uki ^^/ 然修緑 第2集 第44回
uki ^^/ 然修緑 第2集 第44回
三、 執冬 (12)
門人学年 カズキチ 十二歳
{息恒循|そっこうじゅん}の{齢|よわい} 立命期・少循令・石将
{新爺|シンジイ}たちに問う。
{和|わ} って、なにぃ?
新爺の一人が答える。
みんなの一般的な認識は、次のようなものだと思う。
{禾|か}と{口|こう}を組み合わせた漢字。
「禾」は、軍隊の門に立てる標識。
「口」は、{祝詞|のりと}を入れる{蓋|ふた}つきの入れ物。
祝詞というのは、神に唱える祈りの文書のことだ。
意味は、軍隊が門前で争いをやめることを約束することだ。
それで、争いは平たく和する。
平和になるということだな。
そこから、現在の「やわらぐ」とか「なごむ」という意味に変化するわけだ。
ここまでを知っている人なら、おそらく、武道で「和」が頻繁に叫ばれる理由が、なんとなく察しがつくんじゃないだろうか。
わしは剣道を通じて和を学んだが、柔道やほかの武道にも必ず「和」が求められる。
武道すなわち、武の心。
武の心すなわち、武の道。
どのみち、和に{到|いた}る。
これが、武道でよく言われる和の道だ。
では、その第一歩である「武の心」とは、どのようなものだろうか?
武という字は、「{戈|ほこ}を{止|とど}めさせる」と書く。
意味は、振り上げた戈すなわち刀やこぶしを、思いとどませること。
ここで、何か気がつかんかねぇ?
「武」という字も、「和」という字も、その成り立ちも意味も、本当によく似ているということだ。
和というのは、{癒|いや}しの言葉ではない。
むしろ、真逆だ。
信念と信念が激しくぶつかり合い、真剣勝負で相手を斬り殺すところまで差し迫ったとき、相手を思いとどまらせるための本当の意味での勇気ある気概と行動という意味だ。
「和」を{為|な}すためには、ワンランク上の人間にならにゃいけんっちゅうわけじゃ。
信念と信念が激しくぶつかり合い、真剣勝負で相手を斬り殺すところまで差し迫らなければ、和の土俵には登れんのだ。
いまどきの多くの日本人は、「和」を仲良しクラブだとか、波風を立てないことだとか思っているようだけどね。
どうして、そんな間違った認識の日本人が増えてしまったんだろうか?
それは、GHQが悩みに悩み抜いて、そうしようと決めたからだ。
日本を完全に弱体化するためには、天皇陛下を処刑すべきか、和の心を徹底的に叩きのめして根絶すべきか。
結果GHQは、天皇陛下よりも日本人の和の精神の方が恐ろしいと判断し、{日|ひ}の{本|もと}の代表的な国立大学、放送局、新聞社、小中学校の先生たちの組合のエリートたちを洗脳し、プロパガンダの急先鋒に取り込んだ。
そこで準備万端、「日本人弱体化作戦」を決行したというわけだ。
だからな。
何を聞いても注意しても、「やれることはぜんぶやってますからーァ」というような返事しか返さない人間には、一生死ぬまで和とは無縁だってことだ。
和への道は、心を弱体化させられた日本人にとっては、ワンランクもツ―ランクも上で、しかも{茨|いばら}の道なのじゃ。
立てば茨の道、座れば針の{筵|むしろ}。
それでも、われら自然の生きものは、生きなければならんのだ。
2025.6.7 まぐまぐ 配信
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発行 uki ^^/ UKI LIBRARY 卯喜書房
ヒト{種|しゅ}{下位|かい}の{四亜種|よんあしゅ}
{格武童|サブライ} {自然|しぜん}を{敬|うやま}う{人|ひと}たち
{守護童|マモリベ} {伝統|でんとう}を敬う{人間|にんげん}たち
{青草童|ビドーサ} {電脳化|でんのうか}する{文明人|ぶんめいじん}たち
{茶猩猩|チチンパ} {進化|しんか}した{魂|たましい}たち
uki ^^/ 後裔記 第2集 第50回
uki ^^/ 後裔記 第2集 第50回
三、 執冬 (12)
若いおねぇさんが、安全を確認するかのように車窓をぐるりと見廻したかと思うと、すぐにバスの最後部まで駆け寄ってきた。
AORオトコさんに似た雰囲気がある。
{弾|はじ}けそうに若い。
細身のスタイルに弾け飛びそうな胸。
ハイネックの黒いワンピース姿。
その首には、十字架のネックレスがぶら下がっている。
暗い色調の服装に禁欲的な顔。
だのにどこかロマンティックで、ひそやかにエロティック!
男ども三人……エセラ、カズキチ、シンタは、警戒の色を濃くした。
{現|うつつ}の魔女のようなおねぇさんが、ハキハキとした口調で言った。
「避難所に向かってるの。
あの二人も、たまに顔を{覗|のぞ}かせるところよ。
わたしの名前は、ヴィルーシ。
心配しなくても大丈夫だからね。
このバスの運転士は、{渡世|とせい}の運転師って呼ばれてるの。
ウンテンシのシは、{師匠|ししょう}の師ね。
この子たちはみんな、通いの{幼子|おさなご}。
どこかに預けられたけど{歓迎|かんげい}されていない子、自分の家には住んでるけど大事にされていない子、何も訴えられずに植物みたいに生きている子……。
みんな、事情は様々だけどね。
みんなを迎えに行ってると、いつも昼近くになっちゃう。
避難所に着いたらね。
泊まりの子たちと一緒に、朝食をとりながら団欒するの。
{賑|にぎ}やかというより、かなり{騒々|そうぞう}しいから、驚かないでねぇ♪」
エセラは、寺学舎で習った先人語録を思い出した。
{縁尋機妙|えんじんきみょう}、{多逢聖因|たほうしょういん}……。
そして、思った。
(人類、まだまだ捨てたもんじゃないなッ!)
