそうな顔でヨッコ。
 「ばば臭さは変わってねぇなッ!」と、ワタテツが小声で独り{言|ご}ちる。
 アマテラスが穏やかな{陽|ひ}の光を届けるなか、軽自動車の商用バンは、川筋に向かってひた走るのだった。
 
2026.6.13 まぐまぐ 配信
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発行 uki ^^/ UKI LIBRARY 卯喜書房

uki ^^/ 後裔記 第2集 第55回

uki ^^/ 後裔記 第2集 第55回

   四、 執冬2 (05)

 史料室を出ると、外はまるで秋に逆戻りしたかのような、よく晴れて暖かい昼下がりだった。
 駐車場に{駐|と}めてあったヴィルーシの味気ない軽の商用バンは、様々な色と形と大きさの自家用車に囲まれていた。
 再び、ビドーサの街へと飛び出す。
 ヴィルーシは、どこへ行くともなく、ただ黙々と車を走らせている。
 助手席には、なぜかなぜかモノさん2号!
 エセラとカズキチは、後部座席に納まっていた。
 「こんどは、どこに行くのォ?」と、エセラ。
 「おまえは、バカかッ!
 {叔母|おば}さんちにどうしても行かなきゃいけないんだって、おまえが言ったんだろッ!」
 「ぼく、道案内できないよ」と、エセラ。
 「それも、もう聞いた」と、ヴィルーシ。
 「後裔記と然修緑、{伊達|だて}に書かされてないってことだな」と、モノさん2号。
 「伊達に書いて命取りになることもあるけどねーぇ♪」と、流し目でギロッとモノさん2号を{睨|にら}みながら、ヴィルーシが言った。
 このおにいさん、むかし何かをやらかして、ヴィルーシのおねえさんに頭が上がらないらしい。
 ヴィルーシが、後部座席のエセラのほうに素早く振り返ると、またすぐに前方に向き直って言った。
 「どこから話したもんかねぇ。
 面倒臭いねぇ」
 「たしかに、お前には向いてないなッ!」と、モノさん2号。
 「なんの話ぃ?」と、恐る恐るエセラが言う。
 モノさん2号が振り返って、エセラのほうを見ながら言った。
 「俺から説明しよう。
 おまえら、自分も親も、サブライの子々孫々だと思ってるよなァ?
 サギッチくんは、たしかにそうだな。
 でも、エセラくんは違うんだ。
 サブライの子らは、親とは一緒に暮らさない」
 「ぼくの母さんのことォ?」と、エセラ。
 「ばあちゃんもねぇ♪」と、ヴィルーシ。
 「ということはだ。
 これから行くおまえのおばちゃんのはな美さんも、おまえのばあちゃんの娘だから、サブライじゃないってことだな」と、モノさん2号。
 「じゃあ、ぼく……」と、小声でエセラが独り{言|ご}ちる。
 「珍しいことじゃない。
 おまえは、サブライの子として育てられ、息恒循を学んで育った。
 だからおまえは、生涯サブライだ。
 お前が覚えとかなきゃいけないことは、これから会いに行くおまえの叔母ちゃんとその旦那さんと、そしてその一人息子のお前の{従弟|いとこ}は、三人ともマモリベだってことさ」と、ヴィルーシ。
 「ことさってことはだ。
 君が、叔母ちゃんたち三人を護らなきゃいけないってことだな」と、モノさん2号。
 「護るものがあるって、幸せなことだよ。
 生き{甲斐|がい}になるからねッ♪」と、ヴィルーシがニコニコ笑顔を見せながら言った。
 すると、モノさん2号がそれを受け取って言った。
 「マモリベのやつらって、みんな寂しがり屋だからな。
 {逢|あ}ったら、別れるときがひと苦労だ。
 親や兄弟姉妹、仲良くなった友だちや好きになった女の子、親戚の優しいおねえさんや、一緒に遊んでくれる歳の近い{従弟|いとこ}たち……逢ってるときは楽しいけど、いざ別れるとなると寂しくてどっと悲しみが込み上げてくる。
 本当は、それが普通なんだろうけどな。
 別れを悲しむって感情が退化してしまうって、なんか{虚|むな}しいよな。
 喜びも怒りも、哀しみや楽しみも、教えられて訓練しないとできるようにならない。
 人間は、人間の方法を教えられないと人間でいられなくなっちまったんだなァ。
 {今更|いまさら}だけどな」
 サギッチが、何か言いたそうな顔でモノさん2号を見つめている。
 そして、サギッチが口を開いた。
 「教えられなくったって、寂しさも悲しみも、ちゃんと感じてるよ。
 マモリベもサブライもビドーサも関係ない。
 子どもはみんな、ちゃんと感じてるんだ。
 おとなたちが気づけなくなっただけさ。
 おとなたちが痛みを感じられなくなったから、他人の痛みも{判|わか}らなくなったのさ。
 おとなになっちゃったら、もう教えられても訓練してもできるようにはならないんでしょ?」
 ここは、ヴィルーシが応えて言った。
 「喜び{方|かた}も、楽しみ方も、難しくなりすぎちゃったんだよ」
 それから{暫|しばら}く、男ども三人は、車窓が映し出すビドーサの文明の街並みを、ただ無言で眺めていた。
 
2026.3.9 まぐまぐ 配信
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発行 uki ^^/ UKI LIBRARY 卯喜書房

生物の分類

 動物界
  脊索動物門
   {茶猩猩|チチンパ}綱
   哺乳綱
    霊長目
     ヒト科
      {青霊猩|レイヤーグ}属
      ヒト属
       ヒト種 {格武童|サブライ}亜種
           {守護童|マモリベ}亜種
           {青草童|ビドーサ}亜種

新種の生物

 チチンパ {進化|しんか}した{動物|どうぶつ}たち
 レイヤーグ {唯識|ゆいしき}を操る{魂|たましい}たち
 サブライ {自然|しぜん}を{敬|うやま}う{人|ひと}たち
 マモリベ {伝統|でんとう}を敬う{人間|にんげん}たち
 ビドーサ {電脳化|でんのうか}する{文明人|ぶんめいじん}たち

{格武童|サブライ}亜種の面々
 
 シャチオ組の八人 バリー半島 台地と裏町 仕来りの旅の仲間たち
  シャチオ 19歳 運命期 青循令 石将 台地の古着屋の店主
  ほのみ  15歳 運命期 青循令 猛牛 エセラの姉(長女)
  ケン   16歳 運命期 青循令 猫刄 台地の雑貨店の店員
  えみみ  10歳 立命期 少循令 嗔猪 ほのみの妹(次女)
  シンタ  14歳 運命期 青循令 飛龍 台地スリ稼業の少年
  エセラ  13歳 立命期 少循令 鐵将 ほのみの弟(長男)
  カズキチ 11歳 立命期 少循令 悪狼 エセラの親友
  らら    8歳 立命期 少循令 猛牛 シンタの妹

 ムロー組の八人 バリー半島 浦町 寺学舎の学友たち
  ムロー  26歳 運命期 若循令 石将
  ヨッコ  24歳 運命期 若循令 嗔猪 ヴィルーシ
  ワタテツ 25歳 運命期 若循令 悪狼 モノさん2号
  マザメ  21歳 運命期 若循令 飛龍 AORオトコ
  オオカミ 22歳 運命期 若循令 猛牛
  スピア  20歳 運命期 青循令 鐵将
  サギッチ 18歳 運命期 青循令 悪狼
  ツボネエ 16歳 運命期 青循令 猫刄

 タケゾウ組の五人のうち生存する三人 コオ島の先達衆
  テッシャン 44歳 格循令 猛牛 細長い顔の中年の男
  ジュシ   36歳 反循令 飛龍 日焼けした青年
  ファイ   32歳 若循令 嗔猪 渡哲サングラスの若い女

