MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

東亜学纂学級文庫

『息恒循』を学ぶ

一息74 ミワラ〈美童〉の後裔記 R3.4.1(木) 夜7時

#### 後裔記「鳥たちの遺伝子の中で、あたいら祖先は生きている」 学徒マザメ 齢12 ####

 あたいらの祖先と、この島の鳥たちとの意外な関係……。*あたいらさえ知らなかった、自然人の歴史の真実*。それが{何故|なぜ}、*この島の鳥たちの遺伝子に*残されていたのかッ!

 一つ、息をつく。

 「珍しいねぇ。白いヤツが森に{来|く}んのって……」と、あたい。
 「{循観院|じゅんかんいん}に、ヒトが戻って来たって聞いたから……」と、白いヤツ。
 「てか、おまえ。まだ子どもなんかい! その{図体|ずうたい}にして……」と、あたい。
 「大きな肉体。大きなお世話。渡り歩くのが、ぼくの自然」と、白いヤツ。
 「そこは*歩く*じゃなくって、*飛ぶ*やろッ! おまえらのバヤイ……」と、あたい。
 「歩くのが、楽。飛ぶのは、しんどい」と、白いヤツ。
 「それは、見れば{判|わか}る。でも、歩いて海は、渡れんやろッ!」と、あたい。
 「泳ぐ」と、白いメタボ。
 「泳ぐ? 沈むやろッ!」と、あたい。
 「失礼なッ! 泳ぐのは、そんなに{嫌|いや}いじゃない。そりゃ、{脚|あし}は疲れるけんど。でも、歩くのと、大差ない。泳ぐときは、水の抵抗があるけど、歩くときだって、重力の抵抗がある」と、白メタ。
 「納得。でも、その重力じゃ……さァ。歩いてたら……さァ。すぐに{掴|つか}まって、食われるやろーォ♪」と、あたい。
 「白熊とかにーぃ?! カモね」と、シロメタ。
 「あんたも、タワシだねッ♪」と、あたい。
 「タワシ?」と、シロメタ。
 「ワシワシ言うハヤブサ……だったけぇ? 忘れた。あんたは、カモカモ言うウミネコさ。でも、白いメタボだから、シロメタにしといてやるよッ♪」と、あたい。
 「ミャーァ!!}と、シロメタ。
 「鳴くなッ! 重い。てか、濃ゆいぢょ、その鳴き声!」と、あたい。
 「{嫌|イヤ}そうだな物言いだなーァ」と、シロメタ。独り{言|ご}ちる。
 「当たりーぃ♪ 男ってもんはさ。愛情は濃い口で、言乃葉は薄口。それが、理想の男ってもんさ。てか、白熊じゃないってばァ。あたいらさ。人間に、掴まっちまうだろッ! あんた……おまえの、その重力じゃ!」と、あたい。
 「自然人は、ぼくらを{掴|つか}み上げたりなんかしないし、{況|ま}してや、ぼくらを{食|く}ったりなんか、しない。そんなこと、絶対に、しない!」と、シロメタ。
 「{何|なん}でそう、言い切れんのさァ!」と、あたい。
 「自然人とぼくらは、助け合いながら、生きてきたんだ」と、シロメタ。
 「どういう意味ぃ?」と、あたい。当然の、疑問。

 そのウミネコ、不器用に歩きながら、並んで歩くあたいのほうに、器用に首を{捻|ひね}って、濃い声で話す。
 これが、シロメタとの出逢い。
 てかこいつ、歩くの、意外と速い! どこまでも、ついてくる。あたいが、小走りで振り切ろうとすると、{何|なん}と!こやつも、走る。しかもそれ、意外と、速い!
 てな{訳|わけ}で、こいつが、循観院の最初で最後の来訪者……てか、お客さんとなった。循観院ってのは、あたいが住まう山小屋のこと。スピアみたく、{建屋|たてや}の名前をどうしようか{云々|うんぬん}で、悩む必要はなかった。
 こっちは、就寝許可証の木札じゃなくって、小屋の名前の木看板! 看板って言い方も、変ね。小屋のすぐ横に立ってる、木の幹を彫り込んだ、浮き上がり文字の表札……てか、まァ、やっぱ、看板だねッ!
 これなら、耐久性抜群! 何百年前からあるんだか……って感じだ。どうやら、あたいらの先祖は、この島に、かなり昔から、住みついていたみたいだ。
 あッ! また、余計なことが気になってしまった。〈浮き上がり文字〉のこと。誰か、カルプって、{振り仮名|ルビ}ってか、ご親切に、読み仮名を振ってくれてたやんかーァ?!
 でも、カルプってさァ。〈カルシウム・イン・プラスチック〉の略じゃなかったーァ?? 〈浮き上がり文字〉に〈カルプ〉っていう読み仮名を振るのって、{変|へん}くなーぃ?! まァ、余談中の余談、蛇足中の蛇足だけどさァ!
 で、{閑話休題|それはともかく}。
 循観院の{囲炉裏|いろり}に向かい合って、{座|すわ}って、お互いに腰を落ち着けて、シロメタの話を聴いたってわけさ。あいつも、器用に座って……って意味なんだけどさッ!
 ちょっと長い話だったから、あたい流に要約……っていうより、{随所|ずいしょ}{割愛|かつあい}すっからさ。
 そういう{訳|わけ}で、よろしくーぅ♪