2025.5.16 まぐまぐ 配信
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発行 uki ^^/ UKI LIBRARY 卯喜書房
ヒト{種|しゅ}{下位|かい}の{四亜種|よんあしゅ}
{格武童|サブライ} {自然|しぜん}を{敬|うやま}う{人|ひと}たち
{守護童|マモリベ} {伝統|でんとう}を敬う{人間|にんげん}たち
{青草童|ビドーサ} {電脳化|でんのうか}する{文明人|ぶんめいじん}たち
{茶猩猩|チチンパ} {進化|しんか}した{魂|たましい}たち
uki ^^/ 然修緑 第2集 第43回
uki ^^/ 然修緑 第2集 第43回
三、 執冬 (11)
門人学年 エセラ 十三歳
{息恒循|そっこうじゅん}の{齢|よわい} 立命期・少循令・{鐡将|てっしょう}
日本精神は、GHQによって破壊され、軟弱化され、弱体化されてゆき、ついには無力となった。
ぼくらサブライが、日本精神を呼び{覚|さ}まさなければならない。
どんな怪物が、起き上ってくるんだろう。
戦前の日本精神の{象徴|しょうちょう}、{陽明学|ようめいがく}を読む。
明代の{儒者|じゅしゃ}で陽明学の開祖、{王|おう}{陽明|ようめい}。
陽明先生は、{任侠|にんきょう}、{騎馬|きば}、文学、道教、仏教に精通し、これを「陽明の{五溺|ごでき}」と呼ぶ。
なぜ、そこまでに精通できたのか。
陽明先生は、{覇気|はき}と{情緒|じょうちょ}と{解脱|げだつ}の満足を外に求めた果てに、ようやく本来の自己に返ることができたのだ。
それは、『論語』憲問篇の「{古|いにしえ}の学者は己を{為|おさ}む」という語録の真実を求め、それに徹した結果と言える。
本当の自分をつくることの反映こそが、環境や社会の建設に役立つ。
自分というのもを棚上げにして、いくら社会改造だの理想社会だのとほざいてみたところで、ただ無駄に設計図を{描|か}いてはゴミ箱に{棄|す}てていることに過ぎない。
設計図の中に住むことはできないのだ。
家を建てねば、人は住めない。
そんな簡単なことが{判|わか}らない高学歴者たちが、なんと多いことか。
偉人と呼ばれる改革者、革命家、宗教家、信仰家たちは、{隠遁|いんとん}の経験者が多い。
隠遁とは、世事……世の中の様々な出来事がら{逃|のが}れ,隠れ住むこと。
現実から逃げているわけではない。
{壺中|こちゅう}の天に遊ぶ……つまり、世の中と離れた自己の内面の世界に遊ぶわけだ。
こうして、学問と人生の最もデリケートな部分に触れ、深遠な否定の洞窟を{潜|くぐ}り、そうこうして初めて、環境や社会の建設に役立つ人となる。
やっと、家を建てはじめることができるというわけだ。
特に、環境や社会という家を建てることを{生業|なりわい}としている人たちは、この内面生活を持たなければ、本質的な意味での教育者、為政者、政治家、宗教家とは呼べない。
そうでない人の本質は、まがいもの、{偽物|にせもの}、ペテン師だ。
内面生活というのは、東洋的に言えば「独の生活」となる。
独とは、絶対という意味だ。
孤独の独ではなく、独立の独のほうだ。
独立とは、{独|ひと}り立ちすること。
自分独り、世の中がどうであろうと、他人がいかにあろうと、何ものにも頼らず、自分自身に徹して生きてゆく……それが、独立の意味だ。
独立国スイスの中立の意味が{解|わ}かっている日本人は、ほとんどいない。
中立とは、利己的でもなければ、打算的でもない。
自らの信じるところに従って、絶対的な境地に立つということだ。
それが{侵|おか}されれば、国を{挙|あ}げて{防衛|ぼうえい}する。
{要塞|ようさい}を築き、全国民が軍人となり、一朝有事となれば国民総動員で戦う。
国が亡びるまで、国民の最後の一人になるまで、戦い続ける。
これが、独立国スイスの国民が選んだ道なのだ。
国木田独歩の独歩の意味も、同じく誤解している人が多い。
群れを離れて一人で生きるという意味ではない。
この筆名は、ロマンチックを好み寂しがり屋だった己を自ら変えた証しなのだ。
何者にも頼らず常に自己に徹して絶対に生き続けるという、決意だ。
日本人も、スイス国民や国木田独歩のように、信念と哲学を取り戻さなければならない。
2025.5.6 まぐまぐ 配信
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発行 uki ^^/ UKI LIBRARY 卯喜書房
ヒト{種|しゅ}{下位|かい}の{四亜種|よんあしゅ}
{格武童|サブライ} {自然|しぜん}を{敬|うやま}う{人|ひと}たち
{守護童|マモリベ} {伝統|でんとう}を敬う{人間|にんげん}たち
{青草童|ビドーサ} {電脳化|でんのうか}する{文明人|ぶんめいじん}たち
{茶猩猩|チチンパ} {進化|しんか}した{魂|たましい}たち
uki ^^/ 後裔記 第2集 第49回
uki ^^/ 後裔記 第2集 第49回
三、 執冬 (11)
ヒクにぃが、言った。
「地下だな。
決まりだ。
地面の下にある駅さ。
広い{避難所|ひなんじょ}もある。
フリートラムの乗り場があるんだ。
路面電車さ。
フリーだから、地面の下だって海の上だって、へっちゃらさ。
問題は、そこまでどうやって行くかだな」
すると、タカにぃが{自慢気|じまんげ}に言った。
「まだ{陽|ひ}は高い。
歩いて{参|まい}ろう♪」
「歩くのが危ないから問題なんじゃないのォ?」と、らら。
「ほかに方法がないんだから、考えても無駄だって言いたいんだよ。
たぶん」と、エセラ。
六人は、歩き出した。
カズキチとシンタが、空を見上げた。
見えるものは、青い空と白い雲とこげ茶色のトンビだけだった。
真っ黒い{鴉|カラス}は、どこにも見当たらない。