{守護童|マモリベ}亜種の面々

 花子ばァば エセラの祖母 ゆか里とはな美の母
 ゆか里 エセラの母 花子ばァばの長女
 はな美 エセラの叔母 花子ばァばの次女
 山田{青竜|しょうたつ} はな美の{良人|おっと} ビドーサの街に住まう
 {陽洋|ようよう} 青竜とはな美の一人息子

{青草童|ビドーサ}亜種の面々

 若葉さん 海外の機械メーカーに勤める初老の心優しい女性

{青霊猩|レイヤーグ}属の面々

 タケゾウ組の五人のうち天命を終えてレイヤーグ化した二人
  タケゾウ 生誕55年超え 生前、レジ袋を持った初老の男
  モクヒャ 生誕52年超え 生前、クーラーボックスを持つ男
 ウーメ 生誕不詳 腕と頭を取り外して踊るのが好きな美少女

{茶猩猩|チチンパ}綱の面々

uki ^^/ 然修緑 第2集 第48回

uki ^^/ 然修緑 第2集 第48回

   四、 執冬2 (04)

ハツ 立命期 少循令 カズキチ
アテ 運命期の先達衆
主題 亜種動乱と国家間の戦争
動機 亜種動乱の前に、国家間の戦争でわが国は{亡|ほろ}びるのでは?

 電脳化したビドーサどもの指導者たちは、文明がこの地球を支配していると言わんばかりに、地球をゴミ{溜|だ}めくらいにしか思っていない。
 先達衆は言う。
 このままビドーサどもを野放しにしておいたら、地底の奥深くからシャブシャブのマグマが噴出して、地球は消滅する……と。
 でもその前に、国と国の戦争で、人類ヒト種は絶滅してしまうのではないか。
 国と国の戦いになったら、われら{日|ひ}の{本|もと}の国は、どうするんだろう。
 ビドーサどもが、文明の武器で戦う?
 おれらは、国と国の戦いについて、何も学んでいない。
 学ぶべきことが多いので、学びたいなんて口が裂けても言わないけど、ちょっと話を聞くくらいなら、オーケイなんだけどーォ♪

ハツ 運命期 格循令 テッシャン
アテ 立命期 少循令 カズキチ

 ずいぶんな言いぐさだが、わたしの出番のようだ。
 極論だが、国と国が戦って人類が{亡|ほろ}びてくれれば、地球は助かる。
 すべての生きものが死に絶えてしまうかもしれんが、そのうちにコケ植物や様々な微生物たちが次々と生まれ、それが何万年も何億年もかけて、新たなる自然の一部の動物たちが繁栄することとなろう。
 まァ、{飽|あ}くまで極論だけど……。

 さて、国と国の戦いを学ぶには、その国と国について学ぶところから始めなくてはならない。
 一九〇〇年ごろ、世界の国の数は、七十八ヶ国だったと言われている。
 今は、一九〇を超えているだろう。
 たかだか百数十年で、約2・5倍になった計算だ。
 戦争をたくさんやって、国境も変わりまくったことだろう。
 わが国のような島国ではなく、大陸の話だけどな。
 その大陸で一番大きいのが、ユーラシア大陸だ。
 世界の陸地の四割を占めている。
 ユーラシアという呼び名は、元はヨーロッパアジア大陸と呼ばれていた。
 確かに、ヨーロッパの英語読みの頭文字は、ユーだもんな。
 ユーアジアが、ユーラシアに変化したってわけだ。
 そのユーラシア大陸で一番大きな国がロシアで、次が中国だ。
 しかも、両国とも、わが国にとっては脅威の隣国強大国だ。
 なかでもロシアは、世界で一番大きな国だ。
 わが日の本の国の四十倍以上もあるが、その七割くらいが寒くて人が住めない。
 日本海側のウラジオストクから首都のモスクワまで、シベリア鉄道で一週間ほどかかるが、車窓から見える景色は、人っ子ひとり{居|い}ないシベリアの原野だ。
 中国も{然|}しかり。
 地球儀で黄色くなっているところが多いが、そこは砂漠で、ほとんど人が住めない。
 それなのに、人が住めるところだけで十四億人も居る。
 わが国の十倍以上だ。

 この百年で国境が目まぐるしく変わったということを書いたが、国境という割には、線が引いてあるわけじゃない。
 ロシアと中国の国境には、何もないのだ。
 ところどころに国を出入りするポイントが決められていて、旅行者たちはそこを通ることになっている。
 ロシアがまだソビエト連邦と呼ばれていたころ、中国との国境は、七三〇〇キロメートル。
 飛行機で九時間もかかるような、{途轍|とてつ}もなく長い距離だ。
 政治的な話になるが、国境が接しているような近い国同士は、仲が悪い。
 縄張りを巡って衝突が絶えないから、巨額の国防費を使って、多くの兵士たちを国境付近に置いておかなければならない。
 それでも護りきれなければ、巨大な壁でも造るしかない。
 でもそれは、巨額の費用がかかるので、現実的ではない。
 その昔、中国は万里の長城という何千キロメートルにも及ぶ長い防壁を築造したが、巨額の築造費と{莫大|ばくだい}な労働力を浪費することになり、結果、国が亡びる要因になってしまった。
 中国とロシアが戦争になりそうになった時期はあったが、なんとか話し合いで、双方が納得する国境線を決めた。
 それで、陸上の国境を護るための国防費を飛躍的に削減できたというわけだ。
 その削減されたぶん、海上の国境を拡大するための国防費が増強されてしまったようだけどな。

 話が延々と続きそうだから、このへんにしておく。
 国と国の戦争というのは、人と人の縄張り争いのことだ。
 利害関係が強調されれば争いになるが、お互いが危険を予測して、いろんな方面で様々な話し合いをする。
 だから、弱い国が一つや二つ亡びることはあるが、強大国が亡びるようなことは滅多にあるもんじゃない。
 それより何より恐ろしいのは、話し合いが出来ない人間もどきの電脳民族たちだ。
 地球があってこその縄張りだ。
 それくらいのことは、国を{違|たが}えようともサブライやマモリベの民たちは、重々心得ている。
 そういうことだ。

2026.2.11  まぐまぐ 配信
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発行 uki ^^/ UKI LIBRARY 卯喜書房

生物の分類

 動物界
  脊索動物門
   {茶猩猩|チチンパ}綱
   哺乳綱
    霊長目
     ヒト科
      {青霊猩|レイヤーグ}属
      ヒト属
       ヒト種 {格武童|サブライ}亜種
           {守護童|マモリベ}亜種
           {青草童|ビドーサ}亜種

新種の生物

 チチンパ {進化|しんか}した{動物|どうぶつ}たち
 レイヤーグ {唯識|ゆいしき}を操る{魂|たましい}たち
 サブライ {自然|しぜん}を{敬|うやま}う{人|ひと}たち
 マモリベ {伝統|でんとう}を敬う{人間|にんげん}たち
 ビドーサ {電脳化|でんのうか}する{文明人|ぶんめいじん}たち

{息恒循|そっこうじゅん}の{年齢|ねんれい}と{暦|こよみ}

 {天命|てんめい}
  生涯道徳、その一生
  零歳から四十八歳までの人生、四十九年間

 {立命期|りつめいき}
  天命の前期、十四年間

 {運命期|うんめいき}
  天命の後期、三十五年間

 {恒令|こうれい}
  天命を七で割った各七年間
   {幼循|ようじゅん}  零歳から六歳までの七年間
   {少循|しょうじゅん} 七歳から十三歳までの七年間
   {青循|せいじゅん}  十四歳から二十歳までの七年間
   {若循|じゃくじゅん} 二十一歳から二十七歳までの七年間
   {反循|はんじゅん}  二十八歳から三十四歳までの七年間
   {格循|かくじゅん}  三十五歳から四十一歳までの七年間
   {徳循|とくじゅん}  四十二歳から四十八歳までの七年間