 「おまえらほど、自分たちの先祖のことを知らない自然の生きものも、珍しいってもんだ。
 その昔、自然人だの自然{民族|エスノ}だのという言葉がまだ無かった頃のこと。ヒト種と言えば、当たり前のように、みんな、ほかの生きものたちと同様に、自然の一部だった。それが、源平の戦いの時期を境に、ヒト種の分化が、{始|はじ}まってしまった。
 廃残したおまえらの先祖は、谷間に隠れ住み、{対峙|たいじ}していた民族が、港や平地を支配した。
 その後、おまえらの祖先は、{人気|ひとけ}のない海岸に港を築き、無人の島に、集落を作った。だがそこにも、対峙していた民族が、やって来た。海岸は土砂で埋められ、森の木々は、{悉|ことごと}く切り倒されていった。
 おまえらの祖先も、ぼくらの祖先も、頼りの母なる大地や海から、締め出されてしまったのさ。おまえらの頼みの{砦|とりで}……長らく安泰であった谷間も、ある真の日、洪水で押し流されてしまった。
 それで、掘りはじめたのさ……おまえらの、祖先は。
 そして、地底に、集落を作った。もう、何百年もの間、掘り続けている。
 この島にある、おまえらの側溝乗り合いバス……だったけぇ? まァ、{溝|みぞ}を掘るのは、おまえらのお家芸って{訳|わけ}さ。まァ、余談は、{扠措|さてお}く。
 この島での、ぼくら鳥諸々と、おまら自然人との関わりの話だ。おまえらの祖先は、元々は、掘り屋じゃない。海賊だ。隣りの島に、船でやって来た。当時はまだ、無人島だったからな。
 で、おまえらの先祖は、この山に、登ってみようと思った。でも、歩けど歩けど、水道に{阻|はば}まれて、その{麓|ふもと}にすら{辿|たど}り着けない。瀬戸で隔てられた、別の島だったって{訳|わけ}さ。
 おまえの仲間の男も、同じようなことを体験したみたいだけどな。その仲間の男は、船で、この島にやって来た。でも、おまえらの先祖は、海底を掘って、やってきたのさ。
 ぼくらの遺伝子に書き込まれてるとおり、本当におまえらの祖先が、隣りの島に船でやってきたんだとすれば、ひょいっと、その隣りのこの島に渡って来りゃあいいものを……まァ、あんまりにも近いもんで、掘って{繋|つな}げてやれ!って、思ったのかねぇ。
 {土竜|モグラ}も{唖然|あぜん}! 立つ瀬がないってもんさ。
 で、その掘ったときの話さ。
 地上に出る寸前、遺跡の城壁の{石塁|せきるい}に、阻まれてしまったんた。で、そいつをかわして、地上に出るすがら、その石塁の周りも、掘ってみたって訳さ。すると、石門が出て、角楼も出てきた。だが、そいつがまずかった……」

 ここから先、その「まずかった」の説明を、大胆に割愛する。その話だけで、一冊の本が、優に書けそうだからさ。要は、{斯|こ}うだ。

 文明人は、観光資源になりそうな自然と、見世物にできそうな自然の生きものたちを、大捜索していた。
 そんな、ご時世……この島に、太古の遺跡が……しかもそれは、大和朝廷の時代に建立された、未知の{山城|やまじろ}。そしてオマケに、その遺跡を発掘したのは、自然人。島の動物や鳥たちと対話しながら、{頑|かたく}なに自然の一部として生き続けているヒト種の源流!
 こんな、金になる島を、文明人が、{放|ほ}っとくはずがない。だが、ここで、自然人たちと鳥たちの、自然の一部を{担|にな}っているという共同体感覚が、結束した。