それだけでも、少しは気が楽だった。
{次第|しだい}に、時間の感覚が消えていった。
遠くのほうに、人が重なり合うように{犇|ひし}めいているのが見える。
誰からともなく、六人は立ち止まった。
そのときだった。
目の前に、小型のバスが{停|と}まった。
昔ながらのボンネットバスだ。
エセラたちの浦町では珍しくないが、ここ都会の街には不釣り合いだ。
しかも、変にまるっこい。
まるで、アンパンだ。
前の折れ戸が開いた。
若い女の人が顔だけ出した。
そして、叫ぶように言った。
「乗んなさい!」
右手を伸ばして、{手招|てまね}きもしている。
直感で、悪い人のようには見えなかった。
吸い込まれるように、折れ戸の前まで歩み寄った。
すると、有無も言わさず、腕を{掴|つか}んで子どもたちをバスの中に引っ張り上げた。
車内の両側と最後部に、ベンチシートが{据|す}えてあった。
シートには、様々な年齢の人が十人ほど座っている。
小さな子どもたちも同じ数ほどいたが、シートには腰掛けず、木の板を張った床にお尻をつけて、不安そうな目をキョロキョロさせている。
後ろのほうのベンチシートが、空いていた。
若い女の人が、ひとまずそこに座れと指示を出す。
折れ戸が、閉まった。
シートに腰掛けると、四人は互いに顔を見合わせた。
ららが、言った。
「タカヒクにぃにぃはァ?」
「高いのと低いの、ごっちゃにすんなよなァ!」と、シンタ。
「あのーォ!」と、エセラが若いおねぇさんに声をかけた。
「あの、なんで乗せてあげなかったんですかァ?」と、エセラ。
「{誘|さそ}っても乗らないよ。
でも、あの二人は大丈夫だから。
タカヒクにぃにぃかァ……。
それ、いいねぇ♪」
若いおねぇさんは、そう言ったっきり、四人に背中を向けてしまった。
床に座って不安そうに見上げていた子どもたちが、にわかにはしゃぎはじめた。
幼い少女が一人、床を{這|は}って四人の前までやって来た。
そして、ニコニコしながら恐る恐る口を開いた。
「あッ、ねぇ。
あの……。
でんぐり返しやってーぇ♪」
カズキチが少女の両手を持ってあげると、白くてぶよぶよのパンツを丸出しにして、カズキチの腹と胸と顔を{蹴飛|けと}ばしながら、一回でんぐり返った。
運転席の隣りまで歩いて振り返った若いおねぇさんが、その光景を見て思わず微笑む。
そして、運転手にひとこと何かを言うと、バスは鈍いエンジン音を{唸|うな}らせながら、どこかに向かって走りはじめた。
2025.4.13 まぐまぐ 配信
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ヒト{種|しゅ}{下位|かい}の{四亜種|よんあしゅ}
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{青草童|ビドーサ} {電脳化|でんのうか}する{文明人|ぶんめいじん}たち
{茶猩猩|チチンパ} {進化|しんか}した{魂|たましい}たち
uki ^^/ 然修緑 第2集 第42回
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三、 執冬 (10)
門人学年 ほのみ 十一歳
{息恒循|そっこうじゅん}の{齢|よわい} 立命期・少循令・{悪狼|あくろう}
エセラにぃとカズキチくん、めっちゃ戦ってるね。
てか、逃げ回ってるだけ?
後裔記を書いてるってことは、まだ手は無事ってことだね。
こっちは、ほのみにそろそろ然修録を書かせようかって思ってる。
それにしても、人間って戦ってばっかり。
まァ、動物だから仕方がないんだろうけど。
あたいらヒノモトの国は、島国だ。
島国は、比較的に{護|まも}り{易|やす}い。
でも、周辺の島や海は、{奪|うば}われ易い。
国を護るのが{難|むずか}しい国ほど、核兵器を持ちたがる。
兵隊をいっぱい持つより、安上がりだからだ。
インドやパキスタンみたいに……。
アメリカや中国は、ヒノモトの国が核兵器を持つんじゃないかって、{警戒|けいかい}しているみたい。
核爆弾を作るための放射性物質は、原子力発電用として充分な量があるからだ。
でも、あたいらの国には、見ざる言わざるみたいなへんてこりんな法律がある。
持たず、作らず、持ち込ませず。
{被爆国|ひばくこく}だから仕方がない……と、思っている人が多い。
でも、被爆者の人たちがみんな亡くなって{居|い}なくなってしまったら、どうだろう。
当事者が居なくなったら、慰霊の心情よりも、やっぱり今生きてる国民のために合理的に国を護ることのほうが大事だって、みんな思うんじゃないかな。
しかも、ほかの国が攻めてきてケガ人や死者が出たら、核武装をして国を護ろうっていう{機運|きうん}が盛り上がってきても不思議はない。
さらに、そのケガ人や死者が自分の身内や知ってる人だったり、自分の家が焼かれたり、ネットで子どもたちが{犠牲|ぎせい}になってる映像を見たりしたら、核兵器を持つことへの抵抗感なんかどんどん薄れていくに違いない。
今、当たり前のことも、未来も変わらず当たり前とは限らない。
世の中は、どんどん変わってゆく。
自分たちも変わらなければ、生き残れない。
それは、すべての生きものにとって、変わることのない常識だ。
でも、自分たちだけで国を護るということは、簡単なことじゃない。
だから、いろんな国が同盟を結んでいる。
近い国と同盟を結べば、隣りの国から攻められることはない。
でも現実は、攻めてくるのは、いつも隣りの国だ。
ヒノモトの国を中心に書いている地図を見ても、世界の{情勢|じょうせい}は見えてこない。
地球儀の太平洋の真ん中あたり、ハワイの南の方を中心にして周りを見渡すと、海ばかりだ。
ヒノモトの国は、アメリカと同盟を結んでいる。
東京とアメリカの西海岸のサンフランシスコまで、なんと8200キロ......遠い!