 {循令|じゅんれい}
  恒令を七で割った各一年間
   {飛龍|ひりゅう}  一年目
   {猛牛|もうぎゅう} 二年目
   {猫刄|みょうじん} 三年目 
   {嗔猪|しんちょ}  四年目
   {悪狼|あくろう}  五年目 
   {石将|せきしょう} 六年目
   {鐵将|てっしょう} 七年目

 {時令|じれい}
  循令を七で割った各数ヶ月間
   {想夏|そうか}   七、八月
   {起秋|きしゅう}  九、十月
   {執冬|しっとう}  十一、十二月
   {烈冬|れっとう}  一、二月
   {結冬|けっとう}  三月
   {敲春|こうしゅん} 四、五月
   {還夏|かんか}   六月

 {反令|はんれい}
  時令を七で割った各一日間
   {七養|しちよう} 一日目 日曜日
   {自修|じしゅう} 二日目 月曜日
   {内努|うちゆめ} 三日目 火曜日
   {五省|ごせい}  四日目 水曜日
   {自反|じはん}  五日目 木曜日
   {六然|りくぜん} 六日目 金曜日
   {人覚|にんがく} 七日目 土曜日

 {格令|かくれい}
  反令を七で割った各数時間
   {腹想|ふくそう} 潜在一 午後九時から午前三時まで
   {頭映|ずえい}  潜在二 午前三時から四時まで
   {体敲|ていこう} 顕在一 午前四時から五時まで
   {然動|ぜんどう} 顕在二 午前五時から七時まで
   {烈徒|れっと}  顕在三 午前七時から午後六時まで
   {考推|こうすい} 顕在四 午後六時から八時まで
   {気養|きよう}  顕在五 午後八時から九時まで

 {唯息|ゆいそく}
  {一刻|いっとき}の{間|ま}の各呼吸
   {想|そう}  一呼吸目
   {観|かん}  二呼吸目 
   {測|そく}  三呼吸目
   {尽|じん}  四呼吸目
   {反|はん}  五呼吸目
   {疑|ぎ}   六呼吸目
   {宿|しゅく} 七呼吸目

 {吐無|ぬむ}
  {一吐息|ひとといき}

 {造化|ぞうか}
  無、{即|すなわ}ち天地創造

息恒循の学年

 {候補|こうほ}{学童|がくどう}
  立命期・幼循
  自らの行動によって学ぶ

 {少年|しょうねん}/{少女|しょうじょ}{学年|がくねん}
  立命期・少循
  初等の位置づけとして行動を学ぶ

 {学徒|がくと}学年
  立命期・少循
  中等の位置づけとして行動を学ぶ

 {門人|もんじん}学年
  立命期・少循
  高等の位置づけとして行動を学ぶ

 {学人|がくにん}学年
  立命期・少循
  立命期の学びの仕上げとして自反を学ぶ

 {知命|ちめい}
  運命期・青循
  自修によって天命を知る

 {天命|てんめい}
  運命期・若循/反循/格循/徳循
  格物によって天命を全うする

息恒循の{子|こ}どもとおとな

 {美童|みわら} 知命前の子ども
  元は立命期の子どもたちの呼称
 {武童|たけら} 知命後のおとな
  元は運命期のおとなたちの呼称

{格武童|サブライ}亜種の面々
 
 シャチオ組の八人 バリー半島 台地と裏町 仕来りの旅の仲間たち
  シャチオ 19歳 運命期 青循令 石将 台地の古着屋の店主
  ほのみ  15歳 運命期 青循令 猛牛 エセラの姉(長女)
  ケン   16歳 運命期 青循令 猫刄 台地の雑貨店の店員
  えみみ  10歳 立命期 少循令 嗔猪 ほのみの妹(次女)
  シンタ  14歳 運命期 青循令 飛龍 台地スリ稼業の少年
  エセラ  13歳 立命期 少循令 鐵将 ほのみの弟(長男)
  カズキチ 11歳 立命期 少循令 悪狼 エセラの親友
  らら    8歳 立命期 少循令 猛牛 シンタの妹

 ムロー組の八人 バリー半島 浦町 寺学舎の学友たち
  ムロー  26歳 運命期 若循令 石将
  ヨッコ  24歳 運命期 若循令 嗔猪
  ワタテツ 25歳 運命期 若循令 悪狼
  マザメ  21歳 運命期 若循令 飛龍
  オオカミ 22歳 運命期 若循令 猛牛
  スピア  20歳 運命期 青循令 鐵将
  サギッチ 18歳 運命期 青循令 悪狼
  ツボネエ 16歳 運命期 青循令 猫刄

 タケゾウ組の五人のうち生存する三人 コオ島の先達衆
  テッシャン 44歳 運命期 格循令 猛牛 細長い顔の中年の男
  ジュシ   36歳 運命期 反循令 飛龍 日焼けした青年
  ファイ   32歳 運命期 若循令 嗔猪 渡哲サングラスの若い女

{青霊猩|レイヤーグ}属の面々

 タケゾウ組の五人のうち、運命期を終えてレイヤーグ化した二人
  タケゾウ 運命期超え 生誕55年 生前、レジ袋を持った初老の男
  モクヒャ 運命期超え 生誕52年 生前、クーラーボックスを持つ男
 ウーメ 運命期超え 生誕不詳 腕と頭を取り外して踊るのが好きな美少女

uki ^^/ 後裔記 第2集 第54回

uki ^^/ 後裔記 第2集 第54回

   四、 執冬2 (04)

 エセラとカズキチは、何も言い出せずにただ座って、ヴィルーシが眺めている対象と同じ……{対面|といめん}の少女たちを、ぼんやりと見遣りながら無意識に{莫妄想|まくもうそう}に努めていた。
 すると、やっとヴィルーシが口を開いた。

 「この子たちは、自分がどの亜種かなんて、知りゃあしない。
 あたいらも、{訊|き}きもしないけどさ。
 この子たちなりに、みんな、素晴らしいものを見出すための才能を磨いてるんだ。
 磨かないと、劣化して{朽|く}ちて{廃|すた}れっちまうからね。
 それが、子どもたちみんなが生まれ持っているという、美質ってやつさ。
 息恒循、思い出してみなッ!
 一つ、修養によって、{貴|とうと}い者になる。
 二つ、研究によって、人間の美質を発見する。
 三つ、能力を発揮して、{有為|うい}有能な人材となる。
 四つ、大理想をもち、開拓する。
 五つ、自ら苦しみ、本物になる。
 ……これが、この子たちが歩む道さ。
 それが、あらいらおとなに課せられた『教育を受けさせる義務』ってやつさ。
 この子たちの先輩たちは、{人間の方法|エスノメソッド}を{違|たが}えちまった。
 その違えた一つのビドーサのやつらは、電脳人間っていう新たな変種を作っちまった。
 金持ち連中は海外の別荘のプールで泳いでりゃいいけど、中流階級は平野で逃げ惑い、貧乏人たちは散り散りになって台地や浦町、そして海へ山へと追われてゆく。
 捕まれば、電脳人間っていう感情を持たない変種にされっちまうんだ」

 ヴィルーシは、余計なことを喋りすぎたなという顔になって、そこで言葉を切った。
 すると、背後から若い男の人の声が聞こえた。

 「寺学舎{上|あが}りは、理屈っぽくていけねぇ。
 子どもは、人間も動物たちも、みんな一つだ。
 一つになっておとなになれば、自然界の生きものはみんな一つだ。
 リュックザックの中、まだ入りそうだね。
 まァいい。
 このオバハン、仕来りの旅で苦労して性格がひん曲がってるから、話半分で聞いときなさい。
 ここは安全だ。
 今はね。
 でも、先に進んだ方がいい。
 これが、仕来りの旅になるだろうからね。
 でも、二人じゃなァ。
 こんなオバハンでも、仲間が多ければおとなになって心強いもんだ。
 おれたちは、八人組だったけどね。
 ちょっと多いかな。
 でも、二人は少ないよ。
 じゃあ、有意義な旅をして、有為有能な人材となてくれ。
 では」

