EF ^^/ 然修緑 第２集 第15回
一、想夏 (14)
門人学年 カズキチ （{美童|ミワラ}・{齢|よわい}十二）
「息恒循」齢 立命期・少循令・石将
無言で幽霊と言葉を交わす脳力
エセラが、無言で幽霊と言葉を交わした。
地獄の館での体験を、後裔記に書いていた。
エセラの脳ミソは、どうやって幽霊と会話できたんだろう。
霊感？
洞察力？
同じ読み方で、直観と直感がある。
直観は、遺伝子の記憶を掘り返して、鋭い洞察力となる。
では、霊感の基となる脳力は、直感のほうだろう。
子どもは、おとなよりも直感の能力が優れている。
エセラの直感は、おれの直感よりも勝っている。
悔しいから、直感のことを書いている本を探して読んでみた。
結論。
イメージ記憶、コトバ記憶、計算、刷り込み……と、小難しい。
我らは、自然{民族|エスノ}である。
自然らしく、動物たちの直感の方を読んじゃった♪
{蜂|ハチ}が、木の下枝に巣を作る年には、大きな台風が来る。
ナマズが盛んに動くと、地震が来る。
{蛸|タコ}のとある種は、台風が来る前に安全なところに移動する。
昔から言われ続けているので、たぶん満更ウソではない。
例えば、タコ。
台風が発生すると、海中に約十三ヘルツのタテ波が起こる。
タテ波は、目で見えるヨコ波よりも、水の中ではずっと早く伝わる。
このタテ波を察知して、ソク行動して海が荒れる前に岸に避難することができるのだ。
この種のタコは、タテ波に共鳴する感覚器官を持っていることが判っている。
ナマズも、地震流を感じる感覚器官を持っているのかもしれない。
ハチも、何かを感じて、まだまだ先の台風を予知しているに違いない。
野生の動物のほとんどが、地震の前にはなんらかの異常行動を起こす。
動物の種類によって、その行動パターンは異なる。
動物の中で異常行動を起こさない下等動物は、高等動物を自負している人間だけだ。
人間、特に大人の感覚器官は、{鼠|ネズミ}にも劣る。
むしろネズミは、動物の中でも特に優秀だ。
ネズミとりを仕掛けるときに、「ここに置くぞ！」などと言ったら、絶対にかからないと言われている。
当然、ネズミは人間の言葉を理解できない。
たぶん、何かの気配を感知する器官を持っているのだ。
家の中にネズミが居なくなったら火事になるとか、港に接岸している船舶からネズミが岸に逃げ出したら遭難するとか……。
実際に、大きな地震の前に、家からネズミがまったく居なくなったという報告が、後を絶たない。
ネズミは、一度地震や火事に遭うと、そのときの様々な環境条件の委細を、ことごとく記憶してしまうと考えられている。
気温、湿度、風向、風力、光、音、等々……気象庁のコンピューターよりも優れているかもしれない。
この記憶とよく似た一連の刺激を受けると、自動的に当時の記憶が探し出され、その時にとった動作と同じ行動をするというわけだ。
（過去にそれで助かったから、今回も同じ行動をすれば助かるはずだ！）と、もし人間なら、そういう理屈になるだろう。
ネズミの鼻くそほどのちっぽけな脳ミソでさえ、そこまで優れた脳力を持っているのだ。
人間の脳力に到っては、計り知れないものがある。
こんな研究成果がある。
人間の大脳半球のある部分に電気刺激を与えると、その人の意識が過去に戻ってしまったそうだ。
研究室のベッドに寝かされていると、しっかり意識しているのに、電気刺激をあたえ瞬間、今まさに子供時代に生家の庭で父親と遊んでいると、意識してしまうということだ。
その意識が、驚くほど事細かく鮮明なのだ。
この状態を、二重意識というそうだ。
人間は、一度体験したことはすべて、事細かに記憶して、しかもそれを、一生忘れることはない。
すべて忘れてしまったように思ってしまうのは、ただその記憶を思い出せないだけなのだ……ということが、実験によって証明されたわけだ。
では人間も、非常時の行動をみんなが一度体験しさえしておけば、災害時に流れるように迅速に非難行動を起こせるのではないかという仮説が成り立つ。
消防署の統計によると、一度でも避難訓練を体験した人とそうでない人とでは、実際の火事のときの行動が全く違うそうだ。
これなら、ネズミに馬鹿にされずにすみそうだ。
ここで、もう一つ証明された。
寺学舎で学んでいる「行動の学」だ。
体験したことは、すべて脳に蓄積される。
行動に勝る学はない。
2024.4.21 配信
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発行 Ethno Fantasy 東亜学纂