東京から中国の上海までは1700キロ、近いじゃん♪
明治時代に同盟を結んでいたイギリスは、アメリカどころの{騒|さわ}ぎじゃない。
アメリカよりもっともっと遠い、しかもヒノモトの国と同じ島国だ。
なんでそんなに遠い国とばっかり同盟を結ぶんだろう。
お隣り中国に、こんな言葉がある。
{遠交近攻|えんこうきんこう}。
遠くの国と交わって仲良くなってから、近くの国を攻めたり、近くの国から攻められないように備えるという意味だ。
そのやり方で、大むかしの中国の王朝の奏という国は、次々に周りの国を攻め落として中国を統一したそうだ。
中国が周りの国を攻めるのは、伝統的なお家芸なのだ。
だからヒノモトの国は、中国と同じくらい{手強|てごわ}いアメリカと同盟を結んでいるのだ。
でも、ヒノモトの国からアメリカが遠いように、中国からも同じように遠い。
中国がアメリカと仲良しになっても、なんの不思議もない。
でも、今は仲が悪い。
それは、ヒノモトの国にとっては都合がいいことだ。
アメリカと中国が戦う恐れがあるんだったら、ヒノモトの国はアメリカにとって重要な同盟国の{拠点|きょてん}となる。
逆に中国は、アメリカの同盟国のヒノモトの国には、{安易|あんい}に攻めて行くことができない。
……とういうことは、アメリカと中国が仲良しになったら、ヒノモトの国は消滅してしまうかもしれない?
あたいらの国が何千年も独立を護ってこれたのは、まさに奇跡としか言いようがない。
これから先、どうなるんだろう。
2025.4.1 配信
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ヒト{種|しゅ}{下位|かい}の{四亜種|よんあしゅ}
{格武童|サブライ} {自然|しぜん}を{敬|うやま}う{人|ひと}たち
{守護童|マモリベ} {伝統|でんとう}を敬う{人間|にんげん}たち
{青草童|ビドーサ} {電脳化|でんのうか}する{文明人|ぶんめいじん}たち
{茶猩猩|チチンパ} {進化|しんか}した{魂|たましい}たち
uki ^^/ 後裔記 第2集 第48回
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三、 執冬 (10)
四人が台所に上がり込んで乾パンをむさぼっていると、外から車のエンジン音が聞こえてきた。
「{戻|もど}ってきたようだな」と、乾パンを{噛|か}みながら{爺|じい}さんが言った。
四人は、{靴|くつ}を{履|は}いた。
知らないうちに、四人の靴がきれいに{揃|そろ}えられていた。
エセラは、小石が靴の中に入って気になっていたのを思い出したが、靴の中もきれいになっていた。
外に出ると、たしかに二人のおにいさんの姿があった。
自転車置き場で{蹲|うずくま}っている少年の背後で、かがみ込みながら少年の話を{聴|き}いている。
どうやら、少年のバイクのエンジンが始動しないらしい。
少年とおにいさん二人が、入れ{代|かわ}った。
少年と言っても、おにいさん二人に比べて少し年下くらいで、エセラたちからは、おとなのおにいさんに見えた。
少年が、言った。
「お礼に缶コーヒー、おごりますよ。
ブラックと{微糖|びとう}、どっち?」
「悪いな。
ホットなら、どっちでもいいよ」と、背の高いほうのおにいさん。
「{了解|りょうかい}♪
じゃあ、車ちょっと借りるね」と、少年。
「あァ。
{盗難車|とうなんしゃ}だから、あんまり遠くに行かないほうがいいぜ」と、背の低いほうのおにいさん。
「うん。
ありがとう」と、少年。
盗難車が、慣れた運転で{軽快|けいかい}に走り出した。
「このバイクも、盗難車だな」と、背の高いほうのおにいさん。
「さて、足がなくなたな。
また、行軍だな」と、背の低いほうのおにいさん。
「缶コーヒー買うだけだから、すぐに戻って来るっしょ!」と、カズキチ。
「盗難者が盗難車を盗難して立ち去ったってことさ」と、シンタ。
「盗難車の使い回しかァ?」と、カズキチ。
「マモリベの子どもだってスリで食べてるんだもの。
ビドーサのおにいさんが盗難車を盗難したって、なんの不思議もないよ」と、らら。
「知ってたんですかァ?」と、エセラがふたりのおにいさんに向かって{尋|たず}ねた。
「そういうのを、{暗黙|あんもく}の了解って言うんでしょ?」と、シンタ。
「暗黙じゃないよ。
だって、あのおにいさん。
『了解!』って言ったじゃん」と、らら。
「そうやって、行間を読むことを覚えていくんだよな。
やっぱ、マモリベとサブライには、{敵|かな}わねーやァ♪」と、背の低いほうのおにいさんが言った。
「そうだッ!」と、エセラが叫んだ。
「なんだよ、{唐突|とうとつ}に。