 「誰?」と、エセラが恐る恐る言った。
 オバハンが応えて言った。
 「堅物で融通が利かない出来{損|そこ}ないのモノさん2号さ」
 「モノさん?」と、カズキチ。
 「2号?」と、エセラ。
 そしてまた、ヴィルーシのオバハンが言った。
 「生きるか死ぬか、いつだってどこに居たって、人生はその二択だ。
 行くわよォ!」

 そういうと、ヴィルーシはむくっと立ち上がり、その拍子に椅子が後ろに倒れ、バタンっと音を立てた。
 モノさん2号が一瞬振り返ってその様子を見ていたが、何を言っても無駄であることを悟っているかのように、肩を落として書棚の影と一体になるかのように無音で消えてしまった。
 
2026.1.3 まぐまぐ 配信
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発行 uki ^^/ UKI LIBRARY 卯喜書房

生物の分類
 動物界
  脊索動物門
   {茶猩猩|チチンパ}綱
   哺乳網
    霊長目
     ヒト科
      {青霊猩|レイヤーグ}属
      ヒト属
       ヒト種 {格武童|サブライ}亜種
           {守護童|マモリベ}亜種
           {青草童|ビドーサ}亜種

新種の生物
 チチンパ {進化|しんか}した{動物|どうぶつ}たち
 レイヤーグ {唯識|ゆいしき}を操る{魂|たましい}たち
 サブライ {自然|しぜん}を{敬|うやま}う{人|ひと}たち
 マモリベ {伝統|でんとう}を敬う{人間|にんげん}たち
 ビドーサ {電脳化|でんのうか}する{文明人|ぶんめいじん}たち

登場人物
 サブライ亜種
  シャチオ組の八人 バリー半島 台地と浦町 仕来りの旅の仲間たち
   シャチオ 19歳 台地の古着屋の店主
   ほのみ  15歳 エセラの姉(長女)
   ケン   16歳 台地の雑貨店の店員
   えみみ  10歳 ほのみの妹(次女)
   シンタ  14歳 台地スリ稼業の少年
   エセラ  13歳 ほのみの弟(長男)
   カズキチ 11歳 エセラの親友
   らら    8歳 シンタの妹
  ムロー組の八人 バリー半島 浦町 寺学舎で学んだ学友たち
   ムロー  26歳
   ヨッコ  24歳 (ヴィルーシ)福祉ボランティア 潜入班 
   ワタテツ 25歳 (モノさん2号)平野の秘密史料室の{者|モノ}
   マザメ  21歳 (AORオトコ)バスの運行事務 潜入班
   オオカミ 22歳
   スピア  20歳
   サギッチ 18歳
   ツボネエ 16歳

uki ^^/ 然修緑 第2集 第47回

uki ^^/ 然修緑 第2集 第47回

   四、 執冬2 (03)

 ケン 運命期 青循令 猫刄

 おれは、エセラより三つ年上だ。
 でも、どう見てもエセラのほうが年上の格に見える。
 小難しいこともいっぱい知ってる。
 浦町には、寺学舎がある。
 おれたち台地住みの子どもたちは、学舎で学ぶことはない。
 学んだにしても、お粗末な独学だ。
 学問が大事だということは学んだ。
 でも、どう学問すればいいのかは学んでいない。
 エセラたちは、寺学舎で学び、{仕来|しきた}りの旅に出た。
 サブライ亜種の教科書通りの人生を歩んでいる。
 それに比べると、おれたちはどうだ。
 エセラたちを見送り、また台地に戻って食うためだけの稼業だ。
 おれたちはこれから、どうすればいい?
 学ぶ?
 稼ぐ?
 出立?
 {先人先達|せんじんせんだつ}は、とかく時代が違うことを問題にする。
 でも、現実は、育った環境が問題なんじゃないかなァと思う。
 「問題なのだ!」と言い切らないのには、{訳|わけ}がある。
 なんか、言い訳っぽく聞こえるんじゃないかなって思うから。
 正直、{焦|あせ}る。
 なんか、不安……。 

 立命期 少循令 鐵将 エセラより

 寺学舎で学んだと言っても、正直なところ{息恒循|そっこうじゅん}をちょっと学んだくらいで、後裔記は日記だし、然修緑だって読書感想文みたいなもんだから、特に寺学舎で何かを学んだってわけでもない。
 息恒循なら、本と呼べるほどの分厚さもないし、息恒循だけちゃんと理解して、あとは読書で先人先達の声を聞いて、それを実際の体験のなかで試したり比べたりして学ぶしかないんだと思う。
 だから、寺学舎があろうとなかろうと、通おうと通うまいと、大した違いはないと思う。

 運命期 青循令 鐵将 スピアより

 立命期の少循令のころ、ぼくは、記憶力を武器にして旅をした。
 でも、正直を言うと、記憶力が良かったわけじゃない。
 ある先達の語録を読んで、覚えるとか暗記するとか、いわゆる記憶ってやつに対する考え方がガラッと変わってしまった。
 その先達は、特にコンクリートの打ちっ放しに特化した世界的にも著名な建築家だった。
 その偉人は、貧しい家で育ったので、大学には進めなかった。
 そこで彼は、十九歳のときに、ある決心をした。
 「建築学科の学生が四年間かけて学ぶ専門書を、一年で全部読もう!」と。
 毎朝九時から翌日の朝四時まで、机に向かったそうだ。
 彼のおばあちゃんが、こんなことを言ってくれたそうだ。
 「おまえは学校に行っていない。
 ハンディキャップがある。
 でも、ハンディキャップは意外といい。
 頑張るから」……って。
 これ、まさに『息恒循』にある「大努力」だよね。
 次に彼は、何をしたか?
 行動だ。
 昼はアルバイト、夜は通信教育で建築やデッサン、グラフィックデザインなどを手当たり次第に学び、休みの日は奈良や京都に行って、東大寺や法隆寺といった壮大なものから茶室のような小さいものまで、ありとあらゆる伝統的な建築を見て回る生活を送ったそうだ。
 これも、『息恒循』にある「行動の大切さ」と一致する。
 そして、いよいよ二級建築士と一級建築士の資格を取る時も、いずれも一発で合格しようと覚悟を定め、仕事の仲間と昼食に行く時間も惜しんで、パンを二つ食べながら一人黙々と建築の専門書を読んでいたそうだ。
 結果、一級も二級も両方とも一発合格!
 彼は、こう言っている。
 「若い頃に、一度は死に物狂いで物事に打ち込んでみることが必要です。
 目標を定めたら何が何でも達成するんだという意思を持たないと。
 独学であっても強い覚悟と実行さえあれば道は開ける。
 これは私の実感であり、体験を通して掴んだ一つの法則です」
 息恒循やいろんな書物に書かれている先人先達の語録は、そんな大努力を通じて導き出された法則の集まりなんだと思う。
 いまだに何も掴めないぼくが言っても、説得力はないんだけどねッ!
 