 「{偵察|ていさつ}は、ぼくらに任せろよッ♪」と、鳥たち。
 文明人たちが、海から、この島を目指している。遺跡を見られたら、終わりだッ! この島が、観光名所となる。自然の一部のヒト種や動物たちは、見世物となるか、または追われるか、{何|いず}れにしても、{終|つい}には殺される。
 「{奴|やつ}らの{阻止|そし}は、ぼくらに任せろッ!」と、これも鳥たち。
 上陸できそうな海岸に、アプローチを試みる文明人たち。これに、悉く空爆! 食いまくって、文明人たちの頭上で、{糞|クソ}をひりまくる。
 その間、あたいらの先祖……自然人たちは、遺跡を埋め戻す。
 もし、ヒト種が再び一つになれたとしたら、自然{民族|エスノ}の人びとは、土木施工神様技師と呼ばれ、貧困や求職で{屈辱|くつじょく}を味わうことはないだろう。その可能性は、言わずもがな。絶対必定の、ゼロ・パーセントだッ!
 ここまでは、{上手|うま}くいった。でも、文明人たちは、いつまた、海からのみならず、空からもやって来るか知れたもんじゃない。でも、遺跡は{既|すで}に、盛り土の下だ。もう、心配はない。鳥たちは、飛んで逃げてもいいし、島でウロウロしてても、{何|なん}ら{虞|おそれ}を{為|な}すことはない。
 でも、問題が一つ、残されていた。自然人たちの、住まいだ。何百年も、地底で暮らしてきたのだ。この島での地上での営みは、まるで、正に、世界を統一した{覇者|はしゃ}が、{酒池肉林|しゅちにくりん}に浴して{豪華絢爛|ごうかけんらん}にして{煌|きら}びやかな生活をおくる大宮殿のようなものだった。
 そのお粗末で質素な大宮殿が、空から丸見えなのだ! 自然人たちは、鳥たちに、言った。
 「ぜんぶ、ぶっ{壊|こわ}す。ぼくたちは、地底に戻る」
 でも、いくら掘ってこの島に来たとはいえ、その地底の穴とは、ひと一人、やっと通れる程度の、ただ掘削して前に進むためだけにあるような、狭い狭い、真っ暗闇の{洞穴|どうけつ}に過ぎなかった。

 ここで、鳥たちが、話し合った。
 「なァ、おまえたち。ちょっと、聞いてくれないか。あいつらの{巣|す}、確かに粗末だ。あいつらの言うとおり、壊したって、{惜|お}しくもなんともない。でもそれは、おれたちの種の長い歴史かえら{捉|とら}えた、{飽|あ}くまで個人(鳥)的な感想に過ぎない。
 竹を割り、それを建て込み、組み上げ、その上に、ホウビシダを丹念に重ね、イグサを巧みに編んで雨仕舞いをしている{奴|ヤツ}らの大努力……みんな、空から、見てたよなッ?
 そのときの、ヤツらの嬉々とした顔、不可解、不可思議だとは、思わなかったかァ? やつらにとっては、数百年越しの、悲願の、地上での住居なのさ。
 なァ、おまえらッ! ここまで聞けば、オレっちが何を言いたいか、もう、{判|わか}ったことだろう。あいつらの悲願の地上の住居を壊さずに、文明の奴らに見つからない方法……それ、おれたちが考えてやるべき……てか、考えてやんなきゃなんない事なんじゃないのかねぇ。
 オレっちは、そう思う。{故|ゆえ}に、{皆|みな}の意見を{乞|こ}う」
 と、これは、ハヤブサの祖先。

 「柄じゃないが、承知した。おれらは、木に着いて待機する。指示を待つ」と、黒い{鴉|カラス}。
 「おれらの土着は、{伊達|ダテ}じゃない。地で待機する。指示に、従う」と、茶色いハヤブサとトンビ。
 「ぼくらは……」と、そいつらが口を開こうとしたとき、正に矢庭……ハヤブサが、吠えた!
 「お前らは、白い。目立つ! 海岸を{隈|くま}なく歩いて、{斥候|せっこう}となれ!」
 それで、シロメタの祖先ら白いものたち……{即|すなわ}ち、ウミネコ、カモメ、シロサギたちは、これに従った。「そりゃないっしょ!」と言って、落ち込む白の鳥たち……。
 {海鵜|うみう}が、それを見かねて、塞ぎこんで肩を落として立ち去ろうとする白の鳥たちに、声をかけた。
 「ぼくら、飛ぶのは不格好だけど、黒だから、役に立てる。不格好でも、誰かの役に立てるってことを、今ぼくが、正にこのぼくが行動、実践して、ぼくらの子々孫々に伝えてやりたいんだ。繋ぎたいんだ、海鵜の誇りを!
 だからさ。白だからって、落ち込むなよッ!
 だって、飛ぶのも、泳ぐのも、歩くのも、ぼいらより{遥|はる}かに、カッコいいじゃん♪ おまえらってさァ……」

 結果、茶と黒の鳥たちは、周辺の島の仲間たちをも召集して、翼を、{千切|ちぎ}れるくらいに大きく広げて、自然人たちの長屋式点在大宮殿を{悉|ことごと}く{覆|おお}い、文明人たちの照射から護り抜いた。

 ここまでの話、一昼夜×七日間!