おまえが何か思いつくと、ろくなことがないからな」と、カズキチ。
「{叔母|おば}ちゃんがいるんだった」と、エセラ。
「あァ、{潜入班|せんにゅうはん}の、なんとかおばちゃんなァ?」と、カズキチ。
「なァ。
そんな話、タカにぃとヒクにぃの前でしていいのかァ?」と、シンタ。
「なんの話だァ?」と、タカにぃ。
「平気だよ。
だって、子どもだけでひとつに戻るんでしょ?」と、エセラ。
「よけいわかんねーよッ!」と、ヒクにぃ。
「とりあえず、タカにぃとヒクにぃってことでぇ♪」と、カズキチ。
「わかりやすいんだか、わかりにくいんだかッ!」と、タカにぃ。
「{要|よう}は、そのなんとかおばちゃんのことろまで送り届けりゃいいんだなッ?」と、ヒクにぃ。
「まァ、{腐|くさ}れ{靴下|くつした}の{縁|えん}だしな」と、ヒクにぃ。
「くつしたのえんって、なんのえん?」と、らら。
「{足袋|たび}は{道連|みちづ}れ、{世|よ}は{情|なさ}けってなァ♪」と、タカにぃ。
「やっぱ、二人はおとなだね」と、エセラ。
「なんでよォ!」と、シンタ。
「だって、{親父|おやじ}ギャグじゃん♪」と、エセラ。
背の高いほうのタカにぃと背の低いほうのヒクにぃが、{黙|だま}り込んだ。
「電車に乗るんだ。
たぶん」と、エセラ。
「じゃあ、駅だね」と、シンタ。
ららが、二人のオヤジを見上げた。
2025.3.23 まぐまぐ 配信
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{守護童|マモリベ} {伝統|でんとう}を敬う{人間|にんげん}たち
{青草童|ビドーサ} {電脳化|でんのうか}する{文明人|ぶんめいじん}たち
{茶猩猩|チチンパ} {進化|しんか}した{魂|たましい}たち
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uki ^^/ 然修緑 第2集 第41回
三、 執冬 (9)
門人学年 カズキチ 十二歳
{息恒循|そっこうじゅん}の{齢|よわい} 立命期・少循令・石将
おれらの旅も、ついに命の危険を感じる{事態|じたい}になってしまった。
何かに{祈|いの}りたい気分だけど、寺学舎で学んだことを思い出した。
「自分のために修行をすることを{小乗|しょうじょう}仏教と呼び、最近では、{上座部|じょうざぶ}仏教と呼ばれることが多い。
対して、世界中の人びとや自然の生きものたちみんなが救われることを祈ることを、{大乗|だいじょう}仏教という。
{飛鳥|あすか}時代にわれらがヒノモトの国に{伝来|でんらい}したのは、大乗仏教だ。
だから、自分を救ってもらうために祈るのは、仏教ではない。
祈るなら、世の中の人びとや生きものたちを救うために祈り、祈るからには、日々どうすれば周りの人たちや生きものたちに喜んでもらえるかを考えながら行動しなさい」
いまおれは、自分のために祈ろうとした。
これは、仏教ではない?
では、おれらの国に伝来した大乗仏教って、なんだァ?
昼間ぼくらは、{鴉|カラス}のような{攻撃機|こうげきき}に{襲|おそ}われて、{逃|に}げ逃げて{隠|かく}れに隠れての連続だった。
疲れきって眠ってしまいたいところだけど、ここが、生きるか死ぬかの運命の分かれ道だ。
考えが足りないほうが、負ける。
負けたら、死ぬ。
それが、自然を重んじてきたわれらサブライの常識だ。
いまエセラが、そんな生きるか死ぬかの一日の{出来事|できごと}を、{後裔記|こうえいき}に書いている。
じゃあおれは、{然修録|ぜんしゅうろく}だな。
そんなわけで、眠いけど、巻き巻きモニターを開いた。
検索開始。
東洋思想の講義録のなかで、こんな{文言|もんごん}を見つけた。
「仏教といっても、釈迦の伝記から入ると時間がいくらあっても足りない。
活学として原始仏教を学ぶのであれば、その根本の{四諦|したい}と{十二因縁|じゅうにえんぎ}を知るところからはじめるのがよい」
これだ!
読んでみた。
四諦というくらいだから、四つある。
{苦諦|くたい}、{集諦|じったい}、{減諦|めったい}、{道諦|どうたい}。
苦諦は、何が苦しみであるかに気づき、それを認識すること。
「生の哲学」の祖と呼ばれるドイツの哲学者、ショーペンハウエルは、この苦諦を知って大きな影響を受け、世界的に有名な哲学者となった。
集諦は、その苦しみを{徹底的|てっていてき}に{分析|ぶんせき}して{点検|てんけん}すること。
なんか、おとなたちがよく話している話題……「お客さまからの{苦情|クレーム}に対応」によく似ている。
お客さまの苦しみを徹底的に分析して、その一つひとつを点検する。
おとなって、たいへんだ!