2026.1.2  まぐまぐ 配信
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発行 uki ^^/ UKI LIBRARY 卯喜書房

生物の分類
 動物界
  脊索動物門
   {茶猩猩|チチンパ}綱
   哺乳網
    霊長目
     ヒト科
      {青霊猩|レイヤーグ}属
      ヒト属
       ヒト種 {格武童|サブライ}亜種
           {守護童|マモリベ}亜種
           {青草童|ビドーサ}亜種
新種の生物
 チチンパ {進化|しんか}した{動物|どうぶつ}たち
 レイヤーグ {唯識|ゆいしき}を操る{魂|たましい}たち
 サブライ {自然|しぜん}を{敬|うやま}う{人|ひと}たち
 マモリベ {伝統|でんとう}を敬う{人間|にんげん}たち
 ビドーサ {電脳化|でんのうか}する{文明人|ぶんめいじん}たち

{息恒循|そっこうじゅん}の年齢
 {立命期|りつめいき} 天命の前期十四年間
  {幼循令|ようじゅんれい} 〇歳から六歳までの七年間
  {少循令|しょうじゅんれい} 七歳から十三歳までの七年間
 {運命期|うんめいき} 天命の後期三十五年間
  {青循令|せいじゅんれい} 十四歳から二十歳までの七年間
  {若循令|わこじゅんれい} 二十一歳から二十七歳までの七年間
  {反循令|はんじゅんれい} 二十八歳から三十四歳までの七年間
  {格循令|かくじゅんれい} 三十五歳から四十一歳までの七年
  {徳循令|とくじゅんれい} 四十二歳から四十八歳までの七年間
 {循令|じゅんれい} 七つの循令共通の七年間
  一年目 {飛龍|ひりゅう}
  二年目 {猛牛|もうぎゅう}
  三年目 {猫刄|みょうじん}
  四年目 {嗔猪|しんちょ}
  五年目 {悪狼|あくろう}
  六年目 {石将|せきしょう}
  七年目 {鐵将|てっしょう}

サブライ亜種
 シャチオ組の八人 バリー半島 台地と裏町 仕来りの旅仲間
  シャチオ 台地の古着屋の店主 19歳 運命期 青循令 石将
  ほのみ  エセラの姉(長女) 15歳 運命期 青循令 猛牛
  ケン   台地の雑貨店の店員 16歳 運命期 青循令 猫刄
  えみみ  ほのみの妹(次女) 10歳 立命期 少循令 嗔猪
  シンタ  台地スリ稼業の少年 14歳 運命期 青循令 飛龍
  エセラ  ほのみの弟(長男) 13歳 立命期 少循令 鐵将
  カズキチ エセラの親友    11歳 立命期 少循令 悪狼
  らら   シンタの妹      8歳 立命期 少循令 猛牛
 ムロー組の八人 バリー半島 浦町 寺学舎の学友
  ムロー  26歳 運命期 若循令 石将
  ヨッコ  24歳 運命期 若循令 嗔猪
  ワタテツ 25歳 運命期 若循令 悪狼
  マザメ  21歳 運命期 若循令 飛龍
  オオカミ 22歳 運命期 若循令 猛牛
  スピア  20歳 運命期 青循令 鐵将
  サギッチ 18歳 運命期 青循令 悪狼
  ツボネエ 16歳 運命期 青循令 猫刄

uki ^^/ 後裔記 第2集 第53回

uki ^^/ 後裔記 第2集 第53回

   四、 執冬2 (03)

 {他人|ひと}を{欺|あざむ}くための講釈を朗読室で学び、実践で修行を積んできたこの女にとって、{世間知らずでお人好し|ナイーブ}と言わざるを得ない少年二人を{誑|たぶら}かすことは、ただただ{詮無|せんな}いだけのことだった。

 ヴィルーシが言った。
 「朗読室がイヤなら仕方がない。
 だったら、史料室にするかい?
 黙読コーナーなら、文句ないだろッ?
 今、{下手|へた}に動くのもどんなもんか。
 時間稼ぎだ。
 ついてきな。
 もたもたしてたら、ぶっ飛ばすからねッ!」
 ナイーブな少年二人の声は、どこにも響かなかった。
 サヨリ女は、音も立てず振り向きもせず駆けて行った。
 {呆気|あっけ}にとられたエセラとカズキチだったが、そこは裏町育ちのサブライの血筋、抜き足差し足の速度を上げて必至でサヨリ女の後を追った。
 壁に張りつくようにして女が立ち止まった。
 そして、壁と一体に見えた大きな片引き戸を、片手で軽々と引き開ける。
 じろっと{睨|にら}まれる。
 二人は慌てて開かれた隙間から中に{滑|すべ}り込んだ。
 すると、目の前にはだだっ広い空間が広がり、まさに図書館か大きな書店のような書棚が整然と{列|れっ}しているのだった。
 ヴィルーシが言った。
 「朗読室を知ってるんなら、史料室と黙読コーナーのルールも知ってるだろォ?
 先に行って黙読コーナーで座って待ってな。
 ひとつ言っとくけど、『ご自由に』ってのは無条件に所有権を{譲渡|じょうと}するって意味じゃないからね。
 きっちり三倍返しの仕事をさせられるから、覚えときなッ!」
 そう言い終わるや否や、すでにヴィルーシは二人に背中を見せていた。
 見回すと、大きなテーブルが一つ目に入った。
 黙読コーナーでは、ららくらいの年頃の幼い少女が二人、仲良く並んで読書に{勤|いそ}しんでいた。
 二人はすぐに、テーブルの上に視線を移した。
 『ご自由にお取りください』
 定番のポップが、竹編みの{籠|かご}に刺してある。
 中には、見たことのない菓子。
 カズキチが言った。
 「これが、ラスクってやつかなァ」
 「食堂で余ったパンを二度揚げしたやつだね」と、エセラ。
 「食べないで待ってろってことだよなァ?」と、カズキチ。
 「三倍返しの覚悟があるんなら自由に食っていいってことだろォ?」とエセラ。
 二人は、少女たちの{対面|といめん}に腰掛けた。
 「座る場所は、正解だね♪」
 背後からサヨリ女の声。
 (早ァ!)と思うナイーブ少年二人。
 「あたいが誰か、察しはついただろッ?
 だったら、よけいなことを{訊|き}いたらぶっ飛ばすからね。
 ラスク、食べていいよ。
 今回に限り、三倍返し掛ける2セット、あたいが引き受けてやるからさァ」
 (そっちのほうが怖ろしいんだけどォ……)と、同じことを思って視線を合わせる無力な二人。
 恐る恐る、ラスクを一枚づつ手に取った。
 「食べな。
 手に取ったからには、遠慮は無用。
 手遅れとも言う」と、サヨリ女。
 食べても地獄、食べなくても地獄。
 二人は、ラスクを遠慮気味にひと{齧|かじ}りした。
 ヴィルーシが、エセラのほうを見て言った。

 「姉ちゃんは優秀なんだけど、弟は問題だね。
 自称、おまえの妹の長女のことさ。
 あの子、猫っかぶりも演技力も一流だからね。
 潜入班の血だ。
 あんたが妹にしておきたい気持ちは{解|わか}らないじゃないけどさァ。
 可愛いもんね、弟に似ず。
 護ってやりたいって思う気持ちは、悪いとは言わない。
 でもね。
 時代を考えなさいよねぇ!
 今は、動乱期だ。
 高い能力を出し{惜|お}しみしてるような余裕はないんだよ。
 どの{綱|こう}も{属|ぞく}も、あたいら三亜種も、ちっと力を抜いただけで地獄に落ちて{彷徨|さまよ}い腐って亡びて消える。
 だから、一所懸命に思い考え行動する。
 それが、大努力さ。
 あたいらの先祖は、{日|ひ}の{本|もと}各地に史料室と朗読室を造ってきた。
 そのどれもが、独自の目的を持っている。
 ここは、巡回授業所もないし、潜入班育成のための講釈もない。
 ここの目的は、セレンビリティさ。
 潜在する能力の数倍の力を引き起こす奇跡みたいなことを、大努力によって具現化させる。
 あたいら亜種の勝機は、もうそこにしかないってことさ」

 ヴィルーシは、そこまでを言うと言葉を切った。
 そして、暫く沈黙のまま、対面の少女二人を意味ありげにぼんやりと眺めるのだった。

2025.10.12 まぐまぐ 配信
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発行 uki ^^/ UKI LIBRARY 卯喜書房

