uki ^^/ 後裔記 第2集 第35回
二、 起秋 旅路 (7)
「あのーォ。
それッ!
見てからでいい?」
その答えを予期していたかのように、シャチオが応えて言った。
「それも、ありだな。
じゃあ、動産契約は保留ってことで。
ところで、見ない顔だが。
港から来たんだろうが、珍しいな。
俺たちのみすぼらしい{態|なり}も、契約を躊躇する理由の一つなんだろうが、問題なのは、態のみすぼらしさじゃない。
俺たちのみすぼらしさは、態だけじゃない。
人生もみすぼらしい。
だが、みすぼらしくないものが、一つだけある。
心根だ。
ヒト種は、分裂が止まらない。
おまえら海の民は、それを亜種で踏み{止|とど}まっている。
俺たち山の民も、同じことだ。
だが、川の東側に住まっている裕福な亜種どもは、どうだッ!
その亜種すら崩壊させやがって、今や二つの変種だ。
その一つは、心根が朽ちたやつら。
もう一つは、その心根すら消滅させちまったやつらだ。
おまえらも、二つの一族が{睨|にら}み合ってるらしいな。
なんで仲間同士がいがみ合うか、知ってるかァ?
心根が腐ってきたからだ。
大人の腐った心根は、もう手遅れだ。
腐ったまま、あとは死ぬだけさ。
でも、子らは違う。
抗体がまだ{効|き}くからな。
生まれ持った美質ってやつさ。
それはそうと……。
おまえらのみすぼらしさも、俺たちに負けてないなッ。
ケン!
面倒みてやれ」
シャチオはそう言うと、椅子に引っ掛けていたリュックザックを右肩に荷い、洞穴の入り口のほうへと歩き出した。
「何か{訊|き}きたいことはあるかァ?」と、ケン。
「何を訊けばいい?」と、カズキチ。
「教えてやるから、ついて来い!」と、ケンが言った。
エセラは、思った。
心根がみすぼらしい人間は、己のみすぼらしさに気づかない。
周りがすべてみすぼらしいから、違いが{判|わか}らないのだ。
ぼくらの心根は、腐りかけている。
カズキチも、ぼくも、一番危険な時期に差し掛かってるんだ。
でも、どうしても{解|}らないやつが、一人いる。
進化霊長類、レイヤーグ種……。
梅子さんだッ!
2024.9.16 配信
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発行 UKI library 卯喜書房