滅諦は、その分析と点検によって行動を起こし、苦しみを消滅させ、{解脱|げだつ}にいたること。
解脱というのも仏教用語で、{煩悩|ぼんのう}の{束縛|そくばく}から{解放|かいほう}されて,安らかで自由な{悟|さと}りの{境地|きょうち}に達することだ。
煩悩は、言葉どおり。
{煩|わずら}わせたり{悩|なや}ませたりして自分を苦しめる{己|おのれ}の心のことだ。
そして道諦は、その滅諦に達するための修行のこと。
つまり、道を{尋|たず}ね歩く思いを持って、いろいろ考えて集諦に{努|つと}め、{惜|お}しみなく行動して滅諦のために大努力する。
これが、道諦だ。
こんな話があるそうだ。
昔むかし、あるお坊さんが、{師匠|ししょう}の{僧侶|そうりょ}にこんな質問をした。
「道とは、いかなるものですか?」
{師匠|ししょう}が、{応|こた}えて言った。
「道か。
道なら、そこにあるではないか」
師匠はそう言うと、そのへんの道を指さした。
するとそのお坊さん、不満顔になってこう言った。
「わたしのたずねているのは、そんな道ではありません。
大道……仏の道をたずねているのです」
師匠は、待ってましたと言わんばかりに、その{弟子|でし}の問いに{即答|そくとう}した。
「大道なら、そら、そこにあるではないか。
そこの道が、都の長安に続いておる」
仏の道といっても、{別段|べつだん}、特別な道や近道があるわけではない。
日々、なんでもない日常の過程を{踏|ふ}んで行かなければ、目的地に{到達|とうたつ}することはできない。
それが道というもの……大道なのだ。
2025.3.16 配信
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発行 UKI library 卯喜書房
ヒト{種|しゅ}{下位|かい}の{四亜種|よんあしゅ}
{格武童|サブライ} {自然|しぜん}を{敬|うやま}う{人|ひと}たち
{守護童|マモリベ} {伝統|でんとう}を敬う{人間|にんげん}たち
{青草童|ビドーサ} {電脳化|でんのうか}する{文明人|ぶんめいじん}たち
{茶猩猩|チチンパ} {進化|しんか}した{魂|たましい}たち
uki ^^/ 後裔記 第2集 第47回
uki ^^/ 後裔記 第2集 第47回
三、 執冬 (9)
「おまえのクツ、すげーなッ!」と、シンタ。
「いやいや、違うと思うけど。
だろッ?」と、カズキチがエセラのほうに向き直って言った。
「そのうち{慣|な}れるよ」と、エセラ。
ららのクツが、自力でららの足に{帰還|きかん}した。
そのときだった。
バサッと掃除用具庫のドアが外側に引き開けられたかと思うと、二人の少年が押し込んできて、すぐにドアを閉めた。
二人とも、ムローと同じくらいか、それよりちょっと{年嵩|としかさ}くらいに見えた。
背の高いほいうの少年が言った。
「おまえら、親はッ!」
四人の頭と梅子の左手が、左右に振れた。
「川を渡って来たんだな。
なんのたんめに?
どうでもいいかァ」と、背が高いほう。
「それより、早く出ようぜ」と、背の低いほうの少年が言った。
「おれたちは逃げる。
ここに{居|い}たら{掴|つか}まって、チップを埋め込まれるからな。
ついてきてもいいけど、落ちこぼれは見捨てるからな」と、背の高いほう。
「おれら、おまえたちが{嫌|きら}いなビドーサだ。
おれたちを信じるか信じないかは、おまえたちの自由だ」と、背の低いほうの少年が言った。
そう言い終えるが早いか{否|いな}か、二人はドアをそっと開けて外を確認すると、一気に{駆|か}け出した。
四人と一本も、駆け出した。
二人の少年を見失わないよう、走りに走った。
{繁|しげ}みを目指して、曲がりくねった細い坂道を{上|のぼ}ってゆく。
上ってゆくと次第に、町の様子が見えてきた。
{碁盤|ごばん}の目のように区切られた街並みに、二階建てや三階建ての家が{拡|ひろ}がっている。
こんどは、坂道を下りはじめる。
下りきるとそこには、車も通れそうな広さの道路の両脇に、平屋の{棟続|むねつづ}きの家がぎっしりと並んでいた。
{錆|さ}びて{剥|は}がれかけた軒の下側のトタンが、ぶらぶらと垂れ下がって風に{揺|ゆ}れている。
棟続きと棟続きの間は狭く、{砂利|ジャリ}の{峠道|とうげみち}ほどの幅しかなかった。
先頭を走っていた背の低いほうのおにいさんが、その棟続きの一番手前の長屋の一番手前の家のドアノブにタッチするかのように手を伸ばすと、古ぼけた開き戸がペラペラっと外に引き開けられた。
そのあとを、背の高いほうのおにいさんと四人と一本が続いた。
六人と一本は、半畳ほどしかない玄関のセメントの床にへたり込んだ。
「知り合いの家?」と、ららがおそるおそる{訊|き}いた。
「いや」と、背の低いほうのおにいさん。
「{他人|たにん}の家ってこと?」と、小声でカズキチ。
「おまえらが考えてるほど、ビドーサは悪人ばかりじゃない。
{当|あ}てが{外|はず}れることもあるけどな。
でも、{任|まか}せろ。
運に……」と、背の高いほうのおにいさんが言った。
すると、玄関の正面のガラス{障子|しょうじ}が、ゆっくりと動いた。
二人のおとなが、姿を現した。
{優|やさ}しそうな顔立ちの老夫婦だった。
{唖然|あぜん}として少し{怯|おび}えたように突っ立て入るその姿は、まるで大きなこけしが並んで置かれているようだった。
背の低いおにいさんが、老夫婦に向かって言った。
「小さいの四人だけ、ちょっとの間だけここに{居|い}させてもらえませんか。
長い時間じゃないんで、お願いします」
{婆|ばあ}ちゃんが、言った。
「こっちへお{入|はい}んなさい。
靴もこっちに持っておいで」
二人の少年は、一瞬ほっとした表情になり、老夫婦に向かって揃って頭をコクリと下げると、「ここで待ってろ」とだけ言い残して、すぐに出て行ってしまった。
ガラス障子から部屋の中に入ると、そこは六畳の和室で、そのすぐ奥には狭い台所が見えた。
爺さんが、言った。
「{靴|くつ}を{履|は}いておいたほうがいいだろう。
狭いが、勝手口で待っていなさい」
四人は言われるがままに勝手口の{框|かまち}におしくらまんじゅうをするように腰掛けて、銘々靴を履いた。
「何か食べるものがあるといいんだけどねぇ」と、婆ちゃん。
「ここも安全じゃない。
追い出すようで{酷|こく}に思うだろうが、悪く思わんでくれ」と、爺さん。
「じゃあ、爺ちゃんたちも逃げなきゃ!」と、らら。
「わしらを掴まえても、チップの{無駄|むだ}{遣|づか}いじゃ。
もう戦えんし、頭を使うような仕事もしてこんかったからなァ」と、爺さん。
「食べるものって、婆ちゃんたちが食べるぶんはあるんでしょ?」と、カズキチ。
「まァ……。
あたしらは心配{要|い}らないから、自分たちの心配をしなさい」と、婆ちゃん。
それを聞くとカズキチ、無言で自分のリュックザックをバサッと開けると、乾パンが入ったカンカンを取り出して婆ちゃんに差し出した。
そして、言った。
「ぼくら、これいっぱい持ってるから、お礼に1個あげるよ」
爺さんと婆さんの頭と両方の手のひらが「いいや!いいや!」をしていると、突如梅子の頭が現れて、カズキチに言った。
「そんなんじゃ、足らないだろォ?