生物の分類
 
 動物界
  脊索動物門
   {茶猩猩|チチンパ}綱
   哺乳網
    霊長目
     ヒト科
      {青霊猩|レイヤーグ}属
      ヒト属
       ヒト種 {格武童|サブライ}亜種
           {守護童|マモリベ}亜種
           {青草童|ビドーサ}亜種

新種の生物

 チチンパ {進化|しんか}した{動物|どうぶつ}たち
 レイヤーグ {唯識|ゆいしき}を操る{魂|たましい}たち
 サブライ {自然|しぜん}を{敬|うやま}う{人|ひと}たち
 マモリベ {伝統|でんとう}を敬う{人間|にんげん}たち
 ビドーサ {電脳化|でんのうか}する{文明人|ぶんめいじん}たち

{息恒循|そっこうじゅん}の年齢

 {立命期|りつめいき} 天命の前期十四年間
  {幼循令|ようじゅんれい} 〇歳から六歳までの七年間
  {少循令|しょうじゅんれい} 七歳から十三歳までの七年間
 {運命期|うんめいき} 天命の後期三十五年間
  {青循令|せいじゅんれい} 十四歳から二十歳までの七年間
  {若循令|にゃじゅんれい} 二十一歳から二十七歳までの七年間
  {反循令|はんじゅんれい} 二十八歳から三十四歳までの七年間
  {格循令|かくじゅんれい} 三十五歳から四十一歳までの七年
  {徳循令|とくじゅんれい} 四十二歳から四十八歳までの七年間
 {循令|じゅんれい} 七つの循令共通の七年間
  一年目 {飛龍|ひりゅう}
  二年目 {猛牛|もうぎゅう}
  三年目 {猫刄|みょうじん}
  四年目 {嗔猪|しんちょ}
  五年目 {悪狼|あくろう}
  六年目 {石将|せきしょう}
  七年目 {鐵将|てっしょう}

登場生物

 サブライ
  シャチオ班の八人 息恒循を伝承する子どもたち
   シャチオ 18歳 台地の古着屋の店主
   ほのみ 15歳 エセラの姉(長女)
   ケン 16歳 台地の雑貨店の店員
   えみみ 12歳 ほのみの妹(次女)
   シンタ 14歳 台地でスリ稼業の少年
   エセラ 13歳 ほのみの弟(長男)
   カズキチ 12歳 エセラの親友
   らら 8歳 シンタの妹 スリの実行役
  ムロー班の八人 寺学舎で息恒循を学び疎開した仲間たち
   ムロー 26歳
   ヨッコ(ヴィルーシ)24歳 福祉ボランティア 潜入班 
   ワタテツ 25歳
   マザメ(AORオトコ)21歳 バスの運行事務 潜入班
   オオカミ 22歳
   スピア 19歳
   サギッチ 18歳
   ツボネエ 17歳

uki ^^/ 然修緑 第2集 第46回

uki ^^/ 然修緑 第2集 第46回

   四、 執冬2 (02)

 エセラ 立命期 少循令 鐡将

 ぼくは、理屈っぽいとよく言われる。
 理論に頼るのは危険だとも言われる。
 考えてばかりで行動しないから、そんなことを言われるんだと思う。
 思い、考え、行動する。
 そのどれかに{偏|かたよ}ったり信じ過ぎたりすると、行動が{伴|ともな}わなくなる。
 自反が過ぎてもいけないとも言われる。
 反省し過ぎるということは、考えに偏り過ぎて、せっかくの反省を行動に活かせないからだと思う。
 ぼくは、もっと動かなくてはいけない。

 運命期の先輩(若循令)

 いかなる学問も、感性を圧倒してはいけない。
 創造は、感性によって成る。
 創造のない分析は、危険なのだ。

 運命期の先輩(徳循令)

 美しい花が一輪咲いている。
 見知らぬ花だが、実に美しい。
 神秘と驚きが湧き起こる。
 そのときわたしは、花と一体になっている。
 そしてわたしは、その花のことを知りたいと思う。
 ゆえに調べる。
 だが、その花のことを知った途端、わたしはその花と隔たってしまう。
 知るということは、隔たるということなのだ。
 「知は{禍|わざわい}なり。博学にして要を失す」という言葉がある。
 知性も理性も、すぐに分析したがる。
 そして、万物を客体にしてしまう。
 自身さえも、隔たった客人としてしまう。
 自分と一体化できない。
 これが、今の天地に襲い掛かる人間にとって最大の{脅威|きょうい}なのだ。
 「真知は光である」という言葉もあったな。

 運命期の先輩(反循令)

 国木田独歩の『牛肉と馬鈴薯』という小説のなかで、登場人物が自分の願いごとを語る場面があるそうだ。
 それは、「どんな出来事にもハッとできる人間になることだ」そうだ。
 驚きは、悟りであると同時に、哲学の入り口に立つことでもある。
 まずは{驚愕|きょうがく}があり、次に{懐疑|かいぎ}がやってくる。
 そして、その次にやってくるのが自反だ。
 「頭社会の現代人は驚きの前に懐疑がある。ゆえに哲学できない」という言葉がある。
 明治から昭和に生きた文芸評論家の小林秀雄氏は、こんなことを言ったそうだ。
 「人間は感動したときだけだぜ、自分が自分に戻れるのは。これは天与の{叡智|えいち}だ」
 感動できない人間は、いつまで経っても自分に戻れずに浮遊している。
 まさに、浮遊する{生霊|いきりょう}だ。

2025.10.4  まぐまぐ 配信
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発行 uki ^^/ UKI LIBRARY 卯喜書房

生物の分類
 
 動物界
  脊索動物門
   {茶猩猩|チチンパ}綱
   哺乳網
    霊長目
     ヒト科
      {青霊猩|レイヤーグ}属
      ヒト属
       ヒト種 {格武童|サブライ}亜種
           {守護童|マモリベ}亜種
           {青草童|ビドーサ}亜種

新種の生物

 チチンパ {進化|しんか}した{動物|どうぶつ}たち
 レイヤーグ {唯識|ゆいしき}を操る{魂|たましい}たち
 サブライ {自然|しぜん}を{敬|うやま}う{人|ひと}たち
 マモリベ {伝統|でんとう}を敬う{人間|にんげん}たち
 ビドーサ {電脳化|でんのうか}する{文明人|ぶんめいじん}たち

{息恒循|そっこうじゅん}の年齢

 {立命期|りつめいき} 天命の前期十四年間
  {幼循令|ようじゅんれい} 〇歳から六歳までの七年間
  {少循令|しょうじゅんれい} 七歳から十三歳までの七年間
 {運命期|うんめいき} 天命の後期三十五年間
  {青循令|せいじゅんれい} 十四歳から二十歳までの七年間
  {若循令|にゃじゅんれい} 二十一歳から二十七歳までの七年間
  {反循令|はんじゅんれい} 二十八歳から三十四歳までの七年間
  {格循令|かくじゅんれい} 三十五歳から四十一歳までの七年
  {徳循令|とくじゅんれい} 四十二歳から四十八歳までの七年間
 {循令|じゅんれい} 七つの循令共通の七年間
  一年目 {飛龍|ひりゅう}
  二年目 {猛牛|もうぎゅう}
  三年目 {猫刄|みょうじん}
  四年目 {嗔猪|しんちょ}
  五年目 {悪狼|あくろう}
  六年目 {石将|せきしょう}
  七年目 {鐵将|てっしょう}

サブライ
 シャチオ班の八人 息恒循を伝承する子どもたち
  シャチオ 18歳 台地の古着屋の店主
  ほのみ 15歳 エセラの姉(長女)
  ケン 16歳 台地の雑貨店の店員
  えみみ 12歳 ほのみの妹(次女)
  シンタ 14歳 台地でスリ稼業の少年
  エセラ 13歳 ほのみの弟(長男)
  カズキチ 12歳 エセラの親友
  らら 8歳 シンタの妹 スリの実行役

uki ^^/ 後裔記 第2集 第52回

uki ^^/ 後裔記 第2集 第52回

   四、 執冬2 (02)