 {因|ちな}みに、ここで割愛した膨大な蛇足の中に、今回の主題がある。
 その主題と結論が、これ。

   一、昔むかし……。
     寺学舎の起こり。

 武将も、家臣も、家来たちも、水軍から{雇|やと}われ駆り出された海賊たちも、鍛冶屋や長屋で働く大人の男や女たちも、無論、子どもたちも、{皆|みんな}がみんな、分け隔てなく、この寺学舎で学んでいた。

   二、その昔に起こった{戦|いくさ}から……今。
     循観院とは。

 戦乱。
 激しさを増しながら、すべてを{奪|うば}っていった。
 寺学舎に{集|つど}うことは{疎|おろ}か、この世で再会することさえ既に{叶|かな}わなくなってしまった者たちの顔が、夜ごと夜ごと脳裏に浮かび、そのうちの幾人かは、枕元に立って{怨念|おんねん}を語り、別れを告げて、消えてしまうのだった。
 そして彼ら、彼女たちは、この世あの世の分け隔てなく、互いに誓い合った。
 「みんな、循観院に集おう。昔そうだったみたいに、分け隔てなく、みんなが対話しながら、一人ひとりが学んだことを、みんなで、共有し合おう。
 そうだ。おれたちはみんな、自然に戻ったんだ。{還|かえ}って来たんだ。だから、自然の生きものたちみんな、循観院に、集おう♪ そして、取り戻そうじゃないか。おれたちの自慢だった、共同体感覚を!
 助け、助けられ、助け合い、みんな同じ顔をして、みんな、同じ方向を見つめている……。
 THE統合種、金太郎飴{民族|エスノ}さッ♪
 それが、これからのおれたちだ。
 統合……。
 みんなは、おれたち。おれたちは、みんなだ」……と。

 蛇足。
 ハヤブサが、本当に懸念したのは、色じゃないと思う。{即|すなわ}ち、白じゃない! じゃあ、何か。それは、カモメたちの、整列{癖|ぐせ}だ。
 黒や茶の鳥たちが広げ{繋|つな}げ敷いた翼の{絨毯|じゅうたん}……その下に、自然人たちの悲願、地上のマイホームが……竹やシダやイグサで囲まれただけの、まるで竪穴式住居のような粗末な家が、大事に大事に、鳥たちの絨毯に{護|まも}られ、隠されている。
 その茶や黒の翼の絨毯に、まるで伝統芸能の{刺繍|ししゅう}のように描かれる、これ{正|まさ}に、これ極めて文明人好みの、真っ白い線で描かれた{幾何学|きかがく}模様……それが、白いあの子たち、カモメの兵隊たちなのだ。
 自らそのことに気づかされた瞬間、白いその子たちは、以心伝心! 真っ白い幾何学模様の刺繍が、そいのままの形で、まるでカルプで作った文字のように、ふわっと浮かび上がった。
 そして、その刺繍は、その上空で徐々に広がりを見せながら、青空へと上昇してゆく。そして、海へ……。そして、消えてしまった。
 以来、白いその子たちが、森に姿を現すことは、二度となかった。

 その当時、カモメもウミネコも、一つのカモメだった。でも、本当は、今もそうなのだ。何も、変わってはいない。変わったように思わされているだけ。分類好きの文明人たちが、勝手に分類して、そのそれぞれに、名前を付けただけの話なのだ。
 その白い彼ら彼女たちの一つの種の後裔の一羽が……今、あたいの目の前に座し……その短い{脚|あし}を、あたいの前に放り出し、一昼夜……それを、三日三晩! さらにまた、三日三晩!
 ただ囲炉裏の炎のみで隔たれ、ただその小さな炎だけで暖を取りながら、あたいに向かって、ひたすら、喋り続けたのだった。 

 そして最後の夜、依然、年齢不詳のまま喋りつづけていたシロメタが、遂に観念して、囲炉裏の前に、横たわった。そして、{斯|こ}う言った。

 「助けたり、助けられたり……。それがぼくら、自然の一部の生き方だった……かァ。
 今は……。今はもう、その過去じゃない。
 そりゃ、今だって、ぼくらも、あんたらも、自然の一部さ。
 でも、一部は一部でも、それは、昔と同じ一部じゃない。
 孤立した一部、引き裂かれた一部さ。
 てか、寝ちゃうカモーォ♪」

 (おやすみなさい……)と、あたい。
 誰にともなく、そう、心の中で、{呟|つぶや}いていた。

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「自伝編」夜7時配信……次回へとつづく。
「教学編」は、自伝編の翌朝7時に配信です。

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