早く勝手口開けてよォ」
カズキチが、エセラの方を向いて、ぼそっと言った。
「姿は、見えないままのほうがよかったかも」
エセラが、ニヤニヤしながら、勝手口のドアを押し開けた。
すると、梅子の右手が、デパートのロゴが入った紙袋をいっぱい腕にぶらさげて、飛び込んできた。
目を丸くする爺さんと婆さん。
「紙袋が飛んでる!」と爺さん。
「さては、チチンパだね。
チチンパと話せるってことは、あんたたちはサブライの子かい?」と、婆さん、
「おれらはマモリベ。
サブライは、この二人」と、エセラとカズキチを指差しながら、シンタが言った。
「チチンパって、人の言葉を{喋|しゃべ}る{鹿|しか}とかタヌキとか鳥とかって、そのチチンパのことかァ?」と、爺さん。
「そのチチンパだけど、チチンパは動物や鳥とは限らないんだよ。
ねぇ、坊やたち♪」と、婆さん。
子どもたち四人と頭がひとつが、微笑んだ。
「意外と、乱世を救うのは、子どもたちかもしれんな」と、爺さん。
「意外じゃダメなんです。
それが、天命だから」と、エセラ。
カズキチが、乾パンが入ったカンカンの{蓋|ふた}を開けた。
2025.3.9 配信
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発行 UKI library 卯喜書房
ヒト{種|しゅ}{下位|かい}の{四亜種|よんあしゅ}
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uki ^^/ 然修緑 第2集 第40回
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三、 執冬 (8)
門人学年 エセラ 十三歳
{息恒循|そっこうじゅん}の{齢|よわい} 立命期・少循令・{鐡将|てっしょう}
団体行動、単縦陣。
ちりじりになり、また{集|つど}い、{隠|かく}れ潜んで{機|き}を待つ。
甲板用具庫の中で、幽霊梅子の頭と右腕の帰りを待つぼくら四人と幽霊梅子の左腕。
リュックザックの中には、乾パンが詰まったカンカン。
本は、なし。
なにげに、いろんなことが頭に浮かぶ。
「よくできたね、(ぼくちゃん)。
よくがんばったね、(ぼくちゃん)」
……と、当たり前なことをしただけなのに、{褒|ほ}められることがある。
{嬉|うれ}しい?
子ども扱いされて、嬉しい?
「君は、ナイーブだからなーァ」って、よく言われるおとなたちがいる。
特に、日本人。
ナイーブって言われたオッちゃんやオバちゃんたちは、照れながらニヤニヤして{喜|よろこ}んでる。
馬鹿なんじゃないの?
ナイーブの意味、知ってるの?
世間知らずのお人{好|よ}し。
「動かねえぇやつらばかりだ、まったく」と、{嘆|なげく}くおとながいる。
部下のこと?
動いてくれないから、「動けッ!」なんて{檄|げき}を飛ばしてない?
どうして動いてくれないのかも知らないで「動いてください」って頼んだって、動くわけないじゃん。
動物は、考えれば必ず動く。
何も考えなければ、自分から動くことはない。
「動け」って言う前に、「考えろ」が先なんだけど。
何を考えて、おとなになったんだろう。
「もうちょっと頭を使えよッ!
「もうちょっと考えろよ、まったく」
……と、ほとんど{口癖|くちぐせ}のようにそんなことを言ってはぼやいているおとなたちがいる。
他人にそう言う前に、自分の頭を使ったほうがいいと思う。
犬だって猫だって、考えるくらいのことはやってる。
煮干しを{狙|ねら}ってるときの猫ちゃん、借りてきた猫のようにじっとして周囲をさりげなく見回しながら、必死で考えてる。
幼い{仔犬|こいぬ}だって、お母さんの乳を吸いたくて、お母さんの乳首の数と兄弟たちの数を見比べながら、よくよく考えて生存競争を勝ち抜こうとしている。
動物は、願望や欲望があると、必ず考える。
「よく考えないと煮干しを食べれないから、ちゃんとよく考えなさい!」なんて言われないと何も考えないような猫はいない。
「よく考えないとお母さんの乳を吸えないから、ちゃんとよく考えなさい!」なんて言われないと何も考えないような仔猫はいない。
人間だって、本当は、{想|おも}いがあればちゃんと考えることができる動物だった。
でも、おとなという人間たちは、願望や欲望があると、ろくすっぽ考えもせずに、ただただそれを欲しがって動いてしまう。
思い、考え、行動する。
それができない人間は、動物って言える?