 「{伏|ふ}せとけ」の本当の意味が{解|わか}るまでに、時間は必要なかった。
 重心がちょっと変わるだけでも、商用バンは横倒しになって命取りとなる。
 そう感じさせるほど、運転は荒かった。
 そのお陰で命拾いをしたのだから、文句は言えない二人だったが……。

 エンジンを切ると、ヴィルーシが言った。
 「食堂でちょっとゆっくりしようかとも思ったけど、そうもいかないみたいね。
 食堂と壁をひとつ隔てて、『素晴らしい図書館』がある。
 素晴らしいからそう言ったわけじゃなくって、素晴らしい図書館にしたいから『素晴らしい図書館』って名前にしたんだってさ」
 「素晴らしいってぇ?」と、エセラ。
 「ヒノーモロー島の朗読室みたいなのは、{勘弁|かんべん}だからな」と、カズキチ。
 「ヴィルーシさんにそんな話しても、わかんないよォ!」とエセラ。
 「おれも、行ったことがあるわけじゃないけどなァ」と、カズキチ。
 「そもそもの話、ヴィルーシさんって、{普段|ふだん}は何やってるのォ?」と、エセラ。
 「そっかァ。
 わたしって、{得体|えたい}の知れないオバサンだものね。
 ボランティアなら、なんでもかんでもって感じかな。
 病院のなかで生活している子どもたちやその{親御|おやご}さんの話し相手になったり、今日みたく養護施設を巡回したり、演劇や読書会を企画することもある。
 今、いちばん興味があるのは読書会。
 読みもしないで、絵本をただペラペラ{捲|めく}ってるだけの子。
 一切捲らずに、開いたページをただじっと見つめてるだけの子。
 {傍迷惑|はためいわく}な大声で音読する子。
 黙々とページを進めたり戻したりしながら、{精読|せいどく}してる子。
 ただ一定のリズムでページを捲ってるだけの子。
 でもね。
 みんな、笑顔なんだよね。
 わたしには、そう見える。
 わたし、子どもたちの笑顔が大好きなんだ。
 だから、本当に子どもたちのためになることはなんなのか、いつも考えてる。
 考えてそれを実際にやってみると、{呆|あき}れるくらいみごとに外れるんだけどね。
 子どもが読む本ってさァ、文学的な価値なんて{要|い}らないんだよ、きっと。
 おとなだって、どんなに大作だの名作だのって言われてる本を読んだところで、あとからひとつも思う出せなかったら、その人にとっては{駄作|ださく}でしかない。
 本当に必要なのは、道徳的価値なんだと思う。
 それさえあれば、マンガだってアニメだって、最高の大作なんだよ、絶対に。
 しかも、あたいらの……じゃない、この国には、漢字という素晴らしい芸術文化がある。
 形を見ただけで、歴史や哲学がフワッと{湧|わ}いて出てきて、それを感じ取ることができる。
 文章を読まなくっても、{先人先達|せんじんせんだつ}の{活|い}きた言葉で頭と心のなかがいっぱいに満たされる。
 だから、子ども向けの絵本だからって{平仮名|ひらがな}ばっかが並んでるような本は選ばない。
 その代わりに、漢字を使ってあったら、子どもたちのために{振|ふ}り{仮名|がな}を振るし、おとなも読みそうな本なら、{読|よ}み仮名も振る。
 集めて選んで読めるようにして、整理して図書館の棚に分類して並べる。
 それを、おとなも子ども、誰だって無料で読める。
 サブライのあんたたちは、家庭を知らない。
 だから、おとながどれほど未熟かも知らない。
 特に教育に関しては、みんな未経験で{素人|しろうと}なんだ。
 だから、おとなこそが{謙虚|けんきょ}になって、学ばなきゃなんない。
 そんなおとなや子どもたちの学びが、{連鎖|れんさ}していく。
 その{鎖|くさり}役が、本なのさ。
 {腐|くさ}りきってどうにも手遅れなおとなも、いっぱい{居|い}るけどね。
 そうやって連鎖して生まれるのが、{絆|きずな}さ。
 それが、人間にとって一番大事なんだって、あたいは信じてる」

 彼女はそこまで言うと、二人に向かって{仄|ほの}かに微笑んだ。
 {浅瀬|あさせ}で息するラメなしサンゴイソギンチャクよろしく、彼女のほんのりとして{艶|つや}やかに{輝|かがや}いている{唇|くちびる}の{煌|きら}めきが、獲物の少年たちの無防備な純真を{無遠慮|むえんりょ}に{掻|か}き乱してゆく。
 少年たちのナイーブな心は、得体の知れないサヨリ女の暗黒の{腹脳|ふくのう}のなかへと、{呆気あっけ|}なく{呑|の}み込まれてゆくのだった。

2025.8.10 まぐまぐ 配信
**^^**--**^^**--**^^**--**^^**--**^^**
発行 uki ^^/ UKI LIBRARY 卯喜書房

 ヒト{種|しゅ}{下位|かい}の{四亜種|よんあしゅ}
  {格武童|サブライ} {自然|しぜん}を{敬|うやま}う{人|ひと}たち
  {守護童|マモリベ} {伝統|でんとう}を敬う{人間|にんげん}たち
  {青草童|ビドーサ} {電脳化|でんのうか}する{文明人|ぶんめいじん}たち
  {茶猩猩|チチンパ} {進化|しんか}した{魂|たましい}たち

uki ^^/ 然修緑 第2集 第45回

uki ^^/ 然修緑 第2集 第45回

   四、 執冬2 (01)

 門人学年 ほのみ 十一歳
 {息恒循|そっこうじゅん}の{齢|よわい} 立命期・少循令・{悪狼|あくろう}

 「おまえたちには、生まれった美質がある」ってよく言われるけど、要は脳ミソのことよねぇ?
 なんで子どもの脳ミソには美質があって、おとなの脳ミソには美質がないのォ?
 {変|へん}くない?

 人間の脳は、12個の脳で構成されていて、それが左右に分かれて配置されている。
 右半球と左半球だね。
 右脳と左脳は、完全に独立している。
 互いに、反対側の肉体の機能や感覚を{司|つかさど}る。
 左利きの人は、右脳が親分肌だったってことかな。
 右半球と左半球の間には、脳梁っていう繊維帯が{跨|またが}っている。
 高速道路の{跨道橋|こどうきょう}みたいなもんだね。
 でも、お互いに、干渉はしないみたい。
 情報をもらって、照合するのみ。
 左脳くんが、右脳くんから左目の情報をもらって、右目から見えている写像を検証する……みたいな感じかな?

 左右それぞれの脳の上のほうには、なんとか{葉|よう}って呼ばれる脳が並んでいる。
 動きや言語を{司|つかさど}る{前頭葉|ぜんとうよう}、知覚を司る{頭頂葉|とうちょうよう}、視覚を司る{後頭葉|こうとうよう}だね。
 そのなんとか葉の外側に被さってるのが、{大脳皮質|だいのうひしつ}。
 その大脳皮質のなかに{連合野|れんごうや}ってのがあって、そいつが脳のあらゆる部分と連携をして、ネットワークを構築している。
 これぞまさに、ブレインネット!って感じかな?
 ここまでで、12個の脳のうち、5個が登場したねぇ♪
 
 脳の話からは脱線するけど、これら大脳半球の下には{脳底神経節|のうていしんけいせつ}っていう神経細胞の{塊|かたまり}があって、脳が考えた行動を整理し、系統立て、そして身体各部に具体的な指示を出している。
 コンピューターに{譬|たと}えると、大脳皮質がプログラムを作成し、脳底神経節がそれらを整理しながら実行させているって感じかなァ?

 調べれば調べるほど、脳ってスギョイ!って思うけど、美質はァ?
 大脳美質なんてないしぃ。
 まァ、いっかーァ。
 人間の脳は、スギョイんだってことで、めでたしめでたしーぃ♪

 さて、呼ばれたわけでもないのにジャジャジャジャーンっと飛び出してきた{新爺|シンジイ}がいる。
 シンジイの一人が、書き込んでいる。

 もう一つ、6個めの脳を学べば、ちょうど脳の半分を学んだことになる。
 美質を知りたいなら、{小脳|しょうのう}がええのう♪
 小脳は、運動や平衡感覚を司り、人や物の釣り合いを考えながら協調性や計画なんかを司っている。
 体操の選手が特に鍛えている脳であり、「和」を重んじる脳でもあるわけだ。
 小脳の大事な仕事の一つとして、{身体|からだ}の動きの優先順位付けがある。
 小脳がどんな仕事をしているのか、簡単な例を考えてみよう。

 バカやって右手を{脱臼|だっきゅう}して動くのがかったるいけど、お腹{空|す}いたなァ。
 何か宅配でも頼むかなァ。
 宅配と言えば……考えるのも{面倒|めんど}っこいなァ。
 やっぱ、ピザだなッ♪

 ……ってな感じで、脳の中で様々連携し合ってピザの宅配を頼むという考えが無事にまとまったとしよう。
 すると、その考えはオデコの間裏あたりにある前頭葉に送られ、ピザの宅配を頼むための行動計画が策定される。
 その行動計画に{順|したが}って、次は小脳に命令が下される。
 すると小脳は、大脳皮質の連合野の助けを借りて、様々な脳と連携しながら、行動計画を運動プログラムへと書き換えてゆく。
 さて、右利きの君が前頭葉からの情報だけでピザを食べようとすると、痛い右手を使ってピザを食べる{嵌|は}めになる。
 でも、心配はご無用。
 小脳は、連合野から伝達されてきた情報により、右手を脱臼していることをすでに察知している。
 なので、行動計画を運動プログラムに書き換えるときに、ピザを持つ手を右手から左手に変更しているのだ。
 しかも小脳は、人体のあらゆる器官のなかで、まず一番に動き出す。
 しかも、常に自分の動きの数秒先を予測しながら、あらゆる情報を先取りして数秒先の行動プログラム作成へと繋げているわけだ。

 小脳の働きは、運動に限らない。
 問題を解決したり、忘れていた人を思い出したり、楽譜を見たり耳コピしながら楽器の奏をしたり、スポーツや楽器の演奏の練習を重ねて創造力を{膨|ふく}らませたり、大脳皮質と連携して思考と行動を統合するといった仕事も、すべて小脳が一手に引き受けている。
 著名な作家先生が、「ちょっと散歩してくるわーァ」と言って、目的の散歩のついでに浮気相手と密会して戻ってくるのも、運動がよいイメージトレーニングとなり、頭脳が明晰になって知性の泉が湧き出てくることを知っているからなのだ。
 ただし、ここは注意のしどころだ。
 {先人先達|せんじんせんだつ}のどの部分を{真似|まね}て、どの部分を反面教師とするかは、小脳を鍛えてよく考える必要がある。
 わたしは、そのことを経験から学んで知ったのだ。

2025.8.3  まぐまぐ 配信
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発行 uki ^^/ UKI LIBRARY 卯喜書房

 ヒト{種|しゅ}{下位|かい}の{四亜種|よんあしゅ}
  {格武童|サブライ} {自然|しぜん}を{敬|うやま}う{人|ひと}たち
  {守護童|マモリベ} {伝統|でんとう}を敬う{人間|にんげん}たち
  {青草童|ビドーサ} {電脳化|でんのうか}する{文明人|ぶんめいじん}たち
  {茶猩猩|チチンパ} {進化|しんか}した{魂|たましい}たち

uki ^^/ 後裔記 第2集 第51回


uki ^^/ 後裔記 第2集 第51回

   四、 執冬 (01)

 出逢いがあれば、別れがある。
 それは、逢ったその日にやってきた。
 {騒|さわ}がしい昼食が終わると、エセラたちは施設を後にした。
 エセラは、先を急いでいた。
 (早く、{従弟|いとこ}のサンシに会わなくては)と、なぜかそう思えて気が{急|せ}くのだった。
 シンタとららは、施設に残った。
 ビドーサの街までの案内が、彼ら{兄妹|きょうだい}の役目だった。
 しかも、彼らはマモリベ。
 旅をする{仕来|しきた}りもなければ、エセラたちの旅に付き合う義理もない。
 彼らが本当にマモリベかどうかは、{些|いささ}か疑わしい。
 親と一緒に暮らしていないし、生まれ育った家があるふうでもなかった。
 実はサブライだと言われても、さほど驚くことではない。
 ヴィルーシにしてもそうだ。
 養護施設を巡回するシスター?
 サブライの潜入班が好みそうな職種だ。
 西洋人のような顔立ちだが、言葉も立ち居振る舞いも、すっかり日本人だった。
 エセラとカズキチは、ヴィルーシが運転する車に同乗した。
 はじめて逢ったおとなを信用しても大丈夫かどうか、考えないでもなかった。
 でも、考えたところで、他に選択肢があるわけでもなかった。
 不思議だったのは、施設の幼い子どもたちだ。
 あれだけやんちゃ坊主で、あんなに{人懐|ひとなつ}っこかったのに、ヴィルーシが別れを告げると、実に{呆気|あっけ}なく手を振って見送ってくれた。
 聞き分けが良すぎるのは、おとなに絶望しているからだろうか。
 おとなに何も期待していないから、ただ心を開いたふりをしていただけなのだろうか。
 穏やかさの中に冷ややかさを感じさせる子どもたちの顔が、エセラの脳裏から離れなかった。
 カズキチが、ヴィルーシに聞こえないように、ボソッと言った。
 「おまえの{叔母|おば}ちゃん{家|ち}知ってたら、潜入班確定だなッ!」
 「気になるんなら、直接{訊|き}いてみればいいじゃん」と、あっさりとエセラ。
 すると、二人のひそひそ話に応えるかのように、ヴィルーシが言った。
 「期待を裏切って悪いんだけどさァ。
 向かってるのは、図書館。
 付き合ってね。
 地下だから、ドローンの空爆の心配はないから。
 今のところはね」
 「図書館?」と、エセラ。
 「そうさ。
 空爆から{護|まも}らなきゃなんないのは、人の命だけじゃないんだ。
 子どもたちの絵本も、その一つ。
 子どものうちに読んで欲しい本を、児童書って言うでしょ?
 早く届けないと、子どもたちがみんな、くっだらないおとなになっちまうからね。
 わたしの仕事は、ボランティア・コーディネーター。
 わたしの国では、そう呼ばれているの。
 で、なんであたしがそのボランティア・コーディネーターをあんたたちの国でやってるのかってかい?
 {生憎|あいにく}だけど、その前にやらなきゃいけないことができたみたい。
 ドローンよッ!
 そこのクッション抱いて、頭伏せときなッ!」
 ヴィルーシはそう言うや{否|いな}や、ハンドルを乱暴に左右に回しはじめた。
 三人が乗っていたのは、軽自動車。
 しかも、カーチェイスには不向きな商用バンだった。 

2025.6.28 まぐまぐ 配信
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発行 uki ^^/ UKI LIBRARY 卯喜書房

 ヒト{種|しゅ}{下位|かい}の{四亜種|よんあしゅ}
  {格武童|サブライ} {自然|しぜん}を{敬|うやま}う{人|ひと}たち
  {守護童|マモリベ} {伝統|でんとう}を敬う{人間|にんげん}たち
  {青草童|ビドーサ} {電脳化|でんのうか}する{文明人|ぶんめいじん}たち
  {茶猩猩|チチンパ} {進化|しんか}した{魂|たましい}たち