スティーブン・R・コヴィー先生も、ナポレオン・ヒル先生も、ピーター・ファーディナンド・ドラッカー先生も、アルフレッド・アドラー先生も、{王陽明|おうようめい}先生も、{安岡正篤|やすおかまさひろ}先生も、みんな同じことを言っている。
そんな先生たちから経営学や心理学や哲学を学んだ先人{先達|せんだつ}は、みんなみんな秒殺で首をタテに振って納得している。
人間の真価は、思考と行動なのだ。
電脳チップを埋め込まれた人たちは、思いを{制限|せいげん}され、考えを{制御|せいぎょ}され、チップからの指令どおりに動かされる。
もはや、人間でもなく動物でもなく、ましてや自然の一部でもない。
ぼくらには、想いがある。
死にたくない。
ぼくらは今、必死で考えている。
だからもうすぐ、動き出す。
だからぼくらは、生き{延|の}びる。
生ききらなければ、自然は死を{許|ゆる}してはくれない。
そうならなければ、「死ぬことと見たり」という言葉は出てこないんだと思う。
相手より想いが強ければ、相手よりいっぱい考える。
相手よりいっぱい考えれば、相手よりいっぱい動く。
相手よりいっぱい動けば、必ず勝つ。
そうやって、正義が勝ってきた。
それが、人類の歴史なんだ。
その歴史が今、変わってしまおうとしている。
2025.2.23 配信
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uki ^^/ 後裔記 第2集 第46回
uki ^^/ 後裔記 第2集 第46回
三、 執冬 (8)
……{活|い}きた朝。
エセラは、乾パンの入ったカンカンを、宝物のようにボロ雑巾{兼|けん}リュックザックのいちばん底に収めた。
梅子が、その様子を不思議そうに、無言で{眺|なが}めている。
少女らしい梅子の{薄化粧|うすげしょう}をした色白の顔の両脇に、今日は耳らしきものがくっついている。
その耳たぶのあたりから{滴|したた}り落ちて硬くなった{濃|こ}い{朱色|けいろ}の大きな血玉が、ぶらさがっている。
それが、両耳の下でゆっくりと揺れていた。
エセラが、なにげに梅子のほうに振り、何も考えずに言った。
「そのぶらさがってるの、なにぃ?」
「戦闘モード。
ピアスは、{悪魔|あくま}の侵入を防ぐのよ」と、梅子。
エセラたちの{敵|てき}は、悪魔ではなく、ビドーサたちの人間狩りだ。
梅子が言うとおり、ここを出たら、たしかに戦闘モードだ。
デインジャラス、百パーセント。
準備は、不充分。
{食糧|しょくりょう}の備えは、{微妙|びみょう}。
再び、{単縦陣|たんじゅうじん}。
ダンゴ虫艦隊、出航よーぃ……である。
見送る者も、{帽|ぼう}を振る者も、なし。
橋を渡れば、いよいよそこは、戦場。
敵陣、ビドーサたちの街だ。
橋の{歩道|ペデストリアン}を、恐る恐る進む。
最初の大きな建物が、姿を現した。
MCPと大書きされた電照看板が、八つの{瞳|ひとみ}に飛び込む。
残りの二つの瞳は、単縦陣には加わっていない。
少女は少女だが、もう死んでいるから、{気遣|きづか}いは不要だ。
橋を渡りきった。
マーケット・コミュニティ・プレイスという看板文字が見える。
先頭を歩くシンタが、空を見上げた。
まだ{人気|ひとけ}の少ない都会の朝。
その少ない人間たちが、{矢庭|やにわ}に走り出した。
みな、MCPの大きな建物に走り込んでいる。
シンタが、走り出した。
最後尾のカズキチが、叫んだ。
「来るぞッ!」
来た。
上空。
黒いのに、{煌|きら}めいている。
何かが、発射された。
MCPに走り込もうとしている人間目掛けて、飛んで行った。
命中!
倒れた。
シンタが、叫んだ。
「裏に回るぞッ!」
エンジン音。
装甲車のような灰色の車が、川の土手の道路の{彼方|かなた}から、こっちに向かって走ってくる。
エセラが、叫んだ。
「とにかく、隠れよう!」
梅子が、手招きをしている。
単縦陣の先頭が、エセラに変わる。
エセラは、足が速かった。
だが、周りを見ることは苦手だった。
ダンゴ虫艦隊、解隊!
四人は、無心で{駆|か}けた。
ららの片方の{靴|くつ}が、脱げた!
{可哀想|かわいそう}だが、靴を拾いに戻る時間はない。
やっとのことで、梅子に追いついた。
四人は、物置に{駆|か}けこんだ。
ただ建築ブロックを積んだだけの、粗末な小屋だった。
掃除用具庫らしい。
梅子が、言った。
「取材してくるから、待っててよ」
「姿が見えないから、適任だな」と、カズキチ。
「あたい、見えてるけど」と、らら。
エセラが、梅子に言った。
「小さい子どもに、気をつけてね」
梅子の右手が降ってきて、朱色のイアリングにそっと触れた。
梅子の顔が、微笑んだ。
{頷|うなず}いたようにも見えた。
梅子の顔と右手が出て行ったあと、左手が息を切らして小屋に入ってきた。
ららの片方の靴を、{握|にぎ}り{締|し}めていた。
2025.2.16 配信
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